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2. パリでの一夜(Side詩織)
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「ほら、エッフェル塔がよく見えるでしょ?」
部屋の大きな窓からは光り輝くエッフェル塔がはっきりと見える。
窓に手を添え、私はその景色にじっと見入った。
「あ、ちょうどいい時間だね!そろそろシャンパンフラッシュが始まるはず」
瀬戸さんがそう言ったと同時に、目の前に見えていたエッフェル塔がキラキラと光り輝きだした。
チカチカするようなライトが眩く点滅し、さっきまでのライトアップよりもさらに華やかな輝きが増す。
目を奪われる光景だった。
「キレイですね……」
「まぁ、俺は詩織ちゃんの方がキレイで目が離せないけどね?」
そう言われた瞬間、背後から包み込まれるように抱きしめられた。
落ち着いたウッディな香りがふわりと鼻をかすめる。
知らない男性の香りに、思わず体が強張った。
異性として誰かに抱きしめられるのは初めてのことだ。
これまで家族として兄としかハグした経験がない。
「……ここまで来たってことは、詩織ちゃんもそのつもりだよね?」
耳元で囁かれ、私はコクリと頷く。
いくらハグで内心動揺していようとも、私はそのつもりで覚悟してここにいるのだ。
「こっち向いて?」
促されて私は顔だけ少し振り向く。
するとすぐに瀬戸さんの顔が近づいてきて、そのまま唇が重なった。
……これがキス?初めての感触……。
経験したことのないフワフワした感触を唇に感じて驚く。
男性の唇って柔らかいものなんだなという感想が浮かんだ。
それにしても口を塞がれ、息ができない。
……息継ぎはどうしたらいいのかな?鼻から呼吸していいのかな?
作法が分からずどうしようかと思っていたところで、ようやく瀬戸さんの唇が離れた。
「詩織ちゃん、緊張してるの?可愛いね」
瀬戸さんは私の顔を見て目を細めると、再び唇を寄せてきた。
今度は啄むような軽く触れる口づけだ。
私はただただそれを黙って受け止める。
「……口開けて?」
小さな声でそう囁かれ、言われるがままにキュッと結んでいた唇を開いた。
その瞬間、ぬめりとしたものが口を割って口内に入ってきてビクリとする。
生き物のようにうごめくそれに舌を絡め取られた。
今まで経験したことのない感触に翻弄され、心の中は驚きの嵐が吹き荒れる。
ただ、もちろんそれだけで済むはずはなく、瀬戸さんは私のワンピースのファスナーを下ろし始めた。
慣れた手つきでどんどん脱がされ、下着姿になってしまったところで一旦手が止まる。
「……ベッド行こっか」
そう言うやいなや、瀬戸さんはヨイショっと言いながらまるで荷物のように私を抱きかかえ、ベッドの方へ持ち運び出した。
大きなベッドの上に下着姿で寝かされ、その上に瀬戸さんが覆い被さった。
今のところ、瀬戸さんは私が未経験だということに気づいている様子はない。
緊張していると思っているようだった。
ハグにキスとここまでも初体験のことばかりだったが、ここから先はさらに未知の領域だ。
知識としては知ってるけど、その知識だけで果たしてやり遂げられるだろうか。
どうしていいか分からないから、私はただ流れに身を任せていくしない。
ベッドの上で大人しくしていると、瀬戸さんが私の首筋にキスをしながら、腰のラインから胸の方へと手で撫で出した。
くすぐったい感覚に思わず少し身をよじる。
「……うっわ、詩織ちゃんの肌ってマジですべすべで柔らかっ。触り心地良すぎ。よく言われるでしょ?」
「……いえ、特には」
「本当に?まぁいいけどさ」
瀬戸さんは信じてない口ぶりだけど、私は事実しか言っていない。
触られたこともないのだから、誰にもそんなこと言われたことがないのだ。
「おっぱいもすっごいきれいだね」
いつのまにかブラジャーを剥がされ、胸が露出していた。
瀬戸さんはそこに手と唇で触れていく。
その刺激に反応して、甘く痺れるような感覚が体を駆け巡った。
……なにこれ…。こんな感覚初めて…。
次第に息が乱れてきて、呼吸が荒くなる。
特に激しく動いているわけでもないのに、体が火照ってしょうがない。
「可愛いなぁ。ねぇ、声聞かせてよ」
「……声?」
「息乱れてるくせに声出すの我慢してるでしょ?恥ずかしがってるのも可愛いけど、詩織ちゃんが乱れてるとこもっと見たいな」
どうやら無意識に私は声を押し殺していたようだ。
裸を見られるのは構わないけど、声を出すというのはなんだかすごく恥ずかしかった。
「……恥ずかしいから無理です」
「なら、無理って言ってられなくしないとね」
