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7. スーツ選び(Side詩織)
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先日、瀬戸さんから突然謎の告白をされた。
いや、告白というよりあれは宣言だろう。
好きになったからそのつもりでいてね、と言われた。
普通に業務連絡をしていた直後だったこともあり、唐突な一言にものすごくビックリした。
だけど驚いたのはその瞬間だけだ。
自分の席に戻って冷静になると、すぐに落ち着きを取り戻した。
……女性関係が派手だというから、たぶんいつもこんな感じの人なんだろう。
そう結論を導き出せたからだ。
好意は持ってくださっているのかもしれない。
なにせパリで一夜を過ごしたくらいだ。
でもきっと本気じゃない。
誰にでも言っていることなんだろうと思ったのだ。
そんなことがあった数日後。
今日は瀬戸さんから依頼を受けたスーツ作りに同行している。
2週間で仕上がるオーダーメイドスーツのお店を予約し、一緒に来ているのだ。
前に私が勤めていたスーツブランドではないけど、評判が良く気になっていたショップだった。
お店に到着すると、担当のスタイリストさんが付いてくれて、まずはカウンセリングが始まる。
お客様のお好み、お悩み、ご予算などをヒアリングするのだ。
今はそれが終わって、次のフェーズである生地選びに入っている。
「こちらがお選び頂ける生地です。イタリアや英国の人気インポートブランド生地など多数取り揃えておりますが、お好みのものはありますか?」
男性スタイリストさんがそう言いながらテーブルの上に様々な色や柄の生地を並べていく。
なんだか懐かしい光景だ。
私も数ヶ月前までこんな風にお客様のお話を伺いながらスーツ作りのお手伝いをしていたなぁと思い出した。
瀬戸さんは目の前に並ぶ生地を手に取り少し眺めると、隣に座る私に問いかけてきた。
「詩織ちゃんはどれが俺に似合うと思う?」
もともとスーツを見繕ってと言われていたから、こういう質問は想定内。
秘書の仕事の一環でもあるので、私は経験をもとに自分の意見を述べていく。
「そうですね、こちらのネイビーの生地やストライプが入った黒がいいと思います。瀬戸社長の髪色とも合いそうです。それに取引先のレセプションなら落ち着いた感じが良いと思います。生地はシンプルにして、ボタンやカフスを遊び心のあるものにしてちょっとアクセントを入れてみるはどうでしょうか?」
「いいね。黒は手持ちが割とあるから、今回はネイビーにしようかな」
「それならコレかコレはどうですか?手触りもいいですし、質感も良く、着心地も良いかと思います。瀬戸社長は背もお高いですし、映えそうな気がします」
「じゃあコレにしようかな」
瀬戸さんは迷うことなく、私が提案した中から生地を選んで決めていく。
お客様の中には提案してもあれもこれもと悩む方も少なくないのだが、瀬戸さんはそんな素振りは一切ない。
さすが判断が早いなぁと感心した。
生地が決定したら次はスーツモデル選びだ。
「当店では、クラシック、ブリティッシュ、ヴィンテージクラシック、スリムフィット、アンコン、ミケランジェロなどのモデルをご用意しています。実際に試着して選んで頂けますよ」
スタイリストさんがスーツモデルの写真を見せながら紹介してくれる。
瀬戸さんはチラリとその写真を見ただけだ。
それが仕事だよね?と言わんばかりに、またもや私に意見を求めてきた。
「詩織ちゃんの見立ては?」
「どれもお似合いになりそうですけど、ブリティッシュが良いかなと思います。先程選んだ固めの生地に合うカッチリした感じですし、パッドがしっかり入った張りのあるショルダーラインがレセプションの場でもぴったりです。ボディラインも立体的でカッコイイと思います」
「それならとりあえずブリティッシュを試着してみようか?」
「そうですね」
スーツモデルもサクサクと方向性が決まった。
