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Epilogue
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ーーー環菜の日本帰国から1年後。
「ねぇ、Netfieldで ”プラハで恋する私たち(原題: Beautiful days in Prague)” もう見た!?」
「あの超話題になってるアメリカドラマでしょ?見た見た!」
「すっごい良かったよね~!主人公の友人役の日本人女優の演技に泣けたーー!」
「あの女優、神奈月亜希って知ってた!?」
「え、うそ?確かに似てるなって思ったけど、Kanna Sakurabaって出演者名に書いてたよ」
「芸名変えたんだって!」
ここ最近の日本では、こんな会話が至る所で繰り広げられている。
出会い頭の挨拶のように「あれ観た?」と口々に話されているのだ。
それもそのはず、撮影終了から1年後にNetfieldで全世界に向けて公開されたドラマ「Beautiful days in Prague」は、配信開始から数日で視聴世帯数と時間数が大幅に伸び、各国のランキングで1位を記録した。
Netfield史上最大のヒット作となったのだ。
日本でも話題になっているのだが、日本の場合はドラマ自体の話題に加えて、出演している日本人女優に関することも芸能ニュースを騒がせた。
その日本人女優の人物像や過去の出演作についてワイドショーでは特集が組まれ、ネットニュースが次々に記事にし、SNSではその情報が拡散される。
約3年前にスキャンダルで日本の芸能界から姿を消した女優が、名前を変えてアメリカを拠点に活躍していることや、外交官と結婚して人妻になっていることが知れ渡る。
ーー神奈月亜希の再起がエグイ。マジ勝ち組!
ーー不屈の魂すぎて尊敬!神だわ!
ーー相変わらず可愛い。人妻とか何かエロい。
ーー外交官の旦那とか堅実!
ーースキャンダルで辛い時に支えてもらったらしい。純愛だ。エモい。
ーー演技すごくてビビった。顔だけじゃない女優だと思う。ファンになった!
ーー清純派の殻破ったよね。何か色っぽいし!
ーー英語上手すぎじゃね?発音すげぇ。
ーー日本どころか世界の女優!すごい!
ーー日本でもまたドラマや映画に出て欲しい!
SNSでは、スキャンダルを乗り越えての再起に賞賛する声や、旦那とのエピソードに悶える声、演技をもっとみたいと日本での活動を熱望する声が上がっていた。
その頃の環菜と智行はーーー。
「環菜!月9主演の話が来たよ!骨太な医療ドラマで女医役をお願いしたいって。月9以外からも続々と主演で話来てるし、超有名監督からは映画のキーマンになる役のオファーもあったし。さらに某食品メーカーからは商品アンバサダー、某化粧品メーカーからはCM出演と捌くのが大変なくらい仕事が殺到してるよ!」
皆川さんの嬉しい悲鳴が電話口から聞こえる。
「Beautiful days in Prague」の撮影後は、その時にお世話になったプロデューサーやディレクターに声を掛けてもらい、アメリカのTVドラマや映画にゲスト出演したりしていた。
日本で智くんと暮らしながら、仕事の時だけアメリカに飛ぶという生活だったのだ。
智くんもアメリカに出張に行くことが度々あり、時には現地で落ち合って向こうで一緒に過ごしたりもした。
そんな生活が一変したのが、撮影から約1年後に公開された「Beautiful days in Prague」の予想以上の大ヒットだった。
ヒットに合わせて、桜庭環菜として活動し出した時に立ち上げたSNSは急激にフォロワーが増え、全世界の人に注目される立場になった。
日本のメディアからも熱い視線を注がれ、連日特集を組まれる事態だ。
そして先の嬉しい悲鳴の通り、日本でも演技の仕事が続々と入ってきたのだった。
「電話変わって?」
「え?うん‥‥」
休日の午前中、遅起きしつつベッドの上でゴロゴロしている最中だった私の隣には智くんがいて、智くんは奪うように携帯電話を私から受け取り、皆川さんと話し出す。
「もしもし、電話代わりました。皆川さん、そのオファーが来てる仕事、ラブシーンのないもの優先でお願いしますね。あるものを受ける場合は、イメージ戦略やキャリア戦略においての必要性とメリットを僕まで報告していただければ」
「‥‥!は、はい!」
智くんは日本に帰国して離ればなれの期間中に私の過去の出演作を観て以来、こうやって仕事の内容を気にするようになった。
第2のマネージャー化している。
しかも本来のマネージャーである皆川さん以上に戦略重視でシビアだ。
