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あのサークル飲み会から数日後の、10月半ばのある日。
朝出社すると、私の推しである百合さんはいつものように新聞やネットニュース、SNSをデスクでチェックしていた。
百合さんは朝のルーティンとして、少し早めに出社して、自社の情報についての各媒体での露出状況を確認をしているのだ。
もちろん百合さんを見習って私も早めに出社するようになったのは言うまでもない。
百合さんは私には気付くとパソコンから顔を上げた。
「おはよう、由美ちゃん。出社して早々で申し訳ないんだけど、ちょっとだけ時間ある?あ、全然仕事とかじゃないんだけどね」
「百合さんのお呼びなら喜んで!!」
嬉々として頷く私を見て、百合さんもあの可憐な微笑みを浮かべる。
(それにしても仕事じゃないってなんだろう?)
少し疑問に思いながら、近くの空いている会議室に向かう百合さんの後ろに続いた。
今日の百合さんも相変わらずキレイだ。
百合さんが纏う、花のような甘く優しい、やわらかな香りが鼻をかすめ、うっとりしてしまう。
会議室に2人きりになると、百合さんはその形の良い唇を開き、用件を話し出した。
「朝からごめんね。誰かから聞く前に由美ちゃんには私から話しておきたいなと思って。あの、実はね、昨日入籍したの」
「えええっ!入籍ですかーー!!つまり結婚したってことですかーーー!!」
突然の話に私は大絶叫だ。
私には自分から話したいなんて言ってもらえて、推し冥利につきるというか、それにも大興奮である。
確かに百合さんはここ1年くらいで、花が開くように美しさがさらに増して、いい恋してるんだろうな~とは思ってたけども!
いつの頃からか左手の薬指に指輪が光っていたけれども!
でもでも、いっつも彼氏の話ははぐらかされて、曖昧に微笑んで誤魔化されていたのだ。
なんかワケありなのかな?と思ってたのに、それがいきなり結婚とは驚きだった。
「お相手はどんな方なんですか!?いつもなかなか教えてくださらなかったけど、聞いちゃっていいですか!?」
結婚までしたのなら教えてくれるのではと期待を込めて百合さんを見つめる。
すると百合さんは頬を少し赤く染めて恥ずかしそうにしながら話してくれた。
「いつも誤魔化してばっかりでごめんね。相手がね、大塚亮祐さんなの。だから言えなくて、結婚するまでは秘密にしてたの」
「えええー!亮祐常務なんですかーー!!」
大塚亮祐は、我が社の創業者一族である御曹司だ。
ちょうど昨年の今頃にアメリカから日本に帰国し、常務の地位に就任して海外事業を統括している。
亮祐常務は社内でも有名人なのだが、彼がそうなのは仕事ができることや地位だけでなく、その容姿がずば抜けているからだ。
その容姿の端麗さから、常務に就任した時から今現在までも女性社員には大人気で、ハンターのごとく彼を狙っている。
(さすが百合さん!まさか亮祐常務をゲットしてたなんて!!)
それにしても、これまで仕事の関係で何度も2人が話している場面に居合わせたことがあるが、百合さんと亮祐常務にそんな雰囲気は全くなかった。
「経済界で注目のイケメン特集」という女性誌の特集で亮祐常務がインタビューされることになった時に、百合さんと一緒に立ち合ったことを思い出す。
あの時も、女性誌の担当ライターさんが亮祐常務にデレデレだったけど、百合さんは特に動揺することなくいつも通りだったような。
そういえばあの時、ライターさんに個人の連絡先を書いた名刺を無理やりポケットに突っ込まれた亮祐常務が、なぜかわざわざ私たちの目の前で名刺を取り出して私に「捨てといて」と渡してきたなぁ。
もしかしてあれは百合さんに浮気を疑われないようにしてたのか?と、不思議に思った行動が今になって腑に落ちた。
あぁ、それに百合さんがますますキレイになったのもここ1年くらい、つまり亮祐常務が常務に就任したあたりくらいからだ。
(うっわぁ~!思い返せば色々繋がってくるかも!なんせ私は推しである百合さんをずっとウォッチしてきたのだから!!)
