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よく考えて動きましょう。
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私はその後、ロールと仲良くなるために一日中彼女と話し合いました。
といってもロールが話せることは辛いことばかりでしたので、ほとんど私の一人語りだったのですが。
私が世界一の魔術師であるアルジェルド様の妻だったこと、旦那様に愛想を尽かして出て行ったことを説明すると、ロールはまるで自分のことのように怒ってくれました。
「酷いです! こんなに優しいラティ様に、なんてこと……!」
「もういいんです。昔のことですから」
「ラティ様、もっといい人探しましょうね!」
何だかロールに熱が入ってしまっています。
短期間でここまで私を慕ってくれたのです。
期待には答えないと。
「ところでロール」
「? はい」
「私は明日から隣の国、フォルテ王国に行こうと思っています。そこで住まいを見つけて、新しい恋を見つけようと思うんです」
「いいと思います!」
「……でもねロール。あなたの記憶、取り戻したいと思わないかしら?」
「え?」
そんなこと考えたこともなかったのでしょう。
ロールはポカンとすると、ふと考え込みます。
「私……は、」
「あなたのことを大事にしていたご家族が、いるかもしれないですよ」
「もちろん取り戻したいです。ですけど、どうやって」
「………」
そこで私はとある提案をしました。
「獣人の国、アストロへ行きましょう」
「ええ!? あ、アストロって……凄く遠いじゃないですか!」
ロールのいう通り、アストロは遠い国です。
まともに行けば一年くらいはかかってしまうでしょう。
そう、まともに行けばの話です。
「あるお方を頼ろうと思います」
「あるお方?」
「はい。アルジェルド様の友である、魔術師のエリクル様です」
◆ ◆ ◆
翌日。
エリクル様のお宅を訪ねる前に、ロールの服を買うことにしました。
奴隷用の服はあまりに簡素で、もう布切れのようなものでしたから。
動きやすいパンツスタイルに身を包むと、ロールは「よし」と気合を入れています。
「これでラティ様をどんな奴からもお守りできます!」
「頼りにしてます」
「はい!」
ロールは勢いよく首を縦に振りました。
そんなに振っては首を痛めますよ。
「……何だかいい匂いがしますね」
そういえば、お昼がまだでした。
ロールのお腹も「ぐぅ」と鳴って、空腹を訴えてきます。
「す、すみません……」
「何か買いましょうか」
実は昨日の薬は思った以上の値段が出ました。
こんな高品質な薬を作ったのかと驚かれましたが、あくまでこれは私の力ではございません。
私はただレシピ通りに作っただけなのですから。
とにかく残りの一本を残して全部薬を売り払い、私は旅の資金を調達しました。
レシピはもう頭に入っていますので、薬草さえ手に入ればいつでも作れます。
「あ……」
ふと、大きな肉の串焼きが目に入りました。
とても美味しそうです。
あれは一体何なのでしょうか。
すると、ロールは私に肉の串焼きの説明をしてくれました。
「あれはビットの肉を焼いてるんですよ! ビットはお肉が柔らかくて美味しいですよ!」
「ビット?」
「はい! 獣人の間ではよく食べられてます!」
「あなた、記憶が……」
私に記憶のことを言われたロールは、やりづらそうに頬をかいてみせます。
「その、少しは覚えてるんです。誰かと一緒に、このお肉をよく食べてました」
「そう……早く思い出せるといいわね」
「はいっ」
では、ロールのお墨付きであるビットの肉をいただきましょう。
お肉を買おうとして屋台の店員さんに声をかけようとした、その時でした。
「おい。その肉は俺たちが買うんだよ」
後ろから声がして振り返れば、何人かの男達が私達を睨んでいます。
店員さんは困ったように、「この二本で最後です……」と言います。
「ちょっと! 私達が先でしたよ!?」
「女が生意気なんだよ。引っ込んでな」
ああ、出ました。
男のほうが偉いと思い込んでいる、私の一番嫌いな人種が。
カチンときたので、つい言ってしまいました。
「あなた達は、順番を守ることもできませんの? それくらい子供にもできますわ」
「……あ?」
「そうでした。あなた達は体ばかりが大きい子供なのですね。気づかなくてすみません。私が教えてあげます。順番は、守るものです」
「やろぉっ!!」
簡単に挑発に乗りましたね。
振りかぶられた拳を避けようとした、その時。
ばしぃんっ!!
