1 / 32
Prologue
しおりを挟む
ヨーロッパの真ん中に位置する国、チェコ共和国。
北海道ほどの面積しかない小さな国だが、12の世界遺産が存在し、その美しさは人生で一度は訪れたい場所と名高い。
ここはそのチェコの首都であるプラハだ。
まるで童話のような可愛らしい街並みと、歴史のあるさまざまな古い建物が残ることで有名だ。
素敵な街並みを眺めるだけでも美しさに心を奪われ、街歩きがとても楽しい。
文化や芸術が根付いていて、美術館や博物館も多く、いたる所で気軽にクラッシック音楽を聞くこともできる都市だ。
そんな異国の地で、私は今、満開に咲き誇る桜の木の下で、ある日本人男性と向かい合って立っている。
彼はその端正な顔立ちに、ニコニコと表現するのがぴったりな優しげで甘い笑顔を浮かべて私を見ている。
日本人離れした長身の体躯に、三揃いのスーツを着こなすその姿は、さながら王子様といったところだ。
女性ならば思わず見惚れて魂を抜かれてしまう男性だろう。
ただ私は幸いにも容姿の優れた異性を見慣れていたおかげで、彼に目を奪われることはなく、観察するようにじっと彼を見つめ返した。
目が笑っていない彼はきっと見た目通りの優しいだけの人間ではないと私は感じ、心の中で警戒すべきという警笛を鳴らす。
すると、彼はそんな私を見据えてゆっくりと口を開く。
「僕の婚約者を演じてくれませんか?」
その予想外の言葉に私は目を丸くした。
彼は私のことを知っているのだろうかと一瞬背中に冷や汗をかくが、知っているなら話始めた時に言ってきているだろう。
「‥‥どういう意味ですか?」
「言葉通りです。しばらくの間、僕の婚約者のふりをして欲しいんです。人助けだと思ってお願いできませんか?」
「‥‥」
「もちろん、タダでとは言いません。あなたにもメリットがあるようにしますよ」
彼は慣れたように交渉の言葉を口にする。
そしてエスコートするように、手を私に差し出した。
こんな何を考えているか分からない人にはできれば関わりたくはない。
だけどそれと同時に、「演じたい!」という演技への欲求が心の底から湧き上がってくる。
「‥‥わかりました」
気付けば私は彼の手を取り、その申し出を受けていた。
ーーこれが彼との偽りの恋の始まりだった。
北海道ほどの面積しかない小さな国だが、12の世界遺産が存在し、その美しさは人生で一度は訪れたい場所と名高い。
ここはそのチェコの首都であるプラハだ。
まるで童話のような可愛らしい街並みと、歴史のあるさまざまな古い建物が残ることで有名だ。
素敵な街並みを眺めるだけでも美しさに心を奪われ、街歩きがとても楽しい。
文化や芸術が根付いていて、美術館や博物館も多く、いたる所で気軽にクラッシック音楽を聞くこともできる都市だ。
そんな異国の地で、私は今、満開に咲き誇る桜の木の下で、ある日本人男性と向かい合って立っている。
彼はその端正な顔立ちに、ニコニコと表現するのがぴったりな優しげで甘い笑顔を浮かべて私を見ている。
日本人離れした長身の体躯に、三揃いのスーツを着こなすその姿は、さながら王子様といったところだ。
女性ならば思わず見惚れて魂を抜かれてしまう男性だろう。
ただ私は幸いにも容姿の優れた異性を見慣れていたおかげで、彼に目を奪われることはなく、観察するようにじっと彼を見つめ返した。
目が笑っていない彼はきっと見た目通りの優しいだけの人間ではないと私は感じ、心の中で警戒すべきという警笛を鳴らす。
すると、彼はそんな私を見据えてゆっくりと口を開く。
「僕の婚約者を演じてくれませんか?」
その予想外の言葉に私は目を丸くした。
彼は私のことを知っているのだろうかと一瞬背中に冷や汗をかくが、知っているなら話始めた時に言ってきているだろう。
「‥‥どういう意味ですか?」
「言葉通りです。しばらくの間、僕の婚約者のふりをして欲しいんです。人助けだと思ってお願いできませんか?」
「‥‥」
「もちろん、タダでとは言いません。あなたにもメリットがあるようにしますよ」
彼は慣れたように交渉の言葉を口にする。
そしてエスコートするように、手を私に差し出した。
こんな何を考えているか分からない人にはできれば関わりたくはない。
だけどそれと同時に、「演じたい!」という演技への欲求が心の底から湧き上がってくる。
「‥‥わかりました」
気付けば私は彼の手を取り、その申し出を受けていた。
ーーこれが彼との偽りの恋の始まりだった。
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
愛しくて悲しい僕ら
寺音
ライト文芸
第6回ライト文芸大賞 奨励賞をいただきました。ありがとうございます。
それは、どこかで聞いたことのある歌だった。
まだひと気のない商店街のアーケード。大学一年生中山三月はそこで歌を歌う一人の青年、神崎優太と出会う。
彼女は彼が紡ぐそのメロディを、つい先程まで聴いていた事に気づく。
それは、今朝彼女が見た「夢」の中での事。
その夢は事故に遭い亡くなった愛猫が出てくる不思議な、それでいて優しく彼女の悲しみを癒してくれた不思議な夢だった。
後日、大学で再会した二人。柔らかな雰囲気を持つ優太に三月は次第に惹かれていく。
しかし、彼の知り合いだと言う宮本真志に「アイツには近づかない方が良い」と警告される。
やがて三月は優太の持つ不思議な「力」について知ることとなる。
※第一話から主人公の猫が事故で亡くなっております。描写はぼかしてありますがご注意下さい。
※時代設定は平成後期、まだスマートフォンが主流でなかった時代です。その為、主人公の持ち物が現在と異なります。
初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉
濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。
一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感!
◆Rシーンには※印
ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます
◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる