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♯17
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4月末になると、私の推しである百合さんは、ゴールデンウィークに数日有休をプラスして、海外挙式と新婚旅行へ旅立った。
2人はすでに入籍しているけど、結婚式はまだあげていなかったのだ。
プロポーズをされたニューヨークで2人だけで結婚式をするらしい。
なんてロマンティックなんだと聞いた時には身悶えたものだ。
百合さんはそれだけで良かったらしいのだが、やはりそこは創業者一族の大塚家の事情もあり、5月末には日本で披露宴も予定されている。
私には創業者一族の事情なんて全く分からないが、どうやら親族や取引先へのお披露目や挨拶とかが必要らしい。
「百合さんも大変だよね。なんだか緊張しそう‥‥!」
いつものようにカウンターで一緒に飲んでいた蒼太くんに私は思わず漏らす。
明日からゴールデンウィークだ!と世の中が浮き足立つ今日、私と蒼太くんは仕事終わりにあのダイニングバーで飲んでいた。
「まぁ亮祐さんは大塚家の一人息子だししょうがないんじゃない?ちゃんと国内でお披露目することで、亮祐さんに群がってくる女への牽制にもなるだろうしさ」
「百合さんという妻がいるのに、それでも寄っていく女性の心理が分からないっ!」
「大塚家の御曹司だし、桁違いなあの容姿だから、既婚者になっても関係ないって女が一定数はいるんだよ。亮祐さんは全然相手にしてないけどさ」
蒼太くんは仕方がなさそうに話しながらも、その目には姉を心配する色が浮かんでいた。
うちの会社の亮祐常務は、確かに類い稀なる端正な顔立ちで、スタイルも良く、常務に就任するため会社に入社してきた時には社内中が大騒ぎだったものだ。
「由美ちゃんも5月の披露宴は招待されてるの?」
「そうだよー!推しのウエディングドレス姿が見られるなんて私は幸せすぎて死んじゃいそうだよ!!」
百合さんがどんなドレスを着るのか想像するだけで楽しい。
どんなドレスも絶対似合うし、女神度がさらに増すに違いない。
「ははっ、由美ちゃん顔が緩みすぎ」
蒼太くんはそんな私を見て、小さく吹き出した。
こうして推しの話をしている時は、気持ちが紛れるのか蒼太くんとも普通に話せる気がする。
蒼太くんから「彼女ができた」とか「告白された」とかを聞いて苦しみたくない私は、絶対に恋愛方面の話にならないように細心の注意を働かせながら会話をしていた。
蒼太くんも特にそういう話は話題に出さず、打ち上げで植木さんが言っていたことも本人は何も言わなかった。
こんなふうに蒼太くんと定期的に飲みに行き、好きな気持ちを抑えて平然を装う日々が続いた。
そうして迎えた5月末の百合さんの結婚披露宴の日。
私は朝から美容院でヘアメイクをしてもらい、気合い十分で挑む。
場所は横浜にあるラグジュアリーホテルだった。
私と百合さんの上司である、広報部の安西部長と駅で待ち合わせて一緒に向かうことになっている。
待ち合わせ場所では、安西部長が40代の子持ちとは思えない艶やかな美魔女っぷりで佇んでいて、思わず目を奪われた。
「安西部長、今日はいつも以上にお美しい~!!」
「あら、ありがとう。高岸さんも今日はばっちりメイクしてるじゃない。素敵よ」
「なんせ百合さんの結婚式ですからねっ!女神の催す披露宴に少しでもふさわしくと思いまして!」
「高岸さんらしいわね。さぁ行きましょう」
安西部長は口元に手を当ててクスクスと笑いながら、ホテルへと歩みを進める。
こんな仕草も絵になる人だなと思ったし、「うちの広報部レベル高すぎでしょ!天国か!」と心の中で騒ぎまくった。
披露宴会場の受付では、新婦側の受付に蒼太くんと百合さんの同期の響子さんがいた。
「今日は気合い入ってるね。由美ちゃん、ここにご記帳お願いします。あとこれ席次表ね」
蒼太くんは私を見つけるとニヤッと笑い、そして受付を促した。
