運命的に出会ったエリート弁護士に身も心も甘く深く堕とされました

美並ナナ

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#20. Side Haruomi ③

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 ……さて、あの男の一人娘、東條香澄はどんな女かな。容姿だけで落ちるなら手っ取り早くて良いけど。

翌日の土曜日。

待ち合わせに指定した表参道のカフェに到着し、俺は拾ってもらったスマホに電話をかけた。

彼女の顔は身辺調査書を見て知っているが、それを悟られるわけにはいかない。

電話で話しながら初対面の相手を探すふりをして、彼女と落ち合った。

俺の姿を目にした東條香澄は見惚れるように俺を凝視する。

その視線が顔に向かっているのを感じ、どうやら好感触であると判断した。

これまでの経験上、多くの女が俺の見た目だけで簡単に好意を寄せてくれるようになる。

意図的に笑顔を向け、感じ良く話せば確実だ。

容姿の良さを武器として最大限に利用してきた俺はその使い方を十分に心得ている。

これなら簡単に落ちそうだなと内心思いながら最初は余裕の心待ちだったのだが、それは大きな誤算となった。

なぜなら彼女は最初こそ俺に身惚れたものの、その後は手応えを感じなかったからだ。

拾ったスマホだけ渡して帰ろうとさえしている。

ようやく接触できたというのに、このまま帰られてしまっては元も子もない。

俺は御礼を口実にアフターヌーンティーを注文して時間を稼いだ。

「ここのアフターヌーンティーは絶品なんですよ。せっかくですから、紅茶と合わせてぜひ召し上がってください。それともこの後ご予定があったりで時間がまずいですか?」

「いえ、予定はないので時間は大丈夫なんですけど……。ただ、スマートフォンを拾っただけなのに、ここまでご馳走して頂くのは申し訳なくて」

「気にしないでください。こちらがそうさせて頂きたいだけですから」

昨日電話で話した時も少し気になったが、あの男の娘のくせに意外と謙虚であるらしい。

奢られて当たり前という横柄さはない。

我儘令嬢というわけではなさそうだと評価を上書き修正する。

アフターヌーンティーが運ばれてくると、彼女はスイーツに目を輝かせた。

実に幸せそうに顔を綻ばせている。

さすがというべきか、食べる時の一つ一つの所作は美しく、育ちの良さを感じさせられた。

「香澄さんのお口に合ったようで良かった。甘いものがお好きなんですね」

そう言って笑いかければ、彼女はたちまち恥ずかしそうに頬を染めた。

なんというか、反応がいちいち初々しい。

今どき高校生でもこんな分かりやすく照れないのではないだろうか。

アフターヌーンティーで時間を稼いだのを利用して、俺はそれから彼女に色々話しかけた。

だんだんと初対面の相手に対する警戒心も解けてきたようで、自然な会話が成り立つようになってくる。

仕事は何をしているのかという話になり、俺が弁護士で日本には最近帰ってきた旨を伝えると、なぜか彼女は大きく反応した。

理由を問えば、「海外が長いから私を下の名前で呼ばれるんですね」といたく納得した様子だ。

「ああ、すみません。馴れ馴れしかったですね。不快でしたか?」

「あ、いえ、不快とかではなく。ただ、男性に下の名前で呼ばれることに慣れていなくて。お気になさらないでください……!」

さらにこんなことを口にした。

だが、慣れていないということに疑問を感じる。

なにしろ俺は彼女に婚約者がいることを知っているからだ。

ちょっとした違和感を抱きつつ、彼女が食べているスイーツが残りわずかになっていることに気が付き、この後の展開を思考する。

 ……まだ警戒心が緩んだだけで、全然距離が詰まってないな。もう少し時間が欲しいが……。

そう思った時、ふと先日池先生から貰った映画の試写会チケットを思い出した。

あれは確か今日の夜だったはずだ。

ちょうどいいと思った俺は、それを利用して彼女を誘い出した。

