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あなたには推しがいますか。
現代女子の多くが推しを持ち、推し活動に励んでいる昨今。
デジタル大辞泉(小学館)によると「推し」とは『他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物』とのことだ。
その使われ方の幅は広いが、推しのアイドル、推しの俳優、推しのアニメキャラなどに用いられることが多い。
私、高岸由美にも、崇めてやまない、目の保養であり心の栄養でもある推しがいる。
そんな私の推しとはーーーー。
ガヤガヤガヤ。
休日の居酒屋は人の声で常にざわめき、とても賑わっている。
今日の私は、大学時代のテニスサークルの仲間が集まった飲み会に参加していている。
ちょっとオシャレな居酒屋の広めの個室に、今回は結構な人数が集まり、15名近くがお酒を片手に語らい合っている最中だ。
大学を卒業してからもう3年以上が経ち、今では私も立派に社会人4年目だ。
「由美は最近仕事はどう?」
隣に座る友達の利々香が話しかけてきた。
利々香はサークルの中でも当時から仲が良く、社会人になった今でもよく遊ぶ友達だ。
ミーハーでトレンドを逃さない今どきの女の子である利々香は、自分の得意を活かして、アパレルショップで働いている。
普段平日休みなのだが、今日はたまたま日曜休みとなり、今日参加できているのだ。
「忙しいけど楽しいし充実してるよー!」
私は笑顔で利々香の質問に答える。
実際、忙しいのは忙しいけど、私には推しがいるから「なんのその!」って感じなのだ。
「あんな誰もが知る大手の会社で働いてるなんて、由美はすごいよねぇ。この前も新商品発売のニュースをSNSで見かけたよ」
「わぁ~本当に!?それ嬉しいーー!まさにそれ私の仕事なんだよね」
「由美の仕事?」
「そうだよー。私、広報だからね」
私は大手食品メーカーの「大塚フードウェイ」という会社で働いている。
あらゆる食品を取り扱う国内では大手の会社で、創業100年を超える老舗だ。
創業者一族が代々経営していて、老舗なのに若手にもどんどん仕事を任せてくれる風土のある会社で、私は新卒で入社してからずっと広報部に所属している。
プレスリリースの発信や取材などのマスコミ対応、社内報の発行などを担当する広報部だが、最近はSNSにも力を入れていて、SNS発信は若手の私に任せてくれることが多い。
こうして友達に自分の発信したものが見られていると分かると、自分の仕事の成果が感じられて嬉しいものだ。
「へぇーー。広報ってそんなこともするんだ。ていうか、由美が仕事楽しいのは、推しがいるからでしょ?すぐ近くに!」
そう言って、テーブルの向かい側から会話に加わってきたのは、千賀子だ。
千賀子も利々香と同じく、社会人になってからも会う友達だ。
この3人で集まって女子会をすることが多いのだ。
千賀子はベリーショートの髪型が似合うボーイッシュな女の子で、某男性アイドルグループに推しがいる。
全国コンサートツアーで推しを追いかけるために日々働いてますと公言し、土日祝休みの企業で事務をしている。
「ふふふ~ん。近くに推しがいていいでしょ?」
私は自慢げに胸を張って千賀子を見る。
千賀子はやや呆れながら、可哀想なものを見る目を私に向けた。
「ん~。由美の推しを否定するつもりはないけど、変わってるからね。だって普通は、異性を推しにするもんじゃない。なのに、由美ってば同性のしかも会社の先輩を推しにしてるんだから、あんたって本当に変わり者よね」
「由美が変わり者なのには同感!同性を崇めてないで恋しなさいよー!彼氏いると幸せだよー??」
千賀子の言葉に、利々香が被せるように同意を示す。
そんな2人の言葉に私はぷうっと頬を膨らませて抗議した。
「変わり者で結構で~す!何と言われようと私の推しは百合さんなんだもん!」
そう、私の推しは同じ会社の同じ部署の同性の先輩なのだ。
その名を、並木百合さんという。
千賀子の言うとおり、推しがいる人は異性のアイドルや俳優、アニメキャラなどが多いので、私のように同じ会社のしかも同性の人が推しなのは変わっているのだ。
ちなみに私は別に恋愛対象が女性というわけではない。
今まで好きな人がいたことはないが、恋愛対象は男性だ。
それもあり、なかなか理解してもらえない私の推しなのだが、それはもう素晴らしく素敵な人なのだ。
百合さんと出会ったのは、かれこれ3年前。
新卒で入社した大塚フードウェイでの新卒入社時研修を終え、広報部へ配属された時だ。
広報部の先輩社員だった百合さんは、人を惹きつける美しさをもつ女性だった。
百合さんは、可愛らしい感じの整った顔立ちだけど、綺麗と表現されることの方が多い雰囲気を纏った美人だった。
髪は胸上までのゆるくパーマのかかったロング、前髪は少しかき上げて大人っぽくしていて、少し童顔なのと絶妙にマッチしていた。
身長は女性の平均の160㎝くらいの高さで、すらりと伸びた細い手足が艶かしい。
全体的に華奢で細身なうえ、柔らかそうな白い肌が目立ち、さらに憂いを帯びた瞳のせいで、少しミステリアスな感じもあった。
(すっごいキレイな人ーー!わぁ、同じ女性から見ても目が離せない美しさ!尊い!!)
