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#06. Make Love again
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……私、どうしてついて来ちゃったんだろう。
鎌倉駅の近くにある和モダンなホテルのダブルベッドの上。
私は久坂さんに抱かれながら、頭の片隅でそんなことを思った。
こうして彼に再び組み敷かれる予定なんて、私の人生の予定の中には1ミリもなかったのに。
色を含んだ声や眼差しで彼に誘われて、気が付いたら頷いていた。
あの日、嫌というほど乱され、イかされ、何も考えられなくなって。
まるで自分が自分じゃなくなるようだったけど、ある意味私は抑圧された何かから解き放れたような不思議な開放感を感じていた。
終わった後の気怠さが心地よく、驚くほど満たされた気持ちだった。
身体が満たされ、心の隙間が少し埋まるような束の間の幸せを感じたのだ。
久坂さんなら、ほんのひと時だけでもまたあの満たされた気持ちを与えてくれる――ついそう思ってしまったのだ。
奇跡的な確率での再会、という部分にも後押しされたような気がする。
「考え事ができるなんて余裕だね」
「えっ」
「物足りないからもっと激しくして欲しいっていう無言の訴え? それなら応えないとね」
そう言葉を溢すと、久坂さんは私の上から身体を起こし、挿れた状態のまま、くるりと私の身体を反転させた。
お尻を突き出すような体勢になった私の腰に手を添え、ぐぐっと深く押し入ってくる。
「ああっ……!」
「この前も後からの方が感じてたね。バックが好きなの?」
「そんなの、分かん、ない……あぁ、んんっ……」
挿入角度のせいか先程までより奥深くに彼のモノがあたり、甘い刺激が身体を走る。
リズミカルな動きに合わせて、媚びるような声が口から漏れた。
「分からない? こんなに自分からお尻突き出してねだってるのに? ほら、正直に言ってみて」
「ほ、本当に、分からなくて……んんっ」
経験値の少ない私には本当に判断がつかないからそう答えたのに、久坂さんは許してくれない。
腰に添えていた手を私の胸へと滑らせ、持ち上げるように揉んだかと思うと、突然ツンと上向いた先端をキュッと摘んだ。
「あ、んんんっ……!」
その新たにもたらされた刺激で、私は呆気ないくらい簡単に頂点へ登りつめる。
だが、まだ抽送は続けられていて、絶え間ない快感が私を襲い、すぐにでもまたおかしくなってしまいそうだ。
「今ので分かった? 簡単にイッてしまったものね。それに今もすっごい締め付けてくるし」
「んん、あ、ダメ……もう無理……」
「香澄は本当にいやらしい身体だね」
耳元で囁かれた言葉に羞恥を煽られ、思わず下腹部がキュンとする。
それが分かったのか、背後で久坂さんがふっと笑った気配がした。
彼の動きはさらに速さを増し、ますます私の喘ぎは大きくなる。
また大きな波が私に迫ってきたタイミングで、ちょうど彼も限界が来たらしく、私たちは同時に果てた。
荒い呼吸を鎮めながら私はそのままクタリとうつ伏せでベッドに崩れ落ちる。
火照った素肌にシーツがひんやり触れて気持ちいい。
私は束の間の満たされた気持ちに酔いしれた。
久坂さんも今日はまたすぐ2回目に突入するということはなく、ゴムを処理すると、私の隣にごろりと横になった。
そして頬杖をついて私を見つめながら、もう片方の手で私の髪をすくように撫でてくれる。
さっきまでの激しい行為から一転、その手つきはとても優しい。
そんな彼の些細な甘い仕草に、私の心と身体はさらなる潤いで満たされた。
しばらく無言でそうやって髪を撫でていた久坂さんは、私の呼吸が整ってきた頃合いでおもむろに口を開く。
「この前はなんで何も言わずに帰ったの? シャワー浴び終わって戻ったらいなくなってるから悲しかったよ」
投げかけられた言葉はいきなり直球だった。
聞かれるかもしれないなと思いつつも、ここまで触れられなかったから少し油断していた。
「それは……」
「最初から一夜だけのつもりだった?」
どう答えればいいか分からず口ごもった私だったが、見透かすように言い当てられ、正直に頷く。