さっきからスタイリストさんそっちのけで2人で話し合っていたからか、スタイリストさんがやや困惑気味に私を見る。
「……あの、もしかして彼女様は私どもと同業者の方ですか?」
「えっ?彼女?」
同業者だと思われるのは自然なことだが、まさか彼女だと思われるとは。
そんな彼女っぽい言動をしただろうか。
むしろお客様に接する感覚だったのにと不思議に思った。
「今は同業者ではないんですけど、元同業者です。口出ししてすみません……。それと彼女ではなく秘書です」
「ああ、そうだったんですね。どうりでお詳しいと思いました。それでしたら試着はぜひお2人でゆっくりされてください。私どものことは必要な時にお声かけ頂ければと思います」
スタイリストさんはニコリと笑顔を見せると、私たちを試着室へ案内し、試着用のスーツを私に預けてその場を離れて行った。
スタイリストさん的には気を利かせてくれた形になるのだろう。
終始側にいるよりもお客様だけの方がリラックスして選べるという人もいるからだ。
「じゃあ試着してくるね」
「はい、お待ちしています」
瀬戸さんは試着室に入って行き、私は近くの椅子に腰をかけて待つ。
しばらくしてドアが開き、ブリティッシュモデルのスーツに身を包んだ瀬戸さんが姿を現した。
……背が高いからやっぱりスーツが似合うな。
スーツに着られているような人もいる中、瀬戸さんはというとスーツを着こなしている。
ジャケット、ズボン、ベストの三揃いのスーツがとても似合っていた。
「どう?」
「すごくお似合いだと思います。背が高く手足が長いので既存のスーツだと裾が少し足りないですね。あとで採寸してもらう時に調整を依頼した方が良さそうです」
「確かにね」
私はつい店員だった時の癖で、肩幅の状態やウエストの締め付け具合などを確認するために瀬戸さんに近づいて無意識に触れる。
瀬戸さんも着心地を確認するようにその場で少し腕を動かしたりしていた。
同時にふと思いついたのかスーツとは全然関係ない質問を投げかけられた。
「そういえば、詩織ちゃんって今どこらへんに住んでるの?オフィスの近く?」
「いえ、オフィスからは遠いです。片道1時間少々かかります」
「そうなの?結構遠いね。前の職場の近くとか?」
「いえ、実家住まいなんです」
「へぇ~そうなんだ。てっきり都内で一人暮らしかと思ってたよ」
面接もせずに入社したから、瀬戸さんとこういう身の上の話をするは初めてかもしれない。
私はスーツ寸法を確認しながら、すっかりお客様とお話する時の感覚で瀬戸さんと何気ない会話に興じた。
「休みの日はなにしてるの?」
「そうですね、カフェで読書したり、一人で映画行ったりすることが多いです」
「そういえばパリでもカフェで読書してたね。一人で過ごすことが多いんだ?」
「はい。一人の時間が好きなので」
ありのままの事実だ。
恋人もいない、友達もいない私は一人で過ごすのに慣れているし、一人で過ごす時間が好きだった。
兄への想いを拗らせていようが、一人でいたら誰かにバレる心配もない。
しばらくそんな話をしていて、ふいに「あっ、私はもう店員じゃなかった」と気づきハッとする。
無意識に瀬戸さんに触ってしまっていたけど、これは失礼だったかもしれない。
慌てて勝手に触っていた手を離した。
「どうしたの?」
「いえ、そういえば私はもう店員じゃなかったと思いまして。断りもなく触ってしまってすみません……」
「全然いいのに。むしろやっぱり慣れてるな~って感心したよ?」
「そうですか?」
「過去の彼氏にもこうやってスーツ見繕ってあげてたの?」
「……いえ、兄にだけです」
そう答えながら、脳裏には兄と一緒にスーツショップに行った時のことが蘇る。
兄にもこうやって、兄に似合うスーツを選んであげた。
あの時は兄の役に立つのが嬉しくって終始浮かれていたように思う。
兄も私を頼ってくれて、意見を聞いてくれて、「詩織はすごいね」って褒めてくれた。
単純な私はそのことでますます仕事に熱が入り、もっと勉強しようと励んだのだ。
