探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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アルジェルドside

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王宮につけば、兵士達が俺達を警戒して剣を構えた。

「何用だ。客人が来るとは聞いていないぞ」
「……俺はアルジェルド・マルシム。ここの第二王子である、ルシフェル様に、お会いしたい」

低い声で唸るように言えば、ポカンとした様子で兵士はその場で硬直する。
しばらく固まった後、「お、お待ちください!」と叫んで、先程の風魔整備店と同じように王宮に飛び込んでいった。

「お主……末恐ろしいの」
「俺は世界一の魔術師。俺がこの国で暴れたりなんてしたら、止める奴がいない」
「暴れるのか?」
「いや」

ラティアンカのいないこの国に長居をするつもりはない。
暴れるなんて真似はしない。
しばらくすれば、メイドが来て案内をされる。
貴族や王族はメイドを使うから、直接本人に会うまで時間がかかるのが面倒だな。

「初めまして。私がルシフェルです」
「急な訪問申し訳ない。私は……そうだな。シロといいます。こっちが魔術師の、アルジェルドです」

白龍は自分に「シロ」という安直な名前をつけて、俺の紹介をした。
どうせ王子に二度会うことはないだろうからという理由だろうが、面倒そうな顔をするのはやめてほしい。

「して、世界一の魔術師が私にどんなご用で? 申し訳ないが、私も忙しい」

当たり前だろう。
王族にアポ無しで突っ込んで、会えること自体が少ない。
だから、単刀直入に言う。

「あなた、ラティアンカにフラれたんですか?」
「…………………」

長い沈黙がその場を満たした。
王子は笑顔のままだ。
白龍から殴られた。

「おいっ、デリカシーがなさすぎるぞ!? 失恋直後であろう王子にっ、そのっ」
「いいんです、シロ殿」

どこか諦めの滲んだ声が王子から発せられた。
俯きがちに王子があったことをスラスラと語っていく。

「私は千里眼という能力を持っています。その能力込みで彼女に惚れてしまいました。でも……彼女は恋愛が怖いらしくて。フラれてしまいましたよ。はは、初恋だったのにな」
「その……元気出せ。お主は頑張ったぞ。また次の出会いは来るさ。それに、初恋は実らないっていうし」

憐れんだ白龍が、敬語を忘れつつも王子の肩を撫でた。
ーー千里眼なら、きっと白龍が神獣だということもわかっているのだろう。
だが、王子はコクコクと頷きながら、白龍に愚痴を垂れる。

「正直その原因になったアルジェルド様のことを恨んでます。こう……本当に。今でも胸が痛みますし。フラれたっていう実感が沸いてくるんですよ」
「よいよい。お主、言う機会がなかったのだろ。王子だからな。私ぐらいは話を聞くぞ」
「シロ殿。ありがとう、ございます。……好きでした。ラティアンカ殿のことが。どうしても。ああ、私は、ダメだったのだな……」
「泣いてもいいんだぞ」
「……ずびっ」

何だか凄く可哀想になってきた。
俺の中の責める、騒ぐという荒れた感情は、一瞬にして同情に変わる。
というか王子の気持ちが何となくわかる。
俺だってラティアンカにフラれたものだ。
追いかけることは即決断したが、追いかけている間に、少し泣いたりもしたのだ。
失恋話は人に聞いてもらえば少しは楽になるから、白龍はどんどん使ってほしい。

「うう、アルジェルド様から気を使われると、ちょっと……」
「嫌なのか」
「恋敵に同情されて嬉しい奴などいませんよっ」

それから予定を急かしてくるメイドや執事を突っぱね、小一時間は王子の愚痴を聞いた。
全てを吐き出した王子は何だかスッキリした顔をしていた。

「あなた達に彼女の行く先を教えるのは癪ですが……ここまで聞いてくださったお礼です。彼女は東に流れていきましたよ」

王子からのアドバイスも貰い、俺達は王宮を出た。
元の姿に戻った白龍の背に飛び乗り、空を飛んでいく。

『多分お主、このまま乙女と追いかけっこを続けるのだろうなぁ』
「どういう意味だ」
『追いついても、心が向いていなければ何の意味もないということだ』
「俺はラティアンカを愛してる」
『阿呆。乙女のことだ。お主がいくら愛そうが、乙女はお主のことなど忘れとるだろうに』

ーーそこまで言われて、収まっていたはずの胸の痛みが復活した。
本当に痛い。
ラティアンカが俺を忘れ、旅をする。
きっと彼女は幸せを探しているんだろう。
だけど、俺はその幸せに飛び込みたい。
縋らせてはくれないだろうか。

『人族の恋愛は、本当に複雑だな』

白龍は目を細めて、独り言のようにそう漏らした。
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