私の瞳に映る彼。

美並ナナ

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26.叔父の結婚(Side亮祐)

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百合が英語を勉強したいと突然言い出した。

今までそんな素振りはなかったのに、どうやら俺が英語で会議をしているのを見て刺激を受けたようだった。

こんなふうに自分が百合に影響を与えているというのは素直に嬉しい。

百合の人生に関われている実感が湧く。

ただ、「俺が教えようか」という申し出はすげなく断られてしまった。

百合はこういうところがある。

もっと頼ったり、甘えてくれてもいいのにと少し不満に思い、思わずジト目で百合を見てしまった。

なんにせよ、百合が未来を見据えて、前向きに行動するのは良いことだと思う。



百合が甘えてくれないことに多少の不満はあるものの充実した日々を送っていたある日、久しぶりに叔父から電話が入った。

仕事では専務と常務という立場のため、普段から会議などでよく接しているが、プライベートで連絡を取るのは久しくなかったのだ。

「もしもし亮祐。今大丈夫?」

「珍しいね。どうしたの?」

「亮祐が日本に帰国した時に兄さんも含めて一緒に食事したけど、その時に僕が紹介したい人がいるって話してたの覚えてる?」

そう言われ、数ヶ月前の記憶を引っ張り出す。

確か叔父は近々入籍を考えていると話していたはずだ。

「入籍考えてるって言ってたっけ」

「そうそう。それで一度亮祐にも会ってほしいと思ってるんだけど都合どう?」

叔父が結婚を考える人というのは興味があった。

なんせ叔父はまさに独身貴族というような人で、45歳の今まで1人で人生を謳歌していたのだから。


「週末だったらいつでも良いよ」

「そうか。彼女も最近は週末の方が都合つけやすいみたいだから助かる。じゃあ来週の土曜日の夜でどうかな?せっかくだから美味しい酒でも一緒に飲もう」

「分かった」

「場所はまた連絡するよ」

日程と時間だけ決めて電話が切れた。


(土曜の夜は予定が入ったって百合に連絡しとかないとな。最近は金曜の夜から日曜の夜までほとんど一緒に過ごしてるし)


そう思い、俺はLINEで百合にメッセージを送る。

すると百合もその週末は同期と出掛けるらしく、来週は金曜に泊まりに来て土曜の朝には帰ることになった。

そして迎えた土曜日。

百合はうちで朝シャワーを浴びると、出掛ける前に家で用事を済ませると言って早々と帰って行った。

最近は百合がうちにいることも多いため、百合がいなくなると急に家の中がガランと広くなったように感じる。

彼女がいる生活が当たり前になりつつあるのだ。

(本当に手放せないな。百合がいない以前の生活がもう思い出せない)

それくらい百合は俺の中で存在が日に日に大きくなっていた。



叔父との夜の約束に向けて身支度を整え、指定された店へタクシーで移動する。

叔父から指定された店は、VIP御用達として有名なセキュリティが厳しい会員制のレストランだった。

入り口で名を告げると個室へと案内される。

俺の方が先に着いたようだった。

(叔父がこんな店を選ぶなんて珍しいな。いつも割とカジュアルな店で気楽に飲んでる印象だったけど)