「ラティ様に手を出すことは、許しません」
ロールが思い切り男の手を叩きました。
いい音です。
「い、いでぇえええっ」
「バカにする女に負けて、恥ずかしくないんですか? 出直してきてください」
「コケにしやがって……!」
倒れた男とは別の男が、ナイフを取り出しました。
周囲の人からは悲鳴が上がります。
「へっ、今更泣いたってもうおそ……!?」
すると、突然男達の体がふわりと浮き上がりました。
竜巻です。
竜巻が起こって男達をどこかへと連れ去っていきます。
「うわぁあああああっ!?」
「んー、美しくない。美しくないね」
その声に、その言葉。
久しぶりに聞きますが、変わってませんね。
「お久しぶりです、エリクル様」
「やあ、久しぶりだね。ラティアンカ嬢」
そこにはエリクル様が淡い笑みを浮かべて立っていました。
といってもロールが話せることは辛いことばかりでしたので、ほとんど私の一人語りだったのですが。
私が世界一の魔術師であるアルジェルド様の妻だったこと、旦那様に愛想を尽かして出て行ったことを説明すると、ロールはまるで自分のことのように怒ってくれました。
「酷いです! こんなに優しいラティ様に、なんてこと……!」
「もういいんです。昔のことですから」
「ラティ様、もっといい人探しましょうね!」
何だかロールに熱が入ってしまっています。
短期間でここまで私を慕ってくれたのです。
期待には答えないと。
「ところでロール」
「? はい」
「私は明日から隣の国、フォルテ王国に行こうと思っています。そこで住まいを見つけて、新しい恋を見つけようと思うんです」
「いいと思います!」
「……でもねロール。あなたの記憶、取り戻したいと思わないかしら?」
「え?」
そんなこと考えたこともなかったのでしょう。
ロールはポカンとすると、ふと考え込みます。
「私……は、」
「あなたのことを大事にしていたご家族が、いるかもしれないですよ」
「もちろん取り戻したいです。ですけど、どうやって」
「………」
そこで私はとある提案をしました。
「獣人の国、アストロへ行きましょう」
「ええ!? あ、アストロって……凄く遠いじゃないですか!」
ロールのいう通り、アストロは遠い国です。
まともに行けば一年くらいはかかってしまうでしょう。
そう、まともに行けばの話です。
「あるお方を頼ろうと思います」
「あるお方?」
「はい。アルジェルド様の友である、魔術師のエリクル様です」
◆ ◆ ◆
翌日。
エリクル様のお宅を訪ねる前に、ロールの服を買うことにしました。
奴隷用の服はあまりに簡素で、もう布切れのようなものでしたから。
動きやすいパンツスタイルに身を包むと、ロールは「よし」と気合を入れています。
「これでラティ様をどんな奴からもお守りできます!」
「頼りにしてます」
「はい!」
ロールは勢いよく首を縦に振りました。
そんなに振っては首を痛めますよ。
「……何だかいい匂いがしますね」
そういえば、お昼がまだでした。
ロールのお腹も「ぐぅ」と鳴って、空腹を訴えてきます。
「す、すみません……」
「何か買いましょうか」
実は昨日の薬は思った以上の値段が出ました。
こんな高品質な薬を作ったのかと驚かれましたが、あくまでこれは私の力ではございません。
私はただレシピ通りに作っただけなのですから。
とにかく残りの一本を残して全部薬を売り払い、私は旅の資金を調達しました。
レシピはもう頭に入っていますので、薬草さえ手に入ればいつでも作れます。
「あ……」
ふと、大きな肉の串焼きが目に入りました。
とても美味しそうです。
あれは一体何なのでしょうか。
すると、ロールは私に肉の串焼きの説明をしてくれました。
「あれはビットの肉を焼いてるんですよ! ビットはお肉が柔らかくて美味しいですよ!」
「ビット?」
「はい! 獣人の間ではよく食べられてます!」
「あなた、記憶が……」
私に記憶のことを言われたロールは、やりづらそうに頬をかいてみせます。
「その、少しは覚えてるんです。誰かと一緒に、このお肉をよく食べてました」
「そう……早く思い出せるといいわね」
「はいっ」
では、ロールのお墨付きであるビットの肉をいただきましょう。
お肉を買おうとして屋台の店員さんに声をかけようとした、その時でした。
「おい。その肉は俺たちが買うんだよ」
後ろから声がして振り返れば、何人かの男達が私達を睨んでいます。
店員さんは困ったように、「この二本で最後です……」と言います。
「ちょっと! 私達が先でしたよ!?」
「女が生意気なんだよ。引っ込んでな」
ああ、出ました。
男のほうが偉いと思い込んでいる、私の一番嫌いな人種が。
カチンときたので、つい言ってしまいました。
「あなた達は、順番を守ることもできませんの? それくらい子供にもできますわ」
「……あ?」
「そうでした。あなた達は体ばかりが大きい子供なのですね。気づかなくてすみません。私が教えてあげます。順番は、守るものです」
「やろぉっ!!」
簡単に挑発に乗りましたね。
振りかぶられた拳を避けようとした、その時。
ばしぃんっ!!
「ラティ様に手を出すことは、許しません」
ロールが思い切り男の手を叩きました。
いい音です。
「い、いでぇえええっ」
「バカにする女に負けて、恥ずかしくないんですか? 出直してきてください」
「コケにしやがって……!」
倒れた男とは別の男が、ナイフを取り出しました。
周囲の人からは悲鳴が上がります。
「へっ、今更泣いたってもうおそ……!?」
すると、突然男達の体がふわりと浮き上がりました。
竜巻です。
竜巻が起こって男達をどこかへと連れ去っていきます。
「うわぁあああああっ!?」
「んー、美しくない。美しくないね」
その声に、その言葉。
久しぶりに聞きますが、変わってませんね。
「お久しぶりです、エリクル様」
「やあ、久しぶりだね。ラティアンカ嬢」
そこにはエリクル様が淡い笑みを浮かべて立っていました。
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