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《閑話》友人の変化
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10月中旬の土曜日の夜。
多くの客で賑わう店内で、ひときわ目立つ1組の男女がいた。
バーカウンターで2人は楽しそうに会話を楽しんでいる。
都内でダイニングバーを経営する俺、青木洋一はその客に目が釘付けだったーー。
それは突然だった。
土曜日の夕方に、高校の同級生で今も親交が続く友人の大塚亮祐から電話がかかってきた。
いつも素っ気ないメッセージだけの男が電話をかけてくるとは珍しい。
そう思いながら俺は電話に出た。
「あ、もしもし洋一?」
「おう、珍しいな。どうした?」
「急で申し訳ないんだけど、今日この後ってお前の店空いてる?土曜の夜だから厳しいかなとは思ったけど」
そんな問い合わせだった。
いつもふらっと1人で訪れる亮祐は、めったに予約なんてしてこない。
だから俺は不思議だった。
「人数によるけど何名?」
「2人だけど」
2人だと!?
あの亮祐が人と俺の店に来るなんて初めてだ。
にわかに相手が気になってくる。
「カウンターでいいなら大丈夫だ」
「そう、ならカウンターで。19時半頃には行くから」
「で、相手はどんな人なわけ?」
「それ予約時に必要な情報?」
めちゃくちゃ気になるから必要だろう‥‥!
心の中で俺は叫んだ。
なんせあの大塚亮祐が連れてくる相手である。
大塚亮祐は、言わずと知れた大手食品メーカーの御曹司で、あの容姿だ。
俺と亮祐が出会った高校時代から、それはそれは恐ろしいくらいモテた。
実際言葉通り、亮祐を狙う女の言動は恐ろしくて、待ち伏せやつけ回しは日常茶飯事、どこに行っても女に囲まれていた。
そんな状態だからか、亮祐は寄ってきた女の中から後腐れの少なそうな女と身体は重ねて適度に遊んではいたが、特定の女は作らなかった。
友人として近くにいた俺は亮祐目当ての女に利用されたり、付き合ってた彼女が亮祐を好きになって振られたりと大変なこともあった。
亮祐に男友達が少ないのは、こういう側面もあると俺は思う。
俺の場合は、あれだけモテると大変なんだなと同情する気持ちもあり、亮祐を責める気持ちにはならなかったから友人付き合いが続いているのだろう。
幸い、俺の妻は亮祐のことを「カッコいいとは思うけど、整い過ぎていて、そういう対象にはならない」と本気でそう言っていたから安心だ。
亮祐の女関係は、高校以降も変わらずだったようだった。
そんな昔からの亮祐を俺は知っているからこそ余計に気になるのだ。
そこで、ふと先日亮祐がふらりと店にやってきて話していたことを思い出す。
「もしかして、この前言ってた ”近寄ってこない子” か!?」
「‥‥まぁ、そういうこと」
「へぇ!ついに近寄ってきたのか!」
「いや、俺が近寄っただけ。お前がそう言ってただろ?」
意外な言葉に耳を疑った。
確かに俺は「近寄って来ないならお前が近寄れば?」とは言ったが、まさか本当に亮祐の方から行動するとは。
つまりそれだけ自分から動きたくなる相手だってことじゃないか!