瀬戸さんは悪戯っぽく笑うと、胸を触っていた片方の手を私のふとともに沿わせる。
その手が足の付け根の秘部にまで迫り、パンツの上からそろりと撫でられた。
ゾワゾワする感覚が走り、私はまた身をよじる。
こんなところを人に触られていると思うとものすごく変な気分だ。
今更ながらに羞恥心が働き出したところで、パンツがズラされ、そこへ指が直接触れた。
さっきまでとは比べものにならない刺激に、思わず小さく口から声が溢れた。
刺激が加わるたびに、部屋には淫靡な水音が響き渡る。
……恥ずかしい。世の中の恋人たちはこんなことをしてるんだ……。
やはり知識として知っているのと、実際の体験では全然違う。
身をもって知り、男女の営みというものがリアルに理解できるようになった。
それと同時にあることが頭をよぎる。
……お兄ちゃんも彼女といつもこういうことしてるってことだよね……。
架空の人物だった兄の彼女がリアルになったように、恋人同士がする行為も知識から生々しい現実となってしまう。
「あれ……?」
その時、ふいに瀬戸さんの手が止まった。
されるがままにただ寝転んでいるだけだった私は、それがなぜなのかは分からない。
何かを検証するかのように再び指を動かした瀬戸さんは、やはりまた手を止める。
「え……まさか……」
信じられないというように目を丸くした瀬戸さんが私の方を見た。
「……もしかして、詩織ちゃんって……処女?」
どうやらついに気づかれてしまったようだ。
なんとか最後までバレずに済ませられないかと淡い期待をしていたけど、やはりそれは難しかったみたいだ。
「はい、そうです」
「ええっ……!ウソでしょ!?」
事実を認めたのに、瀬戸さんはまだ信じられないといった驚愕の顔をしていた。
「なんで分かったんですか?」
「……いや、だって狭すぎだと思って」
「言わなければバレないかなと思ったんですけど、やっぱり無理なんですね」
「……まぁ、時と場合によるかもだけど。でも仮に今気づかなくても挿れる時にはさすがに気づくと思うよ」
「そういうものなんですね」
挿れる時も痛いのを私が耐えれば大丈夫だろうと安易に考えていたが、そうではないようだ。
「……躊躇いもなく部屋に来るから、てっきり経験豊富なのかと思ってたよ。詩織ちゃん、どうし……」
「続けてください」
瀬戸さんが「どうしてこんなことしてるのか」と尋ねてきたのを遮り、私は行為の継続を申し出た。
バレようとバレなかろうと、私が果たしたいことは同じだ。
兄への想いを断ち切り前に進みたい。
そのために今の自分を脱するべく処女喪失をしたいのだ。
ある意味、処女である今の私は叶わぬ恋を拗らせた結果みたいなもの。
ならばそれを蹴散らしてしまいたかった。
「続けたいって……詩織ちゃんはそれでいいの?」
「はい。瀬戸さんが嫌じゃなければお願いします」
「全然嫌じゃないし、詩織ちゃんの初めてなんてむしろ光栄ではあるけど」
「なんだったら、もう挿れてくれていいです。とりあえず最後までしてください」
「いやいや、さすがに初めてならまだ痛いと思うよ?」
「痛くてもいいから挿れてほしいです」
早く終わらせてしまいたい一心で、私は瀬戸さんの目を見つめて懇願した。
その想いが伝わったのか、やれやれと言った風に頭を掻いたあと、私にチュッとキスをした瀬戸さんは再び手を動かし出す。
「……じゃあもうちょっとだけほぐしたらね?」
再び与えられる刺激にまた今まで感じたことのない形容し難い感覚が襲ってくる。
これが性的な快感というやつなのかなと頭の片隅で思った。
「そろそろいいかな。……挿れるけどホントにいいの?」
いつの間にか服を脱ぎ捨て裸になった瀬戸さんが念押しのように確認してきた。
きちんと避妊もしてくれているようだ。
そのことにホッとしながら、決意を込めて私は大きく頷く。
「じゃあ俺につかまってて。痛かったら言ってね?」
その言葉に従い、瀬戸さんの背中に腕を回してしがみつく。
肌と肌が触れ合い、相手の体温が伝わってくる。
その温かさに一種の安心感を覚え、人肌の気持ちよさを実感した。
……お兄ちゃんと彼女もこうして触れ合ってるんだね…。私もお兄ちゃんの温かさに包まれてみたい……。
そんな想いが込み上がってきた刹那、異物が入ってくるような圧迫感とともに、刺すような痛みがやってきた。
あまりの痛さに顔が歪む。
初体験は痛いと知ってはいたけど、これは想像以上かもしれない。
処女だとバレないように耐えるなんて初めから到底ムリな話だった。
「……痛い?まだ半分くらいしか入ってないけどやめとく?」
これでまだ半分だという。
気が遠くなりそうだ。
……瀬戸さんには面倒かけてしまって申し訳ないけど、でもなんとしてでも処女喪失したい……!