やはり押しに弱いのか、「人助けだと思って付き合ってくれると嬉しい」と頼めば、最終的に首を縦に振ってくれたのだった。

映画までの時間は商業施設でウインドウショッピングをしてさらに会話を重ね、映画を見終わった頃にはずいぶん打ち解けることができた。

観た映画が思った以上に良い出来で、満足度が高かったことも功を奏したと思う。

ずいぶん自然な笑顔を彼女が見せるようになってきたのを感じた俺は、続けて食事に誘い出す。

あくまで映画の感想を話そうというスタンスでカジュアルに誘えば、彼女は少し考えた後にその誘いに乗ってきた。

先程までの会話の中で俺のことを「素敵な人」と評してくれていたし、間違いなく好感は獲得できているだろう。

彼女がお手洗いに行っている間にシェラトンホテルのバーを予約し、タクシーで移動する。

車中でもあれこれ話しかけて会話を重ねたのだが、次第にまた「あれ?」と違和感を感じることがあった。

反応の初々しさに加え、会話の節々からも時折男慣れしていない感じが窺えるのだ。

婚約者がいるはずなのにおかしいなと思いつつ、身辺調査書にずっと女子校育ちと記されていたことを思い出す。

良家の子女としてわざとそういう風に装っているのか、もしくは素なのか。

判断に迷うところだが、それによってどう接していくかの方針も変わる。

 ……ちょっと女として扱って反応を見てみるか。

そう思った俺は、ホテルの車寄せに着いて、タクシーから降車する時に彼女に手を差し出した。

エスコートだと認識した彼女はすんなりと俺の手に自身の手を乗せる。

普通なら降りる時だけ手を貸すところだが、そのまま俺はあえて手を握ってみた。

一瞬ビクッと身体を震わせた彼女の表情には困惑の色が浮かんでいる。

明らかに動揺していることが伝わってきたが、手を振り解くなどの拒否はされない。

それをいいことに、俺はバーで席に着くまで彼女の手を繋いだままでいた。

困惑と恥ずかしさでほんのり頬を染めた彼女を試すように、手を離した後も特にそのことには触れずに普通の会話を俺は始めた。

映画の感想を語り合いながら、彼女が何か言ってくるか様子を観察していたが、何も言ってこない。

だから俺もあえて何も言わない。

ただ、彼女が内心混乱してあるであろうことはなんとなく察することができ、その様子が面白くはある。

 ……手を繋いだだけでこの反応か。演技のようには見えないけど、24歳にして中学生や高校生みたいな初々しさだな。

これが素ならば、もしかするとこの後の誘いは断られるかもしれないなと少々危惧する。

ただ、今日ここまで笑顔で感じ良く接してきて十分に好感は高められているはずであるからそこそこ勝算はあるはずだ。

時間も時間だし、そろそろ次のフェーズに移りたい。


「ああ、もうこんな時間か」

「本当ですね。感想を話すのが楽しくてつい夢中になってしまいました。すみません」

「いや、こちらこそ楽しかったよ。ところで、さっき俺が手を繋いだのは嫌じゃなかった?」

「えっ……?」

「拒否されなかったから、嫌ではなかったと思ってもいい?」

「え、えーっと……」


俺はここであえて先程のことを持ち出してみる。

突然の話題変換に彼女は不意打ちを受けたようで、言葉に窮してしどろもどろになっている。

そこに俺は畳み掛けた。

彼女の手に自身の手を重ね、色を含んだ声で囁きかける。

「もう少し香澄さんと一緒にいたい。できれば二人きりで」

俺が言わんとすることは理解したのだろう。

彼女は目を見開き、瞳を揺らした。

しばらく口をつぐみ、逡巡するように視線を彷徨わせる。

これは押せばいけそうだと感覚的に分かった俺は、彼女の押し弱さにつけ込むように言葉を重ねた。

「やっぱりダメかな?」

「……いえ」

「それは香澄さんも嫌じゃないっていう返事だと思っていいの?」

こう問いかければ、彼女は真っ赤になりながらコクリと小さく頷いた。

断られればすんなり引き下がって、また違う手法で次の機会を狙うつもりだった。

だが、彼女は誘いに乗ってきた。

婚約者がいるはずなのに。

 ……案外あっけなかったな。やっぱり初々しいふりをしたただの尻軽女というわけか。