これまでの長い付き合いの中で初めてのことだった。
こうなってくると、店で見れるのが俄然楽しみだ。
そして言葉通り、19時半に店にやってきた2人。
入り口で迎え、カウンター席へ案内する。
俺はニマニマした笑顔が隠せない。
亮祐に紹介してくれと促すと、ちょっと面倒くさそうに俺を見やり、口を開く。
「分かった分かった。並木さん、さっき話したとおり、こいつが俺の友人でここのオーナーの青木洋一。で、こちらが同じ会社の並木百合さん」
「はじめまして」
彼女は少し恥ずかしそうにしながら礼儀正しく挨拶をしてくれる。
不躾にならない程度に彼女を観察する。
可愛さと綺麗さを兼ね備えたような整った顔立ちの美人だ。
儚げな雰囲気があるが、決してただ弱いだけではないような感じがする。
「こちらこそ。お会いできて嬉しいです。いや~めちゃくちゃ美人さんだね」
俺はニッコリと笑みを浮かべながら挨拶を返すと、注文されたビールを2人に提供して、その後は邪魔しないように遠目から見守る。
カウンターに並んで腰掛ける2人は、他の客からも注目を集めていた。
それはそうだ、亮祐だけでも視線を集める男なのに、彼女も目を引く美人なのだ。
並ぶと絵になるし、楽しそうに話す姿は完全に2人の世界だ。
「ねぇ洋一さん。あそこのカウンターの人はモデルか何か?知り合いなんでしょ?」
常連のお客さんには何度かこういうふうに声を掛けられて聞かれたが、2人は全く周囲の視線に気づいていない。
いや、普段から視線に聡い亮祐のことだ、察していて若干牽制しながら無視しているな。
(牽制するとか独占欲剥き出しかよ。でもまだあんまり自覚してなさそうだな)
数時間経つと、ワインに酔ってしまった彼女は眠り込んでしまった。
亮祐はタクシーで送っていくらしい。
彼女を運ぶ時の抱きかかえる手が優しい。
亮祐が女と話ながらあんな自然な笑顔で笑うのも、こんな気を遣うところを見るのも初めてだった。
彼女が特別だとたぶん感じてはいるのだろう。
「じゃあ洋一、今日は急だったのにありがとう」
「おう、気をつけてな!また来いよ!彼女にもよろしく」
立ち去るタクシーを見送りながら、今日見た亮祐の珍しい数々の姿を思い出す。
長年の付き合いだからこそ、色々わかるのだ。
4年前に結婚した俺の妻は現在妊娠中で、もうすぐ俺は父親だ。
待望の妊娠でまさに幸せの真っ只中である。
女関係はテキトーだった亮祐だけど、そうならざるを得なかったことや、これまで御曹司という立場のプレッシャーを背負い、常に努力してきたことを俺は知っている。
だからこそ亮祐にも幸せになってほしい。
タクシーが見えなくなった後も消えた方を眺め、2人の行く末を考えながら、俺は長年の友人の幸せを願わずにはいられなかったーー。
多くの客で賑わう店内で、ひときわ目立つ1組の男女がいた。
バーカウンターで2人は楽しそうに会話を楽しんでいる。
都内でダイニングバーを経営する俺、青木洋一はその客に目が釘付けだったーー。
それは突然だった。
土曜日の夕方に、高校の同級生で今も親交が続く友人の大塚亮祐から電話がかかってきた。
いつも素っ気ないメッセージだけの男が電話をかけてくるとは珍しい。
そう思いながら俺は電話に出た。
「あ、もしもし洋一?」
「おう、珍しいな。どうした?」
「急で申し訳ないんだけど、今日この後ってお前の店空いてる?土曜の夜だから厳しいかなとは思ったけど」
そんな問い合わせだった。
いつもふらっと1人で訪れる亮祐は、めったに予約なんてしてこない。
だから俺は不思議だった。
「人数によるけど何名?」
「2人だけど」
2人だと!?
あの亮祐が人と俺の店に来るなんて初めてだ。
にわかに相手が気になってくる。
「カウンターでいいなら大丈夫だ」
「そう、ならカウンターで。19時半頃には行くから」
「で、相手はどんな人なわけ?」
「それ予約時に必要な情報?」
めちゃくちゃ気になるから必要だろう‥‥!