戦略を鑑みると必要だと思われる作品であればラブシーンのあるものにも出演しているが、その撮影後の夜は智くんにドロドロに愛されるというのがお決まりのパターン化している。
「環菜、どうしたの?」
いつの間にか智くんと皆川さんの電話は終わっていたらしい。
ぼーっとしていた私の顔を覗き込むように声をかけられ、ハッと意識を取り戻す。
「正直、急に日本でもてはやされて戸惑ってる‥‥」
「逆輸入女優みたいな感じだね。最近はネットが台頭してるからこその出来事だと思うよ」
「またあの時みたいに、急に周囲から手のひら返されたらって思うとちょっと怖いのもあるの‥‥」
嬉しい反面、困惑する気持ちを吐露する。
すると、智くんが私を宥めるようにヨシヨシと頭を撫でてくれた。
「環菜は環菜らしく、大好きな演技をただ楽しめばいいよ。色んなオファーが来てるってことは、それだけ色々な役に挑戦できるチャンスだって考えれば?」
「確かに。清純派っていうレッテルももうないし、自分の演じたいものを演じる機会ではあるよね‥‥!」
「そうそう。仮にもしまた日本が息苦しくなれば、別に日本に留まる必要ないよ。世界は広いし、選択肢は無数にあるんだから。それに‥‥」
「それに?」
「どこでなにがあったとしても、誰に何を言われたとしても、環菜には僕がいるから。僕のいる場所が環菜の帰るところなんでしょ?」
「智くん‥‥!」
その言葉に胸がいっぱいになる。
この人は私が欲しい言葉を的確に与えてくれて、いつも背を押してくれるのだ。
嬉しさのあまり、私は襲いかかるように智くんをベッドに押し倒してギュッとくっついた。
約3年前のスキャンダルで心身共にボロボロになった私。
友達の勧めで逃げるように日本を飛び出し、プラハで新しい人生をやり直し始めた。
日本という狭い世界だけが全てだと思って生きてきた私は、外に出ることで広い世界を知ることができたし、日本人とは価値観の違う人々との交流で自分自身を見つめ直すことにも繋がった。
最初はただ演じたいという欲求に従って始めた偽りの婚約者生活は、いつしか本当の恋となり、そして彼は最愛の旦那様となった。
自分の居場所、自分の帰る場所を見つけて、私は今、本当に自分らしく生きることができている。
誰にでも苦しい時はある。
人生をやり直したいと思う時もある。
長い人生、きっと私にもそういう時はまたやってくるだろう。
でもそんな時には、目の前だけを見るのではなく、また外にも目を向けてみようと思う。
外に逃げることは負けでもなんでもない。
心を守るために逃げて、心に栄養が行き渡ったらまたやり直せばいいのだから。
そうやって、私はこれからも自分らしく生きていくのだ。
最愛の伴侶と一緒に。
~END~
「ねぇ、Netfieldで ”プラハで恋する私たち(原題: Beautiful days in Prague)” もう見た!?」
「あの超話題になってるアメリカドラマでしょ?見た見た!」
「すっごい良かったよね~!主人公の友人役の日本人女優の演技に泣けたーー!」
「あの女優、神奈月亜希って知ってた!?」
「え、うそ?確かに似てるなって思ったけど、Kanna Sakurabaって出演者名に書いてたよ」
「芸名変えたんだって!」
ここ最近の日本では、こんな会話が至る所で繰り広げられている。
出会い頭の挨拶のように「あれ観た?」と口々に話されているのだ。
それもそのはず、撮影終了から1年後にNetfieldで全世界に向けて公開されたドラマ「Beautiful days in Prague」は、配信開始から数日で視聴世帯数と時間数が大幅に伸び、各国のランキングで1位を記録した。
Netfield史上最大のヒット作となったのだ。
日本でも話題になっているのだが、日本の場合はドラマ自体の話題に加えて、出演している日本人女優に関することも芸能ニュースを騒がせた。
その日本人女優の人物像や過去の出演作についてワイドショーでは特集が組まれ、ネットニュースが次々に記事にし、SNSではその情報が拡散される。
約3年前にスキャンダルで日本の芸能界から姿を消した女優が、名前を変えてアメリカを拠点に活躍していることや、外交官と結婚して人妻になっていることが知れ渡る。
ーー神奈月亜希の再起がエグイ。マジ勝ち組!
ーー不屈の魂すぎて尊敬!神だわ!
ーー相変わらず可愛い。人妻とか何かエロい。
ーー外交官の旦那とか堅実!
ーースキャンダルで辛い時に支えてもらったらしい。純愛だ。エモい。
ーー演技すごくてビビった。顔だけじゃない女優だと思う。ファンになった!
ーー清純派の殻破ったよね。何か色っぽいし!
ーー英語上手すぎじゃね?発音すげぇ。
ーー日本どころか世界の女優!すごい!
ーー日本でもまたドラマや映画に出て欲しい!
