探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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収穫祭が始まります。

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「ラティ様~!!」
「ロール!」

すると、ロールが私を呼ぶ声が聞こえてきました。
振り返れば、ロールが凄い勢いで抱きついてきます。

「わっ」
「ラティ様、お怪我はありませんか?」
「それはこっちの台詞なんですが」
「そいつがロールかい?」

すると、スズカさんがロールの姿を見て、一旦作業を止めてこちらに来ました。

「え……あ、はい。私、ラティ様の護衛のロールです」

ロールも女性が整備士をやっていることに驚いたのでしょう。
目を丸くしつつも、自己紹介をします。

「ねえロール。これ、砕ける?」

スズカさんが差し出したのは、固そうな岩の塊です。
不思議がりながらもそれを受け取り、ロールは片手に力を込めて岩を砕いてみせました。

「うわぁ」
「砕きましたよ?」
「本当だったんだ……力の強いウサギの獣人」

珍しがられていることに気づいたロールは、少し照れ臭そうに笑いました。

「はい。私、怪力なんです」
「珍しいね……家族も、そんな感じなのかい?」
「スズカさん」

家族の話題を出されたことにより、ロールの表情が若干固くなります。
そこで私は口を挟みました。

「実は、この子は少し前の記憶がないんです」
「記憶が、ない?」
「記憶喪失ってところです」
「記憶喪失!?」
「はい。ですから、アストロに向かえば何かわかるのではないかと思って、アストロを目指しています」
「そうだったのかい……無神経ですまない」

申し訳なさそうに言うスズカさんに、「いえ!」とロールは元の元気を取り戻して言いました。

「私、楽しみなんです! アストロに行くの!」
「ロール……」
「全然気にしないでください!」
「いい子だね~」
「はわっ」

スズカさんがロールの頭をわしゃわしゃと撫で回します。
くすぐったそうにしているものの、居心地は良さそうです。

「あれ、ロールちゃん」
「エリクル様」

奥の方で風魔の調整を手伝っていたエリクル様が戻ってきました。
手伝っていたとはいえ、作業の中心であるスズカさんがいなくなったので進めなくなったのでしょう。

「早かったね。係の人は?」
「材料を全部渡したら一緒に戻ろうって言われたんですけど、待ちきれなくて先に行きました。私、鼻が効くので匂いで追ってきたんです」
「じゃあ係の人は調理場にでも材料を運んでいるのかな……」
「多分そうだと思います」

エリクル様は傷一つないロールを見て、驚いたような安心したような、微妙な顔をします。

「よく無傷で帰れたね。凄いね、ロールちゃんは」
「そう危険でもありませんでしたよ? こんなものかって思いましたもの」
「ううん、そうなのかい?」

どこか腑に落ちない様子で、エリクル様は笑いました。
と、そこでさっきここへ案内してくれた係の人が戻ってきました。

「ロール様! ありがとうございます! 必要な材料、全て揃いました!」
「! もう情報伝わってるんだ……」
「はい! もしよろしければですが、明日行われる収穫祭、楽しんでください! それと、これを!」

係の人から押しつけられるような形で受け取ったのは、一枚のチケットでした。

「これは?」
「それがあれば、収穫祭の食べ物は全部無料でもらえますよ! ぜひ使ってください!」
「美味しいもの、食べ放題……!」
「それでは!」

悩みから解放されたようで、係の人はウキウキしながら去っていきました。
ロールも嬉しそうですし、明日は収穫祭をとことん楽しみましょうか。

「あ、そういえばーー」
「?」
「ラティ様。私、神様に会ったんです」
「え!?」

神様っていうと、黒い龍のことです。
何か悪いことはされていないようですが、ロールは戸惑いの含んだ声で続けます。

「奥の谷に一人で進んでいた時の話なんですけれど……その。ラティアンカとエリクルを知ってるかって聞かれて」
「え?」
「僕と、ラティアンカ嬢を?」

なぜその神様は私達の名前を知っているんでしょう。
いえ、それよりも……なぜわざわざ聞いたんでしょう。

「旅仲間ですって答えたら、収穫祭当日に会いに行くって言われました」
「会いに来られるんですか」
「神様に目をつけられるようなこと、僕はまだしもラティアンカ嬢はしてないと思うんだけど」
「スズカさん。こんなこと、今までありました?」

突然話題を振られたスズカさんは、「えっ」と声を上げつつも、唸りながら考えます。

「う~ん、えーっと、あ! うん、あったよ。一度だけ」
「本当ですか!?」
「ああ。アルジェルドって奴を聞いてきた」

アルジェルド。
私の、元旦那様の名前。
何だか雲行きが怪しくなってきました。

「そのアルジェルドって奴と何か話していたのは知ってる。ただ……二人が呼ばれた理由は本当にわからないな」
「そうですか……」

神様は、私とエリクル様に何か用事があるのでしょうか。
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