運命的に出会ったエリート弁護士に身も心も甘く深く堕とされました

美並ナナ

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#21. Side Haruomi ④

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「このスマホ、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」

「そうっすか。それは良かったっす!」

「それで引き続き、壬生さんには東條香澄の尾行をお願いできますか? また彼女が一人になったタイミングで連絡ください。これで尾行は最後にする予定です」

「了解しました! じゃあまた連絡するっすね!」

東條香澄と一夜を過ごした翌日、俺は壬生さんと落ち合い、借りていたスマホを返却した。

合わせて再度の尾行を依頼する。

彼女には一夜が明けて朝にシャワーを浴びている最中に逃げられてしまった。

バスルームから戻ったらテーブルに部屋代分の現金だけが置かれていて、彼女の姿が消えていたのだ。

あの一夜だけで堕ちてくれれば楽だったのだが、そう簡単にはいかないらしい。

婚約者がいる身なのだから、それもそうだろう。

ある程度想定内だった俺は特に落胆することもなく、引き続き壬生さんに尾行を依頼した。

次は偶然の再会を演出するつもりだ。

女はそういう「偶然の出会い」とか「奇跡的な再会」とかに弱い。

それを利用しない手はない。

そして壬生さんに依頼してから約3週間程が経った頃、そのタイミングがやって来た。

彼女が朝から鎌倉の方へ一人で出かけたらしい。

場所が鎌倉というのは実に都合が良い。

都内以外で偶然会えば、より奇跡の再会感が増す。

何かしら縁を感じるだろうし、彼女に近づきやすい。

その日は土曜日で特段の予定もなく自宅にいた俺は、仕事で偶然その辺りに来ていた設定にするためあえてスーツに着替えて鎌倉へ向かった。

壬生さんの逐一の報告によると、彼女が鎌倉へ向かったのはどうやら親戚の法事のようだ。

昼過ぎに親戚の家を出た彼女は、続いて鶴岡八幡宮に向かっているという。

追いかけるように俺も鶴岡八幡宮へタクシーで移動し、着いてから壬生さんの情報に基づき彼女の姿を探した。

 ……いた。あれだ。

しばらく辺りを見回していると、すぐに彼女を見つけることができた。

観光客が多い中、喪服姿であるため若干浮いていたからだ。

それに周囲の人より背筋が真っ直ぐ伸びて姿勢が良く、品がある佇まいが目立っている。

緑溢れる景観に目を奪われるように歩く彼女に俺は近づき、ワザと肩をぶつけた。

「申し訳ありません……!」

「こちらこそすみません。……あれ? 香澄さん?」

知っていてぶつかったというのに、さも今気付いたという風を装う。

大物俳優もびっくりに違いない演じっぷりだ。

「…………久坂さん」

「まさかこんなところで偶然会うなんてね。俺も驚いたよ」

「はい。本当に驚きました」

目を丸くして本気で驚いている彼女に、俺はなぜここにいるのかを尋ねる。

もちろん知っているゆえ、予定調和な質問だ。

俺も予め考えておいた設定の理由を話す。

続けて、この偶然の再会にまだ驚きを隠せない様子の彼女に、俺はこの後の予定を聞き出した。

もう都内に帰るだけだという言葉を引き出したところで、俺は意図的に先日の情交を思い出させるようにこう囁いた。

「またぐちゃぐちゃに乱されたくない?」

それは見事クリーンヒットしたらしく、彼女は瞬時に顔を真っ赤にする。

こうなった彼女が押しに弱く、強引さに流されがちなのを前回で察していた俺は、うまく丸め込んで彼女を近くのホテルに連れ込んだ。

彼女を身体から堕としていく方針であるため、この日もまずは彼女の好きな言葉責めで散々甘い声で鳴かせながら抱いた。

一度イクことを知ってしまった身体は快楽を求めていたように、この前以上に反応が良い。

