初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

美並ナナ

文字の大きさ
上 下
22 / 25

♯21(Side蒼太)

しおりを挟む
姉の披露宴の後、俺は仕事が忙しくなりしばらく由美ちゃんと飲みに行く暇もなかった。

だから会うのは3週間ぶりだった。

会うなり結婚披露宴の時の話になり、さっそくいつもの軽妙なトークで俺を笑わせてくれる由美ちゃんだったが、俺はふと由美ちゃんの外見がいつもと違うことに気付く。

いつもは服装もメイクもシンプルな感じなのに、この日は丁寧にメイクを施していて服装も女の子らしい感じだったのだ。

普段より大人っぽく見える。

何か違うねと指摘すれば、由美ちゃんはなぜか少し目を泳がせて動揺した。

心境の変化でもあったのかと問えば、また動揺を見せながら「26歳になったから」と誤魔化すように話す。

(妙な反応だし、様子がおかしい気がするな。会ってなかった間に何かあったんだろうか?)

今までになかった由美ちゃんの反応に俺は少し違和感を感じた。

「あ、そういえばさ、モンエクって前にアニメともコラボしてたの?」

由美ちゃんは話題を変えたかったのか突然モンエクのことを話し出す。

アニメとコラボしたのは事実だが、あれは1年半前くらいのことだ。

確か由美ちゃんは今回のコラボ案件の仕事をきっかけにモンエクをやり出したって言ってたし、アニメが好きだという話は聞いたことがない。

おそらく誰かから聞いた話なのだろうと察して軽い気持ちでそれを聞いてみた。

「誰かから聞いたの?」

「あ、うん、そう!」

「へぇ、ちなみに誰に?」

「‥‥えっと、誰だったかなぁ~?忘れちゃった!あはは!」

由美ちゃんはまた誤魔化すようにわざとらしくとぼけて見せた。

その瞬間に、これは男だなと直感的に感じた。

というのも、そのアニメは男性人気が高いアニメなのだ。

それでさっき感じた違和感の意味も分かった気がする。

つまり由美ちゃんのこの外見の変化もその男が関係しているのだろう。

由美ちゃんに男の影を感じ、なぜか俺はジリジリとした焦燥感に襲われる。

(なんで俺、こんなに焦りを感じてるんだろう?由美ちゃんに推し以外に興味が持てる人ができることは喜ばしいことのはず。なのになんで素直に喜べないんだろう)

自分の感情がよく分からず、何かを誤魔化すように平然を装い、いつも通りに由美ちゃんと飲む。

由美ちゃんも何かを振り切るようにわざと明るく話しているように感じたのは気のせいだろうか。

由美ちゃんがお手洗いに席を立った時、少し足元が危なげだったので、反射的に手を伸ばして腕を掴む。

掴んだその腕に女性らしい柔らかさを感じて、俺は内心動揺する。

由美ちゃんが女性だということを改めて知らしめられた感じがしたのだ。

(恋愛対象にしたくないのに、こんなふうに女性を感じてしまうと嫌でも意識してしまうじゃないか‥‥)

由美ちゃんは礼を言うとそそくさとお手洗いへ駆け込んだ。

その姿を見て俺もはぁとため息を漏らす。

特に今日の由美ちゃんは服装やメイクも女の子らしくてつい意識してしまいがちなのに、さらにあの柔らかさを感じてしまい、完全に女性として見てしまっている。

気軽に話せて冗談も言えるような飲み友達としてのこの関係を由美ちゃんも望んでるはずだし、こんなふうに見てしまうのは罪悪感を少し感じる。

(しかも他の男を想ってキレイにしてるわけだしな‥‥。推し以外に興味が出たって喜ばしいことなのに喜んであげられていないのもひどいよな)