……懐かしいなぁ。お兄ちゃんに褒められるだけですごく嬉しくてドキドキしてたまらなかったんだよね。
思い出すだけで今でもあの時の嬉しさが蘇るようだった。
「健一郎からも聞いたよ。兄妹仲がいいんだってね。お兄さんってどんな人なの?」
そんな余韻に浸っていると、瀬戸さんが兄について質問を重ねてきた。
その気さくな感じの問いかけについ気が緩み、私は珍しく兄について口を開く。
「兄はすごく優しい人です。いつも私のことを気にかけてくれて、私の味方でいてくれる、そんな人ですね」
そう、兄はいつも私の味方。
人間関係が上手くいかなくて悩んでる時も、いつもそっとそばにいて話を聞いてくれて励ましてくれた。
詩織はそのままでいいよと肯定してくれる。
だから兄さえそばにいてくれるのなら、たとえ一人でもそれで良かった。
……やっぱりまだ全然好きだなぁ。
話しながら自分の気持ちを再認識する。
同時に行き場のない想いに胸が苦しくなった。
「そうなんだ。……ところで詩織ちゃん、悪いけどちょっとこっち来てくれる?」
「はい、どうかされましたか?」
「試着室のここ、ちょっと見てくれない?」
「試着室の中ですか?」
促されて試着室の中に足を踏み入れ、指し示された方を伺う。
が、特になにもない。
不思議に思って瀬戸さんを振り返ろうとしたその時。
試着室のドアが閉められた。
そこそこゆったりとしたスペースはあるものの、決して広いとは言えない空間に瀬戸さんと2人きりになる。
「瀬戸社長……?」
「この前俺が言ったこと覚えてる?絶対本気にしてないでしょ?」
「えっ……?」
なぜか距離を詰められ、壁際に追い詰められる。
背中に壁があたって、目の前には瀬戸さんがいて、前後に身動きが取れなくなってしまった。
……一体コレはどういう状況……??
混乱しつつ、瀬戸さんを見上げる。
すると、あのパリの夜の時のように瀬戸さんの顔が近づいてきて唇が重なった。
キスをされている。
そのことに気づいたのは、しばらくののち呼吸が苦しくなって息継ぎどうしようと思い至った時だった。
いや、告白というよりあれは宣言だろう。
好きになったからそのつもりでいてね、と言われた。
普通に業務連絡をしていた直後だったこともあり、唐突な一言にものすごくビックリした。
だけど驚いたのはその瞬間だけだ。
自分の席に戻って冷静になると、すぐに落ち着きを取り戻した。
……女性関係が派手だというから、たぶんいつもこんな感じの人なんだろう。
そう結論を導き出せたからだ。
好意は持ってくださっているのかもしれない。
なにせパリで一夜を過ごしたくらいだ。
でもきっと本気じゃない。
誰にでも言っていることなんだろうと思ったのだ。
そんなことがあった数日後。
今日は瀬戸さんから依頼を受けたスーツ作りに同行している。
2週間で仕上がるオーダーメイドスーツのお店を予約し、一緒に来ているのだ。
前に私が勤めていたスーツブランドではないけど、評判が良く気になっていたショップだった。
お店に到着すると、担当のスタイリストさんが付いてくれて、まずはカウンセリングが始まる。
お客様のお好み、お悩み、ご予算などをヒアリングするのだ。
今はそれが終わって、次のフェーズである生地選びに入っている。
「こちらがお選び頂ける生地です。イタリアや英国の人気インポートブランド生地など多数取り揃えておりますが、お好みのものはありますか?」
男性スタイリストさんがそう言いながらテーブルの上に様々な色や柄の生地を並べていく。
なんだか懐かしい光景だ。
私も数ヶ月前までこんな風にお客様のお話を伺いながらスーツ作りのお手伝いをしていたなぁと思い出した。
瀬戸さんは目の前に並ぶ生地を手に取り少し眺めると、隣に座る私に問いかけてきた。
「詩織ちゃんはどれが俺に似合うと思う?」
もともとスーツを見繕ってと言われていたから、こういう質問は想定内。
秘書の仕事の一環でもあるので、私は経験をもとに自分の意見を述べていく。