「……大丈夫です。最後まで……お願いします」
痛みに気が狂いそうになりながら、私は彼に再び懇願する。
まだ半分、いや、あと半分だ。
もうちょっとで長年拗らせた結果の象徴を取り払えるのだから耐える価値はある。
了承してくれた瀬戸さんはさらに私の中をゆっくり押し進み、それに合わせて圧迫感が増していく。
眉を寄せ、唇を噛み締め、私はその痛みに必死で耐えた。
この痛みの先にはきっと新しい自分が待っている。
私は変われるはず、前に進めるはず……そんな期待を込めて。
「……全部入ったよ。大丈夫?痛くない?」
動きを止めた瀬戸さんの声で痛みによって意識が飛びそうだった私はハッと我に返る。
どうやらついにやり遂げたようだ。
「……はい。大丈夫です……」
息も絶え絶えの私はなんとか返事を返す。
……ああ、やっと終わった。これで私は処女じゃなくなったんだ……!
胸の内には達成感が駆け巡った。
なんとも言えない嬉しさが全身を包み込む。
でもそんなのはほんの一瞬のことだった。
しばらくその状態のままでギュッと私を抱きしめていた瀬戸さんが、また少しずつ様子を見ながら動き出す。
その行為は最初のうちこそ痛かったのだが、次第になんとも言えない甘い疼きに変わっていった。
肌と肌が混ざり合う、一つに繋がった感覚は、一体感があってとても気持ちよく感じる。
そう感じ始めた途端、処女喪失の嬉しさから一転、今度は悲しみにも似た虚しさが襲ってきた。
……セックスってこんな気持ちいい行為なんだ。こんなことを好きな人とできたら、どんなに幸せに感じるんだろう…。
目の前のこの人がお兄ちゃんだったら。
そんな絶対にあり得ないことを思わず想像してしまい、鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てきた。
……お兄ちゃんはきっとこんなふうに彼女と繋がりながら、あの優しい笑顔で愛を囁くんだろうな……。
思い巡らせるだけで胸が苦しい。
こみあげてくる悲しい思いにを抑えきれず、頬には涙が伝った。
しばらくののち、瀬戸さんが達したのを合図にその行為は終わりを迎えた。
あとに残ったのは、処女喪失を証明するかのようなシーツについた血。
私は間違いなく目的を達成したのだ。
なのに、なんでだろう?
