Heaven‘s Gate

南雲遊火

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篁少年の閻魔張 〜お節介な鬼と伊吹の山神〜 〜Since 810〜

プロローグ

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「……られ……、知りま……からね。……は」

 朦朧とする意識の中、頭の上で声が聞こえる。
 周囲はまるで雨上がりのように、ムッとした植物の匂いと、じっとりとした湿気に包まれている。

 その声が、少年の頭の中で、から言葉・・として認識できるようになるまで、しばし、時が必要となった。

 はて、此処は、どこだろう。
 自分は、一体……。

「貴重な貴重な命の水・・・を、こーんな、死にかけの、それもちっさい子どもに、ぜーんぶ与えるなんて。おひいさまの機嫌が悪くなっても、知りませんからね!」
「だいじょーぶだいじょうぶ。アレはアイツがオレにくれたもので、だから、オレが好きなときに自由に使って、全然まったく、問題なーっし!」

 刺々しい怒声に対し、実に清々しいほど、あっけらかんとした男の声。
 いのちのみず……? なんのことだろう……。

 少年……竹生たけおは、ゆっくりとまぶたを開ける。
 目の前には、今まで見たことの無い、輝くような、金糸の髪。

「お。気がついた」

 同行者の怒りの矛先を逸らせるように、明るく朗らか、かつ、華やかな笑顔を向ける、大柄な美丈夫のその頭には、長く鋭い、二本の角。
 
「………………えッ!」

 竹生は勢いよく、飛び跳ねるように起き上がると、一目散に後ずさった。
 が。

「おーい、急に動いて大丈夫か?」
「そりゃアキト様見たら、大概の初対面の人はそうなりますって。めちゃくちゃ長生きしてるんですから、いい加減自覚してくださいよ」

 くらくらと目を廻して倒れる竹生を、は長い爪で傷つけないよう、器用に抱え起こす。
 同行者の少年は、そんな鬼をぞんざいに指さしつつ、ため息を吐きながら竹生に説明した。

「あー。無理もないけど、コレ、一応ウチの山里の、土地神様(仮)カッコカリなんで、大丈夫。怖くない。下手に怒らさない限りは人畜無害」

 鬼はえへんと胸を張り、にっかりと笑った。
 別に褒めてない。と、じっとりとした少年の視線が物語る。

亞輝斗アキトだ! よろしくな!」
「ほ……本当に、僕を、食べない……?」

 おそるおそる、竹生は顔をあげた。
 上目遣いに、ジッと鬼の、炎よりもなお赤い、その瞳を見つめる。

「おう! 昔は人間の肉を、美味しく喰ってたけど、今は……って、おーい!」

 抱えた手の中でぐったりと気絶する竹生に、亞輝斗はおろおろと慌て――そんな彼の尻を、「自業自得だ」とばかりに、少年が思いっきり蹴っ飛ばした。

 これが、後に「地獄の官吏」と呼ばれる小野篁おののたかむらの、人外の異形との初めての接触ファースト・コンタクトだった。
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