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♯23
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「どうぞ」
「お、お邪魔します‥‥!」
靴を脱いで、そろりと部屋に上がらせてもらいながらも、私は混乱の最中にいた。
(一体全体、なぜ私は今蒼太くんの家に来てるの!?今日は映画に行くはずだったのに、なにこの事態!?)
家に着いた時に繋いでいた手は離された。
あんなに緊張していたのに、蒼太くんに包まれた手は心地よく、離された時に寂しいと感じてしまったのは秘密だ。
「とりあえず、適当に座ってて」
私を部屋に案内すると、蒼太くんはそう言ってキッチンの方へ姿を消した。
1DKの部屋は、男性の一人暮らしにしてはきれいに整頓されていて、モノトーンで統一された落ち着いた雰囲気だった。
ここが男性の部屋、しかも蒼太くんの部屋だと思うと、身体に血が昇るように熱くなる。
適当に座ってと言われ、どこに座ろうかと視線を彷徨わせた私は、とりあえず2人掛けのソファーにちょこんと座らせてもらった。
しばらくすると、コーヒーの入ったマグカップを2つ持って蒼太くんが部屋に戻ってきた。
「はい、コーヒーどうぞ。砂糖はいらないよね?」
「あ、うん。このままで大丈夫!」
とりあえず、マグカップに口をつけ、心を落ち着かせるようにコーヒーを飲む。
コーヒーの香りに少しだけ心が癒されるようだ。
「ていうか、なんで蒼太くんの家?」
「え?推しに関係するところでしょ、ここ。だって推しの弟の家なんだし」
いまさらだけど、私は一応ツッコんでみたが、蒼太くんは事もなげに言い放つ。
(まぁ確かにそれはそうなんだけども‥‥!好きな人の家なんて緊張するじゃない!!)
言葉にはできない反論を心の中で叫ぶ。
なんだか今日の蒼太くんはいつもと違って、ちょっと強引だし、スキンシップが多い気がする。
友達の距離感というか、彼女にするような距離感で、蒼太くんにとって私は恋愛対象外だというのにドキドキしてしまう。
(なんて罪作りな男だ!せっかく前に進もうとしてたのに期待しちゃうじゃない!)
だんだんと混乱と動揺が、怒りに変わってきて、腹ただしくなってくる。
「それで?説明してくれるんだよね!?蒼太くんの緊急の用事って何?なんで今日あそこにいたの?」
私は問い詰めるように質問を放つ。
蒼太くんは私の機嫌を伺うように、眉根を寄せて顔を覗き込んできた。
「怒ってる?デート邪魔しちゃったから?」
「ちょっと怒ってる!邪魔されたからじゃなくて、蒼太くんが意味不明だから!」
「意味不明?」
「そうでしょ!?いきなり現れて、緊急とか言うし。それになんか手繋いだり、家に連れてきたり距離近いし!いくら私でもこういうの勘違いしそうになるから!私だけはないんでしょ!?フラれた方の身にもなってよ!せっかく前に進もうと頑張ってたのに!」
勢いに任せて話してると、思わず本音がポロッと漏れてしまった。
言うつもりなんてなかったのに。
すると蒼太くんは驚いたような表情を浮かべて私を食い入るように見つめてくる。
「え!?由美ちゃんが前に進もうとしてたのは俺のせいってこと?忘れるために前に進むってこと!?」
「そうだよ!」
思ってもみなかったというふうに言われて、なんだかさらに腹が立った。
いつも察しが良い蒼太くんなのに、なんでこんな簡単なことを察してくれないのか。
気持ちの行き所を探して、理不尽にも蒼太くんにあたってしまった。
「‥‥間に合って本当に良かった」
蒼太くんの口から、そうポツリとつぶやくような言葉が漏れる。
それはどういう意味?と問いかけようとしたその瞬間、私はそれ以上口を開くことができなくなった。
なぜなら、蒼太くんにギュッと前から抱きしめられ、蒼太くんの胸に顔が埋められてしまったからだ。
「‥‥!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
ふわっと蒼太くんの爽やかな香水の香りが鼻をかすめ、初めて抱きしめられていることに思い至った。
驚いて身を起こそうとするが、蒼太くんの腕が私の背中に回されていて、その力が強く、離してくれない。
「ちょっと蒼太くん‥‥!」
私が抗議の声を上げると、蒼太くんはそのままの体勢でゆっくりと口を開いた。
「‥‥いいよ」
「え?」
「前に進もうとしなくていいよ」
ハッキリとした口調で断言するように蒼太くんはそう言い放った。
顔を押しつけられた蒼太くんの胸からは、ドキドキと鳴る心臓の鼓動が聞こえてくる。
「いや、むしろ前に進まないで。それに由美ちゃんの勘違いじゃないから。手繋いだり、家に連れてきたりは、由美ちゃんに意識して欲しいから俺がワザとしてる」
「‥‥え!?」
思いもよらない言葉に私は耳を疑った。
(今、蒼太くんはなんて言った?その言い方だと、まるで蒼太くんも私を好きみたいな‥‥。でもそんな、そんなはずはない‥‥!)