一目見た時から私の心は大騒ぎだった。
でも、これで百合さんが見た目だけがキレイな人であれば、私はこんなにハマらなかっただろう。
百合さんは違ったのだ。
なんと仕事への姿勢も真摯で、早いし正確だし、細やかな気配りまでできる人だったのだ。
私への指導も丁寧で分かりやすいし、すごく親身に接してくれるし、「もうこれで憧れない方が無理でしょ!」ってやつだったのだ。
というわけで、入社して出会ってから今日まで、私の推しとして、目の保養で心の栄養で女神だと崇め奉っている。
ちなみに、百合さんご本人にも、私の心の叫びは常々お伝えしていて(漏れ伝わっていて)、その度に百合さんはどう対応していいのか少し困った顔をして微笑まれている。
そんなお顔も尊い!と思っている私である。
「ね!ね!ていうか、マジな話、2人とも推しの話ばかりじゃなくて、彼氏作ろうよ。私たちもう20代も半ばだよ?私もこの前もう26歳になっちゃったし、アラサーに片足突っ込んだから焦ってるの!」
百合さんに想いを馳せていると、利々香の声で現実に引き戻された。
利々香は1年くらい前に彼氏と別れて今はフリーだ。
初恋すらしたことがなく、当然彼氏がいたこともない私だが、友達もいるし仕事も充実してるしで、焦る気持ちはあまり分からなかった。
「とりあえず今度合コンしよ!私ツテがあるから、由美と千賀子は参加してね。私のためだと思ってお願いねー!」
「いるだけになるけど」
「それでもいい!」
まぁ参加するだけならいいかと了承する。
男女共に友達が多い私は、そういう場は特に苦ではなく、行けばそれなりに会話して盛り上がれるのだ。
「由美は本気で彼氏作る気になればできると思うけどな~。可愛い方だし、もっと服装とかにもこだわれば絶対ばけるのに!」
アパレル店員らしいことを利々香が言い出す。
卵型の顔に、二重のぱっちりした目の私は、決して整った顔ではないが、愛嬌のある顔だとよく言われる。
最低限のメイクで、髪も肩につかないくらいの茶髪のボブという若々しい感じなので、たまに大学生に間違われることもある。
服装は、可愛さより機能性重視で選んでいる感じだ。
「由美は推しにお金使うことはないんだし、利々香の言うとおり、服装とか気を遣ってみれば?」
コンサート遠征でお金を推しに使いまくっている千賀子だが、推しにもしも会った時のためにと服装には気を配っているらしい。
「私だって、推しに不快に思われず、仕事ぶりを認めてもらうために、その一環として最低限の身だしなみは整えているんだけどなぁ~」
「やっぱり推しが異性じゃないと可愛く思われたいって気持ちは湧いてこないのね」
「もしもそんなことがあれば、利々香に相談するから!その時はよろしくねー!」
なんとなく、呆れられながらのダメ出しが入りそうな空気を察知して、私は会話を切り上げた。
そのあとは、利々香や千賀子と離れた席へも移動したりしながら、懐かしいサークルの仲間たちとお酒を飲み交わす。
私が推しの話をするたびに、最初はみんな興味を持ってくれているのに、会社の同性の先輩だと言うたびに、ちょっと呆れた顔で変わった子扱いをされてしまった。
百合さんの写真を見せた男子とは盛り上がったけど、必ず「紹介して!」と最後に懇願されることになり、それを断るのが面倒でなんだか話しづらくなった。
なかなか純粋に私の推しの話を楽しんでくれる相手はいないらしいと悟った飲み会だったーー。
現代女子の多くが推しを持ち、推し活動に励んでいる昨今。
デジタル大辞泉(小学館)によると「推し」とは『他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物』とのことだ。
その使われ方の幅は広いが、推しのアイドル、推しの俳優、推しのアニメキャラなどに用いられることが多い。
私、高岸由美にも、崇めてやまない、目の保養であり心の栄養でもある推しがいる。
そんな私の推しとはーーーー。
ガヤガヤガヤ。
休日の居酒屋は人の声で常にざわめき、とても賑わっている。
今日の私は、大学時代のテニスサークルの仲間が集まった飲み会に参加していている。
ちょっとオシャレな居酒屋の広めの個室に、今回は結構な人数が集まり、15名近くがお酒を片手に語らい合っている最中だ。
大学を卒業してからもう3年以上が経ち、今では私も立派に社会人4年目だ。
「由美は最近仕事はどう?」
隣に座る友達の利々香が話しかけてきた。
利々香はサークルの中でも当時から仲が良く、社会人になった今でもよく遊ぶ友達だ。
ミーハーでトレンドを逃さない今どきの女の子である利々香は、自分の得意を活かして、アパレルショップで働いている。
普段平日休みなのだが、今日はたまたま日曜休みとなり、今日参加できているのだ。
「忙しいけど楽しいし充実してるよー!」
私は笑顔で利々香の質問に答える。
実際、忙しいのは忙しいけど、私には推しがいるから「なんのその!」って感じなのだ。
「あんな誰もが知る大手の会社で働いてるなんて、由美はすごいよねぇ。この前も新商品発売のニュースをSNSで見かけたよ」
「わぁ~本当に!?それ嬉しいーー!まさにそれ私の仕事なんだよね」
「由美の仕事?」
「そうだよー。私、広報だからね」
私は大手食品メーカーの「大塚フードウェイ」という会社で働いている。
あらゆる食品を取り扱う国内では大手の会社で、創業100年を超える老舗だ。
創業者一族が代々経営していて、老舗なのに若手にもどんどん仕事を任せてくれる風土のある会社で、私は新卒で入社してからずっと広報部に所属している。
プレスリリースの発信や取材などのマスコミ対応、社内報の発行などを担当する広報部だが、最近はSNSにも力を入れていて、SNS発信は若手の私に任せてくれることが多い。
こうして友達に自分の発信したものが見られていると分かると、自分の仕事の成果が感じられて嬉しいものだ。
「へぇーー。広報ってそんなこともするんだ。ていうか、由美が仕事楽しいのは、推しがいるからでしょ?すぐ近くに!」
そう言って、テーブルの向かい側から会話に加わってきたのは、千賀子だ。
千賀子も利々香と同じく、社会人になってからも会う友達だ。
この3人で集まって女子会をすることが多いのだ。
千賀子はベリーショートの髪型が似合うボーイッシュな女の子で、某男性アイドルグループに推しがいる。
全国コンサートツアーで推しを追いかけるために日々働いてますと公言し、土日祝休みの企業で事務をしている。
「ふふふ~ん。近くに推しがいていいでしょ?」
私は自慢げに胸を張って千賀子を見る。
千賀子はやや呆れながら、可哀想なものを見る目を私に向けた。
「ん~。由美の推しを否定するつもりはないけど、変わってるからね。だって普通は、異性を推しにするもんじゃない。なのに、由美ってば同性のしかも会社の先輩を推しにしてるんだから、あんたって本当に変わり者よね」
「由美が変わり者なのには同感!同性を崇めてないで恋しなさいよー!彼氏いると幸せだよー??」
千賀子の言葉に、利々香が被せるように同意を示す。
そんな2人の言葉に私はぷうっと頬を膨らませて抗議した。
「変わり者で結構で~す!何と言われようと私の推しは百合さんなんだもん!」
そう、私の推しは同じ会社の同じ部署の同性の先輩なのだ。
その名を、並木百合さんという。
千賀子の言うとおり、推しがいる人は異性のアイドルや俳優、アニメキャラなどが多いので、私のように同じ会社のしかも同性の人が推しなのは変わっているのだ。
ちなみに私は別に恋愛対象が女性というわけではない。
今まで好きな人がいたことはないが、恋愛対象は男性だ。
それもあり、なかなか理解してもらえない私の推しなのだが、それはもう素晴らしく素敵な人なのだ。
百合さんと出会ったのは、かれこれ3年前。
新卒で入社した大塚フードウェイでの新卒入社時研修を終え、広報部へ配属された時だ。
広報部の先輩社員だった百合さんは、人を惹きつける美しさをもつ女性だった。
百合さんは、可愛らしい感じの整った顔立ちだけど、綺麗と表現されることの方が多い雰囲気を纏った美人だった。
髪は胸上までのゆるくパーマのかかったロング、前髪は少しかき上げて大人っぽくしていて、少し童顔なのと絶妙にマッチしていた。
身長は女性の平均の160㎝くらいの高さで、すらりと伸びた細い手足が艶かしい。
全体的に華奢で細身なうえ、柔らかそうな白い肌が目立ち、さらに憂いを帯びた瞳のせいで、少しミステリアスな感じもあった。
(すっごいキレイな人ーー!わぁ、同じ女性から見ても目が離せない美しさ!尊い!!)