背後から突けば、もっとしてと言わんばかりに俺のモノを締め付けてきた。

同じタイミングで果てた後、その日は二度目に突入する代わりに、激しい行為から一転し、俺はまるで恋人のように甘い態度に切り替える。

彼女の髪を撫で、優しげな表情を作り、「この前はなぜ帰ったのか?」と問いかけた。

言葉に詰まる彼女に「最初から一夜だけのつもりだった?」と少し寂しげに語りかける。

「俺はまた会いたいと思ってた。連絡先も分からないしお手上げだったけど。だから今日会えたのは運命だと思ったよ」

女が好きな「運命」という言葉を口にして、いかに今日の再会が奇跡的なものなのかを強調する。

そして今日の本題へと切り込む。

「……実は一目惚れしたんだ、香澄に」

「えっ?」

そう俺が口にした瞬間、香澄は目をパチパチさせて信じられないというように驚愕した。

冗談ですよねと言ってくる始末だ。

「本当だよ。それに最初は外見に惹かれたけど、あの日一緒に過ごして内面も好きになった」

もちろんこれらはすべて嘘である。

でも今日の最終ゴールは香澄と今後も会う約束を取り付けることだ。

そのために俺は香澄のことを好きになったと偽る。

嘘がバレないように、またしても俳優顔負けな演技力を発揮して真剣な表情で香澄を見つめた。

そんな俺に本気を感じ取ったらしい香澄は、顔をしかめ、心苦しそうになる。

「すみません。私はそのお気持ちに応えることはできないです。私、婚約者がいるんです」

そしてついに香澄は自分に婚約者がいることを告白した。

一応初耳のフリをして軽く驚いた素振りを見せたが、もちろんそんなことは初めから知っている。

だからこれで引き下がるつもりは端からない。

今度は俺が香澄の急所を突く番だ。

「……じゃあなんで前回も今回も俺と寝たの? 無理強いはしてないと思ったけど? もしかして婚約者と上手くいってない?」

「いえ、そんなことはないです」

「それなら、婚約者とのセックスに満足してないとか? 欲求不満だった?」

「………っ!」

「当たり? 結婚前にちょっと他の男ともしてみたくなったってとこかな」

次々と図星を言い当てられ、逃げ場を失った香澄はなぜかパッと手で自分の顔を隠す。

俺が表情を読み取って当てていると思ったらしく「エスパーみたいだ」と言い出した。

その反応が思いの外可愛くて、思わず素で笑ってしまう。

 ……ああ、これはやっぱり身体で分からせてあげる方が早いかな。欲求不満で本当は俺に抱かれたいくせに。

良家の子女として育ち、体裁を気にする部分が強く、理性が働くのだろう。

抱かれている時はそれを解放するかのように快楽に忠実で素直だというのに。

俺は香澄の手を掴むと、そのまま両手を拘束して、唇、首筋、鎖骨、胸へと口で愛撫していく。

すぐに香澄は敏感に反応し、くぐもった甘い声を口から漏らし出した。

香澄を指と唇で攻め立てながら彼女に囁く。

「俺は香澄に婚約者がいても構わないよ。やっぱりこうしていると香澄を手放したくないと思うから。もう会えないのは嫌なんだ」

「えっ」

「婚約者とのセックスでイケないのなら、俺が抱いてあげる。俺が香澄の寂しさを埋めてあげるよ。だからこれからも会いたい」

途端に香澄は泣きそうな顔になって、俺の言葉にグラリと心が揺れているのが手に取るように分かった。

でもまだ理性が邪魔するようで「そんなの良くない」と踏み止まる。

 ……あと一押し。本能のままに素直になればいいのに。

俺は香澄にさらなる快感を与え、彼女がイキそうになる直前で手を止める。

それを二回繰り返した。

イキたいのに、イケない状態に香澄はひどく辛そうだ。

「イキたい? 希望通りにイかせてあげるから、これからも会ってくれると約束して欲しい」

その香澄に俺は悪魔のように囁く。

だんだん香澄の目からは理性が失われていき、とろりとしてきた。

「ほら、ちゃんと約束して? じゃないとまた手を止めるよ?」

指でいいところを攻め立てながら、言葉を引き出そうとする。


そしてついに……

