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アルジェルドside
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白龍に引きずられる形で領主の屋敷にたどり着けば、如何にも怪しい俺達に庭師が気づき、こちらをじっと見てきた。
「そこのお方。私達は領主様に会いたいのだが」
「……お客様が来られるご予定はありません」
「そこを何とか」
「出直してください」
まあ、そうだろうな。
貴族に怪しい男二人、会わせられるわけがない。
まあ、名乗ればなんとかなるだろう。
「俺はアルジェルド・マルシム。我が妻、ラティアンカ・マルシムがここを訪ねたはずだ。そのことについて、領主様にお聞かせ願いたい」
「………ラティアンカ、様の。それに、アルジェルド……マルシム?」
「そうだ」
「~~~っ!!」
庭師はその場から飛び上がり、大急ぎで屋敷に飛び込んでいった。
「怖がらせたのか?」
「阿呆。お主、自分がどれだけ有名か自覚せぇ。庭師ももちろんお主のことを知っておったのだろう」
しばらくすれば、この屋敷のメイドであろう女性が慌ててこちらへ駆けてきた。
「失礼いたしました! ど、どうぞ!」
「……別に」
別に気にしない、という意味だったのだが、メイドはビクつきながら俺達の案内をしようとする。
見かねた白龍が前に出て、メイドの手を取る。
「怖がらせてしまってすまない。私達はただ、話がしたいだけなんだ。君に危害は加えない」
「………」
「本当だ」
白龍の瞳は、どんな生き物でも目を合わせれば警戒心を薄れさせるという効果がある。
目と目があったメイドが、少しだけ微笑んでみせた。
「はい。驚いてしまってすみません」
「………」
さすが神獣。
あれだけ警戒していたメイドが、あっという間に絆されている。
そのまま屋敷に案内されれば、客室には領主であろう者と、一人の娘がそこにいた。
「あなたが、領主様か」
「はい。領主の、レイラー・ゴッドルと申します。……アルジェルド・マルシム様のお噂はかねがね」
「御託はいいんです。彼女、ラティアンカはここに来ましたね?」
立場的には俺達のほうが偉い。
だからそんな風に切り込んでいったが、領主は渋るように唸った。
「た、確かに来ました。彼女は客人としてーー」
「我々を謀るのなら、命はないと思え」
ずあ、と。
白龍が威圧感を一気に与える。
領主と娘の顔は真っ青になり、気の毒なほど震え出す。
「白龍。やめろ」
「……どういう風の吹き回しだ? さっきまで殺すのなんのとか思っていたくせに」
「気の迷いだ」
「都合の良い奴め」
白龍が威圧感を解いてみせれば、娘が早口で説明してくれた。
「わ、私が王子様の縁談を嫌がって逃げたのです! それを、ラティアンカ様が、魔石を報酬に身代わりを」
「ほう」
娘の髪と瞳の色、背格好はラティアンカとよく似たものであった。
だが比べるまでもない。
ラティアンカはもっと綺麗だし、何より可愛い。
「惚気るな」と白龍が俺の頭を叩く。
こいつ、本当に俺の心を読んでいるのではないか。
「それで、その王子とは」
「この国の第二王子……ルシフェル・フォルテ様です」
「第二王子」
「じ、実は途中で身代わりが気づかれてしまったんです。ただ、王子様がラティアンカ様にほ、惚れたと……」
「は?」
ここで一言も話してなかった俺から、ドスの効いた声が漏れる。
ああ、同じだ。
ラティアンカの手紙を見つけたその時と、同じ。
腹が立つ。
俺以外に、お前に惚れた男となんかと、縁談だと?
「……おい。落ち着け。乙女は自ら依頼を受けたんだろ? 此奴らのせいではない」
「わかってる」
「わかってないから言っている」
もう我慢ならない。
その王子とやらに会って、ラティアンカは俺のものだと言ってやらなくては気が済まない。
王子に会うにはどうすればいい?
