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第2話 ~父と息子~
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「はぁ? ジュランが誘拐されたぁ?」
「マジかよ……」
アズハルトは口をあんぐりと開け、コウガは思わず絶句した。
ジュラン本人が許容しており、普段からユルいこともあるのだろうが、臣下であるはずの将軍と、他国籍の英雄という立場の違う人間が、双方ともに普段のプライベートのノリで話し、うっかり「陛下」ないし「閣下」を付け忘れている事を、本人たちは気づいていない。
ゴホンッ……と、ジュッドが咳払いをする。眉間にしわを寄せ、シュナは「シーッ」と、口の前で人差し指をたてた。
「お前ら五月蠅い。もう少しボリューム下げろ」
「事が事ですので、今しばらく、内密にお願いいたしますわ」
お、おう……と、アズハルトはうなずく。
「じゃぁオレの組み立ては?」
「知るか」
とうぶん、そのままで居ろ……と続けそうなジュッドに「待てよ!」と首だけの英雄は慌てて叫ぶ。
「ジュッドお願い! 修理して!」
「……オレの記憶が正しければ、絶縁宣言したの、そっちだったかと」
冷たい視線で睨みつけるジュッドの服を、控えめにシュナが後ろから引っ張った。
「その……私からもお願いします。おじさま。……片腕の私だけでは荷が重いですし、お父様の事もあって、今はジェイドに頼むわけにもいきませんから……」
「そーそー。言っちゃうぞ! ジェイドとメイファにお前が妖魔になったこと……」
せっかくのシュナのフォローを無下にし、余計な一言を口にしたコウガの真横に、ジュッドの光剣が、深々とぶっ刺さる。
「大丈夫だ。そのまま今すぐ貴様を廃棄にすれば問題ない」
「ぜ……全然大丈夫じゃありませんッ!」
「ストーップ! らしくないぞ! 落ち着けジュッドッ!」
頭に血が上りきったジュッドの怒りがおさまるまでしばらく、アズハルトとシュナが懸命に押さえつけたのだった。
部屋の中から目的のタブレットを見つけたシュナは、今度はMANAを探しに、アズハルトとともに、別の部屋へ向かっていった。
部屋に残されたジュッドは、淡々かつ黙々と、コウガのバラバラになったボディ・パーツをつなぎ合わせる。
バラバラといっても、破壊されてバラバラになった状態ではなく、メンテナンスのために意図的に解体した状態であったので、ジュッドの知識でも、簡単に組み立てられる状態であった。
無言に耐えきれなくなったか、コウガが口を開く。
「……お願いだから、トドメ、刺さないでくれよ」
「それは、貴様次第だ」
きっぱりと、ジュッドはコウガに言い放つ。そんな彼に、コウガはさっきは二人がいたので言えなかったことを口にした。
「……さっきからさ、父親に向かって、ちょっと酷くない?」
「……オレの親父は、バドラッド・カーン一人だけだ」
お前じゃない。と、きっぱりと言われ、コウガは、はぁ……と、ため息を吐いた。
「そりゃー、今でも認知してないし、バドの兄貴に預けっぱなしにして、ほとんど滅多に会いに行かなかったけどさ……」
「忠告してやろう。貴様は、その馬鹿正直なところが、死を招くんだ」
ガンッ……と、額にスパナの直撃を受けたコウガは、「忠告どうも……」と口ごもる。
半機械で痛覚がない点については、今回ある意味幸いではあるのだが、唯一生身の生体パーツが収まる頭部の本格的な損傷だけは、なんとか避けたい所存。
ジュッドは深くため息を吐き、何かブツブツと呟いた。
「え? 何? 聞こえない」
「……聞こえなくてもいい。とりあえず静かにしろ」
ジュッドは小さく、「キャナル!」と、呼ぶ。姿の無い声が、「ハイ」と、答えた。
「コイツの配線部分の設計図出してくれ」
「了解いたしました」
ヴンッっと、作業机の上の小さなディスプレイがつき、コウガの設計図が表示、展開される。
「ジュランのヤツってば、なんだかなー。一般兵どころか雇われた傭兵、しかも、死んだことになってる妖魔に対して、なんでトルクメキア最高のコンピュータの自由な使用権限与えてんだよ……」
