涙溢れて、恋開く。

美並ナナ

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《閑話》気になる人たち

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俺、植木健一郎には、最近気になる人が3人いる。

ああ、気になるって言っても別に恋愛的な意味ではない。

それだったらどんなに良かったか。

残念ながら人の恋路に首を突っ込むのに忙しく、自分のことはサッパリだ。

で、話を戻すと、俺が言いたいのは「動向が気になる」という意味だ。



まず1人目。

大学時代からの友人であり、自分が勤める会社の社長である瀬戸千尋だ。

千尋は大学の頃から自分でゲームアプリの開発をしていて、卒業と同時に会社を立ち上げた。

決断力、行動力はピカイチ。

明るく気さくでコミュニケーション能力も高い。

千尋が成功したのはそういった自身の能力をフル活用した結果とも言えるだろう。

俺は大学卒業後、一度は別のIT企業に就職したのだが、入社1年した頃に千尋に誘われて、Actionに加わることになった。

当時の社員は千尋と俺だけだ。

なかなかリスキーな選択に思われるかもしれないが、今振り返ってもあれは正解だった。

裁量権はでかいし、自由にやらせてもらえるし、堅いことが苦手な俺に合っている。

それに千尋が作るゲームが俺も好きで、なんか面白いことを世の中に仕掛けたいと思ったのだ。

千尋と2人だった会社も、いまや200名近い規模になり、ずいぶん成長したものだと感慨深い。

そんな千尋は、昔からプライベートではともかく女遊びが激しい。

あの顔で、あのコミュニケーション能力を駆使して気さくに話し掛けて口説くもんだから、女がホイホイ引っかかる。

本人もゲーム感覚で楽しみながら女の子を口説いてる節がある。

幸いにも会社に影響があるような遊び方をしないから俺も特に何も言わない。

アイツの病気みたいなもんなんだろうと思っている。

まぁ人の恋愛話が大好物な俺的には、常にネタの宝庫なアイツはなかなか面白い存在でもある。

それで、俺がなぜ千尋を最近気になっているかといえば、長期休暇を取ってからその女遊びがピタッと止まったからだ。

リフレッシュするために長期休暇を取ってパリに行ったというのに、帰って来てからやたらため息を吐いている。

もちろん仕事に支障が出ているわけではない。

ただ、ふとした隙間時間に何かを思い出すような遠い目をしているのだ。

なんか恋煩いみたいじゃね?と俺が一瞬思ったのは秘密だ。

千尋に限ってそれはないだろう。

かれこれ10年以上の付き合いだが、あの千尋が1人の女の子に夢中になるとか想像がつかない。

でもまぁ、こんな千尋の様子は初めて見るから、友人としても、社長を支える専務としても要チェックだなと思っている。

つまり、千尋に関しては、要経過観察という意味で気になっている。


そして2人目。

実家が近所で小中高と同じ学校の幼なじみである小日向悠だ。

ガキの頃からの付き合いだから気のおけない友人の1人。

俺は大学卒業と同時に実家を出て、都内23区で一人暮らしを始めた。

社会人になってからは会う頻度も少なくなったが今でも定期的に連絡を取り会う友人だ。

そんな悠がついに結婚を決めたという。

悠は自分の女関係を普段全然話さない。

俺との会話はいつも仕事のこととか、妹の話とか、普通の世間話とかだ。

これまで彼女について俺が聞いてもはぐらかされていたから、結婚すると聞いた時は驚いた。

これ幸いと色々聞きまくったら、ちょっと呆れた顔を向けながらも打ち明けてくれた。

付き合いはすでに4年にもなるらしい。

2つ年下の彼女は現在29歳で、彼女が30歳になる前にケジメをつけようと思ったそうだ。

ある日帰ったら家のテーブルの上に結婚情報誌が置いてあったらしく、彼女の一押しもあったという。

なかなか積極的でアグレッシブな彼女みたいだ。

今度会わせてくれるというから楽しみで仕方ない。

今まで恋愛話を全然してくれなかったからこそ、今後色々聞けそうだという意味で悠は気になっている。



そして最後3人目。

悠の妹で、最近俺の紹介でActionに秘書として入社した小日向詩織だ。

詩織ちゃんのことは小さい頃から知っている。

学生の頃に悠の家に遊びに行った時に何度も顔を合わせた。

それに兄妹仲の良い悠が詩織ちゃんのことをよく話すから、俺にとっても妹みたいな感覚がある。

大学卒業以降、悠と会う時は外に飲みに行くことが多かったから、詩織ちゃんとは会う機会がなかった。

たぶん最後に会ったのは、俺が大学生、詩織ちゃんがまだ高校生の頃じゃないだろうか。

だからこの前大人になった詩織ちゃんに会った時は驚いた。

すっかりキレイな大人の女性になっていた。

まぁ昔から可愛い子だったけど、顔だけじゃなく、柔らかそうな女性らしい体つきが目を引く。

あれはよく雑誌とかで目にするマシュマロボディーというヤツだろう。

悠から「うちの詩織は可愛いから心配だ」と過保護な発言をよく聞いていたけど、なるほどコレはそうかもなと思わされた。

そんな詩織ちゃんがちょうど前の仕事を辞めたタイミングだったことで、うちの会社に入ることになったのだが、入社早々、男性社員が目の色を変えている。

歓迎会を開けば、我先にと男たちが群がる。

本人は恋愛ごとに興味関心が薄いのか、鈍いのか、アプローチを受けていることにも気付いていなさそうだ。

あと間違いなく、悠同様、自分の恋愛ごとを人に話すのが嫌いだ。

こんなに盛り上がる話題なのに兄妹揃って堅いなぁと思ってしまうのは俺だからだろうか。

まぁそれはともかく、詩織ちゃんに関しては悠の過保護っぷりを知ってるし、俺自身も妹みたいに思ってることもあり、気にかけてあげたいという意味で気になっている。



千尋、悠、詩織ちゃん。

それぞれ違う意味で気になる3人だ。

ま、ぶっちゃけ一番気になるのは、この3人も含む他人の恋路だけど。

人の恋愛ほど面白いことはない。

ああだこうだ言っておせっかいを焼くつもりは毛頭なく、ただ酒のネタとして話が聞きたいのだ。


せっかく仕事はできるんだから、人の恋路ばかり首突っ込む癖はやめろと言われる俺。

それでも今日も恋愛ネタを求めてやまない俺だった。
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