心に残ったこの虚しさは……。
処女という拗らせた結果をどうにかしてしまえば、きっと楽になれる、何かが変わると思ったはずなのに。
変わらず考えるのは兄のことばかり。
……結局、無駄な足掻きだったのかな。
兄に囚われた私の心はそう簡単には動かないらしい。
私の一方的な事情で、瀬戸さんには面倒なことに付き合わせてしまって申し訳なかったなと思う。
経験豊富だと思って誘ったのだったら、さぞ期待外れだったことだろう。
なのに最後までしてくれたことには感謝だ。
行為を終え、シャワーを浴びに行った瀬戸さんが部屋にいないうちに、私は手早く脱いだ服を身につける。
レストランで払ってもらった分の現金をテーブルの上に置き、そのままそっと部屋を出た。
名前しかしらない彼とはもう会うこともないだろう。
結果無駄な足掻きに終わってしまったけど、瀬戸さんのおかげで今までの自分と違う行動が起こせたのは確かだ。
そのことに感謝の念を送りつつ、ホテルのエントランスでタクシーに飛び乗り、私はその場をあとにしたーー。
部屋の大きな窓からは光り輝くエッフェル塔がはっきりと見える。
窓に手を添え、私はその景色にじっと見入った。
「あ、ちょうどいい時間だね!そろそろシャンパンフラッシュが始まるはず」
瀬戸さんがそう言ったと同時に、目の前に見えていたエッフェル塔がキラキラと光り輝きだした。
チカチカするようなライトが眩く点滅し、さっきまでのライトアップよりもさらに華やかな輝きが増す。
目を奪われる光景だった。
「キレイですね……」
「まぁ、俺は詩織ちゃんの方がキレイで目が離せないけどね?」
そう言われた瞬間、背後から包み込まれるように抱きしめられた。
落ち着いたウッディな香りがふわりと鼻をかすめる。
知らない男性の香りに、思わず体が強張った。
異性として誰かに抱きしめられるのは初めてのことだ。
これまで家族として兄としかハグした経験がない。
「……ここまで来たってことは、詩織ちゃんもそのつもりだよね?」
耳元で囁かれ、私はコクリと頷く。
いくらハグで内心動揺していようとも、私はそのつもりで覚悟してここにいるのだ。
「こっち向いて?」
促されて私は顔だけ少し振り向く。
するとすぐに瀬戸さんの顔が近づいてきて、そのまま唇が重なった。
……これがキス?初めての感触……。
経験したことのないフワフワした感触を唇に感じて驚く。
男性の唇って柔らかいものなんだなという感想が浮かんだ。
それにしても口を塞がれ、息ができない。
……息継ぎはどうしたらいいのかな?鼻から呼吸していいのかな?
作法が分からずどうしようかと思っていたところで、ようやく瀬戸さんの唇が離れた。
「詩織ちゃん、緊張してるの?可愛いね」
瀬戸さんは私の顔を見て目を細めると、再び唇を寄せてきた。
今度は啄むような軽く触れる口づけだ。
私はただただそれを黙って受け止める。
「……口開けて?」
小さな声でそう囁かれ、言われるがままにキュッと結んでいた唇を開いた。
その瞬間、ぬめりとしたものが口を割って口内に入ってきてビクリとする。
生き物のようにうごめくそれに舌を絡め取られた。
今まで経験したことのない感触に翻弄され、心の中は驚きの嵐が吹き荒れる。
ただ、もちろんそれだけで済むはずはなく、瀬戸さんは私のワンピースのファスナーを下ろし始めた。
慣れた手つきでどんどん脱がされ、下着姿になってしまったところで一旦手が止まる。
「……ベッド行こっか」
そう言うやいなや、瀬戸さんはヨイショっと言いながらまるで荷物のように私を抱きかかえ、ベッドの方へ持ち運び出した。
大きなベッドの上に下着姿で寝かされ、その上に瀬戸さんが覆い被さった。
今のところ、瀬戸さんは私が未経験だということに気づいている様子はない。
緊張していると思っているようだった。
ハグにキスとここまでも初体験のことばかりだったが、ここから先はさらに未知の領域だ。
知識としては知ってるけど、その知識だけで果たしてやり遂げられるだろうか。
どうしていいか分からないから、私はただ流れに身を任せていくしない。
ベッドの上で大人しくしていると、瀬戸さんが私の首筋にキスをしながら、腰のラインから胸の方へと手で撫で出した。
くすぐったい感覚に思わず少し身をよじる。
「……うっわ、詩織ちゃんの肌ってマジですべすべで柔らかっ。触り心地良すぎ。よく言われるでしょ?」
「……いえ、特には」
「本当に?まぁいいけどさ」
瀬戸さんは信じてない口ぶりだけど、私は事実しか言っていない。
触られたこともないのだから、誰にもそんなこと言われたことがないのだ。
「おっぱいもすっごいきれいだね」
いつのまにかブラジャーを剥がされ、胸が露出していた。
瀬戸さんはそこに手と唇で触れていく。
その刺激に反応して、甘く痺れるような感覚が体を駆け巡った。
……なにこれ…。こんな感覚初めて…。
次第に息が乱れてきて、呼吸が荒くなる。
特に激しく動いているわけでもないのに、体が火照ってしょうがない。
「可愛いなぁ。ねぇ、声聞かせてよ」
「……声?」