SNSでは、スキャンダルを乗り越えての再起に賞賛する声や、旦那とのエピソードに悶える声、演技をもっとみたいと日本での活動を熱望する声が上がっていた。
その頃の環菜と智行はーーー。
「環菜!月9主演の話が来たよ!骨太な医療ドラマで女医役をお願いしたいって。月9以外からも続々と主演で話来てるし、超有名監督からは映画のキーマンになる役のオファーもあったし。さらに某食品メーカーからは商品アンバサダー、某化粧品メーカーからはCM出演と捌くのが大変なくらい仕事が殺到してるよ!」
皆川さんの嬉しい悲鳴が電話口から聞こえる。
「Beautiful days in Prague」の撮影後は、その時にお世話になったプロデューサーやディレクターに声を掛けてもらい、アメリカのTVドラマや映画にゲスト出演したりしていた。
日本で智くんと暮らしながら、仕事の時だけアメリカに飛ぶという生活だったのだ。
智くんもアメリカに出張に行くことが度々あり、時には現地で落ち合って向こうで一緒に過ごしたりもした。
そんな生活が一変したのが、撮影から約1年後に公開された「Beautiful days in Prague」の予想以上の大ヒットだった。
ヒットに合わせて、桜庭環菜として活動し出した時に立ち上げたSNSは急激にフォロワーが増え、全世界の人に注目される立場になった。
日本のメディアからも熱い視線を注がれ、連日特集を組まれる事態だ。
そして先の嬉しい悲鳴の通り、日本でも演技の仕事が続々と入ってきたのだった。
「電話変わって?」
「え?うん‥‥」
休日の午前中、遅起きしつつベッドの上でゴロゴロしている最中だった私の隣には智くんがいて、智くんは奪うように携帯電話を私から受け取り、皆川さんと話し出す。
「もしもし、電話代わりました。皆川さん、そのオファーが来てる仕事、ラブシーンのないもの優先でお願いしますね。あるものを受ける場合は、イメージ戦略やキャリア戦略においての必要性とメリットを僕まで報告していただければ」
「‥‥!は、はい!」
智くんは日本に帰国して離ればなれの期間中に私の過去の出演作を観て以来、こうやって仕事の内容を気にするようになった。
第2のマネージャー化している。
しかも本来のマネージャーである皆川さん以上に戦略重視でシビアだ。
戦略を鑑みると必要だと思われる作品であればラブシーンのあるものにも出演しているが、その撮影後の夜は智くんにドロドロに愛されるというのがお決まりのパターン化している。
「環菜、どうしたの?」
いつの間にか智くんと皆川さんの電話は終わっていたらしい。
ぼーっとしていた私の顔を覗き込むように声をかけられ、ハッと意識を取り戻す。
「正直、急に日本でもてはやされて戸惑ってる‥‥」
「逆輸入女優みたいな感じだね。最近はネットが台頭してるからこその出来事だと思うよ」
「またあの時みたいに、急に周囲から手のひら返されたらって思うとちょっと怖いのもあるの‥‥」
嬉しい反面、困惑する気持ちを吐露する。
すると、智くんが私を宥めるようにヨシヨシと頭を撫でてくれた。
「環菜は環菜らしく、大好きな演技をただ楽しめばいいよ。色んなオファーが来てるってことは、それだけ色々な役に挑戦できるチャンスだって考えれば?」
「確かに。清純派っていうレッテルももうないし、自分の演じたいものを演じる機会ではあるよね‥‥!」
「そうそう。仮にもしまた日本が息苦しくなれば、別に日本に留まる必要ないよ。世界は広いし、選択肢は無数にあるんだから。それに‥‥」
「それに?」
「どこでなにがあったとしても、誰に何を言われたとしても、環菜には僕がいるから。僕のいる場所が環菜の帰るところなんでしょ?」
「智くん‥‥!」
その言葉に胸がいっぱいになる。
この人は私が欲しい言葉を的確に与えてくれて、いつも背を押してくれるのだ。
嬉しさのあまり、私は襲いかかるように智くんをベッドに押し倒してギュッとくっついた。
約3年前のスキャンダルで心身共にボロボロになった私。
友達の勧めで逃げるように日本を飛び出し、プラハで新しい人生をやり直し始めた。
日本という狭い世界だけが全てだと思って生きてきた私は、外に出ることで広い世界を知ることができたし、日本人とは価値観の違う人々との交流で自分自身を見つめ直すことにも繋がった。
最初はただ演じたいという欲求に従って始めた偽りの婚約者生活は、いつしか本当の恋となり、そして彼は最愛の旦那様となった。
自分の居場所、自分の帰る場所を見つけて、私は今、本当に自分らしく生きることができている。
誰にでも苦しい時はある。
人生をやり直したいと思う時もある。
長い人生、きっと私にもそういう時はまたやってくるだろう。
でもそんな時には、目の前だけを見るのではなく、また外にも目を向けてみようと思う。
外に逃げることは負けでもなんでもない。
心を守るために逃げて、心に栄養が行き渡ったらまたやり直せばいいのだから。
そうやって、私はこれからも自分らしく生きていくのだ。
最愛の伴侶と一緒に。
~END~
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