心の中で俺は叫んだ。
なんせあの大塚亮祐が連れてくる相手である。
大塚亮祐は、言わずと知れた大手食品メーカーの御曹司で、あの容姿だ。
俺と亮祐が出会った高校時代から、それはそれは恐ろしいくらいモテた。
実際言葉通り、亮祐を狙う女の言動は恐ろしくて、待ち伏せやつけ回しは日常茶飯事、どこに行っても女に囲まれていた。
そんな状態だからか、亮祐は寄ってきた女の中から後腐れの少なそうな女と身体は重ねて適度に遊んではいたが、特定の女は作らなかった。
友人として近くにいた俺は亮祐目当ての女に利用されたり、付き合ってた彼女が亮祐を好きになって振られたりと大変なこともあった。
亮祐に男友達が少ないのは、こういう側面もあると俺は思う。
俺の場合は、あれだけモテると大変なんだなと同情する気持ちもあり、亮祐を責める気持ちにはならなかったから友人付き合いが続いているのだろう。
幸い、俺の妻は亮祐のことを「カッコいいとは思うけど、整い過ぎていて、そういう対象にはならない」と本気でそう言っていたから安心だ。
亮祐の女関係は、高校以降も変わらずだったようだった。
そんな昔からの亮祐を俺は知っているからこそ余計に気になるのだ。
そこで、ふと先日亮祐がふらりと店にやってきて話していたことを思い出す。
「もしかして、この前言ってた ”近寄ってこない子” か!?」
「‥‥まぁ、そういうこと」
「へぇ!ついに近寄ってきたのか!」
「いや、俺が近寄っただけ。お前がそう言ってただろ?」
意外な言葉に耳を疑った。
確かに俺は「近寄って来ないならお前が近寄れば?」とは言ったが、まさか本当に亮祐の方から行動するとは。
つまりそれだけ自分から動きたくなる相手だってことじゃないか!
これまでの長い付き合いの中で初めてのことだった。
こうなってくると、店で見れるのが俄然楽しみだ。
そして言葉通り、19時半に店にやってきた2人。
入り口で迎え、カウンター席へ案内する。
俺はニマニマした笑顔が隠せない。
亮祐に紹介してくれと促すと、ちょっと面倒くさそうに俺を見やり、口を開く。
「分かった分かった。並木さん、さっき話したとおり、こいつが俺の友人でここのオーナーの青木洋一。で、こちらが同じ会社の並木百合さん」
「はじめまして」
彼女は少し恥ずかしそうにしながら礼儀正しく挨拶をしてくれる。
不躾にならない程度に彼女を観察する。
可愛さと綺麗さを兼ね備えたような整った顔立ちの美人だ。
儚げな雰囲気があるが、決してただ弱いだけではないような感じがする。
「こちらこそ。お会いできて嬉しいです。いや~めちゃくちゃ美人さんだね」
俺はニッコリと笑みを浮かべながら挨拶を返すと、注文されたビールを2人に提供して、その後は邪魔しないように遠目から見守る。
カウンターに並んで腰掛ける2人は、他の客からも注目を集めていた。
それはそうだ、亮祐だけでも視線を集める男なのに、彼女も目を引く美人なのだ。
並ぶと絵になるし、楽しそうに話す姿は完全に2人の世界だ。
「ねぇ洋一さん。あそこのカウンターの人はモデルか何か?知り合いなんでしょ?」
常連のお客さんには何度かこういうふうに声を掛けられて聞かれたが、2人は全く周囲の視線に気づいていない。
いや、普段から視線に聡い亮祐のことだ、察していて若干牽制しながら無視しているな。
(牽制するとか独占欲剥き出しかよ。でもまだあんまり自覚してなさそうだな)
数時間経つと、ワインに酔ってしまった彼女は眠り込んでしまった。
亮祐はタクシーで送っていくらしい。
彼女を運ぶ時の抱きかかえる手が優しい。
亮祐が女と話ながらあんな自然な笑顔で笑うのも、こんな気を遣うところを見るのも初めてだった。
彼女が特別だとたぶん感じてはいるのだろう。
「じゃあ洋一、今日は急だったのにありがとう」
「おう、気をつけてな!また来いよ!彼女にもよろしく」
立ち去るタクシーを見送りながら、今日見た亮祐の珍しい数々の姿を思い出す。
長年の付き合いだからこそ、色々わかるのだ。
4年前に結婚した俺の妻は現在妊娠中で、もうすぐ俺は父親だ。
待望の妊娠でまさに幸せの真っ只中である。
女関係はテキトーだった亮祐だけど、そうならざるを得なかったことや、これまで御曹司という立場のプレッシャーを背負い、常に努力してきたことを俺は知っている。
だからこそ亮祐にも幸せになってほしい。
タクシーが見えなくなった後も消えた方を眺め、2人の行く末を考えながら、俺は長年の友人の幸せを願わずにはいられなかったーー。
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