ブツブツ不満を漏らすコウガに、ジュッドは今度はレンチをぶん投げた。
「顔の表面が歪むからやめろ!」
レンチが直撃したコウガの、赤い鳥の模様が描かれた額に、近づいたジュッドが再度デコピンをお見舞いする。
「人間として、『死んでる』のはお互い様だろ。……あと、ここから先は、オレもやったことないからな……」
「は……」
コウガの目が点になった。
「今まで世界に三体しかいないBCDの修繕に立ち会ったことなんか、一度も無かっただろう。これまでの作業はいつもの応用で何とかできたが、脳から出てる神経を、各パーツにつなげるのは、さすがに初めての経験だ」
「たんま! だったら、シュナが帰ってくるまで……」
「……失敗しても、文句言うな」
ニヤリ……と、どこか邪悪かつ嬉しそうな息子の笑みに、コウガの顔は引きつり、そして、悲鳴が響いた。
「コウガ様! どうされました!」
パタパタと、シュナとアズハルトが室内に飛び込んだ。さすがに、先ほどのことがあってか、ナスカとジェイドの姿はない。
「び……びっくりした……」
室内には、震えつつも、頭と体がしっかり繋がったコウガと、念のために机の影に隠れていたジュッドの姿。
「フン。ちゃんと、ジュランがお膳立てしててくれたからな」
失敗するわけないだろ。ニヤリ……と、ジュッドはコウガを見下ろし、笑う。
机の上のディスプレイに表示されたコウガの設計図。神経の繋げ方はもちろん、組み立て方のコツなど、丁寧に、説明が書きこまれていた。
……ある程度知識のある者なら、『ジュランでなくても、直せられるように』。
「まぁ、とにかく、良かったですわー」
にっこりと笑うシュナとは対照的に、ジュッドは何か考え事があるように、深くため息を吐く。
どうした? と、アズハルトが問いかけるが、ジュッドは「何でもない」と、首を横に振った。
「それはそうと、そっちはどうだ?」
MANAは、見つかったか? ジュッドの言葉に、シュナは満面の微笑みを浮かべ、答えた。
「バッチリ! で、ございますわ」
「マジかよ……」
アズハルトは口をあんぐりと開け、コウガは思わず絶句した。
ジュラン本人が許容しており、普段からユルいこともあるのだろうが、臣下であるはずの将軍と、他国籍の英雄という立場の違う人間が、双方ともに普段のプライベートのノリで話し、うっかり「陛下」ないし「閣下」を付け忘れている事を、本人たちは気づいていない。
ゴホンッ……と、ジュッドが咳払いをする。眉間にしわを寄せ、シュナは「シーッ」と、口の前で人差し指をたてた。
「お前ら五月蠅い。もう少しボリューム下げろ」
「事が事ですので、今しばらく、内密にお願いいたしますわ」
お、おう……と、アズハルトはうなずく。
「じゃぁオレの組み立ては?」
「知るか」
とうぶん、そのままで居ろ……と続けそうなジュッドに「待てよ!」と首だけの英雄は慌てて叫ぶ。
「ジュッドお願い! 修理して!」
「……オレの記憶が正しければ、絶縁宣言したの、そっちだったかと」
冷たい視線で睨みつけるジュッドの服を、控えめにシュナが後ろから引っ張った。
「その……私からもお願いします。おじさま。……片腕の私だけでは荷が重いですし、お父様の事もあって、今はジェイドに頼むわけにもいきませんから……」
「そーそー。言っちゃうぞ! ジェイドとメイファにお前が妖魔になったこと……」
せっかくのシュナのフォローを無下にし、余計な一言を口にしたコウガの真横に、ジュッドの光剣が、深々とぶっ刺さる。
「大丈夫だ。そのまま今すぐ貴様を廃棄にすれば問題ない」
「ぜ……全然大丈夫じゃありませんッ!」
「ストーップ! らしくないぞ! 落ち着けジュッドッ!」
頭に血が上りきったジュッドの怒りがおさまるまでしばらく、アズハルトとシュナが懸命に押さえつけたのだった。
部屋の中から目的のタブレットを見つけたシュナは、今度はMANAを探しに、アズハルトとともに、別の部屋へ向かっていった。
