11 / 27
篁少年の閻魔張 〜お節介な鬼と伊吹の山神〜 〜Since 810〜
プロローグ
しおりを挟む
「……られ……、知りま……からね。……は」
朦朧とする意識の中、頭の上で声が聞こえる。
周囲はまるで雨上がりのように、ムッとした植物の匂いと、じっとりとした湿気に包まれている。
その声が、少年の頭の中で、音から言葉として認識できるようになるまで、しばし、時が必要となった。
はて、此処は、どこだろう。
自分は、一体……。
「貴重な貴重な命の水を、こーんな、死にかけの、それもちっさい子どもに、ぜーんぶ与えるなんて。お姫さまの機嫌が悪くなっても、知りませんからね!」
「だいじょーぶだいじょうぶ。アレはアイツがオレにくれたもので、だから、オレが好きなときに自由に使って、全然まったく、問題なーっし!」
刺々しい怒声に対し、実に清々しいほど、あっけらかんとした男の声。
いのちのみず……? なんのことだろう……。
少年……竹生は、ゆっくりとまぶたを開ける。
目の前には、今まで見たことの無い、輝くような、金糸の髪。
「お。気がついた」
同行者の怒りの矛先を逸らせるように、明るく朗らか、かつ、華やかな笑顔を向ける、大柄な美丈夫のその頭には、長く鋭い、二本の角。
「………………えッ!」
竹生は勢いよく、飛び跳ねるように起き上がると、一目散に後ずさった。
が。
「おーい、急に動いて大丈夫か?」
「そりゃアキト様見たら、大概の初対面の人はそうなりますって。めちゃくちゃ長生きしてるんですから、いい加減自覚してくださいよ」
くらくらと目を廻して倒れる竹生を、鬼は長い爪で傷つけないよう、器用に抱え起こす。
同行者の少年は、そんな鬼をぞんざいに指さしつつ、ため息を吐きながら竹生に説明した。
「あー。無理もないけど、コレ、一応ウチの山里の、土地神様(仮)なんで、大丈夫。怖くない。下手に怒らさない限りは人畜無害」
鬼はえへんと胸を張り、にっかりと笑った。
別に褒めてない。と、じっとりとした少年の視線が物語る。
「亞輝斗だ! よろしくな!」
「ほ……本当に、僕を、食べない……?」
おそるおそる、竹生は顔をあげた。
上目遣いに、ジッと鬼の、炎よりもなお赤い、その瞳を見つめる。
「おう! 昔は人間の肉を、美味しく喰ってたけど、今は……って、おーい!」
抱えた手の中でぐったりと気絶する竹生に、亞輝斗はおろおろと慌て――そんな彼の尻を、「自業自得だ」とばかりに、少年が思いっきり蹴っ飛ばした。
これが、後に「地獄の官吏」と呼ばれる小野篁の、人外の異形との初めての接触だった。
朦朧とする意識の中、頭の上で声が聞こえる。
周囲はまるで雨上がりのように、ムッとした植物の匂いと、じっとりとした湿気に包まれている。
その声が、少年の頭の中で、音から言葉として認識できるようになるまで、しばし、時が必要となった。
はて、此処は、どこだろう。
自分は、一体……。
「貴重な貴重な命の水を、こーんな、死にかけの、それもちっさい子どもに、ぜーんぶ与えるなんて。お姫さまの機嫌が悪くなっても、知りませんからね!」
「だいじょーぶだいじょうぶ。アレはアイツがオレにくれたもので、だから、オレが好きなときに自由に使って、全然まったく、問題なーっし!」
刺々しい怒声に対し、実に清々しいほど、あっけらかんとした男の声。
いのちのみず……? なんのことだろう……。
少年……竹生は、ゆっくりとまぶたを開ける。
目の前には、今まで見たことの無い、輝くような、金糸の髪。
「お。気がついた」
同行者の怒りの矛先を逸らせるように、明るく朗らか、かつ、華やかな笑顔を向ける、大柄な美丈夫のその頭には、長く鋭い、二本の角。
「………………えッ!」
竹生は勢いよく、飛び跳ねるように起き上がると、一目散に後ずさった。
が。
「おーい、急に動いて大丈夫か?」
「そりゃアキト様見たら、大概の初対面の人はそうなりますって。めちゃくちゃ長生きしてるんですから、いい加減自覚してくださいよ」
くらくらと目を廻して倒れる竹生を、鬼は長い爪で傷つけないよう、器用に抱え起こす。
同行者の少年は、そんな鬼をぞんざいに指さしつつ、ため息を吐きながら竹生に説明した。
「あー。無理もないけど、コレ、一応ウチの山里の、土地神様(仮)なんで、大丈夫。怖くない。下手に怒らさない限りは人畜無害」
鬼はえへんと胸を張り、にっかりと笑った。
別に褒めてない。と、じっとりとした少年の視線が物語る。
「亞輝斗だ! よろしくな!」
「ほ……本当に、僕を、食べない……?」
おそるおそる、竹生は顔をあげた。
上目遣いに、ジッと鬼の、炎よりもなお赤い、その瞳を見つめる。
「おう! 昔は人間の肉を、美味しく喰ってたけど、今は……って、おーい!」
抱えた手の中でぐったりと気絶する竹生に、亞輝斗はおろおろと慌て――そんな彼の尻を、「自業自得だ」とばかりに、少年が思いっきり蹴っ飛ばした。
これが、後に「地獄の官吏」と呼ばれる小野篁の、人外の異形との初めての接触だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。
雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作
阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。何もかも親に決められ、人形のように生きる日々。
だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。
だが、その執事の正体は、幼い頃に結婚の約束をした結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。しかし、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。
これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人のためなら何でもしてしまう一途すぎる執事(ヤンデレ)が、二度目の恋を始める話。
「お嬢様、私を愛してください」
「……え?」
好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び結月に届くのか。
一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー!
✣✣✣
カクヨムにて完結済みです。
毎日2話ずつ更新します。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる