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第53話 処刑執行
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「月島に続いて・・・てめえ等は人を逆撫でするのが得意らしいな !」
田島が銀月に近寄っていく。
「あ~、何か怒らせる事を言ってしまったのなら謝ろう。しかし今は勘弁して貰えないか?体がガタガタなんだ」
とりあえず、今は体がまともに動かない以上、戦闘はなるべく避けたかったが、どうやらそうもいってられないらしい。
「死ねええええええええええ!!」
田島の大振りの拳が銀月の腹に向かって飛んでくる。
ドゴオオオオオオオオオオン!!!
銀月が後方へとぶっ飛んでいく。
「が、ぐふっ!げはっ!な、何だと!これは一体?」
銀月は油断していた。ただの力任せの素人パンチなら大して効きはしないとそれが予想に反した威力のパンチに驚く。
何だこの力!完全に人の力を逸脱している!『仙気』を使っているのか?
「おいおい、一発くらっただけで倒れ込んでんじゃねえぞ!」
田島は銀月の銀髪の長髪を掴み上げて体を起こすと、今度は顔にパンチを繰り出す。
バキッ!バキッ!ドガッ!ドガッ!バキャ!
「がはっ!ぐふっ!があっ!ぐはっ!」
先ほどのパンチよりかは加減されているが、それでも中々の威力の拳が銀月を襲う。
これは・・・幻界の幽鬼が使っていた『霊気』か!
銀月がフラフラになりながらも、ようやく感じる事が出来るようになっていた。
田島獅子王丸という男が全身を『霊気』を纏って肉体を強化しているのを把握は出来たが肝心の自分は。
『仙気』で対抗は・・・駄目か、感じるだけでコントロール出来ない!
銀月はようやく自分の内の力を感じとる事が出来た。
どうやら俺は完全に人間になってしまったらしい。
銀月の中に『仙気』が流れているが、『邪気』が、『悪魔の力』は残っていなかった。
銀月は田島にボコボコにされていく。
しかし銀月は痛みに耐えるのに必死・・・なのではなく、『心のざわめき』を押さえるのに必死になっていた。
俺は何を考えてる!今はそれどころじゃないだろ!なのに、なのに!
「オラオラ、死ね死ね死ね死ね死ね!」
拳が蹴りが自分の体に突き刺さる。なのに、今は、別の事で頭の中がいっぱいになっている。
殺されそうな状況なのに、回避に集中しなきゃいけないのに、俺は、俺は・・・!
『人間になれた事を喜んでいる自分』を必死に否定しようとしている。
そんな訳ないだろ!
人間なんて脆弱な生き物になって嬉しい訳ないだろ。100年程度しか寿命がない生き物に。ちょっとの傷で死んでしまうような生き物に。悪魔に劣る生き物になんて。
まだ月島竜一との決着もつけていないのに、俺はまだまだ強くなれた筈なのに!
俺は弱くなった事を喜んでいるのか?否!断じて違う!そんな訳がない!
現に今!目の前の男に殺されそうになっている。『幽鬼』との関連性はわからないがとにかく、奴等の手の者に殺されかけてる。こんな身体じゃ、人間の身体じゃ勝てない。『半魔だった自分』ならこの程度の威力と速さの攻撃なんて当たりもしないしダメージも負う事も無かっただろう。
やはり人間は弱い生き物だ。人間なった事を喜んでいるはずがない。
「ちっ!悲鳴も出さない、命乞いもしてこない、あ~あ~・・・もう飽きたな。殺しちまうかああああああああ!」
メキ、バキ、バキバキバキバキャ!!!
人間だった田島の体は変貌していく。
「な、何だと、お前、人間じゃないのか?」
銀月の目の前に立っている生き物。3mほどの体躯の獅子の怪物
が立っていた。
「ぎゃはははははは!さすがに驚いたようだな!俺がこの世界に来た時に手に入れた最強の能力を前にようやく恐怖を実感出来たようだな!」
田島は銀月の両腕を右手で掴み、銀月の両足を左手に掴み、簡単に持ち上げる。
「ぎゃはははははは!軽い軽い!さて、俺が今から何をするか、想像出来たか?出来たよなあああああああ!」
田島は両腕に力を入れて、両側に引っ張った。
「がああああああああああ!!!」
銀月はたまらず悲鳴を上げる。両腕と左足を引き千切られてしまった。
「ああ、くそ!滑って右足が残っちまった。ははは、バランスがやっぱり悪いよなあ~、揃えてやらないとなあ~」
バキャバキャバキャバキャバキャ!
「ぐああああああああああ!!!」
田島は銀月の残った右足を獅子の巨体のまま姿で踏みつけた。
「ああ、悪い悪い、小さいから見えなかったわ~」
踏みつけている足に力を入れながらグリグリと踏みにじり、そして踏みつけていき銀月の右足は踏み千切られた。
「があ、ああ、くっ、ああ、」
さすがの銀月も痛みに耐えかねて苦痛の表情を見せる。
「ぎゃはははははは!そうそう!そういう顔が見たかったんだよ!いいね、いいね!前からてめえは気に入らなかったんだよ!俺が入院している間に転校して来て、人がいない間に学校で幅きかせやがって!学校にいる奴等は俺の事を無視しやがるし!殴って従わせようとしても『もうお前なんて怖くないんだよ!月島や銀月より格下のてめえなんか!』なんてほざきやがる!ふざけんな!俺は強いんだ!月島よりも!銀月よりも!てめえを殺したら次は月島だ!月島は簡単には殺さない!死にそうなくらいギリギリで生かしてあらゆる痛みを味合わせてから殺してやる!」
くそ!このままでは、確実に殺される。
両腕と両足を失って血も大量に流れてしまっている。
このままだと5分もかからずあの世行きだ!
俺はなにかないかと辺りを見渡し、そして観客席の方に視線を向けた。
そして『見つけた』。
この状況を打開する『術』じゃない。
だがその『人物』を見つけた時、殺されそうな状況の筈なのに、銀月の心の中は・・・・安堵に包まれた。
どうやら観客席に被害が及ばないように『結界』のようなもので覆われているようで今も光の膜のような物が見える。
その人物は大粒の涙を流しながら、拳が血塗れにしながら結界を光の膜を叩いて、何かを叫んでいるようだった。
もしかして俺の為に泣いてくれているのか?
そう思った時、自分の心が満たされていくのを感じる。
手を伸ばそうとする。無くなっていても腕を伸ばさずにはいられなかった。
「はははははは、なんだ?助けを乞うつもりか?観客に?ぎゃはははははは!あの中に俺に勝てる奴がいる訳ないだろ!」
田島が銀月の胴体を踏みつけて移動出来ないようにして、徐々に力を込めていく。
銀月は体を動かしジタバタと抗おうとする。
「ぎゃはははははは!まるで虫みたいじゃねえか!お似合いの姿だぜ!」
田島はサッカーボールのように銀月を蹴って遊び始めた。
「はははははは、たまんねええええ!たのっしいいいいいい!これたまんねええええ!銀月ボール!マジたまんねええええ!」
闘技場の中心まで蹴り飛ばされる。
グシャッ!
銀月は上空に蹴り上げられ地面に叩きつけられた。
銀月は仰向けの状態で倒れ込み、無くなった手足をジタバタと動かす。
「マジサイコオオオオ!マジ虫じゃねえ?ひっくり返した虫みたいだぜ!無様!超無様!たまんねええええ!お似合いだぜ!銀月!その姿!」
くそっ、体が、力が、抜けていく。男が何かを言っているが聞こえてこない。
薄れゆく意識の中、頭に聞いた事のある声が響いた。
『まあ、この辺が限界だな』
バリバリバリバリ!バキャアアアアン!
闘技場と観客席の光の膜『結界』が破壊され、その結界を破壊した物が銀月の胸を貫き、地面に縫い付けられた。
「何だ?どっから飛んで来やがった?この『刀』?」
田島獅子王丸も予想外だったのかトドメをさそうとしていた動きを止めた。
「大虎ああああああああああああ!!!」
そして闘技場に少女の声が響き渡る。
「ん?あれは白河か?アイツは月島達についていったはず?いや、どこに行ったか知ってるかも。ははは、それじゃあ、ジックリネットリ尋問する必要があるよなあ!犯しまくって奴の居場所を吐かせるか」
田島は変身を解いて人型に戻ると銀月に背を向けて、アプリコット=C=白河に近づいていく。
ドクン・・・ドクン・・・・!
「・・・・何だ?心臓の鼓動?」
ドクン・・・・ドクン・・・・・・
「銀月・・・てめえからか?」
田島は暫く銀月の様子を見ていたが、心臓の鼓動のような音は聞こえなくなり銀月も動かなくなった。
「結局何だったんだ?まあいいか」
「死んじゃだめえええええ!立ってえええええええ!大虎がああああああああああ!」
アプリコットの体から突然光の粒子が噴き出した。
「あん?何だ?あの光?もしかして白河の奴、能力に目覚めたのか?ぎゃはははははは!そりゃいいや!能力次第では殺さずに一生飼い殺しにしてやるか!ぎゃはははははは!」
「そんな事は俺が絶対にさせない」
「あん?銀月?くたばりぞこないが・・・・はあ?」
田島が銀月の方を向くと、胸に刀が突き刺さったままの銀月は『立っていた』。腕と足がある。しかも体のその他の傷も塞がっていく。
「白河の奴、『回復系の能力』か?便利そうな能力に目覚めやがったな」
バチッ!バチバチバチッ!
胸に突き刺さった刀が銀月の中に吸い込まれていった。
「ぎゃはははははは!銀月!まさか傷を負ってなくて!拘束されてなけりゃ俺に勝てるなんて思ってないよなああああ!」
田島は再び獅子に変身して銀月に襲いかかるが、攻撃が当たる瞬間に銀月の姿が消えた。
「なっ!消えただと!まさか逃げやがったか!」
田島は周囲を見渡すと銀月は白河の元にいた。
「大虎・・・・」
「リコ・・・・」
銀月が白河に手を伸ばし、白河の頬に触れた。
「ようやく手が届いた・・・」
アプリコットは自分の両手を大虎の手に重ねる。
「・・・・うん」
「リコが消えてしまった時、俺は・・・・月島との勝負をつけられなくなるという気持ちよりもリコに会えなくなった事の方が大きかった・・・俺は・・・・その・・・なんて言えばいいのか」
二人の形成するラブ空間に周りの観客はホッコリしながら初々しい二人を見守っていると銀月と白河が二人の世界に、割って入ってくる男がいた。
「おいおい、無視してんじゃねえぞクソ虫野郎!さっきみたいに手足を引き千切って、標本みたいに剣で地面に縫い付けててめえの前で白河をぐしゃぐしゃに犯しまくってやるよ!・・・って聞けやこらあああああああ!」
「すぐに終わらせてくる・・・・」
銀月は名残惜しそうに白河の頬から手を離す。
「大虎・・・ちょっと待って」
田島と決着を着ける為に闘技場に降りようとする銀月を呼び止める白河。
「大虎って、もしかして『悪魔』なの?」
その言葉に動揺してしまう。
「月島さんと同じ?」
「・・・・え?今なんて言った?」
「月島さんと同じ、『悪魔』なのかなって?」
・・・・なにぃぃぃぃぃ!!!月島ああああああああああああ!お前なにバラしてんだ!
「あの人、別に隠したりしてないよ?悪魔の腕?とか天使の腕?とか尻尾とか出したままだし」
おいいいい!月島なにやってんの!しかも天使って何?お前に何があった!
「月島さんに『邪気』に馴れたからなのか大虎に触れた時、ああ、大虎も悪魔なんだなってわかっちゃた」
「・・・・嫌いになったか」
「え?なんで?」
「えっ?いや、だってリコは・・・その『人間』で、俺は『悪魔』で、だから・・・」
「もしかして人間と悪魔って結婚しちゃ駄目なの?・・・あっ!違うよ!結婚を視野に入れている訳じゃないよ!あっ!別に結婚がヤダッて意味じゃないから!付き合ってもいないのに何言ってるの私!」
『『『『『『えっ?そんなラブラブ空間を作っておきながら付き合ってないの!!!』』』』』』
周りの観客の心中が一致した。
「えっ?そういう意味じゃないんだけど、」
周りの観客達が無粋と思いながらも煮え切らない態度の銀月にイライラしたのか白河にバレないよう銀月にジェスチャーを送る。
『今すぐ告れ!!!!』
『抱き締めろ!!!!』
『男のくせに女の子に言わせるつもりなの!!!』
『キスしろ!!!!』
『愛を叫ぶのじゃ!!!!』
『『『『『『爆死しろ』』』』』』
観客達のメッセージを受け取った銀月は。
「すぐに終わらせてくる!」
闘技場に飛び降りようとする。
『『『『『コイツ!ひよりやがった!』』』』』
「させるかあああああ!」
観客の一人が銀月の腰に抱き付き逃走を阻止する。
そしてまた一人また一人と銀月を押さえ付ける。
「何をする!離せ!」
「ひよってんじゃねえぞ!チキン野郎!」
「彼女がお前の言葉を待ってんだろうが!」
「ここで逃げ出すとかマジありえないだろ!」
「早く言ってやれよ!チキン野郎!爆死しろ!」
田島が銀月に近寄っていく。
「あ~、何か怒らせる事を言ってしまったのなら謝ろう。しかし今は勘弁して貰えないか?体がガタガタなんだ」
とりあえず、今は体がまともに動かない以上、戦闘はなるべく避けたかったが、どうやらそうもいってられないらしい。
「死ねええええええええええ!!」
田島の大振りの拳が銀月の腹に向かって飛んでくる。
ドゴオオオオオオオオオオン!!!
銀月が後方へとぶっ飛んでいく。
「が、ぐふっ!げはっ!な、何だと!これは一体?」
銀月は油断していた。ただの力任せの素人パンチなら大して効きはしないとそれが予想に反した威力のパンチに驚く。
何だこの力!完全に人の力を逸脱している!『仙気』を使っているのか?
「おいおい、一発くらっただけで倒れ込んでんじゃねえぞ!」
田島は銀月の銀髪の長髪を掴み上げて体を起こすと、今度は顔にパンチを繰り出す。
バキッ!バキッ!ドガッ!ドガッ!バキャ!
「がはっ!ぐふっ!があっ!ぐはっ!」
先ほどのパンチよりかは加減されているが、それでも中々の威力の拳が銀月を襲う。
これは・・・幻界の幽鬼が使っていた『霊気』か!
銀月がフラフラになりながらも、ようやく感じる事が出来るようになっていた。
田島獅子王丸という男が全身を『霊気』を纏って肉体を強化しているのを把握は出来たが肝心の自分は。
『仙気』で対抗は・・・駄目か、感じるだけでコントロール出来ない!
銀月はようやく自分の内の力を感じとる事が出来た。
どうやら俺は完全に人間になってしまったらしい。
銀月の中に『仙気』が流れているが、『邪気』が、『悪魔の力』は残っていなかった。
銀月は田島にボコボコにされていく。
しかし銀月は痛みに耐えるのに必死・・・なのではなく、『心のざわめき』を押さえるのに必死になっていた。
俺は何を考えてる!今はそれどころじゃないだろ!なのに、なのに!
「オラオラ、死ね死ね死ね死ね死ね!」
拳が蹴りが自分の体に突き刺さる。なのに、今は、別の事で頭の中がいっぱいになっている。
殺されそうな状況なのに、回避に集中しなきゃいけないのに、俺は、俺は・・・!
『人間になれた事を喜んでいる自分』を必死に否定しようとしている。
そんな訳ないだろ!
人間なんて脆弱な生き物になって嬉しい訳ないだろ。100年程度しか寿命がない生き物に。ちょっとの傷で死んでしまうような生き物に。悪魔に劣る生き物になんて。
まだ月島竜一との決着もつけていないのに、俺はまだまだ強くなれた筈なのに!
俺は弱くなった事を喜んでいるのか?否!断じて違う!そんな訳がない!
現に今!目の前の男に殺されそうになっている。『幽鬼』との関連性はわからないがとにかく、奴等の手の者に殺されかけてる。こんな身体じゃ、人間の身体じゃ勝てない。『半魔だった自分』ならこの程度の威力と速さの攻撃なんて当たりもしないしダメージも負う事も無かっただろう。
やはり人間は弱い生き物だ。人間なった事を喜んでいるはずがない。
「ちっ!悲鳴も出さない、命乞いもしてこない、あ~あ~・・・もう飽きたな。殺しちまうかああああああああ!」
メキ、バキ、バキバキバキバキャ!!!
人間だった田島の体は変貌していく。
「な、何だと、お前、人間じゃないのか?」
銀月の目の前に立っている生き物。3mほどの体躯の獅子の怪物
が立っていた。
「ぎゃはははははは!さすがに驚いたようだな!俺がこの世界に来た時に手に入れた最強の能力を前にようやく恐怖を実感出来たようだな!」
田島は銀月の両腕を右手で掴み、銀月の両足を左手に掴み、簡単に持ち上げる。
「ぎゃはははははは!軽い軽い!さて、俺が今から何をするか、想像出来たか?出来たよなあああああああ!」
田島は両腕に力を入れて、両側に引っ張った。
「がああああああああああ!!!」
銀月はたまらず悲鳴を上げる。両腕と左足を引き千切られてしまった。
「ああ、くそ!滑って右足が残っちまった。ははは、バランスがやっぱり悪いよなあ~、揃えてやらないとなあ~」
バキャバキャバキャバキャバキャ!
「ぐああああああああああ!!!」
田島は銀月の残った右足を獅子の巨体のまま姿で踏みつけた。
「ああ、悪い悪い、小さいから見えなかったわ~」
踏みつけている足に力を入れながらグリグリと踏みにじり、そして踏みつけていき銀月の右足は踏み千切られた。
「があ、ああ、くっ、ああ、」
さすがの銀月も痛みに耐えかねて苦痛の表情を見せる。
「ぎゃはははははは!そうそう!そういう顔が見たかったんだよ!いいね、いいね!前からてめえは気に入らなかったんだよ!俺が入院している間に転校して来て、人がいない間に学校で幅きかせやがって!学校にいる奴等は俺の事を無視しやがるし!殴って従わせようとしても『もうお前なんて怖くないんだよ!月島や銀月より格下のてめえなんか!』なんてほざきやがる!ふざけんな!俺は強いんだ!月島よりも!銀月よりも!てめえを殺したら次は月島だ!月島は簡単には殺さない!死にそうなくらいギリギリで生かしてあらゆる痛みを味合わせてから殺してやる!」
くそ!このままでは、確実に殺される。
両腕と両足を失って血も大量に流れてしまっている。
このままだと5分もかからずあの世行きだ!
俺はなにかないかと辺りを見渡し、そして観客席の方に視線を向けた。
そして『見つけた』。
この状況を打開する『術』じゃない。
だがその『人物』を見つけた時、殺されそうな状況の筈なのに、銀月の心の中は・・・・安堵に包まれた。
どうやら観客席に被害が及ばないように『結界』のようなもので覆われているようで今も光の膜のような物が見える。
その人物は大粒の涙を流しながら、拳が血塗れにしながら結界を光の膜を叩いて、何かを叫んでいるようだった。
もしかして俺の為に泣いてくれているのか?
そう思った時、自分の心が満たされていくのを感じる。
手を伸ばそうとする。無くなっていても腕を伸ばさずにはいられなかった。
「はははははは、なんだ?助けを乞うつもりか?観客に?ぎゃはははははは!あの中に俺に勝てる奴がいる訳ないだろ!」
田島が銀月の胴体を踏みつけて移動出来ないようにして、徐々に力を込めていく。
銀月は体を動かしジタバタと抗おうとする。
「ぎゃはははははは!まるで虫みたいじゃねえか!お似合いの姿だぜ!」
田島はサッカーボールのように銀月を蹴って遊び始めた。
「はははははは、たまんねええええ!たのっしいいいいいい!これたまんねええええ!銀月ボール!マジたまんねええええ!」
闘技場の中心まで蹴り飛ばされる。
グシャッ!
銀月は上空に蹴り上げられ地面に叩きつけられた。
銀月は仰向けの状態で倒れ込み、無くなった手足をジタバタと動かす。
「マジサイコオオオオ!マジ虫じゃねえ?ひっくり返した虫みたいだぜ!無様!超無様!たまんねええええ!お似合いだぜ!銀月!その姿!」
くそっ、体が、力が、抜けていく。男が何かを言っているが聞こえてこない。
薄れゆく意識の中、頭に聞いた事のある声が響いた。
『まあ、この辺が限界だな』
バリバリバリバリ!バキャアアアアン!
闘技場と観客席の光の膜『結界』が破壊され、その結界を破壊した物が銀月の胸を貫き、地面に縫い付けられた。
「何だ?どっから飛んで来やがった?この『刀』?」
田島獅子王丸も予想外だったのかトドメをさそうとしていた動きを止めた。
「大虎ああああああああああああ!!!」
そして闘技場に少女の声が響き渡る。
「ん?あれは白河か?アイツは月島達についていったはず?いや、どこに行ったか知ってるかも。ははは、それじゃあ、ジックリネットリ尋問する必要があるよなあ!犯しまくって奴の居場所を吐かせるか」
田島は変身を解いて人型に戻ると銀月に背を向けて、アプリコット=C=白河に近づいていく。
ドクン・・・ドクン・・・・!
「・・・・何だ?心臓の鼓動?」
ドクン・・・・ドクン・・・・・・
「銀月・・・てめえからか?」
田島は暫く銀月の様子を見ていたが、心臓の鼓動のような音は聞こえなくなり銀月も動かなくなった。
「結局何だったんだ?まあいいか」
「死んじゃだめえええええ!立ってえええええええ!大虎がああああああああああ!」
アプリコットの体から突然光の粒子が噴き出した。
「あん?何だ?あの光?もしかして白河の奴、能力に目覚めたのか?ぎゃはははははは!そりゃいいや!能力次第では殺さずに一生飼い殺しにしてやるか!ぎゃはははははは!」
「そんな事は俺が絶対にさせない」
「あん?銀月?くたばりぞこないが・・・・はあ?」
田島が銀月の方を向くと、胸に刀が突き刺さったままの銀月は『立っていた』。腕と足がある。しかも体のその他の傷も塞がっていく。
「白河の奴、『回復系の能力』か?便利そうな能力に目覚めやがったな」
バチッ!バチバチバチッ!
胸に突き刺さった刀が銀月の中に吸い込まれていった。
「ぎゃはははははは!銀月!まさか傷を負ってなくて!拘束されてなけりゃ俺に勝てるなんて思ってないよなああああ!」
田島は再び獅子に変身して銀月に襲いかかるが、攻撃が当たる瞬間に銀月の姿が消えた。
「なっ!消えただと!まさか逃げやがったか!」
田島は周囲を見渡すと銀月は白河の元にいた。
「大虎・・・・」
「リコ・・・・」
銀月が白河に手を伸ばし、白河の頬に触れた。
「ようやく手が届いた・・・」
アプリコットは自分の両手を大虎の手に重ねる。
「・・・・うん」
「リコが消えてしまった時、俺は・・・・月島との勝負をつけられなくなるという気持ちよりもリコに会えなくなった事の方が大きかった・・・俺は・・・・その・・・なんて言えばいいのか」
二人の形成するラブ空間に周りの観客はホッコリしながら初々しい二人を見守っていると銀月と白河が二人の世界に、割って入ってくる男がいた。
「おいおい、無視してんじゃねえぞクソ虫野郎!さっきみたいに手足を引き千切って、標本みたいに剣で地面に縫い付けててめえの前で白河をぐしゃぐしゃに犯しまくってやるよ!・・・って聞けやこらあああああああ!」
「すぐに終わらせてくる・・・・」
銀月は名残惜しそうに白河の頬から手を離す。
「大虎・・・ちょっと待って」
田島と決着を着ける為に闘技場に降りようとする銀月を呼び止める白河。
「大虎って、もしかして『悪魔』なの?」
その言葉に動揺してしまう。
「月島さんと同じ?」
「・・・・え?今なんて言った?」
「月島さんと同じ、『悪魔』なのかなって?」
・・・・なにぃぃぃぃぃ!!!月島ああああああああああああ!お前なにバラしてんだ!
「あの人、別に隠したりしてないよ?悪魔の腕?とか天使の腕?とか尻尾とか出したままだし」
おいいいい!月島なにやってんの!しかも天使って何?お前に何があった!
「月島さんに『邪気』に馴れたからなのか大虎に触れた時、ああ、大虎も悪魔なんだなってわかっちゃた」
「・・・・嫌いになったか」
「え?なんで?」
「えっ?いや、だってリコは・・・その『人間』で、俺は『悪魔』で、だから・・・」
「もしかして人間と悪魔って結婚しちゃ駄目なの?・・・あっ!違うよ!結婚を視野に入れている訳じゃないよ!あっ!別に結婚がヤダッて意味じゃないから!付き合ってもいないのに何言ってるの私!」
『『『『『『えっ?そんなラブラブ空間を作っておきながら付き合ってないの!!!』』』』』』
周りの観客の心中が一致した。
「えっ?そういう意味じゃないんだけど、」
周りの観客達が無粋と思いながらも煮え切らない態度の銀月にイライラしたのか白河にバレないよう銀月にジェスチャーを送る。
『今すぐ告れ!!!!』
『抱き締めろ!!!!』
『男のくせに女の子に言わせるつもりなの!!!』
『キスしろ!!!!』
『愛を叫ぶのじゃ!!!!』
『『『『『『爆死しろ』』』』』』
観客達のメッセージを受け取った銀月は。
「すぐに終わらせてくる!」
闘技場に飛び降りようとする。
『『『『『コイツ!ひよりやがった!』』』』』
「させるかあああああ!」
観客の一人が銀月の腰に抱き付き逃走を阻止する。
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「ここで逃げ出すとかマジありえないだろ!」
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
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