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ヴィジーside
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小国アルデバラン、第一王女ルージュの護衛、ヴィジー。
彼女はごく一般的な平民出身でありながら、身体能力が非常に高かった。
実家は細々と針子をやっており、貧乏な暮らしから抜け出すべく、ヴィジーは護衛試験を突破した。
ルージュの護衛になってから給金は十分もらえているし、何より主人たるルージュに陶酔している。
それは妹王女のレオーネにも向けられており、つまり何が言いたいのかというと。
「お嬢様を傷つけられて、黙っているわけにはいかないのですよ」
唐突に目の前に現れたヴィジーを見て、ミティスはどこか納得したように頷いた。
「君なら見ていると思ったよ」
「? 私と面識がありましたっけ」
「いや、そうだな。私が一方的に知っているだけだ」
「何で知ってるんですか? 怖いじゃないですか」
ヴィジーには鈍感に加えて、天然の気もあった。
こう言ってはなんだが、頭が回るほうではない。
故に他国の王族相手にずけずけと物申してしまうのだが、特にミティスは気にしていない様子。
「どうしてくれるのですか。婚約破棄されたお嬢様は、傷物として扱われます。縁談を見つけることが不可能になれば、傷つくのはお嬢様のほうなんですよ」
「それは重々承知している。必ず彼女に良縁を用意すると、約束しよう」
他に好いた女がいるのだと言った割に、レオーネに対する態度は丁寧そのもの。
今もこうやって、押しかけてきたヴィジーを叩き出すこともない。
しかしヴィジーは何度も言うが鈍感のため、それに気がつくことがなかった。
「それならいいんです。しかし、残念ですね」
「私も、レオーネのことは素敵な女性だと思っている。しかし、都合が合わなくなってしまってね」
「勘違いしてませんか? 婚約破棄を残念だと言っているんじゃありません。あなたを殺せないことが残念だと言っているんです」
獣の如き眼光で睨まれるも、ミティスは落ち着きを払ったまま。
変わらない態度が、まるでお前など脅威にもならないと言われているようで、ヴィジーは苛立ちを覚えた。
「もしかして、あなたにも護衛がつけられているのですか? なら安心ですね。私などどうにでもなります」
「いや、私に護衛はついていないよ。父が厳しく育てる方針でね」
「じゃあ、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? 私に殺されるまではいかないにせよ、殴られる可能性はありますよ。まあその瞬間に私は不敬罪で死にますけど」
「そんなことさせないさ。殴られても、甘んじて受け入れよう。悪いのは私だ」
ヴィジーはどうにも、ミティスのことが気に入らなかった。
しかも何やら昔からだ。
レオーネのことを溺愛し、頻繁に文通を送ってきたくせに。
何なら伝書鳥の受け取りをしてきたのはヴィジーだ。
それが、留学前に一度会った時から、様子がおかしかった。
あの時にはもう、他に好いた女とできていたに違いない。
「私、あなたが嫌いです」
「主人と婚約破棄をしようとしてくる男など、無理に好きにならなくても構わないよ」
「いえ。その前からもっと気に食わないのです。今その理由がわかりました」
簡単に言ってしまえば、ヴィジーはミティスに嫉妬していた。
レオーネの愛を奪っておきながら、捨て置いた男。
婚約破棄を告げられ、ああも衰弱してしまうほど、レオーネに愛された男。
レオーネのことを密かに妹のように思っていたヴィジーからすれば、愛されるミティスは邪魔だった。
「婚約破棄、私も協力しますよ」
「……いいのかい? 故郷のご主人様に伝えなくても」
「後でお叱りは受けます」
これでいいのだ。
ルージュはレオーネを愛しているのだし、婚約破棄にでもなれば、大事に囲ってくれるだろう。
ヴィジーはそれを見守るだけ。
文句を言えたことに満足したヴィジーは、その場から姿を消すことにした。
彼女はごく一般的な平民出身でありながら、身体能力が非常に高かった。
実家は細々と針子をやっており、貧乏な暮らしから抜け出すべく、ヴィジーは護衛試験を突破した。
ルージュの護衛になってから給金は十分もらえているし、何より主人たるルージュに陶酔している。
それは妹王女のレオーネにも向けられており、つまり何が言いたいのかというと。
「お嬢様を傷つけられて、黙っているわけにはいかないのですよ」
唐突に目の前に現れたヴィジーを見て、ミティスはどこか納得したように頷いた。
「君なら見ていると思ったよ」
「? 私と面識がありましたっけ」
「いや、そうだな。私が一方的に知っているだけだ」
「何で知ってるんですか? 怖いじゃないですか」
ヴィジーには鈍感に加えて、天然の気もあった。
こう言ってはなんだが、頭が回るほうではない。
故に他国の王族相手にずけずけと物申してしまうのだが、特にミティスは気にしていない様子。
「どうしてくれるのですか。婚約破棄されたお嬢様は、傷物として扱われます。縁談を見つけることが不可能になれば、傷つくのはお嬢様のほうなんですよ」
「それは重々承知している。必ず彼女に良縁を用意すると、約束しよう」
他に好いた女がいるのだと言った割に、レオーネに対する態度は丁寧そのもの。
今もこうやって、押しかけてきたヴィジーを叩き出すこともない。
しかしヴィジーは何度も言うが鈍感のため、それに気がつくことがなかった。
「それならいいんです。しかし、残念ですね」
「私も、レオーネのことは素敵な女性だと思っている。しかし、都合が合わなくなってしまってね」
「勘違いしてませんか? 婚約破棄を残念だと言っているんじゃありません。あなたを殺せないことが残念だと言っているんです」
獣の如き眼光で睨まれるも、ミティスは落ち着きを払ったまま。
変わらない態度が、まるでお前など脅威にもならないと言われているようで、ヴィジーは苛立ちを覚えた。
「もしかして、あなたにも護衛がつけられているのですか? なら安心ですね。私などどうにでもなります」
「いや、私に護衛はついていないよ。父が厳しく育てる方針でね」
「じゃあ、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? 私に殺されるまではいかないにせよ、殴られる可能性はありますよ。まあその瞬間に私は不敬罪で死にますけど」
「そんなことさせないさ。殴られても、甘んじて受け入れよう。悪いのは私だ」
ヴィジーはどうにも、ミティスのことが気に入らなかった。
しかも何やら昔からだ。
レオーネのことを溺愛し、頻繁に文通を送ってきたくせに。
何なら伝書鳥の受け取りをしてきたのはヴィジーだ。
それが、留学前に一度会った時から、様子がおかしかった。
あの時にはもう、他に好いた女とできていたに違いない。
「私、あなたが嫌いです」
「主人と婚約破棄をしようとしてくる男など、無理に好きにならなくても構わないよ」
「いえ。その前からもっと気に食わないのです。今その理由がわかりました」
簡単に言ってしまえば、ヴィジーはミティスに嫉妬していた。
レオーネの愛を奪っておきながら、捨て置いた男。
婚約破棄を告げられ、ああも衰弱してしまうほど、レオーネに愛された男。
レオーネのことを密かに妹のように思っていたヴィジーからすれば、愛されるミティスは邪魔だった。
「婚約破棄、私も協力しますよ」
「……いいのかい? 故郷のご主人様に伝えなくても」
「後でお叱りは受けます」
これでいいのだ。
ルージュはレオーネを愛しているのだし、婚約破棄にでもなれば、大事に囲ってくれるだろう。
ヴィジーはそれを見守るだけ。
文句を言えたことに満足したヴィジーは、その場から姿を消すことにした。
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