「でも、だって、蒼太くんは私だけはないんでしょ?つまり私だけは恋愛対象外って、前にそう言ってフッたのに」
「そもそもフったっていう認識なかったよ。冗談っぽく話してたから本気で言ったと思ってなかった。それに、由美ちゃんだけはないって言ったのは、恋愛対象外って意味じゃないよ」
「‥‥?」
「その時は、由美ちゃんだけは他の女の子と違う貴重な存在だから、恋愛対象に見えないんじゃなく、恋愛対象にしたくなかったんだ。でもいざ他の男が現れて、由美ちゃんが誰かのものになるって思ったら我慢できなくて。由美ちゃんを取られたくないって思った」
絞り出すように言葉を紡ぐ蒼太くんの声に、蒼太くんの想いが伝わってきて、私の怒りはどんどん鎮まっていく。
それとともにジワジワと喜びに似た感情が身体中を駆け巡った。
その時、背中に回っていた蒼太くんの腕の力が緩まり、身体を引き離される。
顔が蒼太くんの胸から離れ、私たちは正面から向かい合う形になった。
目と目が真正面から合い、蒼太くんの瞳の中に私が映っている。
「つまり、俺が言いたいのは、由美ちゃんのことが恋愛的な意味で好きってこと。心地よい関係が壊れるのが怖くて、恋愛対象にしたくなかっただけで、とっくに女性として由美ちゃんは特別な存在だったって気付いた」
「‥‥!」
熱のこもった瞳で見据えられ、私の心臓は尋常じゃない速さで脈打ち、顔は真っ赤になる。
「真っ赤になって可愛いな」
蒼太くんは私を見て目を細めると、手で私の頬に触れた。
(ちょ、ちょ、ちょっとーーー!蒼太くんが何か急に甘いんですけどーーー!!キャパオーバーしそう!!)