「やっぱりね」と久坂さんは苦笑いだ。
「俺はまた会いたいと思ってた。連絡先も分からないしお手上げだったけど。だから今日会えたのは運命だと思ったよ」
「……私なんかにまた会いたいって思ったんですか? それはその、またこういう行為がしたいからっていう意味で?」
「確かにそれは否定しない。身体の相性すごくいいしね」
そう言われても、経験が少ない私には身体の相性というものがピンと来ない。
でも久坂さんとの行為は信じられないくらい気持ちが良い。
そういう状態を身体の相性が良いと言うのだろう。
「でも身体だけではないよ。……実は一目惚れしたんだ、香澄に」
「えっ?」
思いがけない台詞に一瞬息が止まる。
動揺してパチパチと何度も何度も目を瞬いた。
「あの、今信じられない言葉が聞こえた気がするんですけど、私の聞き間違いですよね……?」
「一目惚れって言ったこと? 聞き間違いではないよ。そう言ったから」
「え、本当に、ですか⁉︎」
「本当だよ。それに最初は外見に惹かれたけど、あの日一緒に過ごして内面も好きになった」
「じょ、冗談ですよね……?」
「ひどいなぁ。本気で言ってるのに」
「だって、久坂さんみたいな方がなんで私なんかを……?」
畳み掛けるように次々に繰り出される驚き発言に私はただただ目を丸くする。
好意を打ち明けられているため、これはいわゆる告白というものだと思う。
男性から告白されるなんて人生で初めての出来事な上に、その相手が久坂さんである事実に、ドキドキよりも驚きが優った。
「俺みたいなってどういう意味?」
「それは、久坂さんは素敵な方ですし、きっと女性にモテると思うので。その気になれば誰でも――」
「誰でもって香澄も?」
途中で言葉を遮られ、真っ直ぐに見据えられる。
その瞳の真剣さにドキリと胸が高鳴った。
彼が冗談を言っているのではないとヒシヒシと伝わってくる。
どうやら目の前のこの眉目秀麗な男性は、信じられないことに本気で私を求めてくれているらしい。
それならば、こちらも誤魔化すことなく真摯に答えなければならないだろう。
「すみません。私はそのお気持ちに応えることはできないです。私、婚約者がいるんです」
「……そうなんだ」
「だから、お気持ちはすごく嬉しいのですが、申し訳ありません……!」
私は隠すことなく事実を伝えて、彼に謝罪の言葉を述べた。
私の断りを受け、一瞬だけ黙り込んだ久坂さんだったが、再び私を見て今度は不思議そうな顔をする。
「……じゃあなんで前回も今回も俺と寝たの? 無理強いはしてないと思ったけど?」
「…………」
痛いところを突かれてしまった。
だが、久坂さんからすれば、しごくもっともな問いとも言える。
「もしかして婚約者と上手くいってない?」
「いえ、そんなことはないです」
「それなら、婚約者とのセックスに満足してないとか? 欲求不満だった?」
「………っ!」
「当たり? 結婚前にちょっと他の男とも経験してみたくなったってとこかな」
久坂さんはどういうわけか、するすると事実を解き明かしていく。
弁護士という職業柄、人の顔色を見て読み取ることに長けているのだろう。
すべてを見透かされてしまいそうな気がした私は、思わず自分の顔を手で隠した。
「……なんで顔隠すの?」
「だ、だって、なんだか久坂さんがエスパーみたいで……!」
視界は真っ暗だが、くすくすと久坂さんの笑う声が聞こえてくる。
笑われていることにじわじわと恥ずかしさが込み上げてきて、居ても立っても居られない心地になったその時だ。
いきなりパッと視界が開けて明るくなる。
手を掴み取られて、目に飛び込んできたのは久坂さんの顔だ。
そしてそのまま唇を奪われる。
「えっ、ちょっと久坂さん……⁉︎」
「香澄はいちいち反応が可愛いね。俺は別に顔色を読んだわけではないのに」
「そうなんですか? じゃあどうして?」
「この前初めてイッて驚いてたよね。婚約者がいるってさっき聞いて、それなら婚約者とのセックスではイケなくて身体が寂しかったのかなと推測しただけ。単純に事実を繋ぎ合わせたんだ」
そう種明しをしてくれながらも久坂さんの唇は、私の首筋や鎖骨を愛撫し、そのままどんどん下へ降りていく。