部屋に残されたジュッドは、淡々かつ黙々と、コウガのバラバラになったボディ・パーツをつなぎ合わせる。
バラバラといっても、破壊されてバラバラになった状態ではなく、メンテナンスのために意図的に解体した状態であったので、ジュッドの知識でも、簡単に組み立てられる状態であった。
無言に耐えきれなくなったか、コウガが口を開く。
「……お願いだから、トドメ、刺さないでくれよ」
「それは、貴様次第だ」
きっぱりと、ジュッドはコウガに言い放つ。そんな彼に、コウガはさっきは二人がいたので言えなかったことを口にした。
「……さっきからさ、父親に向かって、ちょっと酷くない?」
「……オレの親父は、バドラッド・カーン一人だけだ」
お前じゃない。と、きっぱりと言われ、コウガは、はぁ……と、ため息を吐いた。
「そりゃー、今でも認知してないし、バドの兄貴に預けっぱなしにして、ほとんど滅多に会いに行かなかったけどさ……」
「忠告してやろう。貴様は、その馬鹿正直なところが、死を招くんだ」
ガンッ……と、額にスパナの直撃を受けたコウガは、「忠告どうも……」と口ごもる。
半機械で痛覚がない点については、今回ある意味幸いではあるのだが、唯一生身の生体パーツが収まる頭部の本格的な損傷だけは、なんとか避けたい所存。
ジュッドは深くため息を吐き、何かブツブツと呟いた。
「え? 何? 聞こえない」
「……聞こえなくてもいい。とりあえず静かにしろ」
ジュッドは小さく、「キャナル!」と、呼ぶ。姿の無い声が、「ハイ」と、答えた。
「コイツの配線部分の設計図出してくれ」
「了解いたしました」
ヴンッっと、作業机の上の小さなディスプレイがつき、コウガの設計図が表示、展開される。
「ジュランのヤツってば、なんだかなー。一般兵どころか雇われた傭兵、しかも、死んだことになってる妖魔に対して、なんでトルクメキア最高のコンピュータの自由な使用権限与えてんだよ……」
ブツブツ不満を漏らすコウガに、ジュッドは今度はレンチをぶん投げた。
「顔の表面が歪むからやめろ!」
レンチが直撃したコウガの、赤い鳥の模様が描かれた額に、近づいたジュッドが再度デコピンをお見舞いする。
「人間として、『死んでる』のはお互い様だろ。……あと、ここから先は、オレもやったことないからな……」
「は……」
コウガの目が点になった。
「今まで世界に三体しかいないBCDの修繕に立ち会ったことなんか、一度も無かっただろう。これまでの作業はいつもの応用で何とかできたが、脳から出てる神経を、各パーツにつなげるのは、さすがに初めての経験だ」
「たんま! だったら、シュナが帰ってくるまで……」
「……失敗しても、文句言うな」
ニヤリ……と、どこか邪悪かつ嬉しそうな息子の笑みに、コウガの顔は引きつり、そして、悲鳴が響いた。
「コウガ様! どうされました!」
パタパタと、シュナとアズハルトが室内に飛び込んだ。さすがに、先ほどのことがあってか、ナスカとジェイドの姿はない。
「び……びっくりした……」
室内には、震えつつも、頭と体がしっかり繋がったコウガと、念のために机の影に隠れていたジュッドの姿。
「フン。ちゃんと、ジュランがお膳立てしててくれたからな」
失敗するわけないだろ。ニヤリ……と、ジュッドはコウガを見下ろし、笑う。
机の上のディスプレイに表示されたコウガの設計図。神経の繋げ方はもちろん、組み立て方のコツなど、丁寧に、説明が書きこまれていた。
……ある程度知識のある者なら、『ジュランでなくても、直せられるように』。
「まぁ、とにかく、良かったですわー」
にっこりと笑うシュナとは対照的に、ジュッドは何か考え事があるように、深くため息を吐く。
どうした? と、アズハルトが問いかけるが、ジュッドは「何でもない」と、首を横に振った。
「それはそうと、そっちはどうだ?」
MANAは、見つかったか? ジュッドの言葉に、シュナは満面の微笑みを浮かべ、答えた。
「バッチリ! で、ございますわ」
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