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第ニ話 獣人って凄いらしい
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美沙子がアリーシアになってから一週間。
本当に様々な事実が判明した。
まず、アリーシアの髪は母から受け継いだプラチナブロンドで、瞳は青色。
生まれておよそ三ヶ月ほどの赤ちゃん。
そしてここは、日本でないどころか地球ですらない。
それがわかったのは、アリーシア達が人間ではなく、獣人と呼ばれる種族だったからだ。
モフモフの耳に尻尾を持ち、強靭な肉体を持つ獣人の特徴は、しっかりとアリーシアに受け継がれていた。
「あら~、もうハイハイしてるの。早いわね」
「アリーシア! こっちこっち!」
兄であるリューシェが呼ぶ声に従い、アリーシアはハイハイする。
そう、ハイハイである。
生後三ヶ月で、人間なら視覚や聴覚すら朧げな年であるが、そこは獣人というのかはっきりしている。
それどころかハイハイできてしまっている。
獣人って凄い。
アリーシアがリューシェの近くまで行くと、彼はアリーシアを抱きしめてくれる。
リューシェは五歳の少年で、アリーシアの兄だ。
彼は狼の獣人で、尻尾がとても触り心地がいい。
笑う度に鋭い八重歯が見え隠れして、アリーシアは「硬いもの食べやすそう」と考えた。
「そろそろご飯の時間かしら」
そう言ったのは、リューシェとのやり取りを見守っていた、母であるメリルだった。
メリルはウサギの獣人で、長く立った美しい耳を持っていた。
メリルのお乳を飲みながら、アリーシアは自分について考える。
(私ってなんの獣人なんだろう……)
鏡に映る自分は、母と同じウサギでも、兄と同じ狼でもないようだった。
鹿のようなツノには花がついていて、その下に耳が垂れ下がっている。
それだけならいいのだが、どうやら背中に小さな翼すら生えているようで、これがアリーシアの種族を不明にしていた。
メリルのお乳を飲み終え、背中を叩かれてげっぷをする。
メリルはアリーシアを抱きながら、不思議そうに言った。
「本当に手がかからない子だわ。夜泣きなんて滅多にしないし」
「アリーシアはいい子なんだよ!」
「それもそうね」
アリーシアが夜泣きをしないのは、中身が高校生の女子だからである。
もう前世では成人したいたため、今更夜泣きも何もない。
ただ生理的な現象はどうにもできないため、その時だけ一泣きさせてもらっている。
バタン!
大きな音がしたと思えば、どうやらドアが開いた音だったらしい。
そこには一人の男性と、少女が立っている。
「あなた。ドアを開ける時は静かにしてと何度も言ってるでしょう」
「す、すまない。アリーシアに早く会いたくて」
「もう、お父様。しっかりしなきゃ」
メリルと少女に嗜められる男性は、アリーシアの父である狼の獣人のマルスだ。
黒の髪と青の瞳、端正な顔立ちからは全く想像できないような甘さで、アリーシアに笑いかけてくる。
「アリーシア~~~。お父様だぞ~~」
「お父様、私もアリーシアを撫でさせて!」
顔を覗かせた少女は、姉であるニケ。
こちらは青みがかった銀髪に緑の瞳を持つ、メリルと同じウサギの獣人だ。
マルスの腕の中からニケに移され、ニケは蕩けそうな心地で笑った。
「アリーシア~、お姉様ですよ!」
「んまう」
「可愛いぃい」
ニケは立派なシスコンである。
そもそも家族全員がアリーシアを溺愛しているのだが、ニケが父であるマルスに次いで露骨だ。
キャッキャとアリーシアが笑うが、ふと気づいた。
(私は一体なにを! まるで赤ちゃんみたいに……いや、私、赤ちゃんだったか)
そんなアリーシアをよそに、メリルがマルスに尋ねる。
「今日の戦況はどうでした?」
「問題ない。魔物は全て倒したよ」
「お母様! 私も戦ったのよ!」
「凄いわね、ニケ」
「お父様、お姉様! 僕も連れて行ってよ!」
「リューシェは駄目。まだちっちゃいもの」
「小さくなんかない!」
「こらこら、その辺に。アリーシアが見てるよ」
会話の内容からして、魔物というものと戦ってきたことがわかる。
姉であるニケは8歳の少女であるのだが、このくらいになれば戦場に立つのは普通のことらしい。
獣人は強靭な肉体を持つ。
その肉体を最大限に活かし、存分に戦う。
これこそが獣人としての強さだ。
「アリーシア、お父様頑張っちゃうからな!」
「アリーシアが早く喋れるようにならないかな」
「あなた、ほどほどにね」
「僕も連れて行ってってばあ!」
ここは獣人の国。