掴まれた両手は頭の上に縫い付けられ、まるで拘束されているようだ。
両手の自由を奪われた状態で、久坂さんの愛撫は続き、胸元まで降りた唇は胸の一番敏感な部分をチロチロと弄び始めた。
「んんっ! 久坂さん、ダメ、やめて……」
「本当にやめて欲しい? もっとって求められてるようにしか見えないけど?」
気が付けば、私は無意識に自ら胸を彼の方へ突き出していた。
まるでもっとその刺激が欲しいとねだるように。
久坂さんはそれに応えるように先端を口に含み、巧みな舌遣いで甘い刺激を与えてくれる。
同時に私の手を拘束している側と反対の手を、脚の付け根へと滑らせた。
「ああっ」
「さっき以上にぐちょぐちょ。こんなに感じやすい身体なのに、婚約者とのセックスではイケないなんて可哀想だ」
「んっ、可哀想では、ない、です……」
「強がらなくてもいいよ。本当は普段の生活を忘れるくらい乱れたくて、めちゃくちゃにされたくてしょうがないんだろう?」
久坂さんの言葉は私の心の内を絶妙に突いていて、なんだか泣きたくなってくる。
この久坂さんとの行為はきっとある種の現実逃避なのだ。
抑圧した普段の自分を快楽で解き放つ、だから心の隙間が束の間の幸せで満たされる。
「俺は香澄に婚約者がいても構わないよ。やっぱりこうしていると香澄を手放したくないと思うから。もう会えないのは嫌なんだ」
「えっ……」
「婚約者とのセックスでイケないのなら、俺が抱いてあげる。俺が香澄の寂しさを埋めてあげるよ。だからこれからも会いたい」
久坂さんとの行為で心も身体もひととき満たされる私は、彼の言葉に内心グラリと自分が揺れるのを感じた。
「彼がこう言ってくれるのだから感情のままに流されてもいいんじゃない?」と悪魔の囁きが聞こえてくる。
一方で理性的な部分は、「婚約者がいるのだから常識的に考えて良くないことだ」と訴えかけてくる。
しばし心の内で密やかな葛藤が繰り広げられ、理性が感情に打ち勝ったところで私は口を開く。
「でもそんなのは良くな……ああっ!」
久坂さんが茂みを掻き分け、敏感な粒を撫でるように刺激する。
それによって私は言葉を最後まで発することができず、自身の嬌声に掻き消されてしまった。
じわじわと快楽の波が昂ってきて、私は目を瞑る。
すでに久坂さんによって何度も経験させられた絶頂が近づいてきているのが分かった。
「あっ、はぁ、あああっ……イク……」
だが、まもなく、というタイミングで久坂さんの手が突如止まる。
それにより、押し寄せていた波も鎮まった。
イクことを逃してしまった私は何が起こったのか分からない。
「さっきもう俺とは会わないって言おうとしたよね?」
「それは……はい、そうです。やっぱり良くないことだから」
「本当にそれでいいの?」
そう問いかけた久坂さんは再び秘部への指の動きを再開する。
すでに一度火をつけられていた私の身体は、みるみるうちに快感に支配され、再び上り詰めようとしていた。
「今度こそイキそうだ……」とそう思った瞬間、またしても手が止まり、熱が逃げていく。
「なんで……?」
二度の寸止めに私の情緒はズタズタだ。
……ツライ。イかせて欲しい。
頭の中はその想いでいっぱいで、涙目になって久坂さんを見上げた。
「イキたい?」
目を細めて私に問いかける彼に私は我慢できずにコクコクと首を縦に振った。
久坂さんは唇の端を持ち上げ軽く頷くと、ゆるゆると動きを再開する。
「じゃあ希望通りにイかせてあげるから、これからも会ってくれると約束して欲しい」
「でも……んんっ、ああっ!」
「ほら、ちゃんと約束して? じゃないとまた手を止めるよ?」
先程までよりさらに強い刺激が与えられ、私の頭はもう何も考えられなくなる。
理性がとろけ、感情が剥き出しになってきた。
……気持ちいい。イキたい。彼に抱かれてもっと乱れたい。
「あっ、もうダメ……。分かりました。約束、します……! また久坂さんに会いたい。抱いて欲しい……!」
ついに理性を失った私は、思いの丈をぶちまけるて彼にすがった。
それを聞いて満足そうに口元に弧を描いた久坂さんは、ようやく私を絶頂に導いてくれる。
何度も何度も寸止めをされて燻りを溜め込んだ私の身体は、息が止まる程のかつてない深い快楽に襲われた。