一目見た時から私の心は大騒ぎだった。
でも、これで百合さんが見た目だけがキレイな人であれば、私はこんなにハマらなかっただろう。
百合さんは違ったのだ。
なんと仕事への姿勢も真摯で、早いし正確だし、細やかな気配りまでできる人だったのだ。
私への指導も丁寧で分かりやすいし、すごく親身に接してくれるし、「もうこれで憧れない方が無理でしょ!」ってやつだったのだ。
というわけで、入社して出会ってから今日まで、私の推しとして、目の保養で心の栄養で女神だと崇め奉っている。
ちなみに、百合さんご本人にも、私の心の叫びは常々お伝えしていて(漏れ伝わっていて)、その度に百合さんはどう対応していいのか少し困った顔をして微笑まれている。
そんなお顔も尊い!と思っている私である。
「ね!ね!ていうか、マジな話、2人とも推しの話ばかりじゃなくて、彼氏作ろうよ。私たちもう20代も半ばだよ?私もこの前もう26歳になっちゃったし、アラサーに片足突っ込んだから焦ってるの!」
百合さんに想いを馳せていると、利々香の声で現実に引き戻された。
利々香は1年くらい前に彼氏と別れて今はフリーだ。
初恋すらしたことがなく、当然彼氏がいたこともない私だが、友達もいるし仕事も充実してるしで、焦る気持ちはあまり分からなかった。
「とりあえず今度合コンしよ!私ツテがあるから、由美と千賀子は参加してね。私のためだと思ってお願いねー!」
「いるだけになるけど」
「それでもいい!」
まぁ参加するだけならいいかと了承する。
男女共に友達が多い私は、そういう場は特に苦ではなく、行けばそれなりに会話して盛り上がれるのだ。
「由美は本気で彼氏作る気になればできると思うけどな~。可愛い方だし、もっと服装とかにもこだわれば絶対ばけるのに!」
アパレル店員らしいことを利々香が言い出す。
卵型の顔に、二重のぱっちりした目の私は、決して整った顔ではないが、愛嬌のある顔だとよく言われる。
最低限のメイクで、髪も肩につかないくらいの茶髪のボブという若々しい感じなので、たまに大学生に間違われることもある。
服装は、可愛さより機能性重視で選んでいる感じだ。
「由美は推しにお金使うことはないんだし、利々香の言うとおり、服装とか気を遣ってみれば?」
コンサート遠征でお金を推しに使いまくっている千賀子だが、推しにもしも会った時のためにと服装には気を配っているらしい。
「私だって、推しに不快に思われず、仕事ぶりを認めてもらうために、その一環として最低限の身だしなみは整えているんだけどなぁ~」
「やっぱり推しが異性じゃないと可愛く思われたいって気持ちは湧いてこないのね」
「もしもそんなことがあれば、利々香に相談するから!その時はよろしくねー!」
なんとなく、呆れられながらのダメ出しが入りそうな空気を察知して、私は会話を切り上げた。
そのあとは、利々香や千賀子と離れた席へも移動したりしながら、懐かしいサークルの仲間たちとお酒を飲み交わす。
私が推しの話をするたびに、最初はみんな興味を持ってくれているのに、会社の同性の先輩だと言うたびに、ちょっと呆れた顔で変わった子扱いをされてしまった。
百合さんの写真を見せた男子とは盛り上がったけど、必ず「紹介して!」と最後に懇願されることになり、それを断るのが面倒でなんだか話しづらくなった。
なかなか純粋に私の推しの話を楽しんでくれる相手はいないらしいと悟った飲み会だったーー。
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