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複雑な心境。
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「神子、ですか」
ロールが一人でに、小さく呟きました。
神子というものを、私は詳しくは知りません。
ですが、ひょっとすればそれは、王族や貴族なんかよりも大切にされる存在なのではないでしょうか。
「私、神子だったんですか」
「……不確定だが、ほぼ事実だろう」
旦那様の回答に、「そうですか」と簡潔に返事をするロール。
「ロール……なにか、思い出したの?」
「いえ、あの。神子って言葉が、何だか、気持ち悪くって」
そう言って口元を抑え、よろけたロールを受け止めたのはエリクル様でした。
「ロールちゃん。一旦休もう。その調子じゃ、アストロには行けない」
「ダメです。確かめたいんです。早く、早くしなきゃ。あの後どうなったかっ、知りたいっ……」
「ロール!」
その痛々しさに、私は思わず叫んでいました。
「休みなさい。命令です」
「ラティ様」
「ごめんなさいね。命令できる、立場ではないんですけれど。今のあなたは、見ていられません」
「……………わかりました。ご心配をかけてしまい、申し訳ありません」
そのまま私達は、宿へ向かいました。
小さな宿を訪ねれば、部屋数が足りないとのことで、2人一部屋となります。
私はベッドにロールを寝かせると、その額に手を当てました。
「熱い……ロール、熱がありますよ」
「その、すみません。少し興奮してた、みたいです」
「体は大事にね」
冷水で濡らしたガーゼをロールの額に置いて、消化に良いものを作るために宿主の方に食材をいただき、台所を貸してもらいました。
「ラティアンカ」
「旦那様」
鍋で湯を沸かしていると、旦那様が現れました。
「ロールは、大丈夫か」
「調子が悪いみたいです。熱も出てしまって」
「そうか」
「旦那様は、神子についてご存知ですか」
私の質問に、旦那様は微妙な表情を浮かべました。
「細かく説明できるわけではない」
「構いません。話していただけませんか?」
「わかった」
湯の沸く音が響いたので、鍋を火から下ろしてその中にお米を入れます。
作業片手に聞いていれば、旦那様は説明をしてくれました。
「神子とは、神に愛される者だという。だが、ロールの場合違う」
「そうなのですか?」
「ああ。意味合いが異なる。神に愛された者はその証拠として加護を得るんだ。ラティアンカだって、経験しかけただろう」
「ヒイロの件ですか」
ヒイロで白龍さんの子供である、黒龍の神様に加護を貰う瞬間、旦那様が乱入したのでしたね。
「旦那様が加護をつけられるのを嫌がりましたからね」
「当たり前だ」
「何でですか?」
「ラティアンカは、俺の嫁だからだ」
簡易すぎる返しです。
加護にどんな意味が含まれるのかは全ては知りませんが、ある程度過去に説明してもらった知識を手繰り寄せれば、きっと跡付けのようなものでもあるんでしょう。
私の考えを見抜いたのか、旦那様は不満げに目を鋭くしました。
「俺のだぞ」
「わかってますよ」
「愛してるぞ」
「……わかりましたから。説明の続きをお願いします」
「わかってない」
旦那様は私の言うことを否定すると、後ろからギュッと抱きしめられました。
今は火を扱っているのでやめてほしいです。
「離れてください」
「!?」
「危ないんですよ。火傷しても知りませんよ。世界一の魔術師でも、傷を癒すことはできないでしょう」
「む」
これにはぐうの音も出ないんでしょう。
名残惜しげに、旦那様の手がするりと私の唇をなぞって離れていきました。
「ロールは、加護の存在がなかった。だからアストロにとって神子であるが、一般的な神子とは違うということだ」
「ややこしいですね」
「現地の者に説明してもらえればいい。あと、アストロとロマドが不仲な理由だが」
そこで一旦区切りを入れて、旦那様は息を吸い直しました。
「ロール……神子を攫ったと噂されるのがこの国だからだ」
「まさか」
「獣人は皆、ロマドを疑っている。今ロールが帰れば、記憶が戻って国との関係が落ち着くかもしれない」
アストロとロマドは仲が良い。
それは有名な事実だったはずなのですがーーそれほどまで、ロールが重要視されているとは。
確定したわけではないと言われましたが、私もロールが只者ではないことは察しております。
アストロに行けば庇護は受けられるでしょう。
「……エリクルが嫌いか?」
「え? 別に、嫌いではありませんよ。寧ろ尊敬しています」
信用はできませんけど。
心の中で言いましたが、旦那様は目ざとくそれにお気づきになられたようで。
「エリクルは、いい奴だ。俺なんかよりよっぽど」
「ええ、存じております」
「……庇ってくれないのか」
「事実ですので。でも、愛しているのは旦那様ですよ」
「なら、いい」
満足げに笑ってみせた旦那様。
あまり笑わないと噂のこの方は、私の前ではよく笑ってくださいます。
愛されてるって、心地よいことですね。
「仲良くしろとは、言わない。だけど、理解してやってくれ」
「理解ですか」
「難しい、奴だ」
旦那様が言うんですか。
旦那様ほど難しい方はそうそういらっしゃらないと思うのですが。
「わかりました。できる限り、理解します」
「そうしてやってくれ」
