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日常話
至福の時 ~Since 2014~
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「ダメ……」
もう、無理……そう言って、安姫は倒れた。
靴も脱がぬまま、玄関のフローリングに突っ伏して、そのままスースーと、寝息をたてはじめる。
「ぱぱー」
「まま、ねちゃったー」
双子の幼い娘たちが、無邪気に安姫をつつくが、安姫はピクリと動かない。
「安姫……風邪をひくぞ」
言ったところで、一度眠ってしまうと、彼女がそう簡単に目を覚ますことはない。ということはわかってはいたのだが、雷月は一応、妻に声をかけた。
しかし、案の定、彼女が目を覚ます気配はない。
「困ったな……」
抱えて寝室に運びたくとも、雷月には右腕がない。もう少し彼女に意識があったなら、支えて部屋まで歩かせることもできたが、ここまで熟睡されると、それも無理だ。
致し方ない。と、雷月は娘たちに言う。
「家中のクッションと枕とぬいぐるみを、ここに持っておいで」
キラキラと目を輝かせ、娘たちはぱたぱたと部屋に走っていった。
その間、雷月は寝室に向かい、何度か往復して、ベッドの上の掛け布団と毛布を、ズルズルと引きずって、玄関まで持ってくる。娘たちも何度か往復し、枕とクッション、大小さまざまなぬいぐるみを抱えてきた。
玄関にほど近い廊下にクッションを敷き詰めて、娘たちをその上に寝かせた。ぬいぐるみで隙間を埋めて、その上に半分に折った毛布をかけた。娘たちはキャッキャと笑いながら、秘密基地のようだと嬉しそうに転げ回る。
雷月は休む間も無く、安姫を引きずるようにして、もうすこし娘たちのいる位置に近い場所に移動させた。そして、布団をかけてやり、安姫の頭の下に枕を敷いた。よほど疲れているのか、安姫に起きる気配はない。
背中が、少し痛くなるかもしれないが……。
「……ご苦労様」
雷月は安姫の額を撫でる。そして、そのまま彼女の隣に横になり、寄り添うように眠った。
◆◇◆
「……何、やってるんですか?」
眩い日差しと、それを背にする、唖然とした友人の顔が、そこにある。
合鍵を使って入ってきたであろう安曇は、呆れ顔で兄貴分と、実の妹を見下ろした。
雷月は、シィっと左手の人差し指を口の前に持ってゆく。隣では妻が、幸せそうに、寝息をたてていた。
もうすこし、眠らせてやってくれ。
雷月の口の動きに、安曇は「はいはい」と、ため息を吐いた。
「一度、出直します。昼には起きていてくださいよ」
声は小さく、かつ、口の動きは彼にしてはやや大きめに。安曇はそう言うと、回れ右して、静かに、玄関の扉を閉める。
雷月は左手を振って見送ると、再び、妻に視線を戻した。
もう、無理……そう言って、安姫は倒れた。
靴も脱がぬまま、玄関のフローリングに突っ伏して、そのままスースーと、寝息をたてはじめる。
「ぱぱー」
「まま、ねちゃったー」
双子の幼い娘たちが、無邪気に安姫をつつくが、安姫はピクリと動かない。
「安姫……風邪をひくぞ」
言ったところで、一度眠ってしまうと、彼女がそう簡単に目を覚ますことはない。ということはわかってはいたのだが、雷月は一応、妻に声をかけた。
しかし、案の定、彼女が目を覚ます気配はない。
「困ったな……」
抱えて寝室に運びたくとも、雷月には右腕がない。もう少し彼女に意識があったなら、支えて部屋まで歩かせることもできたが、ここまで熟睡されると、それも無理だ。
致し方ない。と、雷月は娘たちに言う。
「家中のクッションと枕とぬいぐるみを、ここに持っておいで」
キラキラと目を輝かせ、娘たちはぱたぱたと部屋に走っていった。
その間、雷月は寝室に向かい、何度か往復して、ベッドの上の掛け布団と毛布を、ズルズルと引きずって、玄関まで持ってくる。娘たちも何度か往復し、枕とクッション、大小さまざまなぬいぐるみを抱えてきた。
玄関にほど近い廊下にクッションを敷き詰めて、娘たちをその上に寝かせた。ぬいぐるみで隙間を埋めて、その上に半分に折った毛布をかけた。娘たちはキャッキャと笑いながら、秘密基地のようだと嬉しそうに転げ回る。
雷月は休む間も無く、安姫を引きずるようにして、もうすこし娘たちのいる位置に近い場所に移動させた。そして、布団をかけてやり、安姫の頭の下に枕を敷いた。よほど疲れているのか、安姫に起きる気配はない。
背中が、少し痛くなるかもしれないが……。
「……ご苦労様」
雷月は安姫の額を撫でる。そして、そのまま彼女の隣に横になり、寄り添うように眠った。
◆◇◆
「……何、やってるんですか?」
眩い日差しと、それを背にする、唖然とした友人の顔が、そこにある。
合鍵を使って入ってきたであろう安曇は、呆れ顔で兄貴分と、実の妹を見下ろした。
雷月は、シィっと左手の人差し指を口の前に持ってゆく。隣では妻が、幸せそうに、寝息をたてていた。
もうすこし、眠らせてやってくれ。
雷月の口の動きに、安曇は「はいはい」と、ため息を吐いた。
「一度、出直します。昼には起きていてくださいよ」
声は小さく、かつ、口の動きは彼にしてはやや大きめに。安曇はそう言うと、回れ右して、静かに、玄関の扉を閉める。
雷月は左手を振って見送ると、再び、妻に視線を戻した。
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