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♯21(Side蒼太)
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姉の披露宴の後、俺は仕事が忙しくなりしばらく由美ちゃんと飲みに行く暇もなかった。
だから会うのは3週間ぶりだった。
会うなり結婚披露宴の時の話になり、さっそくいつもの軽妙なトークで俺を笑わせてくれる由美ちゃんだったが、俺はふと由美ちゃんの外見がいつもと違うことに気付く。
いつもは服装もメイクもシンプルな感じなのに、この日は丁寧にメイクを施していて服装も女の子らしい感じだったのだ。
普段より大人っぽく見える。
何か違うねと指摘すれば、由美ちゃんはなぜか少し目を泳がせて動揺した。
心境の変化でもあったのかと問えば、また動揺を見せながら「26歳になったから」と誤魔化すように話す。
(妙な反応だし、様子がおかしい気がするな。会ってなかった間に何かあったんだろうか?)
今までになかった由美ちゃんの反応に俺は少し違和感を感じた。
「あ、そういえばさ、モンエクって前にアニメともコラボしてたの?」
由美ちゃんは話題を変えたかったのか突然モンエクのことを話し出す。
アニメとコラボしたのは事実だが、あれは1年半前くらいのことだ。
確か由美ちゃんは今回のコラボ案件の仕事をきっかけにモンエクをやり出したって言ってたし、アニメが好きだという話は聞いたことがない。
おそらく誰かから聞いた話なのだろうと察して軽い気持ちでそれを聞いてみた。
「誰かから聞いたの?」
「あ、うん、そう!」
「へぇ、ちなみに誰に?」
「‥‥えっと、誰だったかなぁ~?忘れちゃった!あはは!」
由美ちゃんはまた誤魔化すようにわざとらしくとぼけて見せた。
その瞬間に、これは男だなと直感的に感じた。
というのも、そのアニメは男性人気が高いアニメなのだ。
それでさっき感じた違和感の意味も分かった気がする。
つまり由美ちゃんのこの外見の変化もその男が関係しているのだろう。
由美ちゃんに男の影を感じ、なぜか俺はジリジリとした焦燥感に襲われる。
(なんで俺、こんなに焦りを感じてるんだろう?由美ちゃんに推し以外に興味が持てる人ができることは喜ばしいことのはず。なのになんで素直に喜べないんだろう)
自分の感情がよく分からず、何かを誤魔化すように平然を装い、いつも通りに由美ちゃんと飲む。
由美ちゃんも何かを振り切るようにわざと明るく話しているように感じたのは気のせいだろうか。
由美ちゃんがお手洗いに席を立った時、少し足元が危なげだったので、反射的に手を伸ばして腕を掴む。
掴んだその腕に女性らしい柔らかさを感じて、俺は内心動揺する。
由美ちゃんが女性だということを改めて知らしめられた感じがしたのだ。
(恋愛対象にしたくないのに、こんなふうに女性を感じてしまうと嫌でも意識してしまうじゃないか‥‥)
由美ちゃんは礼を言うとそそくさとお手洗いへ駆け込んだ。
その姿を見て俺もはぁとため息を漏らす。
特に今日の由美ちゃんは服装やメイクも女の子らしくてつい意識してしまいがちなのに、さらにあの柔らかさを感じてしまい、完全に女性として見てしまっている。
気軽に話せて冗談も言えるような飲み友達としてのこの関係を由美ちゃんも望んでるはずだし、こんなふうに見てしまうのは罪悪感を少し感じる。
(しかも他の男を想ってキレイにしてるわけだしな‥‥。推し以外に興味が出たって喜ばしいことなのに喜んであげられていないのもひどいよな)
由美ちゃんがお手洗いに行っていて1人の間、俺は頭を抱えるようにしてグルグルと思考を彷徨わせた。
そんなことがあった翌週の金曜日。
あれ以来、俺はずっと出口の見えない思考の闇に飲み込まれている。
由美ちゃんに男の影を感じてなぜ焦燥感を感じているのか、推し以外に興味が出たのをなぜ喜んであげれないのか。
そして由美ちゃんに女を感じてしまってなぜこんなに動揺しているのか。
今は普通に笑って話せる自信がなくて、特に忙しいわけでもないが今週は由美ちゃんと約束はしていなかった。
仕事が終わって家に帰り、ソファーに身を沈めてため息を吐いていると姉から電話がかかってくる。