恋愛免疫のない私には刺激が強すぎる。
さっきまでとは違う動揺が駆け巡り、私は金魚のように口をパクパクさせてしまう。
「それで?俺は素直に打ち明けたんだけど、由美ちゃんは?」
「え、え、え!?」
「告白してくれたつもりだったんなら、俺のこと好きってことでいいんだよね?」
「は、はい!そ、そうです!」
「つまり、由美ちゃんの初恋は俺ってこと?」
「そ、そのとおりです!!」
「貴重なものをくれてありがとう」
蒼太くんに確認するよう問いかけられ、私の口からは上擦りながらもスルスルと言葉が飛び出る。
それを聞くと蒼太くんは嬉しそうに微笑み、そのまま顔を私の方に近づけてきて、手で触れている頬と反対側の頬にチュッとキスを落とした。
「ちょ、ちょ、ちょっと!蒼太くん‥‥!」
全身の血液が頬っぺたに集中したかと思うほど、顔が熱くなる。
そのままの勢いでまた私を抱きしめようとしてくる蒼太くんを急いで押しとどめた。
「ま、まだ話終わってないでしょ!」
「話?」
「そう!私まだなんで今日蒼太くんがあそこにいたのか聞いてない‥‥!」
「あぁ、そのことね」
さも今思い出したような顔をして、なんでもないことのように蒼太くんは話し出した。
「さっき俺言ったでしょ?由美ちゃんを他の男に取られたくないって。だから奪いに行った」
「奪うって!ていうか、なんで今日のこと知ってたの?私話してないよね!?」
それが一番謎だったのだ。
あんなピンポイントであそこにいるためには、場所と時間を知っていないと難しいと思う。
「たまたま姉ちゃんに聞いたんだよ。あぁ、姉ちゃんの名誉のために言うと、姉ちゃんが漏らしたわけじゃないよ。由美ちゃんが悩んでるみたいだけど大丈夫かなって心配してたから、その話を俺も聞いた風を装って、うまいこと聞き出しただけだから」
「百合さん‥‥」
推しが私のことを心配してくれていたなんて、嬉しくて胸がジーンとする。
そしてご本人は全く意図せず蒼太くんに聞き出されたみたいだけど、結果的にそれが今に繋がっているのだと思うと感謝の気持ちが湧いてきた。
「でも姉ちゃんが知ってたのは、六本木の映画館に昼頃に行くっていうことだけだったからさ。俺、映画館の前で結構待ってたんだよ」
「あんな形で現れなくても連絡してくれたら良かったのに」
「正直、相手の男に俺の存在を知らしめとこうっていう狙いもあったから。ちなみに今度埋め合わせするってあの時謝ってたけど、またあの男に会うの?」
ジトリとした目を向けられる。
(え、これってもしかしてヤキモチ焼いてるとか!?なにそれ、可愛い‥‥!!)
「由美ちゃん、顔が緩んでるよ。どうせ俺が嫉妬してるのが面白いんだろうけど」
「面白いんじゃなくて、可愛いって思って!」
「なにそれ。どっちみち面白がってるじゃん」
ちょっと照れたように蒼太くんはそっぽを向いてしまった。
そんな仕草も胸にズキュンと突き刺さる。
(なにこれ、なにこれ!さすが百合さんの弟!推しの弟の破壊力すごいんですけどーー!!)
「あの、念のため確認なんだけど‥‥。私と蒼太くんは、その、どういう関係になるんでしょうか?」
好きと言われて、私も好きと伝えたけど、この後どうする的な話はしていない。
こういうことが初めての私は、それがイコール恋人でいいのか確信が持てなかったのだ。
そんな私の心配をよそに、蒼太くんはアッサリと答える。
「彼氏彼女でしょ」
「つ、つまり付き合うということでしょうか!?」
「‥‥嫌なの?」
「違う!嬉しい!!こういうの、は、初めてだから一応ちゃんと言葉で確認しときたかっただけ!」
誤解されたくなくて私は全力で訴える。
そんな私の言動を見て、蒼太くんはおかしそうにプッと吹き出した。
「ははっ、そんなに力強く訴えなくても分かってるよ。あ~もうそういうところも由美ちゃんらしくて可愛いな」
そういって優しく頭を撫でられた。
(いやいや、あなたの方が可愛いんですけど‥‥!私を悶え死にさせるおつもりですかぁーー!!)
「それで?あの男にまた会うの?会わないの?」
「もう会わないよ!埋め合わせは別の形ですることにする」
「うん、そうしてくれると嬉しい。なんか俺、意外と嫉妬深いのかも。初めて知ったな」
私の答えに納得したのか、また頭をヨシヨシと撫でられた。
こうして、すったもんだあったけど、私と蒼太くんは無事にお互いの気持ちを確認し、心を通じ合わせることができた。
気軽な飲み友達から恋人になった。
つまり、推しの弟が、私の彼氏になったのだったーー。
「お、お邪魔します‥‥!」
靴を脱いで、そろりと部屋に上がらせてもらいながらも、私は混乱の最中にいた。
(一体全体、なぜ私は今蒼太くんの家に来てるの!?今日は映画に行くはずだったのに、なにこの事態!?)
