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ヒイロという国。
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風魔の整備士は、名誉職と言われています。
なにせ数少ない魔術師とパイプを持てる手段でありつつ、高度な技術ゆえに国から高待遇を受けることができます。
だから女性がこの仕事につくことは、実質不可能でした。
「じょ、女性の方……ですよね?」
「何だい? アタシが男に見えるってのかい?」
「いえ、そんなことは」
ムッとした顔でこちらを睨んでくる女性。
やっぱり彼女も整備士なのですね。
整備士の方は、プライドの高い方が多いんですから。
エリクル様がその人に警戒されないよう、優しげに笑って話しかけます。
「珍しいね。女性の整備士なんて」
「そう? あんた達、異国人か。ここら辺じゃ見ない顔だもんね。それに」
「?」
早足で女性はエリクル様に近づくと、ジロジロと穴が空きそうなほど眺めます。
さすがに居心地が悪くなったのか、エリクル様は助けを求めるようにこちらに視線を投げます。
「う~ん、こう言っちゃなんだが、お客さんの笑顔は胡散臭いねっ」
「!?」
「フフッ」
胡散臭い、といい笑顔で言われて、エリクル様がピシリと固まりました。
思わず吹き出すと、つられて女性が大きな笑い声を上げます。
「あっはっはっ! あんたもそう思うだろ!?」
「そ、そんなことは……フフ」
「ラティアンカ嬢!?」
「あんたみたいなチャラい男はいけ好かないね!」
「いけ好かない………」
そんなこと言われたのは初めてなんでしょう。
エリクル様はずーん、と陰気な雰囲気を纏い、うつむいてしまいました。
風の魔術の貴公子も型無しですね。
「で? どっちが魔術師なんだい?」
「あ、エリクル様です」
「姉ちゃんじゃないの?」
「はい」
「へぇ、そうなんだ。てっきりあんたが魔術師だと思ってたけど」
「女性の魔術師はあまりいませんから」
「っと、そうだった。忘れてたよ」
失言をしてしまったとばかりに、女性は一歩後ろに下がって、バツの悪そうに苦笑いしました。
すると、係の人が私達に説明してくれました。
「我が国、ヒイロは獣人の国アストロと交流の深い国です。アストロには世界初の女王がいらっしゃいます。ですので、女性差別がない国なんですよ」
「女性差別の、ない国……」
まるで理想のような国ですね。
それに、世界初の女王はアストロにいらっしゃったのですね。
ますますアストロに行きたくなってきました。
すると、整備士の女性が口を挟みました。
「外国の女の人は可哀想だと思うよ。みんな窮屈そうだしさ……特に奴隷なんて気の毒だ。ヒイロとかアストロとかになればいいのに」
「あなたは女神の伝説をご存知で?」
「もちろん知ってるよ! だから何だったんだい? 本当だろうが嘘だろうが、私達に関係ないだろ」
「その通り、ですわね」
なんて思い切りの良い方なんでしょう。
竹を割ったような性格とでも言うのでしょうか。
同じ女性として憧れます。
「ねえ、あんた名前は?」
「ラティアンカです」
「僕はエリクル」
「外人っぽい名前! アタシはスズカ! よろしく、ラティアンカにエリクル!」
「どうぞラティと呼んでください」
「んじゃラティ!」
スズカさんは元気な方ですね。
ロールを思い出します。
そういえば、ロールは大丈夫でしょうか。
心配です。
「さ、風魔を出しな! アタシがきっちり見てやるよ!」
「よろしく頼むよ。……ラティアンカ嬢?」
「?」
「どうしたんだい? ボーッとして」
「あ、ロールが心配で」
誰もいない場所に風魔を出すと、スズカさんが作業に取り掛かり始めます。
専用の器具を器用に扱い、真剣に進めていきます。
「そうだね、確かに心配だ。ロールちゃんならできると信じたいが……」
「なに? ラティ達、連れがいるのかい」
作業片手に、スズカさんが話しかけてきました。
「連れ、というか、旅仲間です」
「ラティアンカ嬢の護衛だよ」
「へぇ。どんな奴?」
「可愛い子ですね。それと元気。雰囲気はスズカさんに似てますわ。ウサギの獣人です」
「珍しいね! ウサギの獣人なんて、見たことないよ! でも……その子に護衛なんてできるんかい? ウサギだろ?」
「もちろんです。ロールは力が強いんですよ。格闘術に秀でています」
「格闘術が得意なウサギ……想像できないね」
「ウサギの獣人は力が弱いのかい?」
エリクル様の質問に、スズカさんが目を丸くしました。
「そんなことも知らないのかい!?」
「う、ま、まあね」
「当たり前だよ! ウサギの獣人が珍しいのは、力が弱いからなんだから!」
「そうなのか……じゃあ、ロールちゃんは特別な子なんだね」
「そうさな。大事にしておやり。力が強いと言えど、病気やストレスには弱いと思うから」
スズカさんの説明を聞きながら、いよいよ不安になってきました。
谷なんかに一人で行かせてしまったことを後悔します。
ついていけばよかったかしら。
でも私なんかが行っても足手纏いになるし、気を遣わせてしまうわ。
ああでも怖いですね。
気づかない内に、心配性になった気がします。
「エリクル。魔石取って」
「どこにあるんだい? というか、他の整備士は?」
「棚の二段目。他の整備士は収穫祭に向けての出張! 普段は風魔の整備の他にも、色々仕事をしてるからね」
収穫祭、無事に始まってくれればいいんですが。
なにせ数少ない魔術師とパイプを持てる手段でありつつ、高度な技術ゆえに国から高待遇を受けることができます。
だから女性がこの仕事につくことは、実質不可能でした。
「じょ、女性の方……ですよね?」
「何だい? アタシが男に見えるってのかい?」
「いえ、そんなことは」
ムッとした顔でこちらを睨んでくる女性。
やっぱり彼女も整備士なのですね。
整備士の方は、プライドの高い方が多いんですから。
エリクル様がその人に警戒されないよう、優しげに笑って話しかけます。
「珍しいね。女性の整備士なんて」
「そう? あんた達、異国人か。ここら辺じゃ見ない顔だもんね。それに」
「?」
早足で女性はエリクル様に近づくと、ジロジロと穴が空きそうなほど眺めます。
さすがに居心地が悪くなったのか、エリクル様は助けを求めるようにこちらに視線を投げます。
「う~ん、こう言っちゃなんだが、お客さんの笑顔は胡散臭いねっ」
「!?」
「フフッ」
胡散臭い、といい笑顔で言われて、エリクル様がピシリと固まりました。
思わず吹き出すと、つられて女性が大きな笑い声を上げます。
「あっはっはっ! あんたもそう思うだろ!?」
「そ、そんなことは……フフ」
「ラティアンカ嬢!?」
「あんたみたいなチャラい男はいけ好かないね!」
「いけ好かない………」
そんなこと言われたのは初めてなんでしょう。
エリクル様はずーん、と陰気な雰囲気を纏い、うつむいてしまいました。
風の魔術の貴公子も型無しですね。
「で? どっちが魔術師なんだい?」
「あ、エリクル様です」
「姉ちゃんじゃないの?」
「はい」
「へぇ、そうなんだ。てっきりあんたが魔術師だと思ってたけど」
「女性の魔術師はあまりいませんから」
「っと、そうだった。忘れてたよ」
失言をしてしまったとばかりに、女性は一歩後ろに下がって、バツの悪そうに苦笑いしました。
すると、係の人が私達に説明してくれました。
「我が国、ヒイロは獣人の国アストロと交流の深い国です。アストロには世界初の女王がいらっしゃいます。ですので、女性差別がない国なんですよ」
「女性差別の、ない国……」
まるで理想のような国ですね。
それに、世界初の女王はアストロにいらっしゃったのですね。
ますますアストロに行きたくなってきました。
すると、整備士の女性が口を挟みました。
「外国の女の人は可哀想だと思うよ。みんな窮屈そうだしさ……特に奴隷なんて気の毒だ。ヒイロとかアストロとかになればいいのに」
「あなたは女神の伝説をご存知で?」
「もちろん知ってるよ! だから何だったんだい? 本当だろうが嘘だろうが、私達に関係ないだろ」
「その通り、ですわね」
なんて思い切りの良い方なんでしょう。
竹を割ったような性格とでも言うのでしょうか。
同じ女性として憧れます。
「ねえ、あんた名前は?」
「ラティアンカです」
「僕はエリクル」
「外人っぽい名前! アタシはスズカ! よろしく、ラティアンカにエリクル!」
「どうぞラティと呼んでください」
「んじゃラティ!」
スズカさんは元気な方ですね。
ロールを思い出します。
そういえば、ロールは大丈夫でしょうか。
心配です。
「さ、風魔を出しな! アタシがきっちり見てやるよ!」
「よろしく頼むよ。……ラティアンカ嬢?」
「?」
「どうしたんだい? ボーッとして」
「あ、ロールが心配で」
誰もいない場所に風魔を出すと、スズカさんが作業に取り掛かり始めます。
専用の器具を器用に扱い、真剣に進めていきます。
「そうだね、確かに心配だ。ロールちゃんならできると信じたいが……」
「なに? ラティ達、連れがいるのかい」
作業片手に、スズカさんが話しかけてきました。
「連れ、というか、旅仲間です」
「ラティアンカ嬢の護衛だよ」
「へぇ。どんな奴?」
「可愛い子ですね。それと元気。雰囲気はスズカさんに似てますわ。ウサギの獣人です」
「珍しいね! ウサギの獣人なんて、見たことないよ! でも……その子に護衛なんてできるんかい? ウサギだろ?」
「もちろんです。ロールは力が強いんですよ。格闘術に秀でています」
「格闘術が得意なウサギ……想像できないね」
「ウサギの獣人は力が弱いのかい?」
エリクル様の質問に、スズカさんが目を丸くしました。
「そんなことも知らないのかい!?」
「う、ま、まあね」
「当たり前だよ! ウサギの獣人が珍しいのは、力が弱いからなんだから!」
「そうなのか……じゃあ、ロールちゃんは特別な子なんだね」
「そうさな。大事にしておやり。力が強いと言えど、病気やストレスには弱いと思うから」
スズカさんの説明を聞きながら、いよいよ不安になってきました。
谷なんかに一人で行かせてしまったことを後悔します。
ついていけばよかったかしら。
でも私なんかが行っても足手纏いになるし、気を遣わせてしまうわ。
ああでも怖いですね。
気づかない内に、心配性になった気がします。
「エリクル。魔石取って」
「どこにあるんだい? というか、他の整備士は?」
「棚の二段目。他の整備士は収穫祭に向けての出張! 普段は風魔の整備の他にも、色々仕事をしてるからね」
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