過ぎた快感に疲れ果てた私は、満たされた感覚とともに私そのまま意識を手放して眠りに落ちたのだった。
鎌倉駅の近くにある和モダンなホテルのダブルベッドの上。
私は久坂さんに抱かれながら、頭の片隅でそんなことを思った。
こうして彼に再び組み敷かれる予定なんて、私の人生の予定の中には1ミリもなかったのに。
色を含んだ声や眼差しで彼に誘われて、気が付いたら頷いていた。
あの日、嫌というほど乱され、イかされ、何も考えられなくなって。
まるで自分が自分じゃなくなるようだったけど、ある意味私は抑圧された何かから解き放れたような不思議な開放感を感じていた。
終わった後の気怠さが心地よく、驚くほど満たされた気持ちだった。
身体が満たされ、心の隙間が少し埋まるような束の間の幸せを感じたのだ。
久坂さんなら、ほんのひと時だけでもまたあの満たされた気持ちを与えてくれる――ついそう思ってしまったのだ。
奇跡的な確率での再会、という部分にも後押しされたような気がする。
「考え事ができるなんて余裕だね」
「えっ」
「物足りないからもっと激しくして欲しいっていう無言の訴え? それなら応えないとね」
そう言葉を溢すと、久坂さんは私の上から身体を起こし、挿れた状態のまま、くるりと私の身体を反転させた。
お尻を突き出すような体勢になった私の腰に手を添え、ぐぐっと深く押し入ってくる。
「ああっ……!」
「この前も後からの方が感じてたね。バックが好きなの?」
「そんなの、分かん、ない……あぁ、んんっ……」
挿入角度のせいか先程までより奥深くに彼のモノがあたり、甘い刺激が身体を走る。
リズミカルな動きに合わせて、媚びるような声が口から漏れた。
「分からない? こんなに自分からお尻突き出してねだってるのに? ほら、正直に言ってみて」
「ほ、本当に、分からなくて……んんっ」
経験値の少ない私には本当に判断がつかないからそう答えたのに、久坂さんは許してくれない。
腰に添えていた手を私の胸へと滑らせ、持ち上げるように揉んだかと思うと、突然ツンと上向いた先端をキュッと摘んだ。
「あ、んんんっ……!」
その新たにもたらされた刺激で、私は呆気ないくらい簡単に頂点へ登りつめる。
だが、まだ抽送は続けられていて、絶え間ない快感が私を襲い、すぐにでもまたおかしくなってしまいそうだ。
「今ので分かった? 簡単にイッてしまったものね。それに今もすっごい締め付けてくるし」
「んん、あ、ダメ……もう無理……」
「香澄は本当にいやらしい身体だね」
耳元で囁かれた言葉に羞恥を煽られ、思わず下腹部がキュンとする。
それが分かったのか、背後で久坂さんがふっと笑った気配がした。
彼の動きはさらに速さを増し、ますます私の喘ぎは大きくなる。
また大きな波が私に迫ってきたタイミングで、ちょうど彼も限界が来たらしく、私たちは同時に果てた。
荒い呼吸を鎮めながら私はそのままクタリとうつ伏せでベッドに崩れ落ちる。
火照った素肌にシーツがひんやり触れて気持ちいい。
私は束の間の満たされた気持ちに酔いしれた。
久坂さんも今日はまたすぐ2回目に突入するということはなく、ゴムを処理すると、私の隣にごろりと横になった。
そして頬杖をついて私を見つめながら、もう片方の手で私の髪をすくように撫でてくれる。
さっきまでの激しい行為から一転、その手つきはとても優しい。
そんな彼の些細な甘い仕草に、私の心と身体はさらなる潤いで満たされた。
しばらく無言でそうやって髪を撫でていた久坂さんは、私の呼吸が整ってきた頃合いでおもむろに口を開く。
「この前はなんで何も言わずに帰ったの? シャワー浴び終わって戻ったらいなくなってるから悲しかったよ」
投げかけられた言葉はいきなり直球だった。
聞かれるかもしれないなと思いつつも、ここまで触れられなかったから少し油断していた。
「それは……」
「最初から一夜だけのつもりだった?」
どう答えればいいか分からず口ごもった私だったが、見透かすように言い当てられ、正直に頷く。
「やっぱりね」と久坂さんは苦笑いだ。
「俺はまた会いたいと思ってた。連絡先も分からないしお手上げだったけど。だから今日会えたのは運命だと思ったよ」