家に着いた時に繋いでいた手は離された。
あんなに緊張していたのに、蒼太くんに包まれた手は心地よく、離された時に寂しいと感じてしまったのは秘密だ。
「とりあえず、適当に座ってて」
私を部屋に案内すると、蒼太くんはそう言ってキッチンの方へ姿を消した。
1DKの部屋は、男性の一人暮らしにしてはきれいに整頓されていて、モノトーンで統一された落ち着いた雰囲気だった。
ここが男性の部屋、しかも蒼太くんの部屋だと思うと、身体に血が昇るように熱くなる。
適当に座ってと言われ、どこに座ろうかと視線を彷徨わせた私は、とりあえず2人掛けのソファーにちょこんと座らせてもらった。
しばらくすると、コーヒーの入ったマグカップを2つ持って蒼太くんが部屋に戻ってきた。
「はい、コーヒーどうぞ。砂糖はいらないよね?」
「あ、うん。このままで大丈夫!」
とりあえず、マグカップに口をつけ、心を落ち着かせるようにコーヒーを飲む。
コーヒーの香りに少しだけ心が癒されるようだ。
「ていうか、なんで蒼太くんの家?」
「え?推しに関係するところでしょ、ここ。だって推しの弟の家なんだし」
いまさらだけど、私は一応ツッコんでみたが、蒼太くんは事もなげに言い放つ。
(まぁ確かにそれはそうなんだけども‥‥!好きな人の家なんて緊張するじゃない!!)
言葉にはできない反論を心の中で叫ぶ。
なんだか今日の蒼太くんはいつもと違って、ちょっと強引だし、スキンシップが多い気がする。
友達の距離感というか、彼女にするような距離感で、蒼太くんにとって私は恋愛対象外だというのにドキドキしてしまう。
(なんて罪作りな男だ!せっかく前に進もうとしてたのに期待しちゃうじゃない!)
だんだんと混乱と動揺が、怒りに変わってきて、腹ただしくなってくる。
「それで?説明してくれるんだよね!?蒼太くんの緊急の用事って何?なんで今日あそこにいたの?」
私は問い詰めるように質問を放つ。
蒼太くんは私の機嫌を伺うように、眉根を寄せて顔を覗き込んできた。
「怒ってる?デート邪魔しちゃったから?」
「ちょっと怒ってる!邪魔されたからじゃなくて、蒼太くんが意味不明だから!」
「意味不明?」
「そうでしょ!?いきなり現れて、緊急とか言うし。それになんか手繋いだり、家に連れてきたり距離近いし!いくら私でもこういうの勘違いしそうになるから!私だけはないんでしょ!?フラれた方の身にもなってよ!せっかく前に進もうと頑張ってたのに!」
勢いに任せて話してると、思わず本音がポロッと漏れてしまった。
言うつもりなんてなかったのに。
すると蒼太くんは驚いたような表情を浮かべて私を食い入るように見つめてくる。
「え!?由美ちゃんが前に進もうとしてたのは俺のせいってこと?忘れるために前に進むってこと!?」
「そうだよ!」
思ってもみなかったというふうに言われて、なんだかさらに腹が立った。
いつも察しが良い蒼太くんなのに、なんでこんな簡単なことを察してくれないのか。
気持ちの行き所を探して、理不尽にも蒼太くんにあたってしまった。
「‥‥間に合って本当に良かった」
蒼太くんの口から、そうポツリとつぶやくような言葉が漏れる。
それはどういう意味?と問いかけようとしたその瞬間、私はそれ以上口を開くことができなくなった。
なぜなら、蒼太くんにギュッと前から抱きしめられ、蒼太くんの胸に顔が埋められてしまったからだ。
「‥‥!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
ふわっと蒼太くんの爽やかな香水の香りが鼻をかすめ、初めて抱きしめられていることに思い至った。
驚いて身を起こそうとするが、蒼太くんの腕が私の背中に回されていて、その力が強く、離してくれない。
「ちょっと蒼太くん‥‥!」
私が抗議の声を上げると、蒼太くんはそのままの体勢でゆっくりと口を開いた。
「‥‥いいよ」
「え?」
「前に進もうとしなくていいよ」
ハッキリとした口調で断言するように蒼太くんはそう言い放った。
顔を押しつけられた蒼太くんの胸からは、ドキドキと鳴る心臓の鼓動が聞こえてくる。
「いや、むしろ前に進まないで。それに由美ちゃんの勘違いじゃないから。手繋いだり、家に連れてきたりは、由美ちゃんに意識して欲しいから俺がワザとしてる」
「‥‥え!?」
思いもよらない言葉に私は耳を疑った。
(今、蒼太くんはなんて言った?その言い方だと、まるで蒼太くんも私を好きみたいな‥‥。でもそんな、そんなはずはない‥‥!)