実は百合さんと亮祐常務の組み合わせは、私の中でお似合いだったので勝手に推していた。
なので、この結婚は驚きだったけど、すごくしっくり来て嬉しいものだった。
「大々的に発表とかをするつもりはないんだけど、たぶん漏れ伝わるのも時間の問題かなと思って。だから由美ちゃんには事前に自分で報告しておきたかったの」
「それはめっちゃ嬉しいです!てか、たぶんその話はすぐ社内で駆け巡ると思いますよ。それこそ今日中とかにでも」
「さすがにそんなにすぐはないんじゃないかな?」
「いえ、百合さん。亮祐常務の人気度を舐めたらダメですよ。しかも相手が百合さんとなると、さらに拍車がかかるのは間違いないですね」
その私の予想は大当たりだった。
その日の午前中には、亮祐常務と百合さんが結婚したニュースが社内で駆け巡ったのだ。
ランチ時間の社員食堂は、その話で持ちきりだし、女子トイレや休憩室でも口々に女性社員が悲鳴を上げていた。
亮祐常務を狙っていた女性からは、「信じられない」「うそでしょー!」「いつの間に!?」という声が響くが、一方で相手が百合さんだということで文句を言う人はいない。
まぁ並木さんならしょうがないよねっていう雰囲気に包まれていた。
さすが私の推しだ!
百合さんは思った以上に早く噂になったことに驚き、居心地の悪そうな様子だった。
私は百合さんをランチに誘って、外で気分転換をすることを提案した。
百合さんは喜んで頷いてくれる。
ちょうど百合さんの同期からもお誘いがあったようで、私たちは一緒にランチに行くことになった。
お昼になると財布を持って席を立つ。
百合さんと一緒にオフィスを出て、会社から少し離れた隠れ家のようなハンバーグ屋さんに私たちは向かった。
お店に入ると先に席に着いていたのは、百合さんの同期で総務部の響子さんだ。
「ちょっとちょっと。百合、社内がすごいことになってるんだけどー!」
「うん、私もこんなに早く噂になるとは思ってなくてビックリしてる‥‥」
響子さんも事前に聞いていたらしい。
事前にと言っても、私より少し早いくらいのタイミングだったらしく、やっぱり相手には相当驚いたとのことだった。
「ねぇ、なんでこんなに早く噂が広まってるか百合と由美ちゃんは知ってる?」
「え?何かキッカケがあるんですか?」
さすが社内の情報通の響子さんだ。
なんでもお見通しという感じで、いつも社内情報を得るときにはお世話になっている。
「実はね、亮祐常務が今日左手の薬指に指輪をして来たのがキッカケらしいのよ。それを見た秘書課の子たちがご本人に聞いてさ。で、亮祐常務が“結婚した。相手は百合”って嬉しそうに語ったらしいよ。それで秘書課の子経由で一気に広まったみたい」
「指輪‥‥」
その話を聞いて百合さんが小さくつぶやく。
「確かに百合は指輪してたけど、亮祐常務はしてなかったもんね」
「あれ?よく見れば百合さんの指輪、いつものやつと違ってませんか!?」
指輪の話題になって、私は百合さんの左手の薬指をガン見して気付いた。
いつものやつは石が付いていたけど、百合さんが今しているものは、そういった装飾はないシンプルなもので、その分細かいディテールが綺麗だ。
「あ、うん、そうなの。昨日入籍したから今日から結婚指輪に変えたの。亮祐さんも今日から結婚指輪をはめだしたんだけど‥‥。なるほど、それが目立ったんだね」
百合さんは納得したかのように深く頷いた。
私としては、亮祐常務が嬉しそうに語っているというのも気になる。
なんとなくだけど、亮祐常務とは百合さんについて一緒に語り合えそうだと思った。
「そういえば話変わるけど、今度うちの会社ってスマホゲームのモンスターエクスプローラーとコラボするんでしょ?広報部も何か関わってるの?」
しばらく百合さんの結婚話で盛り上がっていたが、響子さんがふと思い出したように話題を変えた。
モンスターエクスプローラー(通称モンエク)は、スマホで楽しめる若い世代を中心に人気のRPGゲームだ。
ゲーム内でキャラクターが体力を回復させる時のアイテムとして、食品会社である我が社が販売している商品がゲームで登場するというコラボをすることになったのだ。
「広報部では、そのコラボのプロモーションに携わることになってるよ。今度その会社の担当者と打合せもある予定なの。あ、由美ちゃんもね!」
私も先日聞いたので把握していた。
そのゲームは聞いたことがある程度で詳しくないから、打合せまでに調べなきゃと思っていたところだった。
「いいな~!私モンエク大好きなのよねぇ。だからうちの会社とコラボしてくれて嬉しいわ」
響子さんが目を輝かせている。
総務部だとこういう仕事に携わることはないそうで、羨ましそうだった。
「モンエクは確かによく出来たゲームだよね。私も前にやった時、思わず徹夜しちゃった」
「え!百合さんが!?ゲームとかするんですか!?」
意外な話だった。
百合さんはスマホでゲームとかしなさそうだし、実際そういう話は今まで聞いたことがない。
推しの新しい一面発見か!?と私はウキウキする。
「普段はゲームやらないんだけど、モンエクは弟が仕事で関わっててね。弟に無理やり勧められてやってみたらハマっちゃったの」
「そうそう!それで百合からその話聞いて、私もやってみてハマったんだよね~」
百合さんの弟さんが勧めたのか!
というか弟さんの話を聞くのもほぼ初めてかも。
「百合さんに弟さんがいるんですね。いくつ下なんですか?」
「私の2つ下だから、由美ちゃんの1つ上だと思うよ」
「仲良いんですか!?」
私が百合さんにすかさず質問すると、響子さんが楽しそうに笑いながらそこに割り込んできた。
「百合はねぇ、弟とめっちゃ仲良いのよ!しょっちゅう電話してるし、ごはん行ったりもしてるみたいだし。昨年の誕生日にはデパコスの口紅貰ってたしね。ね、由美ちゃん、どう思う?仲良すぎじゃない?」
「確かに仲良いですねー!私も弟いますけど、全く連絡とってないですよ」
きっと弟さんも百合さんの魅力に首ったけに違いない。
きっと亮祐常務と同じように、百合さんについて一緒に語れるだうなぁと思った。
「弟と言えば、今度そのコラボの打合せの時に、向こうの会社の担当者の1人として参加するらしいの。だから由美ちゃんも会うことになると思うけどよろしくね」
「え!弟さんと会えるんですかーー!わぁ~楽しみです!!」
私は興奮気味に前のめりになって答えた。
推しの弟に会えるなんてラッキーだ。
(百合さんについて語れるチャンスがあるといいな~。さすがに仕事だから難しいかな)
ワクワクする気持ちが湧き起こってきて、その日の午後は上機嫌で過ごした私だった。
朝出社すると、私の推しである百合さんはいつものように新聞やネットニュース、SNSをデスクでチェックしていた。
百合さんは朝のルーティンとして、少し早めに出社して、自社の情報についての各媒体での露出状況を確認をしているのだ。
もちろん百合さんを見習って私も早めに出社するようになったのは言うまでもない。
百合さんは私には気付くとパソコンから顔を上げた。
「おはよう、由美ちゃん。出社して早々で申し訳ないんだけど、ちょっとだけ時間ある?あ、全然仕事とかじゃないんだけどね」
「百合さんのお呼びなら喜んで!!」
嬉々として頷く私を見て、百合さんもあの可憐な微笑みを浮かべる。
(それにしても仕事じゃないってなんだろう?)
少し疑問に思いながら、近くの空いている会議室に向かう百合さんの後ろに続いた。
今日の百合さんも相変わらずキレイだ。
百合さんが纏う、花のような甘く優しい、やわらかな香りが鼻をかすめ、うっとりしてしまう。
会議室に2人きりになると、百合さんはその形の良い唇を開き、用件を話し出した。
「朝からごめんね。誰かから聞く前に由美ちゃんには私から話しておきたいなと思って。あの、実はね、昨日入籍したの」
「えええっ!入籍ですかーー!!つまり結婚したってことですかーーー!!」
突然の話に私は大絶叫だ。
私には自分から話したいなんて言ってもらえて、推し冥利につきるというか、それにも大興奮である。
確かに百合さんはここ1年くらいで、花が開くように美しさがさらに増して、いい恋してるんだろうな~とは思ってたけども!
いつの頃からか左手の薬指に指輪が光っていたけれども!
