探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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そもそもどうして。

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「どうしてこの世界は男が尊敬され、女が雑に扱われるんでしょう?」

ふと、そう言い出したのはロールでした。
風魔に乗って次の国に移動している最中でしたので、本当にふとした疑問だったのでしょう。
その純粋な問いに、私はロールが記憶を失っていることを思い出しました。

「そうですね。あなたは普段から頼りになりますから、記憶を失っていることを忘れそうになってしまいました。すみません」
「いっいえっ、ラティ様のせいじゃっ」
「ここは一つ、昔話でもしましょう」

エリクル様は風魔の先で、微調整を重ねています。
掃除が終わったばかりなので、少しくらいは休憩してもバチは当たりません。

「もしかして、結構有名な話だったりします?」
「そうね。子供に聞かせるおとぎ話にされるくらいには、有名ね」
「! そ、その……恥ずかしいですね。教養がないって思われます」
「そんなことありませんよ。ロールの振る舞いは、どこかの貴族ぐらいに洗礼されていますから」

お世辞ではありません。
ロールはやはりちぐはぐな存在で、貴族のように綺麗にナイフとフォークを扱ってみせたかと思えば、こういったおとぎ話を知りません。
記憶喪失の弊害でしょう。

「……昔は、女の人のほうが優遇されていました。この世界を統べる女神がいたから」
「女神ですか」
「ええ。美しい女神です。でも、その女神がある日突然世界を裏切って、滅ぼそうとしたんです。それを救ったのが勇者」
「ゆうしゃ……」
「その勇者は男性でした。だから、男のほうが優遇されるんです。女神は汚らわしいものとして死にました」
「……何だか腑に落ちない話ですね」
「そういうものです。実際にあった話とは聞いていますが、大体の方は信じてませんから」
「いえ、違くて」
「?」

ロールが言いづらそうに、はくりはくりと口を開け閉めして答えてみせます。

「女神はどうして世界を滅ぼそうとしたんでしょう? そんなに世界が憎くなる、なにかがあったんでしょうか?」
「……それは誰にもわからないですよ」
「そうですね。忘れてください」

少しだけ寂しそうな顔をしてから、ロールは首を横に振りました。
何だか元気がなくなってしまいましたわ。
この話はおしまいにしましょう。

「ところでロール。あなた、べクルは好き?」
「べクルってなんですか?」
「こう……粉で作った麺のようなものです。それを汁に浸して食べるのです」
「お、美味しそうです!」
「そのベクルが次の国で食べられるの」
「本当ですか!?」
「ええ」

私は一度だけ、旦那様に食べさせていただいたことがあります。
お土産だと言って、魔法で保存されたベクルを差し出してくれました。
その時は舞い上がりそうなほどに嬉しかったし、ベクルも何だか特別なものに思えましたね。

「何の話だい?」
「エリクル様」

ふと、微調整を終えたエリクル様が戻ってきました。
ベクルの話を振れば、「ああ」とエリクル様は嬉しそうに笑います。

「確かに次の国、ヒイロは美味しい物がたくさんある国だ。期待しててもいいと思うよ」
「楽しみですね! ヒイロ!」
「ええ。それに、他の国とは一線を画した特殊な国とも聞きます」

ヒイロで特別な思い出ができるといいですね。
私は思わず笑顔を溢しました。

◆ ◆ ◆

一方、そんな噂の国、ヒイロでは。

「困ったぞ!? 材料が足りない!!」
「これでは収穫祭で料理を振る舞うことができないじゃないか!」
「ああ、どうすれば……!?」
「しょうがない、こうなったら魔術師を頼ろう! 彼らならなんとかしてくれる……!」

私達の知り得ない、少し厄介な事件が起きておりました。
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