そんな感想を抱きながら、狙い通りの展開に持ち込めて俺は薄く笑う。

会計を済ませて、合わせて部屋の手配までしてルームキーを手に彼女のもとへ戻る。

手配した部屋はこのホテルのスイートルームだ。

壬生さんからの情報で彼女が前日そこで婚約者と過ごしたという事実を把握していたため、あえてスイートルームにしたのだ。

前日に婚約者に抱かれたのと同じ部屋で抱くことで、記憶を上書きして俺の印象を強く残してやろうと思った。

◇◇◇

「二人きりでゆっくり飲み直そうか?」

「えっ? あ、はい……!」

部屋まで連れ込んだら、さっそく押し倒そうと思っていた俺だったが、部屋への移動中、彼女が異常に緊張していることに気が付いた。

繋いだ手がわずかに震えていて、表情も強張っている。

尻軽女かと思った矢先にこれで、正直彼女がよく分からなくなっていた。

だから様子を伺うため、部屋に入っても何もせず、とりあえず酒を勧めたのだ。

明らかに彼女がホッと安堵した様子が見て取れた。

どうやらこういうことに慣れてはいないらしい。

次第に俺は彼女が自分の言動に敏感に反応し、密やかに一喜一憂しているのがなんだか面白くなってきた。

それはセックスにおいてもそうだった。

酒を飲むだけで終わらすつもりは毛頭なく、しばらくしてシャワーを浴びるよう促し、ベッドルームで行為へ移っていく。

キスをしただけで、彼女はいちいち照れるように頬を染め、瞳を潤ませ、ぎこちないながらに初々しい反応をする。

それが新鮮だったからだろうか。

――「今すごくエロい顔してるって自分で分かってる?」
――「早くセックスがしたくてたまんないって顔してるよ」
――「本当に感じやすい淫乱な身体だね」
――「挿れて欲しい? でもまだダメ」

俺は無意識に彼女の羞恥心を煽るような言葉を次々に囁きかけていた。

その度に彼女は実にいい反応を見せてくれる。

良家の子女であるお嬢様は乱されたい願望があるのか、言葉責めに殊更弱いようだ。

恥ずかしそうにしているものの、明らかに悦んでいる。

今までのセックスで言葉責めなんてしたことはなかったが、彼女の反応を見ているのは面白く、気が付けば俺の口からはスルスルと言葉が勝手に飛び出していた。

そしてもっと羞恥心を刺激してやろうと、俺が彼女の秘部を口で愛撫していた時のことだ。

「あああっ、んん……っ。ダメ、なんか来る。おかしくなっちゃう……!」

「いいよ。そのままイッて」

「あっ、あっ、んんん……っ!」

彼女は大きく身体を震わせて絶頂に達した。

はぁはぁと肩で息をする姿をチラリと見れば、なぜか彼女が呆然とした表情をしている。

今起きたことが信じられないとでも言いたげな顔だ。


「もしかして、イクの初めてだった?」

「…………」

その表情から半ば確信を持って尋ねれば、彼女は口をつぐんだまま、耳まで赤くなった。

その反応だけで図星であることが丸分かりだ。

 ……なるほど。そういうことか。

俺はこれまでの彼女の不可解さに合点がいく。

おそらく彼女が割とあっさり誘いに乗ってきたのは欲求不満だったからだろう。

イかせてもくれない婚約者とのセックスに満足していなかったに違いない。

 ……となれば、俺がすべきことは一つだな。

この時、彼女を落として溺れさせるための明確な方針が定まった。

まずは身体からズブズブに自分に堕としてしまうというものだ。

欲求不満な女ほど離れられなくなるはずだ。

その日、俺は彼女を朝方まで何度も何度も抱いた。

何度もイかせて、彼女がもう無理というまで徹底的に攻め続けた。

嬌声を上げながら快感で涙を流す彼女を組み敷き、心の中でニンマリ笑う。

 ……早く堕ちておいで。もう俺なしじゃ無理で離れられなくなった時に、容赦なく捨ててあげるから。その時、あの男がどんな顔をするのか見ものだな。


黒い感情に支配され、この時の俺は彼女――香澄を、ただの復讐の道具としてしか見ていなかった。
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