探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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拒絶のキモチ。

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「………そう、か」
「はい。私は、新しい恋を探すんです」

はっきりキッパリとそう言い切れば、低い声で旦那様はポツリと言いました。
何だか旦那様の顔でヘコまれると、罪悪感が沸いてきますね。
これだから顔の良い男は……と思っていると、「なら」と旦那様はサラリと続けました。

「もう一度、お前に求婚する」
「え?」
「お前の恋愛対象になれるよう、頑張る。努力をする。だから……いつか、振り向いてくれ」

それだけ言って、旦那様は満足げに口を閉ざしました。
いや、ドヤ顔してますけども。

「ええと、アル。お前はつまり、ラティアンカ嬢にこれからアタックするってことでいいな?」

ヒクリ、と口元を動かし、エリクル様が旦那様に尋ねます。

「ああ、そうだ」
「~~~っ、ははっ!! も、もう無理だ」

何とエリクル様は今まで見せたことのないくらいの笑顔で笑い転げました。
その変わりっぷりに、ロールやスズカさんも驚いています。
唯一慣れた様子の旦那様が、顔色一つ変えずに続けます。

「悪いか?」
「……いや、僕にその判断はしかねる。ラティアンカ嬢に聞くといい」
「ラティアンカ」

旦那様はこちらを向いて、上目遣いをします。
普通の男性がやるなら何も感じませんが、やっぱり顔だけはいいですね。
そんな捨てられた子犬のような顔をされたら、迷ってしまうではないですか。

「だ、ダメです!! ラティ様がこの人に何されたか、忘れたんですか!!」

ロールが畳み掛けるように旦那様に怒鳴りました。
これにはぐうの音も出ないらしく、旦那様は黙り込みます。

「いーんじゃないの?」
「スズカさん」

そこでこう言ったのは、意外なことにスズカさんでした。

「ラティが嫌なら振ればいい。そして、新しい恋人を見つけな。だが……追いかけるのは、ソイツの自由なんじゃないか?」
「……一理ありますね」
「ラティ様!?」

なるほど。
確かに私には、旦那様の意思をどうこうする権利も力もありません。
その内飽きて、別の人を見つけるでしょう。
それまで待てばいい話です。

「わかりました。アルジェルド様の好きになさってください」
「……ラティアンカ、ありがとう。俺、頑張るから」
「お主、いつから健気に変貌したのだ。寒気がするぞ」

その様子を見ていた白龍さんが、眉を顰めて身体を震わせました。
白龍さんが震えているのに気づき、神様は心配そうに辺りをウロチョロします。

「……ああ、心配するんじゃないよ。コイツの変わりっぷりに、吐き気がしただけだ」
「おい」
「違うか? アルジェルド」
「……その」
「重いのだけは一丁前だなぁ」

今まで白龍さんは、旦那様にもしかしたら振り回されてきたのかもしれません。
ふぅとため息を吐くと、白龍さんは続けます。

「私はもうお前の旅に同行する気はない」
「わかってる」
「聞き分けがいいな。ま、お主が乙女を見つけたからだ。我が子と故郷へ戻ろう。ところで」

唐突に白龍さんが、旦那様の頭をがしりっと鷲掴みにしてみせます。

「お主、乙女に我が子がやろうとした加護を、嫉妬心から嫌がったな?」
「……………」
「死ねだの消えろだの。子供か? お主は」
「俺がいるから、加護はいらない」
「好意を無駄にしたということだ」

白龍さんに隠れて、チラチラと神様がこちらを伺ってきます。
私としては加護はありがたい限りだったんですけど、旦那様は嫉妬したんですね。
何だか夢の中にいるような気分です。
だって、旦那様は私に興味がなかったはずなのに……今更追ってこられても。

「乙女よ。お主はそれでいいのか?」
「え?」
「こやつの醜い嫉妬心で、加護をもらえなくていいのかと聞いている」
「私はーー」
「俺が守ると言っている」
「お主には聞いていない」

何だか険悪なムードになってきました。
どうにかできないものかとハラハラしていれば、エリクル様が問いかけます。

「アル……もしかして、旅についてくるつもりか?」
「ああ。それで、ラティアンカに認めてもらう」
「えええっ!? ついてくるんですか!?」

ロールが驚きと不満の入り混じった悲鳴を上げました。
ロールの中では、旦那様への悪い印象が根強く残っているのでしょう。
これも、あれやこれや話しすぎた私の責任かもしれません。

「……アルジェルド様。それなら、ロールの記憶を取り戻すのを、手伝ってはくれませんか?」
「ラティ様!?」
「記憶?」

旦那様に説明をすれば、神妙そうにして旦那様は頷きました。

「わかった」
「はい。では、よろしくお願いします」
「いいんですか!? 本当に!!」
「いいんですよ。そんなに悪い方でもありません」
「でも……!」

声を荒げるロールを宥め、旦那様を見ます。
何を考えているのかが全く掴めない表情。
それでも私は、この人を疑うような真似はしたくありません。

「信用、しております」
「……当たり前だ」

そうして、私達の旅に元旦那様という仲間が入りました。
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