由美ちゃんがお手洗いに行っていて1人の間、俺は頭を抱えるようにしてグルグルと思考を彷徨わせた。



そんなことがあった翌週の金曜日。

あれ以来、俺はずっと出口の見えない思考の闇に飲み込まれている。

由美ちゃんに男の影を感じてなぜ焦燥感を感じているのか、推し以外に興味が出たのをなぜ喜んであげれないのか。

そして由美ちゃんに女を感じてしまってなぜこんなに動揺しているのか。

今は普通に笑って話せる自信がなくて、特に忙しいわけでもないが今週は由美ちゃんと約束はしていなかった。

仕事が終わって家に帰り、ソファーに身を沈めてため息を吐いていると姉から電話がかかってくる。

俺はため息を飲み込み、あたかも普通の様子を取り繕って通話ボタンを押す。

「もしもし、姉ちゃんどうしたの?」

「あ、蒼太?ちょっと連絡事項があってね」

そう言って姉は実家の両親に関することを俺に報告してくれる。

大したことではなかったので俺は相槌をうちながら、頭の中で言われたことを記憶した。

ひと通り連絡事項が終わると、「そういえば」と姉は今思い出したかのようにポツリとつぶやいた。

「最近由美ちゃんと会ったりした?悩んでるみたいだから心配だったんだけど蒼太は何か聞いてる?」

姉が口走った由美ちゃんが悩んでるという事実は意外な話だった。

この前会った時に男の影は感じたが悩んでいる素振りはなかったからだ。

その話が気になって、もう少し姉から聞き出そうと俺はさも知ってるふうを装う。

「あぁ聞いた聞いた。悩んでたね」

「でしょ?明日のデート大丈夫かな。まだ結論出せないなら前に進んでみればって私は話しちゃったけど良かったのかなって思う部分もあって」

どうやら由美ちゃんは明日デートらしい。

(由美ちゃんがデート!?彼氏ができたってことか!?)

驚いて一瞬固まってしまう。

そしてどんどん焦燥感が増していく。

居ても立っても居られず、俺は知ってる風で言葉巧みに姉からさらに話を聞き出していく。

どうやら相手から好意を寄せられているものの由美ちゃんはまだ迷ってるそうだ。

つまりまだ付き合ってはいない状態だ。

(まだ彼氏ではなかった‥‥!)

だけど由美ちゃんは思うところがあり、前に進みたいという気持ちがあるようだ。

もしかして友人から色々言われて、推し活だけじゃなく恋愛にも興味持たないとって焦って前に進もうとしてるんじゃないだろうか。

過去の会話でそんなことを話した記憶があった俺は、前に進みたいという由美ちゃんに心当たりがあった。

(いやいや、由美ちゃん!そんな無理やりに前に進もうとしなくていいって!身を委ねてみたらとか姉ちゃんもなんてアドバイスしてんだよ!このままいけば、由美ちゃんがその男と本当に付き合っちゃうかもしれないじゃん!)

由美ちゃんが他の男と付き合うのは嫌だ、取られたくない、そう本能的に思った。

つまりはそういうことだったのだ。

俺がここ数日グルグル考えていたこと、それの答えが出た瞬間だった。

由美ちゃんとの心地よい関係が壊れるのが怖くて、恋愛対象にしたくなかっただけで、とっくに女性として特別な存在だったのだ。

思い返せばずっとそうなのだ。

あんなに一緒にいて楽しいのも、面白いのも、自然に笑えるのも、友達とか関係なく、由美ちゃんだからだった。

シスコンを理由にいつもフラれる俺だけど、姉を大切にしていることを理解してくれるのも由美ちゃんだけだった。

察しが良いとよく人から言われるが、自分自身についての察しの悪さに自嘲の笑みが漏れる。

他の男に取られそうな今、恋愛対象にしたくないとか思ってる場合じゃない。

これからも俺の隣にいて欲しいから俺のものにしたい。


「姉ちゃん、そのデートって明日何時にどこ行くか知ってる?」

「確か六本木の映画館になったって言ってたかな。時間はお昼過ぎみたいだから13時だと思うよ。そんなこと聞いてどうしたの?」

「いや、気にしないで。また連絡するよ、じゃあね」

聞き出すだけ聞き出して俺は電話を切った。


自分の気持ちを自覚し、明日の情報を仕入れた今、俺がやることは一つだろう。

由美ちゃんも以前冗談めいて告白みたいなことをしてくれたのだから、俺にマイナスな感情は持っていないはずだ。

思考の闇から抜け出した俺は、クリアになった頭脳で今度は明日の予定を立てだしたのだったーー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...