「息乱れてるくせに声出すの我慢してるでしょ?恥ずかしがってるのも可愛いけど、詩織ちゃんが乱れてるとこもっと見たいな」
どうやら無意識に私は声を押し殺していたようだ。
裸を見られるのは構わないけど、声を出すというのはなんだかすごく恥ずかしかった。
「……恥ずかしいから無理です」
「なら、無理って言ってられなくしないとね」
瀬戸さんは悪戯っぽく笑うと、胸を触っていた片方の手を私のふとともに沿わせる。
その手が足の付け根の秘部にまで迫り、パンツの上からそろりと撫でられた。
ゾワゾワする感覚が走り、私はまた身をよじる。
こんなところを人に触られていると思うとものすごく変な気分だ。
今更ながらに羞恥心が働き出したところで、パンツがズラされ、そこへ指が直接触れた。
さっきまでとは比べものにならない刺激に、思わず小さく口から声が溢れた。
刺激が加わるたびに、部屋には淫靡な水音が響き渡る。
……恥ずかしい。世の中の恋人たちはこんなことをしてるんだ……。
やはり知識として知っているのと、実際の体験では全然違う。
身をもって知り、男女の営みというものがリアルに理解できるようになった。
それと同時にあることが頭をよぎる。
……お兄ちゃんも彼女といつもこういうことしてるってことだよね……。
架空の人物だった兄の彼女がリアルになったように、恋人同士がする行為も知識から生々しい現実となってしまう。
「あれ……?」
その時、ふいに瀬戸さんの手が止まった。
されるがままにただ寝転んでいるだけだった私は、それがなぜなのかは分からない。
何かを検証するかのように再び指を動かした瀬戸さんは、やはりまた手を止める。
「え……まさか……」
信じられないというように目を丸くした瀬戸さんが私の方を見た。
「……もしかして、詩織ちゃんって……処女?」
どうやらついに気づかれてしまったようだ。
なんとか最後までバレずに済ませられないかと淡い期待をしていたけど、やはりそれは難しかったみたいだ。
「はい、そうです」
「ええっ……!ウソでしょ!?」
事実を認めたのに、瀬戸さんはまだ信じられないといった驚愕の顔をしていた。
「なんで分かったんですか?」
「……いや、だって狭すぎだと思って」
「言わなければバレないかなと思ったんですけど、やっぱり無理なんですね」
「……まぁ、時と場合によるかもだけど。でも仮に今気づかなくても挿れる時にはさすがに気づくと思うよ」
「そういうものなんですね」
挿れる時も痛いのを私が耐えれば大丈夫だろうと安易に考えていたが、そうではないようだ。
「……躊躇いもなく部屋に来るから、てっきり経験豊富なのかと思ってたよ。詩織ちゃん、どうし……」
「続けてください」
瀬戸さんが「どうしてこんなことしてるのか」と尋ねてきたのを遮り、私は行為の継続を申し出た。
バレようとバレなかろうと、私が果たしたいことは同じだ。
兄への想いを断ち切り前に進みたい。
そのために今の自分を脱するべく処女喪失をしたいのだ。
ある意味、処女である今の私は叶わぬ恋を拗らせた結果みたいなもの。
ならばそれを蹴散らしてしまいたかった。
「続けたいって……詩織ちゃんはそれでいいの?」
「はい。瀬戸さんが嫌じゃなければお願いします」
「全然嫌じゃないし、詩織ちゃんの初めてなんてむしろ光栄ではあるけど」
「なんだったら、もう挿れてくれていいです。とりあえず最後までしてください」
「いやいや、さすがに初めてならまだ痛いと思うよ?」
「痛くてもいいから挿れてほしいです」
早く終わらせてしまいたい一心で、私は瀬戸さんの目を見つめて懇願した。
その想いが伝わったのか、やれやれと言った風に頭を掻いたあと、私にチュッとキスをした瀬戸さんは再び手を動かし出す。
「……じゃあもうちょっとだけほぐしたらね?」
再び与えられる刺激にまた今まで感じたことのない形容し難い感覚が襲ってくる。
これが性的な快感というやつなのかなと頭の片隅で思った。
「そろそろいいかな。……挿れるけどホントにいいの?」
いつの間にか服を脱ぎ捨て裸になった瀬戸さんが念押しのように確認してきた。
きちんと避妊もしてくれているようだ。
そのことにホッとしながら、決意を込めて私は大きく頷く。
「じゃあ俺につかまってて。痛かったら言ってね?」
その言葉に従い、瀬戸さんの背中に腕を回してしがみつく。
肌と肌が触れ合い、相手の体温が伝わってくる。
その温かさに一種の安心感を覚え、人肌の気持ちよさを実感した。
……お兄ちゃんと彼女もこうして触れ合ってるんだね…。私もお兄ちゃんの温かさに包まれてみたい……。
そんな想いが込み上がってきた刹那、異物が入ってくるような圧迫感とともに、刺すような痛みがやってきた。
あまりの痛さに顔が歪む。
初体験は痛いと知ってはいたけど、これは想像以上かもしれない。
処女だとバレないように耐えるなんて初めから到底ムリな話だった。
「……痛い?まだ半分くらいしか入ってないけどやめとく?」
これでまだ半分だという。
気が遠くなりそうだ。
……瀬戸さんには面倒かけてしまって申し訳ないけど、でもなんとしてでも処女喪失したい……!
「……大丈夫です。最後まで……お願いします」
痛みに気が狂いそうになりながら、私は彼に再び懇願する。
まだ半分、いや、あと半分だ。
もうちょっとで長年拗らせた結果の象徴を取り払えるのだから耐える価値はある。
了承してくれた瀬戸さんはさらに私の中をゆっくり押し進み、それに合わせて圧迫感が増していく。
眉を寄せ、唇を噛み締め、私はその痛みに必死で耐えた。
この痛みの先にはきっと新しい自分が待っている。
私は変われるはず、前に進めるはず……そんな期待を込めて。
「……全部入ったよ。大丈夫?痛くない?」
動きを止めた瀬戸さんの声で痛みによって意識が飛びそうだった私はハッと我に返る。
どうやらついにやり遂げたようだ。
「……はい。大丈夫です……」
息も絶え絶えの私はなんとか返事を返す。
……ああ、やっと終わった。これで私は処女じゃなくなったんだ……!
胸の内には達成感が駆け巡った。
なんとも言えない嬉しさが全身を包み込む。
でもそんなのはほんの一瞬のことだった。
しばらくその状態のままでギュッと私を抱きしめていた瀬戸さんが、また少しずつ様子を見ながら動き出す。
その行為は最初のうちこそ痛かったのだが、次第になんとも言えない甘い疼きに変わっていった。
肌と肌が混ざり合う、一つに繋がった感覚は、一体感があってとても気持ちよく感じる。
そう感じ始めた途端、処女喪失の嬉しさから一転、今度は悲しみにも似た虚しさが襲ってきた。
……セックスってこんな気持ちいい行為なんだ。こんなことを好きな人とできたら、どんなに幸せに感じるんだろう…。
目の前のこの人がお兄ちゃんだったら。
そんな絶対にあり得ないことを思わず想像してしまい、鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てきた。
……お兄ちゃんはきっとこんなふうに彼女と繋がりながら、あの優しい笑顔で愛を囁くんだろうな……。
思い巡らせるだけで胸が苦しい。
こみあげてくる悲しい思いにを抑えきれず、頬には涙が伝った。
しばらくののち、瀬戸さんが達したのを合図にその行為は終わりを迎えた。
あとに残ったのは、処女喪失を証明するかのようなシーツについた血。
私は間違いなく目的を達成したのだ。
なのに、なんでだろう?
心に残ったこの虚しさは……。
処女という拗らせた結果をどうにかしてしまえば、きっと楽になれる、何かが変わると思ったはずなのに。
変わらず考えるのは兄のことばかり。
……結局、無駄な足掻きだったのかな。
兄に囚われた私の心はそう簡単には動かないらしい。
私の一方的な事情で、瀬戸さんには面倒なことに付き合わせてしまって申し訳なかったなと思う。
経験豊富だと思って誘ったのだったら、さぞ期待外れだったことだろう。
なのに最後までしてくれたことには感謝だ。
行為を終え、シャワーを浴びに行った瀬戸さんが部屋にいないうちに、私は手早く脱いだ服を身につける。
レストランで払ってもらった分の現金をテーブルの上に置き、そのままそっと部屋を出た。
名前しかしらない彼とはもう会うこともないだろう。
結果無駄な足掻きに終わってしまったけど、瀬戸さんのおかげで今までの自分と違う行動が起こせたのは確かだ。
そのことに感謝の念を送りつつ、ホテルのエントランスでタクシーに飛び乗り、私はその場をあとにしたーー。
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