父であるマルスの異名は獣王。
アリーシアは、獣人の国の第ニ王女として生まれた娘だった。
本当に様々な事実が判明した。
まず、アリーシアの髪は母から受け継いだプラチナブロンドで、瞳は青色。
生まれておよそ三ヶ月ほどの赤ちゃん。
そしてここは、日本でないどころか地球ですらない。
それがわかったのは、アリーシア達が人間ではなく、獣人と呼ばれる種族だったからだ。
モフモフの耳に尻尾を持ち、強靭な肉体を持つ獣人の特徴は、しっかりとアリーシアに受け継がれていた。
「あら~、もうハイハイしてるの。早いわね」
「アリーシア! こっちこっち!」
兄であるリューシェが呼ぶ声に従い、アリーシアはハイハイする。
そう、ハイハイである。
生後三ヶ月で、人間なら視覚や聴覚すら朧げな年であるが、そこは獣人というのかはっきりしている。
それどころかハイハイできてしまっている。
獣人って凄い。
アリーシアがリューシェの近くまで行くと、彼はアリーシアを抱きしめてくれる。
リューシェは五歳の少年で、アリーシアの兄だ。
彼は狼の獣人で、尻尾がとても触り心地がいい。
笑う度に鋭い八重歯が見え隠れして、アリーシアは「硬いもの食べやすそう」と考えた。
「そろそろご飯の時間かしら」
そう言ったのは、リューシェとのやり取りを見守っていた、母であるメリルだった。
メリルはウサギの獣人で、長く立った美しい耳を持っていた。
メリルのお乳を飲みながら、アリーシアは自分について考える。
(私ってなんの獣人なんだろう……)
鏡に映る自分は、母と同じウサギでも、兄と同じ狼でもないようだった。
鹿のようなツノには花がついていて、その下に耳が垂れ下がっている。
それだけならいいのだが、どうやら背中に小さな翼すら生えているようで、これがアリーシアの種族を不明にしていた。
メリルのお乳を飲み終え、背中を叩かれてげっぷをする。
メリルはアリーシアを抱きながら、不思議そうに言った。
「本当に手がかからない子だわ。夜泣きなんて滅多にしないし」
「アリーシアはいい子なんだよ!」
「それもそうね」
アリーシアが夜泣きをしないのは、中身が高校生の女子だからである。
もう前世では成人したいたため、今更夜泣きも何もない。
ただ生理的な現象はどうにもできないため、その時だけ一泣きさせてもらっている。
バタン!
大きな音がしたと思えば、どうやらドアが開いた音だったらしい。
そこには一人の男性と、少女が立っている。
「あなた。ドアを開ける時は静かにしてと何度も言ってるでしょう」
「す、すまない。アリーシアに早く会いたくて」
「もう、お父様。しっかりしなきゃ」
メリルと少女に嗜められる男性は、アリーシアの父である狼の獣人のマルスだ。
黒の髪と青の瞳、端正な顔立ちからは全く想像できないような甘さで、アリーシアに笑いかけてくる。
「アリーシア~~~。お父様だぞ~~」
「お父様、私もアリーシアを撫でさせて!」
顔を覗かせた少女は、姉であるニケ。
こちらは青みがかった銀髪に緑の瞳を持つ、メリルと同じウサギの獣人だ。
マルスの腕の中からニケに移され、ニケは蕩けそうな心地で笑った。
「アリーシア~、お姉様ですよ!」
「んまう」
「可愛いぃい」
ニケは立派なシスコンである。
そもそも家族全員がアリーシアを溺愛しているのだが、ニケが父であるマルスに次いで露骨だ。
キャッキャとアリーシアが笑うが、ふと気づいた。
(私は一体なにを! まるで赤ちゃんみたいに……いや、私、赤ちゃんだったか)
そんなアリーシアをよそに、メリルがマルスに尋ねる。
「今日の戦況はどうでした?」
「問題ない。魔物は全て倒したよ」
「お母様! 私も戦ったのよ!」
「凄いわね、ニケ」
「お父様、お姉様! 僕も連れて行ってよ!」
「リューシェは駄目。まだちっちゃいもの」
「小さくなんかない!」
「こらこら、その辺に。アリーシアが見てるよ」
会話の内容からして、魔物というものと戦ってきたことがわかる。
姉であるニケは8歳の少女であるのだが、このくらいになれば戦場に立つのは普通のことらしい。
獣人は強靭な肉体を持つ。
その肉体を最大限に活かし、存分に戦う。
これこそが獣人としての強さだ。
「アリーシア、お父様頑張っちゃうからな!」
「アリーシアが早く喋れるようにならないかな」
「あなた、ほどほどにね」
「僕も連れて行ってってばあ!」
ここは獣人の国。
父であるマルスの異名は獣王。
アリーシアは、獣人の国の第ニ王女として生まれた娘だった。
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