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アルジェルドside

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白龍の背に乗り、途中で休憩しつつもフォルテには二日でつくことができた。

『ついたぞ。早く入り口に入らねば』
「わかってる」

国の入り口の係である兵士に顔を見せれば、とんでもないものを見るようにギョッとされた。

「あ、あなたは……」
「アルジェルド・マルシムだ」
「ア、アルジェルド様!?」

周りもうるさくなりだした。
なるべく目立ちたくなかったか、こういう場面では致し方ない。
後ろの白龍はもっと注目を浴びている。

「ご、ご入国ですか?」
「ああ。入国審査表を書くから、貸してくれ」
「は、はい」

緊張した面で、兵士が入国審査表をペンごと渡してくる。
それを受け取って慣れたように書いていると、ふと兵士が質問してきた。

「あの……エリクル様、という方をご存知で?」
「! 友人だ」

エリクルといえば、魔術師の中での俺の唯一の友だ。
よく俺の態度がわかりにくいと叱ってくれていたし、ラティアンカへの対応をもっとしろとも助言されていた。
それを聞き流していたので、とても申し訳なく思っている。
そんなエリクルだが、あいつは自国を出ることはあまりない。
だいたい自分の家の研究室に立て篭もり、常に何かを作っているような人間だった。
そのせいであまり知名度が高くないエリクルを知っているということは。

「来たのか?」
「はい。二日前ほどに」

何をしに来たんだろうか。
ここに風魔法に関する文献はなかった気がするが。
ーーいや、待て。
何だか嫌な予感がした。

「ところで、そのエリクルは誰かが一緒じゃなかったか?」
「強いて言うなら……ウサギの獣人と女性と、もう一人の女性が一緒でしたよ」
「特徴は」
「旦那! 女の顔なんて覚えてもいいことありませんぜ」

横から別の兵士が顔を出し、俺にそんなことを言ってくる。
「おい!」と俺と対応していた兵士が嗜めるが、これは世間一般的な反応と言える。
最近では女性初の王が出てきたおかげで、男尊女卑は少しずつ薄れつつある。
が、まだまだ女性へ対する対応はこんなものである。
ただの女性に対する対応だったら、俺はわざわざ首を突っ込んだりはしない。
俺はエリクルのように優しくはないからな。
だがーーそれが俺の妻である可能性があるのだ。

「いいから答えろ。容姿は? 何かを持っていたか? 髪と瞳の色は?」

早口で詰め寄れば、兵士は慌てた様子で答えてみせた。

「う、ウサギの獣人の方は白ウサギで、瞳は桃色です。もう一人の女性は、茶髪に空色の瞳をしていました。三人とも風魔から降りてきました」
『ということは、乙女はどうやらお前の友人を頼ったようだな』

なるほど。
家を出て行った後、ラティアンカは街に行ってエリクルを頼ったらしい。
エリクルに同伴してもらい風魔に乗り、ここまで来たのだろう。
ウサギの獣人とやらは知らないが、随分と面倒なことになった。
風魔は扱いは複雑だが、あいつほどの風に特化された魔術師ならやすやすと扱えるだろう。
移動速度が速い分、何の手がかりもない今、考えなしに追いかけるのは愚策だ。

「……入っていいか」
「も、もちろんです!」

白龍を引き連れてフォルテに入れば、一気に人の視線がこちらへ集まる。
白龍がどうしても目立っていた。

「小さくなれるか」
『それくらい、造作もない』

フン、と鼻で笑うと、白龍は己の身を縮めてトカゲのようなサイズになって俺の肩に乗る。
周囲の人々からは急に龍がいなくなったように見えたのか、ざわめきが上がる。
それを無視して突っ切った。

『どうするのだ。来たはいいが、手の打ちようがないぞ』
「……聞き込みをする」
『聞き込み?』
「ラティアンカがここに来なかったか、聞く」
『病的に話せぬお前が?』
「……聞く」
『まーた手のかかる奴だな』

呆れたとばかりにため息をつくと、今度は白龍が俺の肩から降り、路地裏に飛び込む。
戻ってきた頃には、人間の姿となっていた。

「変化の術だ。私が聞き込みをするから、お主はついてくるといい」
「……感謝する」

本当は自分で聞くつもりだったが、白龍の好意を無碍にするわけにはいかない。
白龍に俺はおとなしくついていくことにした。
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