探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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はじまりはじまり。

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獣人の国家は、魔術というものが一切省かれたものとなっています。
当たり前です、獣人の方は魔術が使えないのですから。
そんな中、魔術師がこの国に侵入し、国民を襲おうものなら。

「あっという間に壊滅状態、というわけですか」
「ダメじゃないですか!」

顔面蒼白にしてロールが叫びました。
城から身を乗り出さん勢いで外の様子を覗いています。

「っ、すぐ行かないと……!」
「シャルロッテ。やめなさい」
「え!?」
「あなたは神子なのよ。あなたが狙いでしょう」
「そんな、でも!」
「それに、この場に誰がいるかお忘れ?」

女王様が、旦那様とエリクル様のほうを見ました。

「頼んでもいいかしら。この借りは、必ず返すわ」
「……わかった」
「承知しました」

旦那様とエリクル様は魔術を使って城外を飛んで行きました。
凄いですね……空を飛ぶなんて芸当、それこそ風の魔術のエキスパートであるエリクル様と、旦那様くらいにしかできないでしょう。

「心配です……」
「こんな時、自分が不甲斐なく思えますね」

私は魔術もろくに使えない一般人。
出向いたところで人質にされるのがオチでしょう。
大人しく待機しているのが一番だとはわかっていますが……嫌になります。

「旦那様、どうか、ご無事で」

◆ ◆ ◆

アルジェルドside

エリクルと共に城外へ降りれば、目に飛び込んできたのは魔術師が獣人達に魔術を放つ瞬間だった。
飛んだ火球の動きを止めてみせれば、魔術師達はギョッと目を剥いた。

「おい、何をしている」
「アルジェルド・マルシムか」
「報告通りだぞ」

フードを目深に被った者達が、身を寄せ合ってヒソヒソと話す。
そこで違和感を感じた。
街は燃えていたり、反対に氷漬けにされていたりと悲惨な状態なのにも関わらず、獣人達には危害は加えられていない。
いや……加減している? 何が目的なのか。

「では、計画通りに」

魔術師共が、一斉に俺に魔術を放ってくる。
その勢いを全て魔術で殺してみせた。

「ナメてるのか」

俺は仮にも世界一の魔術師の称号をもらっているんだぞ。
こんな攻撃、屁でもない。

「お返しだ」

もらったものを倍以上の大きさにして、死なない程度に遊んでやる。
奴らは呆気なく動けなくなった。

「何なんだ、一体」

気絶した奴らの一人のマントを剥ぎ取ると、驚くべきものが見えた。

「……人形、だと?」

人間のように達者に魔術を扱ってみせたソレは、人形だった。
陶器でできた、よくできた人形だ。
よく見ればマントに魔術耐性の術が編み込まれている。
こんな高度な技術を扱えるのは、国レベルに厄介な奴のみに違いない。
すると、人形が突然光り輝き出した。

「!」

マズい、爆発する。
付近の住人を守るように結界を作動させれば、辺りに物凄い轟音が鳴り響いた。
爆発が収まった頃には、人形はもちろん、マントでさえ燃えて塵となっていた。
証拠隠滅。
その文字が頭をよぎる。

「エリクルと合流せねば……」

エリクルはもう一方のほうを始末しに向かったはずだ。
あいつのことだから、何も心配はないだろう。

「……?」

そう、思っていた矢先に。
気づいてしまった。
使

「いや、まさか」

そんなことはない。
魔術を使わずあいつらを撃退したというのか。
でも魔術を使えば、この距離ならば俺が探知できるレベルの魔術の残り香が残るはず。
ましてやこの国は獣人しかいないし、こんなお粗末な魔術を使う人形も、探知の邪魔にならないくらい残り香が荒削りだ。
エリクルの残り香……風の魔術のものは、一切こちらに向いてこない。

「陽動か」

◆ ◆ ◆

エリクルside

「やー、久しぶりだねー」
「お久しぶりです、エリクル様」
「そんな硬くならないでよ」

軽薄な笑みを貼りつけてそれを迎えれば、それは「いえ」と返事をした。

「それより、スパイ活動お疲れ様です」
「うん、途中から誤魔化すのが疲れたよ」
「魔道具は役に立ちましたか?」
「凄く役に立ったさ」

取り出したのは、つい先程破壊されてしまった魔道具。
これは人に好意を抱かせることができる、精神系の魔道具だ。
途中からロールちゃん、ラティアンカ嬢の敵意を感じたから、寄越された魔道具を使ったけど。
いくら凶悪な魔道具でも、やはり脆い。
たった2人の敵意を抑えて壊れてしまった。

「まあそのおかげで僕は疑われなかったさ。アルには信用されてたし」
「そうですか」
「でも……ロールちゃんを途中で殺せとか言ってくると思ってたけど」
「世界一の……最強の魔術師が近くにいる限り不可能でしょう」
「別々に行動した時もあったんだよ?」
「何やら、神子に利用価値ができたそうで」
「ふーん」

興味は沸かない。
アルはこの状況にすぐ気づくだろうし、早くこの場を離れなければ。

「さ、行こう。ロマドに戻るんでしょう」
「はい。行きましょう、エリクル様」

ーーごめんね? ロールちゃん、アル、ラティアンカ嬢。
でも僕、こっちの生き方のほうが性に合ってるんだ。
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