探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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次の国へ。

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「よかったですぅうっ」

屋敷に帰るなり、ロールが泣きながら飛びついてきました。
相当心配だったらしく、泣き腫らしたのかそのピンク色の瞳が真っ赤に腫れ上がっています。
ロールの涙を拭ってやれば、更にポロポロと涙が溢れます。

「わ、私は、ラティ様が、心配で」
「ええ。わかってます。心配してくれて、ありがとう」
「ラティ様……」
「戻って来たね、ラティアンカ嬢」
「エリクル様」

エリクル様はロールを見て、「僕じゃどうにもできなくて」と肩を竦めてみせます。

「何か、大変なことはなかったい?」
「いえ。王子様が困った時に助けてくれると」
「そうか。良縁を結べたみたいでよかったよ。魔石ももらえたし」

「ほら」とエリクル様が、袋いっぱいの魔石を見せてきます。
魔石一つ一つが大きいので、領主様がどれだけ私達に感謝してくださっているのかが伝わってきます。

「アイテムボックスにはしまわないんですか?」
「残念だけど、僕のアイテムボックスは風魔で一杯でね……面倒だけど、手持ちかな」
「私が持ちましょうか」
「いや。大丈夫。ラティアンカ嬢の荷物もまとめてあるから、このまま出よう。それに、早く出ないと厄介なことになる」
「厄介なこと?」
「ああ。とびきり面倒なことでもある」

確かにエリクル様の後ろには、旅荷物が積まれていました。
その中の自分の荷物を手に取ると、つられて私にひっついていたロールも離れて、残りの荷物を持ちます。
何だかその様子は物持ちのようで、少し心配です。
ロールが力持ちなのはわかっているのですが。

「ロール、私が持ちまーー」
「いいえ! 私が持ちます」
「じゃ、じゃあ、少しだけでも」
「今回はラティ様に助けていただいたんですから、当然のことです!」

フンス、と鼻息を荒くしてロールがそう言い放ちます。
やっぱりロールは頼りになりますね。
エリクル様も荷物をまとめたようで、「行こう」と促しました。

「お待ちください!!」

あまりに大きな声だったので振り返れば、領主様と、綺麗なドレスを身に纏った娘さんがやってきました。

「領主様、と……」
「誰だ?」
「この度は、我が家が大変な迷惑をかけてしてしまい、申し訳ありませんでした!!」

領主様の叫ぶような謝罪と共に、横の娘さんと頭を下げます。
ということは、領主様の娘さんでしょうか。

「あなたが、ユリア様?」
「はい。その、本当にごめんなさい。逃げてから無責任だったと気付きました。私には確かに好きな人がいますけど、貴族ですものね。その役目を放り出して逃げるなんて」
「そのことなのですが」
「?」

アレン様が別れ際に言っていたことを、私はユリア様に伝えました。

「縁談はユリア様ので最後だったらしいですけど、また新しいものがどうせ来るらしいです。私以上にいい人を見つけると、王子様は言ってましたよ」
「……と、いうことは」
「あなたは、恋人と別れなくていいんですよ」

そう言えば、少し間を置いて、ユリア様が泣き出しました。
恋する人と関係を断つことは、よほど辛いことだったのでしょう。
泣きじゃくるユリア様の背を、領主様が優しい手つきで撫でます。

「ありっがっ、とうございます!」
「よかったですね」
「っ、はい!」

私に愛はわかっても、恋はわかりません。
一説によれば、恋をすれば身を引き裂かれるよりも辛いと、聞いたこともあります。
その一方で、まるで天国にいるくらい幸せだとも聞いたことがあります。
そんな天と地ほどの落差がある感情に、私は振り回されるつもりはありません。

「じゃ、行きましょうか」
「はい!」
「そうしよう。領主様。魔石をありがとう」

そうして私達は、次の休憩場所の国へと進みました。
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