俺はため息を飲み込み、あたかも普通の様子を取り繕って通話ボタンを押す。
「もしもし、姉ちゃんどうしたの?」
「あ、蒼太?ちょっと連絡事項があってね」
そう言って姉は実家の両親に関することを俺に報告してくれる。
大したことではなかったので俺は相槌をうちながら、頭の中で言われたことを記憶した。
ひと通り連絡事項が終わると、「そういえば」と姉は今思い出したかのようにポツリとつぶやいた。
「最近由美ちゃんと会ったりした?悩んでるみたいだから心配だったんだけど蒼太は何か聞いてる?」
姉が口走った由美ちゃんが悩んでるという事実は意外な話だった。
この前会った時に男の影は感じたが悩んでいる素振りはなかったからだ。
その話が気になって、もう少し姉から聞き出そうと俺はさも知ってるふうを装う。
「あぁ聞いた聞いた。悩んでたね」
「でしょ?明日のデート大丈夫かな。まだ結論出せないなら前に進んでみればって私は話しちゃったけど良かったのかなって思う部分もあって」
どうやら由美ちゃんは明日デートらしい。
(由美ちゃんがデート!?彼氏ができたってことか!?)
驚いて一瞬固まってしまう。
そしてどんどん焦燥感が増していく。
居ても立っても居られず、俺は知ってる風で言葉巧みに姉からさらに話を聞き出していく。
どうやら相手から好意を寄せられているものの由美ちゃんはまだ迷ってるそうだ。
つまりまだ付き合ってはいない状態だ。
(まだ彼氏ではなかった‥‥!)
だけど由美ちゃんは思うところがあり、前に進みたいという気持ちがあるようだ。
もしかして友人から色々言われて、推し活だけじゃなく恋愛にも興味持たないとって焦って前に進もうとしてるんじゃないだろうか。
過去の会話でそんなことを話した記憶があった俺は、前に進みたいという由美ちゃんに心当たりがあった。
(いやいや、由美ちゃん!そんな無理やりに前に進もうとしなくていいって!身を委ねてみたらとか姉ちゃんもなんてアドバイスしてんだよ!このままいけば、由美ちゃんがその男と本当に付き合っちゃうかもしれないじゃん!)
由美ちゃんが他の男と付き合うのは嫌だ、取られたくない、そう本能的に思った。
つまりはそういうことだったのだ。
俺がここ数日グルグル考えていたこと、それの答えが出た瞬間だった。
由美ちゃんとの心地よい関係が壊れるのが怖くて、恋愛対象にしたくなかっただけで、とっくに女性として特別な存在だったのだ。
思い返せばずっとそうなのだ。
あんなに一緒にいて楽しいのも、面白いのも、自然に笑えるのも、友達とか関係なく、由美ちゃんだからだった。
シスコンを理由にいつもフラれる俺だけど、姉を大切にしていることを理解してくれるのも由美ちゃんだけだった。
察しが良いとよく人から言われるが、自分自身についての察しの悪さに自嘲の笑みが漏れる。
他の男に取られそうな今、恋愛対象にしたくないとか思ってる場合じゃない。
これからも俺の隣にいて欲しいから俺のものにしたい。
「姉ちゃん、そのデートって明日何時にどこ行くか知ってる?」
「確か六本木の映画館になったって言ってたかな。時間はお昼過ぎみたいだから13時だと思うよ。そんなこと聞いてどうしたの?」
「いや、気にしないで。また連絡するよ、じゃあね」
聞き出すだけ聞き出して俺は電話を切った。
自分の気持ちを自覚し、明日の情報を仕入れた今、俺がやることは一つだろう。
由美ちゃんも以前冗談めいて告白みたいなことをしてくれたのだから、俺にマイナスな感情は持っていないはずだ。
思考の闇から抜け出した俺は、クリアになった頭脳で今度は明日の予定を立てだしたのだったーー。
だから会うのは3週間ぶりだった。
会うなり結婚披露宴の時の話になり、さっそくいつもの軽妙なトークで俺を笑わせてくれる由美ちゃんだったが、俺はふと由美ちゃんの外見がいつもと違うことに気付く。
いつもは服装もメイクもシンプルな感じなのに、この日は丁寧にメイクを施していて服装も女の子らしい感じだったのだ。
普段より大人っぽく見える。
何か違うねと指摘すれば、由美ちゃんはなぜか少し目を泳がせて動揺した。
心境の変化でもあったのかと問えば、また動揺を見せながら「26歳になったから」と誤魔化すように話す。
(妙な反応だし、様子がおかしい気がするな。会ってなかった間に何かあったんだろうか?)