でもでも、いっつも彼氏の話ははぐらかされて、曖昧に微笑んで誤魔化されていたのだ。
なんかワケありなのかな?と思ってたのに、それがいきなり結婚とは驚きだった。
「お相手はどんな方なんですか!?いつもなかなか教えてくださらなかったけど、聞いちゃっていいですか!?」
結婚までしたのなら教えてくれるのではと期待を込めて百合さんを見つめる。
すると百合さんは頬を少し赤く染めて恥ずかしそうにしながら話してくれた。
「いつも誤魔化してばっかりでごめんね。相手がね、大塚亮祐さんなの。だから言えなくて、結婚するまでは秘密にしてたの」
「えええー!亮祐常務なんですかーー!!」
大塚亮祐は、我が社の創業者一族である御曹司だ。
ちょうど昨年の今頃にアメリカから日本に帰国し、常務の地位に就任して海外事業を統括している。
亮祐常務は社内でも有名人なのだが、彼がそうなのは仕事ができることや地位だけでなく、その容姿がずば抜けているからだ。
その容姿の端麗さから、常務に就任した時から今現在までも女性社員には大人気で、ハンターのごとく彼を狙っている。
(さすが百合さん!まさか亮祐常務をゲットしてたなんて!!)
それにしても、これまで仕事の関係で何度も2人が話している場面に居合わせたことがあるが、百合さんと亮祐常務にそんな雰囲気は全くなかった。
「経済界で注目のイケメン特集」という女性誌の特集で亮祐常務がインタビューされることになった時に、百合さんと一緒に立ち合ったことを思い出す。
あの時も、女性誌の担当ライターさんが亮祐常務にデレデレだったけど、百合さんは特に動揺することなくいつも通りだったような。
そういえばあの時、ライターさんに個人の連絡先を書いた名刺を無理やりポケットに突っ込まれた亮祐常務が、なぜかわざわざ私たちの目の前で名刺を取り出して私に「捨てといて」と渡してきたなぁ。
もしかしてあれは百合さんに浮気を疑われないようにしてたのか?と、不思議に思った行動が今になって腑に落ちた。
あぁ、それに百合さんがますますキレイになったのもここ1年くらい、つまり亮祐常務が常務に就任したあたりくらいからだ。
(うっわぁ~!思い返せば色々繋がってくるかも!なんせ私は推しである百合さんをずっとウォッチしてきたのだから!!)
実は百合さんと亮祐常務の組み合わせは、私の中でお似合いだったので勝手に推していた。
なので、この結婚は驚きだったけど、すごくしっくり来て嬉しいものだった。
「大々的に発表とかをするつもりはないんだけど、たぶん漏れ伝わるのも時間の問題かなと思って。だから由美ちゃんには事前に自分で報告しておきたかったの」
「それはめっちゃ嬉しいです!てか、たぶんその話はすぐ社内で駆け巡ると思いますよ。それこそ今日中とかにでも」
「さすがにそんなにすぐはないんじゃないかな?」
「いえ、百合さん。亮祐常務の人気度を舐めたらダメですよ。しかも相手が百合さんとなると、さらに拍車がかかるのは間違いないですね」
その私の予想は大当たりだった。
その日の午前中には、亮祐常務と百合さんが結婚したニュースが社内で駆け巡ったのだ。
ランチ時間の社員食堂は、その話で持ちきりだし、女子トイレや休憩室でも口々に女性社員が悲鳴を上げていた。
亮祐常務を狙っていた女性からは、「信じられない」「うそでしょー!」「いつの間に!?」という声が響くが、一方で相手が百合さんだということで文句を言う人はいない。
まぁ並木さんならしょうがないよねっていう雰囲気に包まれていた。
さすが私の推しだ!
