運命的に出会ったエリート弁護士に身も心も甘く深く堕とされました

美並ナナ

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#07. Falling Down

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「へえ、ここが香澄の家か」

鎌倉での再会から約一週間。

金曜日の夜、仕事を終えた久坂さんが私のマンションを訪れていた。

初めて足を踏み入れる場所のため、彼は見渡すように辺りに視線を彷徨わせている。

「一人暮らしにしては広いね」

「ピアノ教室も兼ねているから広めなんです」

私はそう言いながら久坂さんを先導してリビングへと案内した。

なんだか久坂さんがこの家にいるのが変な感じだ。

それはつい先日までもう二度と会わない人だと思っていたからに他ならない。

鎌倉で今後も会うと約束を交わした私たちは、その後お互いの連絡先を交換した。

そしてさっそく翌週末である今日、会うことになったのだ。

なぜ私の家かというと、都内のホテルだと衆目があるので誰かに目撃されかねないという不安が私にはあるからだった。

私の親族や交友関係のある人はよく高級ホテルやビジネスホテルを利用するのだ。

かといって、そういった人たちが利用しないラブホテルは私としては論外だった。

だって、いかにもな感じがするから。

だからどちらかの家というのが望ましかったのだが、久坂さんは現在実家住まいらしい。

長年の海外暮らしから戻り、日本でマンション購入を考えているそうで、それまでの一時的な仮暮らしだという。

それで消去法で私の家になった。

私の家はピアノ教室でもあるので、誰かが訪れていてもさほど目立ちはしないという側面もある。

恭吾さんが合鍵を持っているけれど、来る時は必ず事前に連絡をくれるので鉢合わせる心配もない。

「私はさっき夕食を済ませたんですけど、久坂さんはもう食べられましたか?」

「ああ、仕事の合間につまんだよ」

「そうですか。それなら良かったです。家にお出しできるような食べ物がなかったので、もし食べられてなかったらデリバリーかなと思ってて」

「料理はしないの?」

「……苦手なんです」

「へえ、得意そうに見えるから少し意外だな。じゃあ今度俺が何か作ってあげようか?」

「えっ、久坂さん料理できるんですか?」

昔気質で亭主関白な父が一番身近な男性である私にとっては驚きだった。

それに恭吾さんも料理はしない人だ。

「海外で一人暮らしが長いと自然と身に付いてね。凝ったものは難しいけど一通りはできるかな」

「すごい! すごく尊敬します!」

最近料理教室に通い始めて、慣れないことに手こずっている私は、実感を込めて心の底から称賛を送る。

久坂さんは「それほどのことじゃないよ」と軽く手を振って照れくさそうに苦笑いした。

「それより、せっかくだから、ぜひ香澄のピアノを聴かせて欲しいな」

「言われるかなと思っていました」

今度は私が苦笑いをする番だ。

家に来てもらうことが決まった時点でこの流れをなんとなく想定していた私は拒否はせず、彼をピアノ教室として使用している部屋へと案内した。

部屋の中にはグランドピアノがその存在を主張するように置かれている。

私はピアノの前の背もたれのない椅子に座り、部屋にある別の椅子に腰掛けた久坂を振り返って問いかける。

「曲はなんでもいいですか?」

「任せるよ」

「分かりました」

何を弾くか少し考え、私は「ドビュッシーの月の光」にすることにした。

静かな夜の空に浮かぶ月にきらきらと光が降り注ぐ……そんな幻想的な情景が思い浮かぶ美しい曲だ。

一度は耳にしたことのある名曲でもあり、この曲に憧れてピアノを習い始める大人の方も多い。

私は鍵盤にそっと手を置くと、一呼吸してから、指先を柔らかく動かしてピアノを奏でた。

静かな部屋の中に私が奏で出す音が響き渡る。

約4分半の演奏が終わり手を止めると、同時にパチパチパチという拍手の音が聞こえた。

「驚いた。本当にすごいね。何の混じり気もないようなとても澄んだ音色で、心に響く演奏だった」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」

「今のは何ていう曲?」

「ドビュッシーの月の光という曲です。私の好きな曲の一つなんです」

「へえ、そうなんだ。いい曲だね。今の演奏で俺も好きになったよ」

「本当ですか? 気に入ってもらえて良かったです!」

「せっかくの機会だからもう1曲聴きたいな。今度はリクエストしていい?」

「私が弾ける曲なら大丈夫です」

「カノンはどう? よく卒業ソングとしても耳にするあの曲」

「あ、はい。それならピアノの定番曲なので弾けますよ」

月の光に続いて、リクエストに応えて私は再びピアノに向かいパッヘルベルのカノンを奏でる。

印象的な曲調の美しい旋律が耳に残る曲だ。

一曲披露して少し肩の力が抜け余裕が出た私は、弾きながらチラリと久坂さんを盗み見る。

彼はこちらを向いていたけど、どこか遠くを見るような眼差しをしている。

 ……思い出の曲なのかな?