今までになかった由美ちゃんの反応に俺は少し違和感を感じた。
「あ、そういえばさ、モンエクって前にアニメともコラボしてたの?」
由美ちゃんは話題を変えたかったのか突然モンエクのことを話し出す。
アニメとコラボしたのは事実だが、あれは1年半前くらいのことだ。
確か由美ちゃんは今回のコラボ案件の仕事をきっかけにモンエクをやり出したって言ってたし、アニメが好きだという話は聞いたことがない。
おそらく誰かから聞いた話なのだろうと察して軽い気持ちでそれを聞いてみた。
「誰かから聞いたの?」
「あ、うん、そう!」
「へぇ、ちなみに誰に?」
「‥‥えっと、誰だったかなぁ~?忘れちゃった!あはは!」
由美ちゃんはまた誤魔化すようにわざとらしくとぼけて見せた。
その瞬間に、これは男だなと直感的に感じた。
というのも、そのアニメは男性人気が高いアニメなのだ。
それでさっき感じた違和感の意味も分かった気がする。
つまり由美ちゃんのこの外見の変化もその男が関係しているのだろう。
由美ちゃんに男の影を感じ、なぜか俺はジリジリとした焦燥感に襲われる。
(なんで俺、こんなに焦りを感じてるんだろう?由美ちゃんに推し以外に興味が持てる人ができることは喜ばしいことのはず。なのになんで素直に喜べないんだろう)
自分の感情がよく分からず、何かを誤魔化すように平然を装い、いつも通りに由美ちゃんと飲む。
由美ちゃんも何かを振り切るようにわざと明るく話しているように感じたのは気のせいだろうか。
由美ちゃんがお手洗いに席を立った時、少し足元が危なげだったので、反射的に手を伸ばして腕を掴む。
掴んだその腕に女性らしい柔らかさを感じて、俺は内心動揺する。
由美ちゃんが女性だということを改めて知らしめられた感じがしたのだ。
(恋愛対象にしたくないのに、こんなふうに女性を感じてしまうと嫌でも意識してしまうじゃないか‥‥)
由美ちゃんは礼を言うとそそくさとお手洗いへ駆け込んだ。
その姿を見て俺もはぁとため息を漏らす。
特に今日の由美ちゃんは服装やメイクも女の子らしくてつい意識してしまいがちなのに、さらにあの柔らかさを感じてしまい、完全に女性として見てしまっている。
気軽に話せて冗談も言えるような飲み友達としてのこの関係を由美ちゃんも望んでるはずだし、こんなふうに見てしまうのは罪悪感を少し感じる。
(しかも他の男を想ってキレイにしてるわけだしな‥‥。推し以外に興味が出たって喜ばしいことなのに喜んであげられていないのもひどいよな)
由美ちゃんがお手洗いに行っていて1人の間、俺は頭を抱えるようにしてグルグルと思考を彷徨わせた。
そんなことがあった翌週の金曜日。
あれ以来、俺はずっと出口の見えない思考の闇に飲み込まれている。
由美ちゃんに男の影を感じてなぜ焦燥感を感じているのか、推し以外に興味が出たのをなぜ喜んであげれないのか。
そして由美ちゃんに女を感じてしまってなぜこんなに動揺しているのか。
今は普通に笑って話せる自信がなくて、特に忙しいわけでもないが今週は由美ちゃんと約束はしていなかった。
仕事が終わって家に帰り、ソファーに身を沈めてため息を吐いていると姉から電話がかかってくる。
俺はため息を飲み込み、あたかも普通の様子を取り繕って通話ボタンを押す。
「もしもし、姉ちゃんどうしたの?」
「あ、蒼太?ちょっと連絡事項があってね」
そう言って姉は実家の両親に関することを俺に報告してくれる。