「……私なんかにまた会いたいって思ったんですか? それはその、またこういう行為がしたいからっていう意味で?」
「確かにそれは否定しない。身体の相性すごくいいしね」
そう言われても、経験が少ない私には身体の相性というものがピンと来ない。
でも久坂さんとの行為は信じられないくらい気持ちが良い。
そういう状態を身体の相性が良いと言うのだろう。
「でも身体だけではないよ。……実は一目惚れしたんだ、香澄に」
「えっ?」
思いがけない台詞に一瞬息が止まる。
動揺してパチパチと何度も何度も目を瞬いた。
「あの、今信じられない言葉が聞こえた気がするんですけど、私の聞き間違いですよね……?」
「一目惚れって言ったこと? 聞き間違いではないよ。そう言ったから」
「え、本当に、ですか⁉︎」
「本当だよ。それに最初は外見に惹かれたけど、あの日一緒に過ごして内面も好きになった」
「じょ、冗談ですよね……?」
「ひどいなぁ。本気で言ってるのに」
「だって、久坂さんみたいな方がなんで私なんかを……?」
畳み掛けるように次々に繰り出される驚き発言に私はただただ目を丸くする。
好意を打ち明けられているため、これはいわゆる告白というものだと思う。
男性から告白されるなんて人生で初めての出来事な上に、その相手が久坂さんである事実に、ドキドキよりも驚きが優った。
「俺みたいなってどういう意味?」
「それは、久坂さんは素敵な方ですし、きっと女性にモテると思うので。その気になれば誰でも――」
「誰でもって香澄も?」
途中で言葉を遮られ、真っ直ぐに見据えられる。
その瞳の真剣さにドキリと胸が高鳴った。
彼が冗談を言っているのではないとヒシヒシと伝わってくる。
どうやら目の前のこの眉目秀麗な男性は、信じられないことに本気で私を求めてくれているらしい。
それならば、こちらも誤魔化すことなく真摯に答えなければならないだろう。
「すみません。私はそのお気持ちに応えることはできないです。私、婚約者がいるんです」
「……そうなんだ」
「だから、お気持ちはすごく嬉しいのですが、申し訳ありません……!」
私は隠すことなく事実を伝えて、彼に謝罪の言葉を述べた。
私の断りを受け、一瞬だけ黙り込んだ久坂さんだったが、再び私を見て今度は不思議そうな顔をする。
「……じゃあなんで前回も今回も俺と寝たの? 無理強いはしてないと思ったけど?」
「…………」
痛いところを突かれてしまった。
だが、久坂さんからすれば、しごくもっともな問いとも言える。
「もしかして婚約者と上手くいってない?」
「いえ、そんなことはないです」
「それなら、婚約者とのセックスに満足してないとか? 欲求不満だった?」
「………っ!」
「当たり? 結婚前にちょっと他の男とも経験してみたくなったってとこかな」
久坂さんはどういうわけか、するすると事実を解き明かしていく。
弁護士という職業柄、人の顔色を見て読み取ることに長けているのだろう。
すべてを見透かされてしまいそうな気がした私は、思わず自分の顔を手で隠した。
「……なんで顔隠すの?」
「だ、だって、なんだか久坂さんがエスパーみたいで……!」
視界は真っ暗だが、くすくすと久坂さんの笑う声が聞こえてくる。
笑われていることにじわじわと恥ずかしさが込み上げてきて、居ても立っても居られない心地になったその時だ。
いきなりパッと視界が開けて明るくなる。
手を掴み取られて、目に飛び込んできたのは久坂さんの顔だ。
そしてそのまま唇を奪われる。
「えっ、ちょっと久坂さん……⁉︎」
「香澄はいちいち反応が可愛いね。俺は別に顔色を読んだわけではないのに」
「そうなんですか? じゃあどうして?」
「この前初めてイッて驚いてたよね。婚約者がいるってさっき聞いて、それなら婚約者とのセックスではイケなくて身体が寂しかったのかなと推測しただけ。単純に事実を繋ぎ合わせたんだ」
そう種明しをしてくれながらも久坂さんの唇は、私の首筋や鎖骨を愛撫し、そのままどんどん下へ降りていく。
掴まれた両手は頭の上に縫い付けられ、まるで拘束されているようだ。
両手の自由を奪われた状態で、久坂さんの愛撫は続き、胸元まで降りた唇は胸の一番敏感な部分をチロチロと弄び始めた。
「んんっ! 久坂さん、ダメ、やめて……」
