探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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ジェシーside

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お伽話みたいな王子様。
それが、私の初恋だったーー

◆ ◆ ◆

私は下町で生まれた、何の変哲もない田舎娘だった。
両親は不仲で、母は不倫を繰り返し、父は酒を煽る日々。
私は歳の離れた妹と助け合いながら生きてきた。
そんな私に魔術の力が宿ったのは、12の時。
父が酔った勢いで、妹を叩こうとした時だった。
目の前が真っ赤になって、やめろ、とか、手を出すな、とか、何か叫んだ気がする。
そして、気がつくと……父の手はどこからか現れた植物によって止められていた。
魔術が使えるようになった私は、妹ごと貴族の養子として引き取られた。
魔術師としての、娘が欲しかったのだろう。
私が頑なに妹と離れようとしなかったので、渋々妹もついてくることを承諾してくれた今の両親には感謝しきれない。
たとえそれが私の力目当てだとわかっていても、まともな暮らしをさせてくれるんだもの。
それから全力で魔術を勉強した。
私が能無しだと判断されれば、容赦なく妹ごと捨てられる。
それはダメだ。
生きていけない。
子供ながら小さな頭を回して、死に物狂いで考えて生きてきた。
それなのに、神様は私達のことがどうやら嫌いらしい。
妹は死の病と呼ばれる病気にかかり、寝たきりになった。
伝染するかもしれない、と面会もできず、妹はどんどん弱っていった。
私は妹を治すため、薬学について勉強した。
だけど、無理だった。
もうダメかと思ったその時。
偶然我が家の屋敷を通りがかった魔術師に、なんでもするから助けてくれと縋った。
その魔術師は「エリクサー」という奇跡の薬を使い、妹を立ちどころに治してみせた。
涙ながらに礼を言えば、その人は見返りを求めはしなかった。
ただそこに死にかけの子供がいたから救っただけだったんだろう。
その人にとってはそれだけでも、私にとっては人生がひっくり返るほどの衝撃だったんだ。
その人の名前は、アルジェルドといった。

◆ ◆ ◆

「アル! 早く!」
「………」

そんな憧れの人と再会できた、ラグランド。
海の宝石目当てでこの国に来て、本当によかったと舞い上がりそうなほどに嬉しい。
アルはいつも通り無表情だった。
照れているのかしら。
そうだといいな。
私とアルの年は2つしか変わらないから、小さな女の子とは見られないはず。
アルと会ってから、アルの隣に立てるよう、必死で実力を伸ばしてきた。
最後に会ったのはーーそう、一年前。
告白をしたけれど、「悪い」の一言でフラれてしまった。
それしか言ってくれなかったから、てっきり好みじゃなかったのかと思い落ち込んだが、他の人に話を聞けばどうやら婚約者がいるらしい。
それならしょうがないと潔く引いたつもりだった。
でも、別れたのならチャンスと思った。
奥様だったラティアンカさんは、アルのことを好きじゃないと言っていたし、問題ないはず。

「……で、どこにあるんだ」
「海の底! 文字通りよ!」
「そうか」

アルは魔術で空気の膜を自分の周りに作り、一気に海の底へ潜っていった。
慌てて後を追えば、もう海の宝石を見つけたらしい。

「あれか」
「ええ。あれが……海の宝石よ」

海の宝石と呼ばれる青いダイヤがゴロゴロと転がっている。
でも、それを守るようにいるのがクラーケンだ。
クラーケンはこの海を支配すると言われている生き物で、普通の人なら太刀打ちできない。
だけど、私達魔術師なら違う。

「悪いけど、海の宝石もらうわね?」

クラーケンに形式のように微笑んで、私は魔術を使った。

◆ ◆ ◆

アルの協力もあって、あっという間にクラーケンを退けることができた。
海の宝石を抱えられる分だけもって帰宅する。

「ふっふっふ! これだけあれば、研究が進められるわ!」

海の宝石には海の力が宿っているので、研究には最適だ。
私が上機嫌でいると、アルが黙ってどこかへ行こうとする。

「あっ、待ってよ!」

ついていってたどり着いた場所は、宝石の加工屋であった。

「いらっしゃい」
「店主。これで、指輪を作ってくれ」
「「指輪!?」」

店主と私の声が重なった。
まさか、指輪を作るだなんて思いもしなかったから。
それに、注文した指輪は彼の指には小さすぎるサイズだ。

「だ、誰にあげるの?」

ドキドキしながら聞いた。
それが、私だったらいいなと願いながら。
でも。

「ラティアンカに」

私の思いは、報われなかったみたいだ。

「………はぁ~~~~」
「?」

私が長い長いため息をつけば、こちらを不思議そうに見つめてくる。
そんな男が、愛おしくも憎い。

「あのさ。もしかして、離婚はラティアンカさんのほうから切り出されたの?」
「そうだ」
「まだ、諦めてない?」
「ああ」

もう、サイアク。
アルは私なんてこれっぽっちも気にしてなくて、ラティアンカさんのためについてきたんだ。
そう思うと、舞い上がっていた気持ちが地に落ちた。

「ふんっ」
「!?」

腹が立ったので、彼の足を蹴飛ばした。
驚いてこちらを振り向いたので、ざまぁみろと笑い飛ばす。

「私、あんたよりいい人ぜ~ったい見つけてやるから!」
「そうか」
「だからっ、ラティアンカさんと幸せになんなさいよね!」

ここでしつこく追い縋るなんて、イイ女のすることじゃないわ。
負け組は潔く去ってあげよう。

「もう、行くわ」
「……ああ」
「じゃあ、さよなら」

またね、とは言わない。
振り切るようにして店を出たのに、「ジェシー」と声をかけられただけで、あっけなく足は止まる。

「なに」
「元気でな」
「……はっ、わかってるよ」

じゃあね、初恋。
少し涙を浮かべて、私は笑顔を浮かべた。
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