探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
上 下
20 / 99

アルジェルドside

しおりを挟む
白龍の背に乗り、途中で休憩しつつもフォルテには二日でつくことができた。

『ついたぞ。早く入り口に入らねば』
「わかってる」

国の入り口の係である兵士に顔を見せれば、とんでもないものを見るようにギョッとされた。

「あ、あなたは……」
「アルジェルド・マルシムだ」
「ア、アルジェルド様!?」

周りもうるさくなりだした。
なるべく目立ちたくなかったか、こういう場面では致し方ない。
後ろの白龍はもっと注目を浴びている。

「ご、ご入国ですか?」
「ああ。入国審査表を書くから、貸してくれ」
「は、はい」

緊張した面で、兵士が入国審査表をペンごと渡してくる。
それを受け取って慣れたように書いていると、ふと兵士が質問してきた。

「あの……エリクル様、という方をご存知で?」
「! 友人だ」

エリクルといえば、魔術師の中での俺の唯一の友だ。
よく俺の態度がわかりにくいと叱ってくれていたし、ラティアンカへの対応をもっとしろとも助言されていた。
それを聞き流していたので、とても申し訳なく思っている。
そんなエリクルだが、あいつは自国を出ることはあまりない。
だいたい自分の家の研究室に立て篭もり、常に何かを作っているような人間だった。
そのせいであまり知名度が高くないエリクルを知っているということは。

「来たのか?」
「はい。二日前ほどに」

何をしに来たんだろうか。
ここに風魔法に関する文献はなかった気がするが。
ーーいや、待て。
何だか嫌な予感がした。

「ところで、そのエリクルは誰かが一緒じゃなかったか?」
「強いて言うなら……ウサギの獣人と女性と、もう一人の女性が一緒でしたよ」
「特徴は」
「旦那! 女の顔なんて覚えてもいいことありませんぜ」

横から別の兵士が顔を出し、俺にそんなことを言ってくる。
「おい!」と俺と対応していた兵士が嗜めるが、これは世間一般的な反応と言える。
最近では女性初の王が出てきたおかげで、男尊女卑は少しずつ薄れつつある。
が、まだまだ女性へ対する対応はこんなものである。
ただの女性に対する対応だったら、俺はわざわざ首を突っ込んだりはしない。
俺はエリクルのように優しくはないからな。
だがーーそれが俺の妻である可能性があるのだ。

「いいから答えろ。容姿は? 何かを持っていたか? 髪と瞳の色は?」

早口で詰め寄れば、兵士は慌てた様子で答えてみせた。

「う、ウサギの獣人の方は白ウサギで、瞳は桃色です。もう一人の女性は、茶髪に空色の瞳をしていました。三人とも風魔から降りてきました」
『ということは、乙女はどうやらお前の友人を頼ったようだな』

なるほど。
家を出て行った後、ラティアンカは街に行ってエリクルを頼ったらしい。
エリクルに同伴してもらい風魔に乗り、ここまで来たのだろう。
ウサギの獣人とやらは知らないが、随分と面倒なことになった。
風魔は扱いは複雑だが、あいつほどの風に特化された魔術師ならやすやすと扱えるだろう。
移動速度が速い分、何の手がかりもない今、考えなしに追いかけるのは愚策だ。

「……入っていいか」
「も、もちろんです!」

白龍を引き連れてフォルテに入れば、一気に人の視線がこちらへ集まる。
白龍がどうしても目立っていた。

「小さくなれるか」
『それくらい、造作もない』

フン、と鼻で笑うと、白龍は己の身を縮めてトカゲのようなサイズになって俺の肩に乗る。
周囲の人々からは急に龍がいなくなったように見えたのか、ざわめきが上がる。
それを無視して突っ切った。

『どうするのだ。来たはいいが、手の打ちようがないぞ』
「……聞き込みをする」
『聞き込み?』
「ラティアンカがここに来なかったか、聞く」
『病的に話せぬお前が?』
「……聞く」
『まーた手のかかる奴だな』

呆れたとばかりにため息をつくと、今度は白龍が俺の肩から降り、路地裏に飛び込む。
戻ってきた頃には、人間の姿となっていた。

「変化の術だ。私が聞き込みをするから、お主はついてくるといい」
「……感謝する」

本当は自分で聞くつもりだったが、白龍の好意を無碍にするわけにはいかない。
白龍に俺はおとなしくついていくことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

処理中です...