どことなく懐かしそうな表情をしているような気がした。

約4分ほどの演奏を終えると、久坂さんは先程より大きな拍手を贈ってくれた。

「とても良かったよ。ありがとう、聴かせてくれて」

「喜んでもらえたなら良かったです」

「俺は音楽は詳しく分からないけど、香澄の演奏は人を惹きつける何かがあると思ったよ。透明感があって綺麗だった。プロにもなれたんじゃない?」

「いえ、さすがにプロは壁が高いですよ」

「今ならYouTubeに演奏動画を投稿したりもできるよ。せっかくの腕前なのにもったいないと思うけどな」

久坂さんは本気でそう思ってくれているのか、しきりに私の演奏を褒めてくれた。

度重なる褒め言葉にくすぐったくなる。

生徒さんとのレッスン以外で、人に聴いてもらうのは久しぶりだったのだが、こう喜んでもらえると弾いた甲斐があった。

「そういえば、今更だけど、もう夜中なのにここのマンションはこの時間でもピアノ弾いて大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。このマンションはもともと壁が厚くて防音性が高いんですけど、特にここの部屋はピアノ教室にするために防音室にしてあるんです」

「へえ、そうなんだ」

それを聞くと久坂さんはピアノの前で椅子に座る私の方へ近づいてきて背後に立つ。

そして腰を折って耳元で囁いた。


「じゃあ、香澄がどんなに乱れて喘いでも声を心配する必要はないね」

「えっ」

予想していなかった言葉に驚いて目を瞬く。

思わず振り返ろうとしたら、耳元にあった久坂さんの唇が私の耳にふーっと息を吹きかけた。

「ひゃっ……!」

くすぐったくて肩をすくめる私だったが、久坂さんは耳への攻撃を加速させる。

耳の輪郭をペロペロと舐め、時に甘噛みされ、そして舌先を尖らせるようにして耳の中にまで入れてくる。

舌が出し入れされる度に耳の中で響く音が官能的でおかしくなりそうだ。

いつの間にか背後から回された彼の手は、器用に私の胸元にあるボタンを外して、ふくらみを露出させている。

ブラジャーをズラされると、露わになった薄紅色の蕾に、彼の細く長い指がかすった。

「んんっ」

甘い声が静かな部屋の中に響く。

快適なピアノの響きに配慮されたこの部屋だからこそ、より一層私の声が室内に反響するようだ。

恥ずかしくなった私は抵抗するように身をくねるが、久坂さんを相手にそれは無駄なことだった。

彼は胸を弄んでいた片方の手をするりと下へ移動させると、そのままショーツの中に差し入れて、敏感な部分を優しく擦る。

「ああっ……!」

耳、胸、秘部と三箇所を同時に攻められて、みるみるうちに、思考がとろけてくる。

私が発する媚びるような甘い声とぐちょぐちょいう水音が二重奏を奏でていた。

「こんなに濡れて、椅子に滴りそうだ」

「ダ、ダメ……! 汚れちゃう。久坂さん、ここピアノ教室だから、本当にやめて……!」

「汚さないように香澄が我慢してみて?」

「む、無理……! 勝手に溢れくる……」

「じゃあ椅子を汚さないように栓をしないとね」

久坂さんは私を椅子から立たせるとショーツを脱がせ腰を抱え、そのまま背後から自分のモノを私の中へ押し入れた。

蜜が溢れ出していた部分に、まるで栓を占めるようにみっちりと彼のモノが埋まる。

隙間を埋められたその圧迫感に、不思議と心と身体が満たされる心地だ。

お互いに立ったままの状態でゆっくりと久坂さんが動き出す。

「あ、あ、あっ、はぁ……」

深い部分に当たり、あまりの気持ち良さにピアノについていた私の手が乱れる。

鍵盤に手をついてしまい、大きな不協和音が鳴り響いた。

「ああ、やば。すごく締め付けてくる。香澄はやっぱりバックが好きだね」

後ろから揺さぶられるたびに甘い声が漏れ、メロディーにもならないピアノの音がリズミカルに鳴る。

まるでピアノも喘いでいるようだ。

「久坂さん、私もう、ダメ……。限界です……」

「まだイッたらダメだよ」

脚がガクガクする中、快感の波が迫ってきている。

だが、久坂さんはまだダメだと我慢を強いる。

前回鎌倉で何度も何度も寸止めされたことが脳裏に浮かび、泣きたくなった。

そんな私の心中を察したのか、彼は殊更優しく耳元で囁く。

「この前みたいなことはしない。約束する。その代わり、俺の名前を呼んで。ちゃんと呼んでくれたらイかせてあげる」

「名前? 久坂、さん……?」

「下の名前で呼んで欲しい」

「は、春臣さん……?」

名前を呼ぶことを求められ、初めて電話で話した時に名乗られた時のことを思い出しながら、私は初めて彼の名前を口にする。

春臣さんは満足そうに目を細めると、背後から私をギュッと抱きしめた。

「ありがとう。好きだよ、香澄」

イジワルなセリフばかりを紡ぐ彼の口から聞いたことのないような甘いセリフがこぼれ落ちた。

低く甘い声で私の耳に届いたその言葉は、私の心を震わせトキメかせる。

同時に奥深くを突かれて、私は今までにない幸せな心地でビクビクと体を痙攣させ、彼のモノをぎゅうっと締め付けた。

頭の中が真っ白になる中、彼が自身のモノを引き抜くのをうっすら感じる。

そしてお尻に何かべったりしたものがかかるのが分かった。

 ……あ、避妊をしていなかったんだ。


快楽に溺れ、そんな初歩的なことにも気が回っていなかった。

自分を恥じざるを得ない。

彼との行為は本当におかしくなる。

自分が自分ではなくなるほどに。

それなのにどうしてこんなに満たされた気持ちになるのだろう。

これからも会うと半ば無理やり了承させられたものの、身体が、心が、彼を求める。

抱かれるたびに、自分が彼にずぶずぶと堕ちていくのを感じざるを得なかった――。
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