「そうですね、こちらのネイビーの生地やストライプが入った黒がいいと思います。瀬戸社長の髪色とも合いそうです。それに取引先のレセプションなら落ち着いた感じが良いと思います。生地はシンプルにして、ボタンやカフスを遊び心のあるものにしてちょっとアクセントを入れてみるはどうでしょうか?」
「いいね。黒は手持ちが割とあるから、今回はネイビーにしようかな」
「それならコレかコレはどうですか?手触りもいいですし、質感も良く、着心地も良いかと思います。瀬戸社長は背もお高いですし、映えそうな気がします」
「じゃあコレにしようかな」
瀬戸さんは迷うことなく、私が提案した中から生地を選んで決めていく。
お客様の中には提案してもあれもこれもと悩む方も少なくないのだが、瀬戸さんはそんな素振りは一切ない。
さすが判断が早いなぁと感心した。
生地が決定したら次はスーツモデル選びだ。
「当店では、クラシック、ブリティッシュ、ヴィンテージクラシック、スリムフィット、アンコン、ミケランジェロなどのモデルをご用意しています。実際に試着して選んで頂けますよ」
スタイリストさんがスーツモデルの写真を見せながら紹介してくれる。
瀬戸さんはチラリとその写真を見ただけだ。
それが仕事だよね?と言わんばかりに、またもや私に意見を求めてきた。
「詩織ちゃんの見立ては?」
「どれもお似合いになりそうですけど、ブリティッシュが良いかなと思います。先程選んだ固めの生地に合うカッチリした感じですし、パッドがしっかり入った張りのあるショルダーラインがレセプションの場でもぴったりです。ボディラインも立体的でカッコイイと思います」
「それならとりあえずブリティッシュを試着してみようか?」
「そうですね」
スーツモデルもサクサクと方向性が決まった。
さっきからスタイリストさんそっちのけで2人で話し合っていたからか、スタイリストさんがやや困惑気味に私を見る。
「……あの、もしかして彼女様は私どもと同業者の方ですか?」
「えっ?彼女?」
同業者だと思われるのは自然なことだが、まさか彼女だと思われるとは。
そんな彼女っぽい言動をしただろうか。
むしろお客様に接する感覚だったのにと不思議に思った。
「今は同業者ではないんですけど、元同業者です。口出ししてすみません……。それと彼女ではなく秘書です」
「ああ、そうだったんですね。どうりでお詳しいと思いました。それでしたら試着はぜひお2人でゆっくりされてください。私どものことは必要な時にお声かけ頂ければと思います」
スタイリストさんはニコリと笑顔を見せると、私たちを試着室へ案内し、試着用のスーツを私に預けてその場を離れて行った。
スタイリストさん的には気を利かせてくれた形になるのだろう。
終始側にいるよりもお客様だけの方がリラックスして選べるという人もいるからだ。
「じゃあ試着してくるね」
「はい、お待ちしています」
瀬戸さんは試着室に入って行き、私は近くの椅子に腰をかけて待つ。
しばらくしてドアが開き、ブリティッシュモデルのスーツに身を包んだ瀬戸さんが姿を現した。
……背が高いからやっぱりスーツが似合うな。
スーツに着られているような人もいる中、瀬戸さんはというとスーツを着こなしている。
ジャケット、ズボン、ベストの三揃いのスーツがとても似合っていた。
「どう?」
「すごくお似合いだと思います。背が高く手足が長いので既存のスーツだと裾が少し足りないですね。あとで採寸してもらう時に調整を依頼した方が良さそうです」
「確かにね」
私はつい店員だった時の癖で、肩幅の状態やウエストの締め付け具合などを確認するために瀬戸さんに近づいて無意識に触れる。
瀬戸さんも着心地を確認するようにその場で少し腕を動かしたりしていた。
同時にふと思いついたのかスーツとは全然関係ない質問を投げかけられた。
「そういえば、詩織ちゃんって今どこらへんに住んでるの?オフィスの近く?」
「いえ、オフィスからは遠いです。片道1時間少々かかります」
「そうなの?結構遠いね。前の職場の近くとか?」