「でも、だって、蒼太くんは私だけはないんでしょ?つまり私だけは恋愛対象外って、前にそう言ってフッたのに」
「そもそもフったっていう認識なかったよ。冗談っぽく話してたから本気で言ったと思ってなかった。それに、由美ちゃんだけはないって言ったのは、恋愛対象外って意味じゃないよ」
「‥‥?」
「その時は、由美ちゃんだけは他の女の子と違う貴重な存在だから、恋愛対象に見えないんじゃなく、恋愛対象にしたくなかったんだ。でもいざ他の男が現れて、由美ちゃんが誰かのものになるって思ったら我慢できなくて。由美ちゃんを取られたくないって思った」
絞り出すように言葉を紡ぐ蒼太くんの声に、蒼太くんの想いが伝わってきて、私の怒りはどんどん鎮まっていく。
それとともにジワジワと喜びに似た感情が身体中を駆け巡った。
その時、背中に回っていた蒼太くんの腕の力が緩まり、身体を引き離される。
顔が蒼太くんの胸から離れ、私たちは正面から向かい合う形になった。
目と目が真正面から合い、蒼太くんの瞳の中に私が映っている。
「つまり、俺が言いたいのは、由美ちゃんのことが恋愛的な意味で好きってこと。心地よい関係が壊れるのが怖くて、恋愛対象にしたくなかっただけで、とっくに女性として由美ちゃんは特別な存在だったって気付いた」
「‥‥!」
熱のこもった瞳で見据えられ、私の心臓は尋常じゃない速さで脈打ち、顔は真っ赤になる。
「真っ赤になって可愛いな」
蒼太くんは私を見て目を細めると、手で私の頬に触れた。
(ちょ、ちょ、ちょっとーーー!蒼太くんが何か急に甘いんですけどーーー!!キャパオーバーしそう!!)