そんな違和感を少し抱いた。

その疑問は叔父に紹介された相手と会うと、ほどなく解消されることとなった。

「亮祐、お待たせ!待たせた?」

「いや俺も今来たところ」

ほどなくして叔父が女性と一緒に個室へ入ってきた。

「紹介するよ。こちらが俺が結婚しようと思ってる女性、宮園奈々さん。奈々、こっちが甥の亮祐だよ」

「はじめまして、大塚亮祐です」

「お会いできて光栄です。宮園奈々みやぞのななです」

紹介された叔父の彼女は、おそらく170㎝くらいの身長があるスラリと背の高いスレンダーな女性だった。

エキゾチックな美人で黒く艶のある長い髪が印象的だ。

そしてなぜだか俺はどこかでなんとなく見たことがあるような既視感を覚えた。

でもそれがいつどこでかは全く心当たりがない。

そんな俺の様子に気づいたのか、叔父が少し笑いながら楽しげな目を向けてくる。

「もしかしてどこかで見たことあるな、でもどこでかな?とか思ってたりするんじゃないの、亮祐」

「そのとおり。もしお会いしてたらすみません」

失礼があってはいけないと思い、俺は一応謝罪する。

「いえ、お会いするのは初めてです」

「亮祐は海外が長いからあまり日本の芸能界には詳しくないと思うけど、実は奈々はモデルなんだよ。雑誌やCMにも出てて有名だから目にしたことがあるのかもね」

そう言われて、なぜ叔父がセキュリティの厳しいこの店を選んだのか納得した。

つまりは彼女のためだったわけだ。

挨拶を交わしたあと席に着くと、叔父がメニューを見ながら料理とお酒をオーダーする。

「料理は僕が注文してしまうよ。お酒は亮祐どうする?」

「最初はビールで」

「奈々もビールでいい?」

「ええ」


そうして注文が終わると、2人の馴れ初めについての話題になった。

「実は出会いはお見合いだったんだよ。しかも当人たちがどちらも騙し討ちされたっていうね」

「騙し討ち?」

「そう、僕も奈々も見合いだと聞かされてなくてさ。僕は兄さんとの食事だと思って、奈々はご両親との食事だと思って行ったわけ。そしたら見合いでビックリしたよ」

父が勝手に見合いをセッティングしたわけか。

それは叔父も余計な世話だと思ったことだろう。

でも父が見合いを組む相手ということは、宮園さんの家柄も良いということではないだろうか。

「奈々はね、宮園製薬のご令嬢なんだよ。モデル業をするうえではそのことは伏せてるけどね」

「親が決めたレールに乗るのが嫌で、自分の力で頑張ってみたいと思って始めたのがモデルだったんです」

なるほど、普通の良家のご令嬢とは違うらしい。

自分を持っている芯の強そうな女性だ。

「でも今2人がこうしてるってことは、騙し討ちされた見合いがうまくいったってこと?」

「最初はお見合いだと気づいて愕然としてたんですけど、そのあとそんな不満を高志さんと言い合ってたら意気投合してしまったんです」

「奈々はまだ若いのに、こんなおじさんでいいのかなってのは思うんだけどね」

そういって叔父は少し眉を下げる。

確かに彼女は俺より若そうだ。

「確かに高志さんよりは若いけど、私ももういい歳ですよ。周りの友人は結婚してる子も多いし」

どうやら宮園さんは30歳で、叔父との年齢差は15歳だという。

海外では履歴書に年齢を記載しないほど、年齢をみんな気にしないので俺は特になにも思わなかった。

「それで2人は具体的にいつ入籍する予定なの?」

「それがまだ調整中でさ。彼女の仕事の兼ね合いがあるから。出演しているCMのスポンサー契約の縛りがあってね。僕は首を長くして待ってるんだけど」

「私も早く籍を入れたいと思ってるんですけどね。契約切れるまでもうちょっとです」

2人は見つめ合い、仲睦まじい様子だった。

宮園さんがお手洗いに席を立つと、俺と叔父は2人になる。

俺はずっと気になってたことを聞いてみた。

「ちなみにさっき言ってたお見合いっていつの話?」

「今年の6月くらいだったかな。たぶん亮祐が帰って来る前に俺をまずなんとかしたいって兄さんが思ったんじゃないかな。その思惑にまんまとハマってしまったのは悔しいけど」

「8月末に会った時には入籍考えてるって言ってたし、出会って数ヶ月で結婚決めて、半年くらいで実際に入籍するってわけか。すごくスピード婚だね」

「この人だって思う人に出会ったらそんなもんだと僕は思うよ。なんていうのかな、理屈じゃないんだよね」

その叔父の言葉は俺にもすごくよく分かった。

百合がそうだったからだ。

(気づいたら目が離せなくて、手に入れたい衝動に駆られたしな。確かに理屈じゃないな。きっと叔父もそんな感じだったんだろう)

「亮祐、このあとはまだ時間ある?良かったらもう少し飲まないか?」

「いいよ」

「亮祐のマンションで飲むのはどうかな?あの物件お勧めしておいて僕はまだ訪問してないからさ。それに奈々のことを考えると亮祐のマンションみたいにセキュリティがしっかりしてるところだと安心だし」

「構わないよ」

今日は百合も出掛けていて家におらず特に断る理由がなかった俺はその提案を了承した。


宮園さんがお手洗いから戻ってくるとその話をし、しばらくしてから移動する。

俺は1人で、叔父と宮園さんは一緒に、それぞれタクシーに乗り込んだ。

俺のマンションの前でタクシーが到着し、中へ案内するために俺は2人を待つ。

すると宮園さんだけが俺の方へやってきた。

「すみません、高志さんに電話がかかってきてしまって今話し中なんです。部屋番号は分かるから先に行っておいてってことなんですけど」

「そうですか。では外は寒いし先に入ってましょうか?」

「そうですね」

もう12月も間近に迫った今日は、とても冷え込んでいて外は非常に寒い。

モデルという人前に出る仕事をしている叔父の彼女に風邪をひかすわけにはいかないと思い、俺は宮園さんを先に中へ案内した。

しばらくして叔父は電話を終えて追いついてきたわけだが、この出来事がまさかあんなことになるとはこの時思いもしなかったーーー。

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