……王宮か。
王宮に行けばいいのか。
「行くぞ」
「は?」
「王宮」
「……お主の中でどういう答えを出したか知らんが、みっともないぞ」
「うるさい」
「このダメ男め」
やれやれと言いつつ、白龍は俺を止めるようなことはしない。
それでいい。
俺はやりたいことをやるだけだ。
「お主が乙女に嫌われた理由が何となくわかるの」
そう、白龍は小さくぼやいた。
「そこのお方。私達は領主様に会いたいのだが」
「……お客様が来られるご予定はありません」
「そこを何とか」
「出直してください」
まあ、そうだろうな。
貴族に怪しい男二人、会わせられるわけがない。
まあ、名乗ればなんとかなるだろう。
「俺はアルジェルド・マルシム。我が妻、ラティアンカ・マルシムがここを訪ねたはずだ。そのことについて、領主様にお聞かせ願いたい」
「………ラティアンカ、様の。それに、アルジェルド……マルシム?」
「そうだ」
「~~~っ!!」
庭師はその場から飛び上がり、大急ぎで屋敷に飛び込んでいった。
「怖がらせたのか?」
「阿呆。お主、自分がどれだけ有名か自覚せぇ。庭師ももちろんお主のことを知っておったのだろう」
しばらくすれば、この屋敷のメイドであろう女性が慌ててこちらへ駆けてきた。
「失礼いたしました! ど、どうぞ!」
「……別に」
別に気にしない、という意味だったのだが、メイドはビクつきながら俺達の案内をしようとする。
見かねた白龍が前に出て、メイドの手を取る。
「怖がらせてしまってすまない。私達はただ、話がしたいだけなんだ。君に危害は加えない」
「………」
「本当だ」
白龍の瞳は、どんな生き物でも目を合わせれば警戒心を薄れさせるという効果がある。
目と目があったメイドが、少しだけ微笑んでみせた。
「はい。驚いてしまってすみません」
「………」
さすが神獣。
あれだけ警戒していたメイドが、あっという間に絆されている。
そのまま屋敷に案内されれば、客室には領主であろう者と、一人の娘がそこにいた。
「あなたが、領主様か」
「はい。領主の、レイラー・ゴッドルと申します。……アルジェルド・マルシム様のお噂はかねがね」
「御託はいいんです。彼女、ラティアンカはここに来ましたね?」
立場的には俺達のほうが偉い。
だからそんな風に切り込んでいったが、領主は渋るように唸った。
「た、確かに来ました。彼女は客人としてーー」
「我々を謀るのなら、命はないと思え」
ずあ、と。
白龍が威圧感を一気に与える。
領主と娘の顔は真っ青になり、気の毒なほど震え出す。
「白龍。やめろ」
「……どういう風の吹き回しだ? さっきまで殺すのなんのとか思っていたくせに」
「気の迷いだ」
「都合の良い奴め」
白龍が威圧感を解いてみせれば、娘が早口で説明してくれた。
「わ、私が王子様の縁談を嫌がって逃げたのです! それを、ラティアンカ様が、魔石を報酬に身代わりを」
「ほう」
娘の髪と瞳の色、背格好はラティアンカとよく似たものであった。
だが比べるまでもない。
ラティアンカはもっと綺麗だし、何より可愛い。
「惚気るな」と白龍が俺の頭を叩く。
こいつ、本当に俺の心を読んでいるのではないか。
「それで、その王子とは」
「この国の第二王子……ルシフェル・フォルテ様です」
「第二王子」
「じ、実は途中で身代わりが気づかれてしまったんです。ただ、王子様がラティアンカ様にほ、惚れたと……」
「は?」
ここで一言も話してなかった俺から、ドスの効いた声が漏れる。
ああ、同じだ。
ラティアンカの手紙を見つけたその時と、同じ。
腹が立つ。
俺以外に、お前に惚れた男となんかと、縁談だと?
「……おい。落ち着け。乙女は自ら依頼を受けたんだろ? 此奴らのせいではない」
「わかってる」
「わかってないから言っている」
もう我慢ならない。
その王子とやらに会って、ラティアンカは俺のものだと言ってやらなくては気が済まない。
王子に会うにはどうすればいい?
……王宮か。
王宮に行けばいいのか。
「行くぞ」
「は?」
「王宮」
「……お主の中でどういう答えを出したか知らんが、みっともないぞ」
「うるさい」
「このダメ男め」
やれやれと言いつつ、白龍は俺を止めるようなことはしない。
それでいい。
俺はやりたいことをやるだけだ。
「お主が乙女に嫌われた理由が何となくわかるの」
そう、白龍は小さくぼやいた。
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