席次表を見ると、さすが大塚家の披露宴だと思わされるくらい結構な人数が招待されているようだ。
「由美ちゃん、あっちの方にあるウェルカムボードでニューヨークで撮った姉ちゃんの写真見れるよ」
「うそ!チェックしなきゃ!」
受付を済ませると、蒼太くんからはそんな嬉しい情報をささやかれる。
私が目を輝かせると、蒼太くんもなぜか嬉しそうに顔を綻ばせていた。
私は安西部長を連れ立って受付近くのウェルカムボードをさっそく見に行く。
そこにはニューヨークの名所で撮られた百合さんと亮祐さんの写真が飾られていて、見目麗しい2人のそれはまるでモデルのようだ。
見ている人たちも感嘆のため息を漏らしていた。
「とっても素敵な写真よね。2人は絵になるわね~」
安西部長もうっとりと写真を眺めている。
「そういえばさっき受付してくれた男性って並木さんの弟さん?高岸さん知り合いなの?」
「あ、はい!モンエクのコラボの件あったじゃないですか。あの時の相手側の担当だったんですよ」
「あぁ、そういえば並木さんからそう聞いたかも。なるほど、あれが弟さんなのねぇ。並木さんと同じく、彼も目を惹く人ね~」
そう言って安西部長は受付にいる蒼太くんに視線を向ける。
つられて私も蒼太くんを見れば、受付で招待客から熱い視線を送られている最中だった。
招待客の女性は熱のこもった眼差しを蒼太くんへ向けている。
よく見ればその女性だけでなく、周囲にいる女性たちもチラチラと彼を盗み見ていて、獲物を狙うような眼差しだ。
そんな様子を見ると、ここにいる誰かが蒼太くんの彼女になるのかもしれないなと想像し、思わずズキッと胸が微かに痛んだ。
披露宴が始まると、私の視線は百合さんに終始釘付けだった。
まさに女神が地上に舞い降りたと表現するのがふさわしい麗しさで、スマホで写真を撮る手が止まらない。
ベアトップでマーメイドラインのドレスは、百合さんのほっそりとした身体を引き立てていて、とっても似合っている。
亮祐常務が「こんな綺麗な百合さんを他の男には見せたくない!」と言わんばかりの表情をしている気がするのは私の気のせいだろうか。
でもその気持ち分かるよ!と心の中で勝手に共感する。
途中でお色直しもあって、披露宴は百合さんの女神っぷりを堪能するのには最高のもので、私は大満足であった。
最高に心が満たされた約2時間の披露宴が終わり、感嘆のため息を吐きながら席を立とうとすると、そこでふと蒼太くんが女性に話しかけられているのが目に飛び込んできた。
披露宴も終わり、女性はなんとか蒼太くんの連絡先を聞こうと、蒼太くんの腕に手を伸ばして甘えるような仕草をしている。
最高の気分だった気持ちが、シュッと消えていき、今度はドス黒い気持ちが漂い始める。
(蒼太くんが女の子に声をかけられているところなんて見たくない‥‥!だって、完全に対象外な私と違って、これをキッカケにあの子との恋愛が始まるかもしれない。そんなの見たくも、知りたくもない‥‥!)
飲み友達以上に見られていない私にとって、蒼太くんが女の子と一緒にいるのを見るのはとてもツラかった。
そっと視線を外し、極力意識を向けないようにして私は会場を出る。
さっきまでの幸せな気分を取り戻そうと、スマホを取り出して披露宴の最中に激写しまくった百合さんの写真を眺める。
だけど、百合さんはこんなに写真でも麗しいはずなのに、なぜか心がウキウキしてこない。
いつもならすぐに回復できるのに、脳裏にはさっきの2人の様子がチラつくのだ。
(あんなふうに可愛く甘えられたら蒼太くんだってドキッとしちゃうよね‥‥。恋愛対象として見ちゃうよね‥‥)
「高岸さん?顔色悪いけどどうしたの?大丈夫?」
ふいに安西部長から声をかけられて我にかえる。
そうだ、ここは自分の部屋ではなく、結婚披露宴終わりのホテルなのだ。
「百合さんの美しさに胸がいっぱいですし、それになんだか食べ過ぎちゃったみたいです!」
痛む胸を抑え、私は明るい笑顔を浮かべる。
安西部長は、はしゃぎ疲れた子供を見るような表情でやれやれと私を見て、眉を下げた。
「興奮しすぎよ~。その気持ちは分かるけどね。じゃあ早めに帰りましょう」