百合さんは思った以上に早く噂になったことに驚き、居心地の悪そうな様子だった。
私は百合さんをランチに誘って、外で気分転換をすることを提案した。
百合さんは喜んで頷いてくれる。
ちょうど百合さんの同期からもお誘いがあったようで、私たちは一緒にランチに行くことになった。
お昼になると財布を持って席を立つ。
百合さんと一緒にオフィスを出て、会社から少し離れた隠れ家のようなハンバーグ屋さんに私たちは向かった。
お店に入ると先に席に着いていたのは、百合さんの同期で総務部の響子さんだ。
「ちょっとちょっと。百合、社内がすごいことになってるんだけどー!」
「うん、私もこんなに早く噂になるとは思ってなくてビックリしてる‥‥」
響子さんも事前に聞いていたらしい。
事前にと言っても、私より少し早いくらいのタイミングだったらしく、やっぱり相手には相当驚いたとのことだった。
「ねぇ、なんでこんなに早く噂が広まってるか百合と由美ちゃんは知ってる?」
「え?何かキッカケがあるんですか?」
さすが社内の情報通の響子さんだ。
なんでもお見通しという感じで、いつも社内情報を得るときにはお世話になっている。
「実はね、亮祐常務が今日左手の薬指に指輪をして来たのがキッカケらしいのよ。それを見た秘書課の子たちがご本人に聞いてさ。で、亮祐常務が“結婚した。相手は百合”って嬉しそうに語ったらしいよ。それで秘書課の子経由で一気に広まったみたい」
「指輪‥‥」
その話を聞いて百合さんが小さくつぶやく。
「確かに百合は指輪してたけど、亮祐常務はしてなかったもんね」
「あれ?よく見れば百合さんの指輪、いつものやつと違ってませんか!?」
指輪の話題になって、私は百合さんの左手の薬指をガン見して気付いた。
いつものやつは石が付いていたけど、百合さんが今しているものは、そういった装飾はないシンプルなもので、その分細かいディテールが綺麗だ。
「あ、うん、そうなの。昨日入籍したから今日から結婚指輪に変えたの。亮祐さんも今日から結婚指輪をはめだしたんだけど‥‥。なるほど、それが目立ったんだね」
百合さんは納得したかのように深く頷いた。
私としては、亮祐常務が嬉しそうに語っているというのも気になる。
なんとなくだけど、亮祐常務とは百合さんについて一緒に語り合えそうだと思った。
「そういえば話変わるけど、今度うちの会社ってスマホゲームのモンスターエクスプローラーとコラボするんでしょ?広報部も何か関わってるの?」
しばらく百合さんの結婚話で盛り上がっていたが、響子さんがふと思い出したように話題を変えた。
モンスターエクスプローラー(通称モンエク)は、スマホで楽しめる若い世代を中心に人気のRPGゲームだ。
ゲーム内でキャラクターが体力を回復させる時のアイテムとして、食品会社である我が社が販売している商品がゲームで登場するというコラボをすることになったのだ。
「広報部では、そのコラボのプロモーションに携わることになってるよ。今度その会社の担当者と打合せもある予定なの。あ、由美ちゃんもね!」
私も先日聞いたので把握していた。
そのゲームは聞いたことがある程度で詳しくないから、打合せまでに調べなきゃと思っていたところだった。
「いいな~!私モンエク大好きなのよねぇ。だからうちの会社とコラボしてくれて嬉しいわ」
響子さんが目を輝かせている。
総務部だとこういう仕事に携わることはないそうで、羨ましそうだった。
「モンエクは確かによく出来たゲームだよね。私も前にやった時、思わず徹夜しちゃった」
「え!百合さんが!?ゲームとかするんですか!?」
意外な話だった。
百合さんはスマホでゲームとかしなさそうだし、実際そういう話は今まで聞いたことがない。
推しの新しい一面発見か!?と私はウキウキする。
「普段はゲームやらないんだけど、モンエクは弟が仕事で関わっててね。弟に無理やり勧められてやってみたらハマっちゃったの」
「そうそう!それで百合からその話聞いて、私もやってみてハマったんだよね~」
百合さんの弟さんが勧めたのか!
というか弟さんの話を聞くのもほぼ初めてかも。
「百合さんに弟さんがいるんですね。いくつ下なんですか?」
「私の2つ下だから、由美ちゃんの1つ上だと思うよ」
「仲良いんですか!?」
私が百合さんにすかさず質問すると、響子さんが楽しそうに笑いながらそこに割り込んできた。
「百合はねぇ、弟とめっちゃ仲良いのよ!しょっちゅう電話してるし、ごはん行ったりもしてるみたいだし。昨年の誕生日にはデパコスの口紅貰ってたしね。ね、由美ちゃん、どう思う?仲良すぎじゃない?」
「確かに仲良いですねー!私も弟いますけど、全く連絡とってないですよ」
きっと弟さんも百合さんの魅力に首ったけに違いない。
きっと亮祐常務と同じように、百合さんについて一緒に語れるだうなぁと思った。
「弟と言えば、今度そのコラボの打合せの時に、向こうの会社の担当者の1人として参加するらしいの。だから由美ちゃんも会うことになると思うけどよろしくね」
「え!弟さんと会えるんですかーー!わぁ~楽しみです!!」
私は興奮気味に前のめりになって答えた。
推しの弟に会えるなんてラッキーだ。
(百合さんについて語れるチャンスがあるといいな~。さすがに仕事だから難しいかな)
ワクワクする気持ちが湧き起こってきて、その日の午後は上機嫌で過ごした私だった。
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