大したことではなかったので俺は相槌をうちながら、頭の中で言われたことを記憶した。
ひと通り連絡事項が終わると、「そういえば」と姉は今思い出したかのようにポツリとつぶやいた。
「最近由美ちゃんと会ったりした?悩んでるみたいだから心配だったんだけど蒼太は何か聞いてる?」
姉が口走った由美ちゃんが悩んでるという事実は意外な話だった。
この前会った時に男の影は感じたが悩んでいる素振りはなかったからだ。
その話が気になって、もう少し姉から聞き出そうと俺はさも知ってるふうを装う。
「あぁ聞いた聞いた。悩んでたね」
「でしょ?明日のデート大丈夫かな。まだ結論出せないなら前に進んでみればって私は話しちゃったけど良かったのかなって思う部分もあって」
どうやら由美ちゃんは明日デートらしい。
(由美ちゃんがデート!?彼氏ができたってことか!?)
驚いて一瞬固まってしまう。
そしてどんどん焦燥感が増していく。
居ても立っても居られず、俺は知ってる風で言葉巧みに姉からさらに話を聞き出していく。
どうやら相手から好意を寄せられているものの由美ちゃんはまだ迷ってるそうだ。
つまりまだ付き合ってはいない状態だ。
(まだ彼氏ではなかった‥‥!)
だけど由美ちゃんは思うところがあり、前に進みたいという気持ちがあるようだ。
もしかして友人から色々言われて、推し活だけじゃなく恋愛にも興味持たないとって焦って前に進もうとしてるんじゃないだろうか。
過去の会話でそんなことを話した記憶があった俺は、前に進みたいという由美ちゃんに心当たりがあった。
(いやいや、由美ちゃん!そんな無理やりに前に進もうとしなくていいって!身を委ねてみたらとか姉ちゃんもなんてアドバイスしてんだよ!このままいけば、由美ちゃんがその男と本当に付き合っちゃうかもしれないじゃん!)
由美ちゃんが他の男と付き合うのは嫌だ、取られたくない、そう本能的に思った。
つまりはそういうことだったのだ。
俺がここ数日グルグル考えていたこと、それの答えが出た瞬間だった。
由美ちゃんとの心地よい関係が壊れるのが怖くて、恋愛対象にしたくなかっただけで、とっくに女性として特別な存在だったのだ。
思い返せばずっとそうなのだ。
あんなに一緒にいて楽しいのも、面白いのも、自然に笑えるのも、友達とか関係なく、由美ちゃんだからだった。
シスコンを理由にいつもフラれる俺だけど、姉を大切にしていることを理解してくれるのも由美ちゃんだけだった。
察しが良いとよく人から言われるが、自分自身についての察しの悪さに自嘲の笑みが漏れる。
他の男に取られそうな今、恋愛対象にしたくないとか思ってる場合じゃない。
これからも俺の隣にいて欲しいから俺のものにしたい。
「姉ちゃん、そのデートって明日何時にどこ行くか知ってる?」
「確か六本木の映画館になったって言ってたかな。時間はお昼過ぎみたいだから13時だと思うよ。そんなこと聞いてどうしたの?」
「いや、気にしないで。また連絡するよ、じゃあね」
聞き出すだけ聞き出して俺は電話を切った。
自分の気持ちを自覚し、明日の情報を仕入れた今、俺がやることは一つだろう。
由美ちゃんも以前冗談めいて告白みたいなことをしてくれたのだから、俺にマイナスな感情は持っていないはずだ。
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