「そうですね!」
ピンヒールを鳴らして歩き出す安西部長の後ろを追いかけて、私も歩き出す。
ドス黒く染まった気持ちには必死に蓋をして、漏れ出さないように気をつけながらーー。
2人はすでに入籍しているけど、結婚式はまだあげていなかったのだ。
プロポーズをされたニューヨークで2人だけで結婚式をするらしい。
なんてロマンティックなんだと聞いた時には身悶えたものだ。
百合さんはそれだけで良かったらしいのだが、やはりそこは創業者一族の大塚家の事情もあり、5月末には日本で披露宴も予定されている。
私には創業者一族の事情なんて全く分からないが、どうやら親族や取引先へのお披露目や挨拶とかが必要らしい。
「百合さんも大変だよね。なんだか緊張しそう‥‥!」
いつものようにカウンターで一緒に飲んでいた蒼太くんに私は思わず漏らす。
明日からゴールデンウィークだ!と世の中が浮き足立つ今日、私と蒼太くんは仕事終わりにあのダイニングバーで飲んでいた。
「まぁ亮祐さんは大塚家の一人息子だししょうがないんじゃない?ちゃんと国内でお披露目することで、亮祐さんに群がってくる女への牽制にもなるだろうしさ」
「百合さんという妻がいるのに、それでも寄っていく女性の心理が分からないっ!」
「大塚家の御曹司だし、桁違いなあの容姿だから、既婚者になっても関係ないって女が一定数はいるんだよ。亮祐さんは全然相手にしてないけどさ」
蒼太くんは仕方がなさそうに話しながらも、その目には姉を心配する色が浮かんでいた。
うちの会社の亮祐常務は、確かに類い稀なる端正な顔立ちで、スタイルも良く、常務に就任するため会社に入社してきた時には社内中が大騒ぎだったものだ。
「由美ちゃんも5月の披露宴は招待されてるの?」
「そうだよー!推しのウエディングドレス姿が見られるなんて私は幸せすぎて死んじゃいそうだよ!!」
百合さんがどんなドレスを着るのか想像するだけで楽しい。
どんなドレスも絶対似合うし、女神度がさらに増すに違いない。
「ははっ、由美ちゃん顔が緩みすぎ」
蒼太くんはそんな私を見て、小さく吹き出した。
こうして推しの話をしている時は、気持ちが紛れるのか蒼太くんとも普通に話せる気がする。
蒼太くんから「彼女ができた」とか「告白された」とかを聞いて苦しみたくない私は、絶対に恋愛方面の話にならないように細心の注意を働かせながら会話をしていた。
蒼太くんも特にそういう話は話題に出さず、打ち上げで植木さんが言っていたことも本人は何も言わなかった。
こんなふうに蒼太くんと定期的に飲みに行き、好きな気持ちを抑えて平然を装う日々が続いた。
そうして迎えた5月末の百合さんの結婚披露宴の日。
私は朝から美容院でヘアメイクをしてもらい、気合い十分で挑む。
場所は横浜にあるラグジュアリーホテルだった。
私と百合さんの上司である、広報部の安西部長と駅で待ち合わせて一緒に向かうことになっている。
待ち合わせ場所では、安西部長が40代の子持ちとは思えない艶やかな美魔女っぷりで佇んでいて、思わず目を奪われた。
「安西部長、今日はいつも以上にお美しい~!!」
「あら、ありがとう。高岸さんも今日はばっちりメイクしてるじゃない。素敵よ」
「なんせ百合さんの結婚式ですからねっ!女神の催す披露宴に少しでもふさわしくと思いまして!」
「高岸さんらしいわね。さぁ行きましょう」
安西部長は口元に手を当ててクスクスと笑いながら、ホテルへと歩みを進める。
こんな仕草も絵になる人だなと思ったし、「うちの広報部レベル高すぎでしょ!天国か!」と心の中で騒ぎまくった。
披露宴会場の受付では、新婦側の受付に蒼太くんと百合さんの同期の響子さんがいた。
「今日は気合い入ってるね。由美ちゃん、ここにご記帳お願いします。あとこれ席次表ね」
蒼太くんは私を見つけるとニヤッと笑い、そして受付を促した。
席次表を見ると、さすが大塚家の披露宴だと思わされるくらい結構な人数が招待されているようだ。
「由美ちゃん、あっちの方にあるウェルカムボードでニューヨークで撮った姉ちゃんの写真見れるよ」
