探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
上 下
32 / 99

拒絶のキモチ。

しおりを挟む
「………そう、か」
「はい。私は、新しい恋を探すんです」

はっきりキッパリとそう言い切れば、低い声で旦那様はポツリと言いました。
何だか旦那様の顔でヘコまれると、罪悪感が沸いてきますね。
これだから顔の良い男は……と思っていると、「なら」と旦那様はサラリと続けました。

「もう一度、お前に求婚する」
「え?」
「お前の恋愛対象になれるよう、頑張る。努力をする。だから……いつか、振り向いてくれ」

それだけ言って、旦那様は満足げに口を閉ざしました。
いや、ドヤ顔してますけども。

「ええと、アル。お前はつまり、ラティアンカ嬢にこれからアタックするってことでいいな?」

ヒクリ、と口元を動かし、エリクル様が旦那様に尋ねます。

「ああ、そうだ」
「~~~っ、ははっ!! も、もう無理だ」

何とエリクル様は今まで見せたことのないくらいの笑顔で笑い転げました。
その変わりっぷりに、ロールやスズカさんも驚いています。
唯一慣れた様子の旦那様が、顔色一つ変えずに続けます。

「悪いか?」
「……いや、僕にその判断はしかねる。ラティアンカ嬢に聞くといい」
「ラティアンカ」

旦那様はこちらを向いて、上目遣いをします。
普通の男性がやるなら何も感じませんが、やっぱり顔だけはいいですね。
そんな捨てられた子犬のような顔をされたら、迷ってしまうではないですか。

「だ、ダメです!! ラティ様がこの人に何されたか、忘れたんですか!!」

ロールが畳み掛けるように旦那様に怒鳴りました。
これにはぐうの音も出ないらしく、旦那様は黙り込みます。

「いーんじゃないの?」
「スズカさん」

そこでこう言ったのは、意外なことにスズカさんでした。

「ラティが嫌なら振ればいい。そして、新しい恋人を見つけな。だが……追いかけるのは、ソイツの自由なんじゃないか?」
「……一理ありますね」
「ラティ様!?」

なるほど。
確かに私には、旦那様の意思をどうこうする権利も力もありません。
その内飽きて、別の人を見つけるでしょう。
それまで待てばいい話です。

「わかりました。アルジェルド様の好きになさってください」
「……ラティアンカ、ありがとう。俺、頑張るから」
「お主、いつから健気に変貌したのだ。寒気がするぞ」

その様子を見ていた白龍さんが、眉を顰めて身体を震わせました。
白龍さんが震えているのに気づき、神様は心配そうに辺りをウロチョロします。

「……ああ、心配するんじゃないよ。コイツの変わりっぷりに、吐き気がしただけだ」
「おい」
「違うか? アルジェルド」
「……その」
「重いのだけは一丁前だなぁ」

今まで白龍さんは、旦那様にもしかしたら振り回されてきたのかもしれません。
ふぅとため息を吐くと、白龍さんは続けます。

「私はもうお前の旅に同行する気はない」
「わかってる」
「聞き分けがいいな。ま、お主が乙女を見つけたからだ。我が子と故郷へ戻ろう。ところで」

唐突に白龍さんが、旦那様の頭をがしりっと鷲掴みにしてみせます。

「お主、乙女に我が子がやろうとした加護を、嫉妬心から嫌がったな?」
「……………」
「死ねだの消えろだの。子供か? お主は」
「俺がいるから、加護はいらない」
「好意を無駄にしたということだ」

白龍さんに隠れて、チラチラと神様がこちらを伺ってきます。
私としては加護はありがたい限りだったんですけど、旦那様は嫉妬したんですね。
何だか夢の中にいるような気分です。
だって、旦那様は私に興味がなかったはずなのに……今更追ってこられても。

「乙女よ。お主はそれでいいのか?」
「え?」
「こやつの醜い嫉妬心で、加護をもらえなくていいのかと聞いている」
「私はーー」
「俺が守ると言っている」
「お主には聞いていない」

何だか険悪なムードになってきました。
どうにかできないものかとハラハラしていれば、エリクル様が問いかけます。

「アル……もしかして、旅についてくるつもりか?」
「ああ。それで、ラティアンカに認めてもらう」
「えええっ!? ついてくるんですか!?」

ロールが驚きと不満の入り混じった悲鳴を上げました。
ロールの中では、旦那様への悪い印象が根強く残っているのでしょう。
これも、あれやこれや話しすぎた私の責任かもしれません。

「……アルジェルド様。それなら、ロールの記憶を取り戻すのを、手伝ってはくれませんか?」
「ラティ様!?」
「記憶?」

旦那様に説明をすれば、神妙そうにして旦那様は頷きました。

「わかった」
「はい。では、よろしくお願いします」
「いいんですか!? 本当に!!」
「いいんですよ。そんなに悪い方でもありません」
「でも……!」

声を荒げるロールを宥め、旦那様を見ます。
何を考えているのかが全く掴めない表情。
それでも私は、この人を疑うような真似はしたくありません。

「信用、しております」
「……当たり前だ」

そうして、私達の旅に元旦那様という仲間が入りました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

処理中です...