「いえ、実家住まいなんです」
「へぇ~そうなんだ。てっきり都内で一人暮らしかと思ってたよ」
面接もせずに入社したから、瀬戸さんとこういう身の上の話をするは初めてかもしれない。
私はスーツ寸法を確認しながら、すっかりお客様とお話する時の感覚で瀬戸さんと何気ない会話に興じた。
「休みの日はなにしてるの?」
「そうですね、カフェで読書したり、一人で映画行ったりすることが多いです」
「そういえばパリでもカフェで読書してたね。一人で過ごすことが多いんだ?」
「はい。一人の時間が好きなので」
ありのままの事実だ。
恋人もいない、友達もいない私は一人で過ごすのに慣れているし、一人で過ごす時間が好きだった。
兄への想いを拗らせていようが、一人でいたら誰かにバレる心配もない。
しばらくそんな話をしていて、ふいに「あっ、私はもう店員じゃなかった」と気づきハッとする。
無意識に瀬戸さんに触ってしまっていたけど、これは失礼だったかもしれない。
慌てて勝手に触っていた手を離した。
「どうしたの?」
「いえ、そういえば私はもう店員じゃなかったと思いまして。断りもなく触ってしまってすみません……」
「全然いいのに。むしろやっぱり慣れてるな~って感心したよ?」
「そうですか?」
「過去の彼氏にもこうやってスーツ見繕ってあげてたの?」
「……いえ、兄にだけです」
そう答えながら、脳裏には兄と一緒にスーツショップに行った時のことが蘇る。
兄にもこうやって、兄に似合うスーツを選んであげた。
あの時は兄の役に立つのが嬉しくって終始浮かれていたように思う。
兄も私を頼ってくれて、意見を聞いてくれて、「詩織はすごいね」って褒めてくれた。
単純な私はそのことでますます仕事に熱が入り、もっと勉強しようと励んだのだ。
……懐かしいなぁ。お兄ちゃんに褒められるだけですごく嬉しくてドキドキしてたまらなかったんだよね。
思い出すだけで今でもあの時の嬉しさが蘇るようだった。
「健一郎からも聞いたよ。兄妹仲がいいんだってね。お兄さんってどんな人なの?」
そんな余韻に浸っていると、瀬戸さんが兄について質問を重ねてきた。
その気さくな感じの問いかけについ気が緩み、私は珍しく兄について口を開く。
「兄はすごく優しい人です。いつも私のことを気にかけてくれて、私の味方でいてくれる、そんな人ですね」
そう、兄はいつも私の味方。
人間関係が上手くいかなくて悩んでる時も、いつもそっとそばにいて話を聞いてくれて励ましてくれた。
詩織はそのままでいいよと肯定してくれる。
だから兄さえそばにいてくれるのなら、たとえ一人でもそれで良かった。
……やっぱりまだ全然好きだなぁ。
話しながら自分の気持ちを再認識する。
同時に行き場のない想いに胸が苦しくなった。
「そうなんだ。……ところで詩織ちゃん、悪いけどちょっとこっち来てくれる?」
「はい、どうかされましたか?」
「試着室のここ、ちょっと見てくれない?」
「試着室の中ですか?」
促されて試着室の中に足を踏み入れ、指し示された方を伺う。
が、特になにもない。
不思議に思って瀬戸さんを振り返ろうとしたその時。
試着室のドアが閉められた。
そこそこゆったりとしたスペースはあるものの、決して広いとは言えない空間に瀬戸さんと2人きりになる。
「瀬戸社長……?」
「この前俺が言ったこと覚えてる?絶対本気にしてないでしょ?」
「えっ……?」
なぜか距離を詰められ、壁際に追い詰められる。
背中に壁があたって、目の前には瀬戸さんがいて、前後に身動きが取れなくなってしまった。
……一体コレはどういう状況……??
混乱しつつ、瀬戸さんを見上げる。
すると、あのパリの夜の時のように瀬戸さんの顔が近づいてきて唇が重なった。
キスをされている。
そのことに気づいたのは、しばらくののち呼吸が苦しくなって息継ぎどうしようと思い至った時だった。
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