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プロローグ
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部下の報告に、はぁ……と、小さく女はため息を吐いた。
その部下に対し、女は実にシンプルで短い言葉で下がらせ、一人になったところで、ぽつり……と、つぶやく。
「気に入らないわね……やっぱり、あの国は」
大陸の西に広がる、巨大な砂漠の帝国。かの地に君臨する、第二代皇帝……異世界人のジュラン・エトー。
そして、彼に従う、『二人の妖魔』。
元来妖魔は、「人類の敵」だった。人に寄生し、人の精気を喰らい、かつては滅ぼす寸前まで追い詰めたことだってある。
はぐれ妖魔という者が、決していないわけではない。また、妖魔の中にもいくつかの派閥があり、自分に付き従っている者たちだけではないことも、重々わかってはいる。
が、妖魔が人間に……それも、異世界人に従うなどと、聞いたことがない。否、あってはならない。
「そうね。最近、調子にのってるみたいだし……」
ちょっとだけ、痛い目にあってもらおうかしら……。
まどろんだ意識が覚醒し、ジュッドは途端に不機嫌になった。
「……ったく、せっかく眠っていたのに、なんで起こし……」
た……と、ジュッドは最後まで言えなかった。否、異様な状況に覆わず言葉が出ない。
精気切れで眠っていた自分を起こすため、自身の精気を分け与えたであろうライヨウは、既に全身血まみれで、力なくぐったりと、ジュッドに覆いかぶさる形で倒れていた。
「な……何があった!」
「……うぅ」
ライヨウを激しく揺するが、呻くだけで言葉にならない。
普段、浅い切傷程度なら瞬時に治り、骨が折れようが致死レベルの全身大火傷を負おうが、数分で完治してしまうほど丈夫なライヨウではあるのだが、何故か、その傷は消えることなく、只人のように、そこに存在し続けていた。
一番深いであろう、彼の腹部と首元から、赤い血がどくどくと流れる。
ライヨウにとっての「例外」に、ジュッドは心当たりがあった。
ライヨウの、双子の弟……。
「ジュランの身に、何かあったのか……」
「う……ん……」
ライヨウの手に握られていた、一枚の紙が、はらりと石の床に落ちる。自分が眠っていた寝台に彼を横たえると、ジュッドはその紙を拾い上げた。
力強く握りしめていた故か、くしゃくしゃにシワが入っていたものの、透かしの紋様が入ったその繊細な紙には、流れるような文字が、一言だけ。
「ジュラン閣下と『会談』したく、我が国にご招待いたしました……か」
差出人の名を探し、ぎょっと、ジュッドは二度見する。
ライヨウの血で滲み、やや、読みづらくはなっていたが、間違いない……。
「ミーレイバースト・シェイラ・リェン・ラジスティア……だと……?」
その名が示す人物は、この世界において、唯一人。
滅んだ東の大帝国ラディアータの、ナーガ帝第一皇女。
妖魔が治める北の大地、アリストリアル皇帝を、裏で操る女摂政。
この世界において、「最強」とされる『妖魔王』の妻……。
そして……。
「……また、妙な奴に目を付けられたな……ジュラン……」
眉間にシワを寄せ、ジュッドは大きく、ため息を吐いた。
その部下に対し、女は実にシンプルで短い言葉で下がらせ、一人になったところで、ぽつり……と、つぶやく。
「気に入らないわね……やっぱり、あの国は」
大陸の西に広がる、巨大な砂漠の帝国。かの地に君臨する、第二代皇帝……異世界人のジュラン・エトー。
そして、彼に従う、『二人の妖魔』。
元来妖魔は、「人類の敵」だった。人に寄生し、人の精気を喰らい、かつては滅ぼす寸前まで追い詰めたことだってある。
はぐれ妖魔という者が、決していないわけではない。また、妖魔の中にもいくつかの派閥があり、自分に付き従っている者たちだけではないことも、重々わかってはいる。
が、妖魔が人間に……それも、異世界人に従うなどと、聞いたことがない。否、あってはならない。
「そうね。最近、調子にのってるみたいだし……」
ちょっとだけ、痛い目にあってもらおうかしら……。
まどろんだ意識が覚醒し、ジュッドは途端に不機嫌になった。
「……ったく、せっかく眠っていたのに、なんで起こし……」
た……と、ジュッドは最後まで言えなかった。否、異様な状況に覆わず言葉が出ない。
精気切れで眠っていた自分を起こすため、自身の精気を分け与えたであろうライヨウは、既に全身血まみれで、力なくぐったりと、ジュッドに覆いかぶさる形で倒れていた。
「な……何があった!」
「……うぅ」
ライヨウを激しく揺するが、呻くだけで言葉にならない。
普段、浅い切傷程度なら瞬時に治り、骨が折れようが致死レベルの全身大火傷を負おうが、数分で完治してしまうほど丈夫なライヨウではあるのだが、何故か、その傷は消えることなく、只人のように、そこに存在し続けていた。
一番深いであろう、彼の腹部と首元から、赤い血がどくどくと流れる。
ライヨウにとっての「例外」に、ジュッドは心当たりがあった。
ライヨウの、双子の弟……。
「ジュランの身に、何かあったのか……」
「う……ん……」
ライヨウの手に握られていた、一枚の紙が、はらりと石の床に落ちる。自分が眠っていた寝台に彼を横たえると、ジュッドはその紙を拾い上げた。
力強く握りしめていた故か、くしゃくしゃにシワが入っていたものの、透かしの紋様が入ったその繊細な紙には、流れるような文字が、一言だけ。
「ジュラン閣下と『会談』したく、我が国にご招待いたしました……か」
差出人の名を探し、ぎょっと、ジュッドは二度見する。
ライヨウの血で滲み、やや、読みづらくはなっていたが、間違いない……。
「ミーレイバースト・シェイラ・リェン・ラジスティア……だと……?」
その名が示す人物は、この世界において、唯一人。
滅んだ東の大帝国ラディアータの、ナーガ帝第一皇女。
妖魔が治める北の大地、アリストリアル皇帝を、裏で操る女摂政。
この世界において、「最強」とされる『妖魔王』の妻……。
そして……。
「……また、妙な奴に目を付けられたな……ジュラン……」
眉間にシワを寄せ、ジュッドは大きく、ため息を吐いた。
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