「うそ!チェックしなきゃ!」
受付を済ませると、蒼太くんからはそんな嬉しい情報をささやかれる。
私が目を輝かせると、蒼太くんもなぜか嬉しそうに顔を綻ばせていた。
私は安西部長を連れ立って受付近くのウェルカムボードをさっそく見に行く。
そこにはニューヨークの名所で撮られた百合さんと亮祐さんの写真が飾られていて、見目麗しい2人のそれはまるでモデルのようだ。
見ている人たちも感嘆のため息を漏らしていた。
「とっても素敵な写真よね。2人は絵になるわね~」
安西部長もうっとりと写真を眺めている。
「そういえばさっき受付してくれた男性って並木さんの弟さん?高岸さん知り合いなの?」
「あ、はい!モンエクのコラボの件あったじゃないですか。あの時の相手側の担当だったんですよ」
「あぁ、そういえば並木さんからそう聞いたかも。なるほど、あれが弟さんなのねぇ。並木さんと同じく、彼も目を惹く人ね~」
そう言って安西部長は受付にいる蒼太くんに視線を向ける。
つられて私も蒼太くんを見れば、受付で招待客から熱い視線を送られている最中だった。
招待客の女性は熱のこもった眼差しを蒼太くんへ向けている。
よく見ればその女性だけでなく、周囲にいる女性たちもチラチラと彼を盗み見ていて、獲物を狙うような眼差しだ。
そんな様子を見ると、ここにいる誰かが蒼太くんの彼女になるのかもしれないなと想像し、思わずズキッと胸が微かに痛んだ。
披露宴が始まると、私の視線は百合さんに終始釘付けだった。
まさに女神が地上に舞い降りたと表現するのがふさわしい麗しさで、スマホで写真を撮る手が止まらない。
ベアトップでマーメイドラインのドレスは、百合さんのほっそりとした身体を引き立てていて、とっても似合っている。
亮祐常務が「こんな綺麗な百合さんを他の男には見せたくない!」と言わんばかりの表情をしている気がするのは私の気のせいだろうか。
でもその気持ち分かるよ!と心の中で勝手に共感する。
途中でお色直しもあって、披露宴は百合さんの女神っぷりを堪能するのには最高のもので、私は大満足であった。
最高に心が満たされた約2時間の披露宴が終わり、感嘆のため息を吐きながら席を立とうとすると、そこでふと蒼太くんが女性に話しかけられているのが目に飛び込んできた。
披露宴も終わり、女性はなんとか蒼太くんの連絡先を聞こうと、蒼太くんの腕に手を伸ばして甘えるような仕草をしている。
最高の気分だった気持ちが、シュッと消えていき、今度はドス黒い気持ちが漂い始める。
(蒼太くんが女の子に声をかけられているところなんて見たくない‥‥!だって、完全に対象外な私と違って、これをキッカケにあの子との恋愛が始まるかもしれない。そんなの見たくも、知りたくもない‥‥!)
飲み友達以上に見られていない私にとって、蒼太くんが女の子と一緒にいるのを見るのはとてもツラかった。
そっと視線を外し、極力意識を向けないようにして私は会場を出る。
さっきまでの幸せな気分を取り戻そうと、スマホを取り出して披露宴の最中に激写しまくった百合さんの写真を眺める。
だけど、百合さんはこんなに写真でも麗しいはずなのに、なぜか心がウキウキしてこない。
いつもならすぐに回復できるのに、脳裏にはさっきの2人の様子がチラつくのだ。
(あんなふうに可愛く甘えられたら蒼太くんだってドキッとしちゃうよね‥‥。恋愛対象として見ちゃうよね‥‥)
「高岸さん?顔色悪いけどどうしたの?大丈夫?」
ふいに安西部長から声をかけられて我にかえる。
そうだ、ここは自分の部屋ではなく、結婚披露宴終わりのホテルなのだ。
「百合さんの美しさに胸がいっぱいですし、それになんだか食べ過ぎちゃったみたいです!」
痛む胸を抑え、私は明るい笑顔を浮かべる。
安西部長は、はしゃぎ疲れた子供を見るような表情でやれやれと私を見て、眉を下げた。
「興奮しすぎよ~。その気持ちは分かるけどね。じゃあ早めに帰りましょう」
「そうですね!」
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