探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
上 下
40 / 99

目的地への最後の寄り道です。

しおりを挟む
「で、やっと仲直りしたってわけ」

呆れ顔のエリクル様が、私達二人で部屋を出てきたのを見て言ってきました。
実はあの後二人でそのまま寝てしまい、起きた頃には朝になっていました。
恥ずかしくなって顔を赤らめれば、旦那様がエリクル様に頭を下げてみせます。

「すまない。色々、迷惑かけて」
「……ふぅん? まあ? 許してあげるけど?」
「そうか」
「それよりロールちゃんだよ。あの子、ちょっと拗ねちゃってる。昨日からは会ってないから、ラティアンカ嬢、探してあげな」
「はい」

そうよね。
ロールのことだから、私と旦那様が仲直りしたのは信じられないでしょう。
直接説明しなければと思い、旦那様と一緒にロールを探します。

「あれじゃないのか」

旦那様が指差した先には、ロールの後ろ姿がありました。
忙しなく白く長いウサギ耳がピクピクと動いています。

「ロール!」
「!」

私が名前を呼べばビクリとして、そっとこちらを振り向きます。

「ら、ラティ様」
「? どうかしたの?」
「い、いいえ! それより! アルジェルド様と仲直りしたんですね」

悔しそうな、それでも嬉しそうな様子で、ロールが私達を見ました。
旦那様が一歩前に出ると、ロールに向かってエリクル様にしたように頭を下げます。

「色々、迷惑をかけた。俺達、ようやくここまで来れたんだ。お前達にも、感謝している」
「そうですか、そうですか! それなら絶対、ラティ様を大事にしてください! 昨日みたいなことはナシです!」

フン! とそっぽを向いたロールが、そのまま廊下を歩いていってしまいました。
仲良くなるまで多少は時間はかかりそうですね。

「ラティアンカ……」
「はい、なんでしょう」
「あの娘から、なにかを感じる」
「なにか、とは?」
「わからん。だが、要人しておいたほうがいい」
「ロールはいい子ですよ?」
「それは、わかっている」

歯切れの悪い旦那様に、私は不安を覚えました。
ロールの記憶が戻ってくれればいいのですけれど。

◆ ◆ ◆

ふと、違和感を覚えたのは次の国へ向かっている最中でした。
次の国、ロマドへは五日かかります。
ロールと二人で話しているところにエリクル様がこれば、ロールはその場を去ってしまうのです。
意図的にエリクル様を避けているようにも見えます。
エリクル様はそのことについて、ロールには追及しませんでした。
でも、さすがに気になります。

「ロール、ちょっといいかしら」
「は、はい」

怯えた様子になりだしたのは、私と旦那様が和解した日。
その日から、どうにもおかしいと感じています。

「エリクル様と、なにかあったの?」
「そ、それは……」
「教えてちょうだい、ロール」
「だ、ダメです。できません」
「喧嘩でもしたの?」
「ち、違います!」

明らかに動揺しています。
目を合わせてもくれません。
私はロールを覗き込みました。

「ロール。あなたは、私のことを常に心配してくれた。私もあなたが心配なのです」
「ら、ラティ様……っ、わかりました。話します」

ロールは自分の個室に私を入れてくれました。
緊張した面差しで、ゆっくりと語り出します。

「私……また、記憶を取り戻したんです」
「! 本当? よかったですね」
「はい……それで、なんですけれど。覚えているのは、アンナという同年代の女性がいたことです。彼女は私の世話役のようでした。私は、どこかのお城で暮らしていました」

城……ということは、やはりロールは王族の一人であったのでしょうか。
特殊な力も相まって、その節が濃厚になってきました。

「ある日、お城を出て、そのアンナと歩いていたんです。そしたら、暗殺者が襲ってきてーーアンナと離れ離れになりました。無我夢中で走って逃げて、気を失ったところを奴隷商人に拾われたんだと思います。その、暗殺者の中に。エリクル様が、いたんです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

処理中です...