旦那様にも、友を思う情があるのでしょう。
その目は優しさで光っていました。
ロールが一人でに、小さく呟きました。
神子というものを、私は詳しくは知りません。
ですが、ひょっとすればそれは、王族や貴族なんかよりも大切にされる存在なのではないでしょうか。
「私、神子だったんですか」
「……不確定だが、ほぼ事実だろう」
旦那様の回答に、「そうですか」と簡潔に返事をするロール。
「ロール……なにか、思い出したの?」
「いえ、あの。神子って言葉が、何だか、気持ち悪くって」
そう言って口元を抑え、よろけたロールを受け止めたのはエリクル様でした。
「ロールちゃん。一旦休もう。その調子じゃ、アストロには行けない」
「ダメです。確かめたいんです。早く、早くしなきゃ。あの後どうなったかっ、知りたいっ……」
「ロール!」
その痛々しさに、私は思わず叫んでいました。
「休みなさい。命令です」
「ラティ様」
「ごめんなさいね。命令できる、立場ではないんですけれど。今のあなたは、見ていられません」
「……………わかりました。ご心配をかけてしまい、申し訳ありません」
そのまま私達は、宿へ向かいました。
小さな宿を訪ねれば、部屋数が足りないとのことで、2人一部屋となります。
私はベッドにロールを寝かせると、その額に手を当てました。
「熱い……ロール、熱がありますよ」
「その、すみません。少し興奮してた、みたいです」
「体は大事にね」
冷水で濡らしたガーゼをロールの額に置いて、消化に良いものを作るために宿主の方に食材をいただき、台所を貸してもらいました。
「ラティアンカ」
「旦那様」
鍋で湯を沸かしていると、旦那様が現れました。
「ロールは、大丈夫か」
「調子が悪いみたいです。熱も出てしまって」
「そうか」
「旦那様は、神子についてご存知ですか」
私の質問に、旦那様は微妙な表情を浮かべました。
「細かく説明できるわけではない」
「構いません。話していただけませんか?」
「わかった」
湯の沸く音が響いたので、鍋を火から下ろしてその中にお米を入れます。
作業片手に聞いていれば、旦那様は説明をしてくれました。
「神子とは、神に愛される者だという。だが、ロールの場合違う」
「そうなのですか?」
「ああ。意味合いが異なる。神に愛された者はその証拠として加護を得るんだ。ラティアンカだって、経験しかけただろう」
「ヒイロの件ですか」
ヒイロで白龍さんの子供である、黒龍の神様に加護を貰う瞬間、旦那様が乱入したのでしたね。
「旦那様が加護をつけられるのを嫌がりましたからね」
「当たり前だ」
「何でですか?」
「ラティアンカは、俺の嫁だからだ」
簡易すぎる返しです。
加護にどんな意味が含まれるのかは全ては知りませんが、ある程度過去に説明してもらった知識を手繰り寄せれば、きっと跡付けのようなものでもあるんでしょう。
私の考えを見抜いたのか、旦那様は不満げに目を鋭くしました。
「俺のだぞ」
「わかってますよ」
「愛してるぞ」
「……わかりましたから。説明の続きをお願いします」
「わかってない」
旦那様は私の言うことを否定すると、後ろからギュッと抱きしめられました。
今は火を扱っているのでやめてほしいです。
「離れてください」
「!?」
「危ないんですよ。火傷しても知りませんよ。世界一の魔術師でも、傷を癒すことはできないでしょう」
「む」
これにはぐうの音も出ないんでしょう。
名残惜しげに、旦那様の手がするりと私の唇をなぞって離れていきました。
「ロールは、加護の存在がなかった。だからアストロにとって神子であるが、一般的な神子とは違うということだ」
「ややこしいですね」
「現地の者に説明してもらえればいい。あと、アストロとロマドが不仲な理由だが」
そこで一旦区切りを入れて、旦那様は息を吸い直しました。
「ロール……神子を攫ったと噂されるのがこの国だからだ」
「まさか」
「獣人は皆、ロマドを疑っている。今ロールが帰れば、記憶が戻って国との関係が落ち着くかもしれない」
アストロとロマドは仲が良い。
それは有名な事実だったはずなのですがーーそれほどまで、ロールが重要視されているとは。
確定したわけではないと言われましたが、私もロールが只者ではないことは察しております。
アストロに行けば庇護は受けられるでしょう。
「……エリクルが嫌いか?」
「え? 別に、嫌いではありませんよ。寧ろ尊敬しています」
信用はできませんけど。
心の中で言いましたが、旦那様は目ざとくそれにお気づきになられたようで。
「エリクルは、いい奴だ。俺なんかよりよっぽど」
「ええ、存じております」
「……庇ってくれないのか」
「事実ですので。でも、愛しているのは旦那様ですよ」
「なら、いい」
満足げに笑ってみせた旦那様。
あまり笑わないと噂のこの方は、私の前ではよく笑ってくださいます。
愛されてるって、心地よいことですね。
「仲良くしろとは、言わない。だけど、理解してやってくれ」
「理解ですか」
「難しい、奴だ」
旦那様が言うんですか。
旦那様ほど難しい方はそうそういらっしゃらないと思うのですが。
「わかりました。できる限り、理解します」
「そうしてやってくれ」
旦那様にも、友を思う情があるのでしょう。
その目は優しさで光っていました。
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