「あっ、もうダメ……分かりました。約束、します……! また久坂さんに会いたい。抱いて欲しい……」

絶頂が迫ってきた香澄はここでようやく陥落し、瞳に涙を溜めながらすがるように叫んだ。

それに満足した俺はゆるく笑いながら、約束通りに彼女をイかせてあげる。

こうして半ば無理やりではあるものの、香澄と継続的に会う関係を取り付けた。

その日から香澄との逢瀬の日々が始まった。

会う時は基本的に香澄のマンションだ。

ホテルは知り合いに会う可能性が高いそうで、自宅の方が都合が良いらしい。

婚約者が来る時は必ず一報があるから、うっかり出会す心配もないそうだ。

一番良いのはおそらく俺のマンションだと思ったが、俺は実家住まいだと嘘を吐いた。

復讐に利用するだけの女を自分のプライベート空間に招くつもりはないからだ。

初めて香澄のマンションに訪れた時には彼女のピアノ演奏を聴かせてもらった。

素人ながらにその演奏は素直に素晴らしいと思えるものだったが、彼女は自分の腕前を謙遜する。

曲をリクエストしてカノンを弾いてもらったのだが、それも心に響く演奏だった。

というか響きすぎた。

カノンは亡き母が好きだった曲で、よく家事をしながら口ずさんでいたのだ。

在りし日の懐かしい情景がぼんやりと浮かび、同時にその後に起きた悲劇を思い出す。

 ……そうだ。あのやるせない悔しさを復讐するために、あの男の娘である香澄に近づいているんだ。

その事実を再認識して、身体から香澄を堕とすべく、勢いのままその場で立ったまま彼女を抱いた。

いつも通り言葉で羞恥を煽りながら、彼女を乱れさせる。

そしてこの日は、攻め立てるだけでなく、「好きだよ、香澄」と甘く囁いた。

効果てきめんだったようで、香澄の中がギュッと締まる。

俺も思わずイキそうになり、ゴムをしていなかった事実を思い出して慌てて自身を引き抜き、外で吐き出した。

カノンを聴いて感情的になりすぎ、避妊を怠ったのは反省だ。

香澄にもそのことは謝り、以後忘れないように気をつけた。

そんな香澄との日々は、その後も1~2週に一度のペースで続いて行った。

仕事の事情で婚約者とはしばらく会えない状況らしく、それゆえ加速度的に香澄との関係が深まっていく。

半ば無理やり取り付けた関係だったものの、香澄が「もう辞めたい」と言い出す素振りはない。

婚約者がいながら不貞を重ねている自分に罪悪感を感じているようではあったが、身体は素直だ。

もっと抱いて欲しいとでも言うように、身体を重ねる度に感じやすくなり、俺を求めるようになっていく。

乱れる香澄はまるで日頃の抑圧された感情を発露するように開放感にあふれていた。

確かに香澄は、知れば知るほどあの東條清隆の娘とは思えないほど謙虚で奥ゆかしさがある。

変に虚勢を張ることもなく、自分の出来ないことや苦手なことを認められる人だ。

金持ちの我儘令嬢とは真逆だと言っていいだろう。

それに話していて時折思うのは、香澄の自己肯定感の低さだ。

「私なんか」という言葉を度々耳にする。

押しに弱く、流されやすさがあるのも、この自己肯定感の低さゆえではないかと思う。

でも不思議でしょうがない。

東條清隆の溺愛する一人娘として大切に大切に育てられてきたはずなのに。

普通なら、甘やかされて育ったゆえの、何でも思い通りになると思っている高飛車で傲慢な女になっていそうなものだ。

特に香澄は外見も綺麗だし、尚更チヤホヤされて思い上がりそうなものだけど。

逢瀬を重ね、香澄の人柄を知るにつれ、徐々に俺にも変化が生まれ出す。

いつしか俺は彼女のことを、「東條清隆の娘」としてではなく、「東條香澄」として見るようになっていった。

そして、謙虚で奥ゆかしく、反応がいちいちピュアで初々しい彼女に、次第に好感を持つようになっていた。

そんな自分にはっきりと気が付いたのは、香澄との関係を始めて約4ヶ月後。

彼女と初めて外で普通のデートをした時のことだった。
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