初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

美並ナナ

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年が明け、新しい年がやってきた。

年末は実家に帰省してひたすらゴロゴロして過ごした私だが、年始は初詣に利々香と千賀子と来ている。

年始の神社は私たちと同じように初詣に来る人でとても混んでいた。

長蛇の列に並び、お参りを済ませると、人混みを避けるように私たちは早々に神社をあとにして、近くのカフェに駆け込んだ。


「ねぇ、利々香と千賀子、さっきのお参りの時だけど、ものすごく真剣に祈ってなかった?なにをあんなにお願いしてたの?」

席に着いて飲み物が届くやいなや、私は気になっていたことを2人に尋ねる。

神社の境内でお参りをしている時、私が参拝を終えて顔を上げると、まだ2人は真剣に手を合わせていたのだ。

「私は推しのコンサートチケットの抽選が当たりますようにってお願いしてたの。今年は周年イヤーで盛り上がるだろうからチケットが取りにくくなりそうなんだよね」

なるほど、千賀子は推しのアイドル関連のことだったようだ。

千賀子らしい内容に納得である。

「私は素敵な彼氏ができますよーにってお願いしたのよ。だってクリスマス前に合コン行ったり、マッチングアプリやったり色々頑張ったのに、全然だったんだからっ!」

どうやら利々香はクリスマス前の彼氏作りが不発に終わったらしい。

利々香はオシャレで可愛い今どきの女の子だから、たぶん好意を寄せてくれる男性はいたのだろうけど、なにぶん利々香は理想が高いのだ。

「由美は?」

「私は今年も有意義な推し活が楽しめますようにってお願いしたよ~!」

ぜひ今年も充実した推し活ライフを送りたいものである。

それに蒼太くんからも推しの情報を昨年以上に引き出したいと目論んでいる。

「千賀子の推しは男だから理解できるんだけどさ、由美は会社の同性の先輩でしょ?今年こそ由美は男にも目を向けるべきだと思うよ」

利々香はいつも通り、呆れた眼差しを私に向けてきた。

「私には私のペースがあるの!それにね、昨年から私の推し活を後押しする情報源も得られたし、ますます充実すること間違いなしなんだもんね!」

「情報源?なにそれ?」

「実は推しの弟と知り合ったの。推しの弟とか、身内にしか知らない情報を得るのにぴったりでしょ!」

私はえっへんと自慢するように胸を張って見せた。

「推しの弟ってことは‥‥男っ!?」

利々香は私の意図するところとは違うことに反応して目を輝かせる。

「うそうそ!由美から男の話題が出るなんて新鮮~!どんな人なの?」

「察しの良い人かな。私の推しの話にも引かないし。それに気を使わずに話せるからめっちゃ楽だよ」

「私が聞きたかったのはスペックなんだけど。ほら、外見とか、仕事とか、年齢とかさ」

「えーと、仕事はIT企業の営業で、年齢は1つ上、外見は私の推しの弟だけあって整ってるしイケメンかな~」

どんな人と聞かれて私は性格を話したけど、利々香が知りたかったことは違ったらしい。

私は利々香に聞かれた、いわゆるスペックについて答えていく。

答えるたびに利々香の目が爛々と輝いていくのは気のせいだろうか。

「なにそれ、なにそれーー!!超羨ましいんだけどっ!!え~イケメンいいなぁ!で、いい感じなの?」

「いい感じって?」

「デートしたりとか、付き合ったりする雰囲気かってことっ!」

なんでも恋愛に結び付けたがる利々香らしいといえば利々香らしいけど、斜め上のことを問われ、一瞬フリーズしてしまった。

「いや、だから推しについての情報源ってだけでそういうのじゃないんだって!なんていうか、気軽な飲み友達だよー!」

本当にそういうのではお互いないのだ。

私が恋愛する気になれば誰か紹介してあげると言われるくらいだから、蒼太くんからも絶対にそういう対象に見られていないのは明らかだ。

「本当に~?その人のことを考えるとドキドキしたり、胸がギューってしたり、一緒にいると嬉しかったり、キュンとしたりしない?」

「しない」

まだ疑わしげだったので、私はバッサリと言い捨てる。

「じゃあそのイケメン、私に紹介してよ!」

「それはなんか嫌だ!」

なぜか分からないけど、なんとなく蒼太くんを利々香に紹介はしたくなかった。

私は即座に拒否する。

「なんで?彼女がいるとか?」

「今はいないはずだけど」

確かに蒼太くんに彼女は今いないから、別にダメな理由なんてないはずだ。

でも、なんか、なんか嫌なのだ。

(きっと、せっかくできた気軽に話せる飲み友達を恋愛のゴタゴタに巻き込みたくないんだ!職場でも最近は女関係が大変って言ってたもんね‥‥!)

そう思い至り、自分が拒否した理由に納得する。

「なんか女性関係で色々苦労してるらしいから、そういう紹介とかは声かけづらいんだよ。推しの弟だから迷惑かけたくないしさ。だからごめんね!」

私は手を合わせてごめんねポーズで利々香に言い聞かせるように伝える。

利々香は何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだようでそれ以上は何も言わなかった。

それから私たちはカフェを出て、ショッピングセンターでの初売りに向かう。

アパレル店員の利々香は、本来年始はセールで忙しいのだが、今年は交代でスタッフが年始に休みを取っているそうだ。

働き方改革の恩恵を受けているらしい。


「今日は現役アパレル店員の私が、2人の洋服を見繕ってあげるからねー!」

センスの良い利々香に服を選んでもらえるのはラッキーだ。

こうして女友達と服を買い行く機会もそうそうないので、私は素直に選んでもらうことにした。

「私はコンサートに行く時に着ていく服が欲しいな~」

千賀子がそうリクエストすると、利々香はそれに応じた服を見繕い始める。

その目はプロの眼差しでとってもカッコいい。

もともと服が好きで、センスも良くって、こういふうに人に選んであげることも好きな利々香にとってアパレル店員という仕事はぴったりだ。

千賀子の服を選び終えると、今度は私の服を選ぶことになった。

私も千賀子のように「会社に着ていく服が欲しい」とリクエストしようとしたが、その前に利々香はすでに選び終わってしまったようだ。

「え、私のリクエストは?」

「由美はデートに着ていく服って決まってるからダメ~!はい、これなんてどう?」

そう言って普段私が自分では選ばないであろうワンピースを差し出してくる。

「デートって、そんな予定ないのに!」

「いつ予定が入るかなんて分かんないでしょー?いいじゃない、1着くらい持っとけば?」

「利々香の言う通りだと私も思うよ。そのワンピースならジャケット着れば仕事でも使えるんじゃない?」

千賀子まで加勢してきて、それに仕事でも使えると言われれば断る理由はなかった。

(新しい年を迎えたばかりだし、たまには普段着ないこんなワンピースも買っちゃうか!)


デートの予定なんて全くないけど、私は年始というどこか浮かれ気分な時期なのも相まって、利々香おすすめの服を購入することにした。

まさかこのワンピースがそのあとすぐ活躍することになるとはこの時思いもしなかったーー。

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