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目的地への最後の寄り道です。
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「で、やっと仲直りしたってわけ」
呆れ顔のエリクル様が、私達二人で部屋を出てきたのを見て言ってきました。
実はあの後二人でそのまま寝てしまい、起きた頃には朝になっていました。
恥ずかしくなって顔を赤らめれば、旦那様がエリクル様に頭を下げてみせます。
「すまない。色々、迷惑かけて」
「……ふぅん? まあ? 許してあげるけど?」
「そうか」
「それよりロールちゃんだよ。あの子、ちょっと拗ねちゃってる。昨日からは会ってないから、ラティアンカ嬢、探してあげな」
「はい」
そうよね。
ロールのことだから、私と旦那様が仲直りしたのは信じられないでしょう。
直接説明しなければと思い、旦那様と一緒にロールを探します。
「あれじゃないのか」
旦那様が指差した先には、ロールの後ろ姿がありました。
忙しなく白く長いウサギ耳がピクピクと動いています。
「ロール!」
「!」
私が名前を呼べばビクリとして、そっとこちらを振り向きます。
「ら、ラティ様」
「? どうかしたの?」
「い、いいえ! それより! アルジェルド様と仲直りしたんですね」
悔しそうな、それでも嬉しそうな様子で、ロールが私達を見ました。
旦那様が一歩前に出ると、ロールに向かってエリクル様にしたように頭を下げます。
「色々、迷惑をかけた。俺達、ようやくここまで来れたんだ。お前達にも、感謝している」
「そうですか、そうですか! それなら絶対、ラティ様を大事にしてください! 昨日みたいなことはナシです!」
フン! とそっぽを向いたロールが、そのまま廊下を歩いていってしまいました。
仲良くなるまで多少は時間はかかりそうですね。
「ラティアンカ……」
「はい、なんでしょう」
「あの娘から、なにかを感じる」
「なにか、とは?」
「わからん。だが、要人しておいたほうがいい」
「ロールはいい子ですよ?」
「それは、わかっている」
歯切れの悪い旦那様に、私は不安を覚えました。
ロールの記憶が戻ってくれればいいのですけれど。
◆ ◆ ◆
ふと、違和感を覚えたのは次の国へ向かっている最中でした。
次の国、ロマドへは五日かかります。
ロールと二人で話しているところにエリクル様がこれば、ロールはその場を去ってしまうのです。
意図的にエリクル様を避けているようにも見えます。
エリクル様はそのことについて、ロールには追及しませんでした。
でも、さすがに気になります。
「ロール、ちょっといいかしら」
「は、はい」
怯えた様子になりだしたのは、私と旦那様が和解した日。
その日から、どうにもおかしいと感じています。
「エリクル様と、なにかあったの?」
「そ、それは……」
「教えてちょうだい、ロール」
「だ、ダメです。できません」
「喧嘩でもしたの?」
「ち、違います!」
明らかに動揺しています。
目を合わせてもくれません。
私はロールを覗き込みました。
「ロール。あなたは、私のことを常に心配してくれた。私もあなたが心配なのです」
「ら、ラティ様……っ、わかりました。話します」
ロールは自分の個室に私を入れてくれました。
緊張した面差しで、ゆっくりと語り出します。
「私……また、記憶を取り戻したんです」
「! 本当? よかったですね」
「はい……それで、なんですけれど。覚えているのは、アンナという同年代の女性がいたことです。彼女は私の世話役のようでした。私は、どこかのお城で暮らしていました」
城……ということは、やはりロールは王族の一人であったのでしょうか。
特殊な力も相まって、その節が濃厚になってきました。
「ある日、お城を出て、そのアンナと歩いていたんです。そしたら、暗殺者が襲ってきてーーアンナと離れ離れになりました。無我夢中で走って逃げて、気を失ったところを奴隷商人に拾われたんだと思います。その、暗殺者の中に。エリクル様が、いたんです」
呆れ顔のエリクル様が、私達二人で部屋を出てきたのを見て言ってきました。
実はあの後二人でそのまま寝てしまい、起きた頃には朝になっていました。
恥ずかしくなって顔を赤らめれば、旦那様がエリクル様に頭を下げてみせます。
「すまない。色々、迷惑かけて」
「……ふぅん? まあ? 許してあげるけど?」
「そうか」
「それよりロールちゃんだよ。あの子、ちょっと拗ねちゃってる。昨日からは会ってないから、ラティアンカ嬢、探してあげな」
「はい」
そうよね。
ロールのことだから、私と旦那様が仲直りしたのは信じられないでしょう。
直接説明しなければと思い、旦那様と一緒にロールを探します。
「あれじゃないのか」
旦那様が指差した先には、ロールの後ろ姿がありました。
忙しなく白く長いウサギ耳がピクピクと動いています。
「ロール!」
「!」
私が名前を呼べばビクリとして、そっとこちらを振り向きます。
「ら、ラティ様」
「? どうかしたの?」
「い、いいえ! それより! アルジェルド様と仲直りしたんですね」
悔しそうな、それでも嬉しそうな様子で、ロールが私達を見ました。
旦那様が一歩前に出ると、ロールに向かってエリクル様にしたように頭を下げます。
「色々、迷惑をかけた。俺達、ようやくここまで来れたんだ。お前達にも、感謝している」
「そうですか、そうですか! それなら絶対、ラティ様を大事にしてください! 昨日みたいなことはナシです!」
フン! とそっぽを向いたロールが、そのまま廊下を歩いていってしまいました。
仲良くなるまで多少は時間はかかりそうですね。
「ラティアンカ……」
「はい、なんでしょう」
「あの娘から、なにかを感じる」
「なにか、とは?」
「わからん。だが、要人しておいたほうがいい」
「ロールはいい子ですよ?」
「それは、わかっている」
歯切れの悪い旦那様に、私は不安を覚えました。
ロールの記憶が戻ってくれればいいのですけれど。
◆ ◆ ◆
ふと、違和感を覚えたのは次の国へ向かっている最中でした。
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意図的にエリクル様を避けているようにも見えます。
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でも、さすがに気になります。
「ロール、ちょっといいかしら」
「は、はい」
怯えた様子になりだしたのは、私と旦那様が和解した日。
その日から、どうにもおかしいと感じています。
「エリクル様と、なにかあったの?」
「そ、それは……」
「教えてちょうだい、ロール」
「だ、ダメです。できません」
「喧嘩でもしたの?」
「ち、違います!」
明らかに動揺しています。
目を合わせてもくれません。
私はロールを覗き込みました。
「ロール。あなたは、私のことを常に心配してくれた。私もあなたが心配なのです」
「ら、ラティ様……っ、わかりました。話します」
ロールは自分の個室に私を入れてくれました。
緊張した面差しで、ゆっくりと語り出します。
「私……また、記憶を取り戻したんです」
「! 本当? よかったですね」
「はい……それで、なんですけれど。覚えているのは、アンナという同年代の女性がいたことです。彼女は私の世話役のようでした。私は、どこかのお城で暮らしていました」
城……ということは、やはりロールは王族の一人であったのでしょうか。
特殊な力も相まって、その節が濃厚になってきました。
「ある日、お城を出て、そのアンナと歩いていたんです。そしたら、暗殺者が襲ってきてーーアンナと離れ離れになりました。無我夢中で走って逃げて、気を失ったところを奴隷商人に拾われたんだと思います。その、暗殺者の中に。エリクル様が、いたんです」
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