「本当にやめて欲しい? もっとって求められてるようにしか見えないけど?」
気が付けば、私は無意識に自ら胸を彼の方へ突き出していた。
まるでもっとその刺激が欲しいとねだるように。
久坂さんはそれに応えるように先端を口に含み、巧みな舌遣いで甘い刺激を与えてくれる。
同時に私の手を拘束している側と反対の手を、脚の付け根へと滑らせた。
「ああっ」
「さっき以上にぐちょぐちょ。こんなに感じやすい身体なのに、婚約者とのセックスではイケないなんて可哀想だ」
「んっ、可哀想では、ない、です……」
「強がらなくてもいいよ。本当は普段の生活を忘れるくらい乱れたくて、めちゃくちゃにされたくてしょうがないんだろう?」
久坂さんの言葉は私の心の内を絶妙に突いていて、なんだか泣きたくなってくる。
この久坂さんとの行為はきっとある種の現実逃避なのだ。
抑圧した普段の自分を快楽で解き放つ、だから心の隙間が束の間の幸せで満たされる。
「俺は香澄に婚約者がいても構わないよ。やっぱりこうしていると香澄を手放したくないと思うから。もう会えないのは嫌なんだ」
「えっ……」
「婚約者とのセックスでイケないのなら、俺が抱いてあげる。俺が香澄の寂しさを埋めてあげるよ。だからこれからも会いたい」
久坂さんとの行為で心も身体もひととき満たされる私は、彼の言葉に内心グラリと自分が揺れるのを感じた。
「彼がこう言ってくれるのだから感情のままに流されてもいいんじゃない?」と悪魔の囁きが聞こえてくる。
一方で理性的な部分は、「婚約者がいるのだから常識的に考えて良くないことだ」と訴えかけてくる。
しばし心の内で密やかな葛藤が繰り広げられ、理性が感情に打ち勝ったところで私は口を開く。
「でもそんなのは良くな……ああっ!」
久坂さんが茂みを掻き分け、敏感な粒を撫でるように刺激する。
それによって私は言葉を最後まで発することができず、自身の嬌声に掻き消されてしまった。
じわじわと快楽の波が昂ってきて、私は目を瞑る。
すでに久坂さんによって何度も経験させられた絶頂が近づいてきているのが分かった。
「あっ、はぁ、あああっ……イク……」
だが、まもなく、というタイミングで久坂さんの手が突如止まる。
それにより、押し寄せていた波も鎮まった。
イクことを逃してしまった私は何が起こったのか分からない。
「さっきもう俺とは会わないって言おうとしたよね?」
「それは……はい、そうです。やっぱり良くないことだから」
「本当にそれでいいの?」
そう問いかけた久坂さんは再び秘部への指の動きを再開する。
すでに一度火をつけられていた私の身体は、みるみるうちに快感に支配され、再び上り詰めようとしていた。
「今度こそイキそうだ……」とそう思った瞬間、またしても手が止まり、熱が逃げていく。
「なんで……?」
二度の寸止めに私の情緒はズタズタだ。
……ツライ。イかせて欲しい。
頭の中はその想いでいっぱいで、涙目になって久坂さんを見上げた。
「イキたい?」
目を細めて私に問いかける彼に私は我慢できずにコクコクと首を縦に振った。
久坂さんは唇の端を持ち上げ軽く頷くと、ゆるゆると動きを再開する。
「じゃあ希望通りにイかせてあげるから、これからも会ってくれると約束して欲しい」
「でも……んんっ、ああっ!」
「ほら、ちゃんと約束して? じゃないとまた手を止めるよ?」
先程までよりさらに強い刺激が与えられ、私の頭はもう何も考えられなくなる。
理性がとろけ、感情が剥き出しになってきた。
……気持ちいい。イキたい。彼に抱かれてもっと乱れたい。
「あっ、もうダメ……。分かりました。約束、します……! また久坂さんに会いたい。抱いて欲しい……!」
ついに理性を失った私は、思いの丈をぶちまけるて彼にすがった。
それを聞いて満足そうに口元に弧を描いた久坂さんは、ようやく私を絶頂に導いてくれる。
何度も何度も寸止めをされて燻りを溜め込んだ私の身体は、息が止まる程のかつてない深い快楽に襲われた。
過ぎた快感に疲れ果てた私は、満たされた感覚とともに私そのまま意識を手放して眠りに落ちたのだった。
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