恋愛免疫のない私には刺激が強すぎる。
さっきまでとは違う動揺が駆け巡り、私は金魚のように口をパクパクさせてしまう。
「それで?俺は素直に打ち明けたんだけど、由美ちゃんは?」
「え、え、え!?」
「告白してくれたつもりだったんなら、俺のこと好きってことでいいんだよね?」
「は、はい!そ、そうです!」
「つまり、由美ちゃんの初恋は俺ってこと?」
「そ、そのとおりです!!」
「貴重なものをくれてありがとう」
蒼太くんに確認するよう問いかけられ、私の口からは上擦りながらもスルスルと言葉が飛び出る。
それを聞くと蒼太くんは嬉しそうに微笑み、そのまま顔を私の方に近づけてきて、手で触れている頬と反対側の頬にチュッとキスを落とした。
「ちょ、ちょ、ちょっと!蒼太くん‥‥!」
全身の血液が頬っぺたに集中したかと思うほど、顔が熱くなる。
そのままの勢いでまた私を抱きしめようとしてくる蒼太くんを急いで押しとどめた。
「ま、まだ話終わってないでしょ!」
「話?」
「そう!私まだなんで今日蒼太くんがあそこにいたのか聞いてない‥‥!」
「あぁ、そのことね」
さも今思い出したような顔をして、なんでもないことのように蒼太くんは話し出した。
「さっき俺言ったでしょ?由美ちゃんを他の男に取られたくないって。だから奪いに行った」
「奪うって!ていうか、なんで今日のこと知ってたの?私話してないよね!?」
それが一番謎だったのだ。
あんなピンポイントであそこにいるためには、場所と時間を知っていないと難しいと思う。
「たまたま姉ちゃんに聞いたんだよ。あぁ、姉ちゃんの名誉のために言うと、姉ちゃんが漏らしたわけじゃないよ。由美ちゃんが悩んでるみたいだけど大丈夫かなって心配してたから、その話を俺も聞いた風を装って、うまいこと聞き出しただけだから」
「百合さん‥‥」
推しが私のことを心配してくれていたなんて、嬉しくて胸がジーンとする。
そしてご本人は全く意図せず蒼太くんに聞き出されたみたいだけど、結果的にそれが今に繋がっているのだと思うと感謝の気持ちが湧いてきた。
「でも姉ちゃんが知ってたのは、六本木の映画館に昼頃に行くっていうことだけだったからさ。俺、映画館の前で結構待ってたんだよ」
「あんな形で現れなくても連絡してくれたら良かったのに」
「正直、相手の男に俺の存在を知らしめとこうっていう狙いもあったから。ちなみに今度埋め合わせするってあの時謝ってたけど、またあの男に会うの?」
ジトリとした目を向けられる。
(え、これってもしかしてヤキモチ焼いてるとか!?なにそれ、可愛い‥‥!!)
「由美ちゃん、顔が緩んでるよ。どうせ俺が嫉妬してるのが面白いんだろうけど」
「面白いんじゃなくて、可愛いって思って!」
「なにそれ。どっちみち面白がってるじゃん」
ちょっと照れたように蒼太くんはそっぽを向いてしまった。
そんな仕草も胸にズキュンと突き刺さる。
(なにこれ、なにこれ!さすが百合さんの弟!推しの弟の破壊力すごいんですけどーー!!)
「あの、念のため確認なんだけど‥‥。私と蒼太くんは、その、どういう関係になるんでしょうか?」
好きと言われて、私も好きと伝えたけど、この後どうする的な話はしていない。
こういうことが初めての私は、それがイコール恋人でいいのか確信が持てなかったのだ。
そんな私の心配をよそに、蒼太くんはアッサリと答える。
「彼氏彼女でしょ」
「つ、つまり付き合うということでしょうか!?」
「‥‥嫌なの?」
「違う!嬉しい!!こういうの、は、初めてだから一応ちゃんと言葉で確認しときたかっただけ!」
誤解されたくなくて私は全力で訴える。
そんな私の言動を見て、蒼太くんはおかしそうにプッと吹き出した。
「ははっ、そんなに力強く訴えなくても分かってるよ。あ~もうそういうところも由美ちゃんらしくて可愛いな」
そういって優しく頭を撫でられた。
(いやいや、あなたの方が可愛いんですけど‥‥!私を悶え死にさせるおつもりですかぁーー!!)
「それで?あの男にまた会うの?会わないの?」
「もう会わないよ!埋め合わせは別の形ですることにする」
「うん、そうしてくれると嬉しい。なんか俺、意外と嫉妬深いのかも。初めて知ったな」
私の答えに納得したのか、また頭をヨシヨシと撫でられた。
こうして、すったもんだあったけど、私と蒼太くんは無事にお互いの気持ちを確認し、心を通じ合わせることができた。
気軽な飲み友達から恋人になった。
つまり、推しの弟が、私の彼氏になったのだったーー。
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