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ねつをもとめて
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「なあ」
「うん?」
「何で、こんなことになってんだ?」
大の男に襲われかけている状態で、我ながら呑気すぎる発言だと思った。その証拠に、緊張をあらわにしていた目の前の表情が緩みを見せる。
「……それ聞きたいの、俺のほうだって。お前、何で抵抗とかしないの?」
質問で返されてしまい、改めて考える。そうだ、別に逃げようと思えば逃げられるんだ。このまま進めば自分の身に何が起こるかも、だいたい予想はつく。その上で俺は何故、抵抗をしないのか。
思考はあっさりと行き詰まる。答えを探すために、この状況に至った経緯を今一度思い返すことにした。
******
長い長い夏休み。時間はたっぷりあったはずなのに、いつの間にか終わりが近付いていることに気がついたある日。俺達は思い出作りでもしてみるかと、大学近くのアパートから県外の海へと車を走らせた。
よくある学生の小旅行。気のおけない友人と共に、海辺でめいっぱいはしゃいだ。疲れたから早めに宿のチェックインをして、折角だからと奮発したおかげで味わえる、露天風呂の癒やしを堪能して。
普段の自炊生活では絶対使わないような食材ばかりで彩られた豪華な食事を腹の中に勢いよく納め、二人揃って部屋に戻るなり畳で横になって、俺はそのまま襲ってきた睡魔に抵抗することなく意識を手放した。
ただ普通に楽しかった。食って、寝て、帰ったら残り少なくなった自由な期間をだらだら消費して終わり、というのを想定していたのだが。
どれくらい眠っていたのだろう、気怠さを押し退けて重たい瞼を上げると、俺の目には余暇を共有する友人の顔が至近距離で映し出された。
「近っ……なんだ?どうした?」
「……もっと近づいていい?」
「ん?……まあ、別にいいけど」
そのまま唇に与られた柔らかい感触が一体何を意味するのか、近づき過ぎた顔しか映っていなかった視界がマトモになった時点で、ようやく理解した。
「……え、俺いま、キスされたのか?」
「あ……うん。ダメだった?」
「……………………駄目……では、多分無い……」
「じゃ、もっとしていいかな」
そう言って、身体に触れられる。温かい。熱を持った手が裾から潜り込んできて、腹を、胸を、這っていく。
「手が熱い」
「そうかな……」
恐る恐る、というか、遠慮がち、というか。それでも相手は止めることはなく、着ているTシャツが胸元まで捲られる。いま何をされているのかを理解しているはずの自分が、されるがままになっているのが不思議でならなかった。他人の体温がここまで侵食してきても、嫌悪感が全くない。こいつなら俺を悪いようにはしないだろう、という信頼が許容させているのかもしれない。
それにしても、触れられる理由の方は全く持って思い当たらない。この点については質問する他無いなと思った。
「なあ、何でこんなことになってんだ?」
「聞きたいの、俺の方だよ。お前、何で抵抗しないの」
******
――考えて、考えて、結局は単純な答えに辿り着く。
「嫌じゃないから……だなぁ」
「そ……っ、かぁ~」
「そもそもお前は、何でこんなことするんだ」
この質問は痛いところに刺さったらしい。気まずそうに背けられた顔の代わりに、目の前に位置した耳はしっかりと赤く染まっていた。
「す……好きだから、じゃ、駄目かな」
単純な答えだな、と、頭には浮かんだがぶつけることはしなかった。やっとのことで絞り出した言葉なんだろう、肌に触れている手が微かに震えている。今にも泣き出してしまいそうな横顔がいじらしく思え、俺はその頬に手を添えた。
「充分だ。続きはどうする?どうせここまでで止めるつもりはないんだろ」
ふらふらと定まらない視線、何かを言おうとしては噤む唇。正直に言いづらいのはなんとなく察した。
明かりを落としていない室内、視線を移せば相手の下腹が不自然に盛り上がっていることくらいはわかる。そこに押し留められているものが、解放の時を待っていることも。俺が動けばどう反応するかが気になって、膝を曲げて窮屈そうな膨らみを軽く押し込んだ。
「うっ……ぁ、やめ、だめだって」
「何でだ、したいんじゃないのか」
「だって、ホントに……あっ、とりあえずそれやめて」
情けなく上擦った声をもっと楽しんでも良かったが、やめろと言われて止めないほど意地は悪くない。乱れた息を深呼吸で落ち着けたあと、真剣な目つきに変わった友人は改まって口を開いた。
「やっぱり、もっとちゃんと確認とりたい。お前は、その……俺のこと好き?」
「嫌いではないけど、こういうのは想像してなかった」
「それって、……えー……どうすれば……」
「だから、嫌じゃない。俺は構わないから……さすがにそろそろ背中が痛くなってきたが」
「あっ!……ごめん、気づかなくて」
「お前、よくそんなんでいきなり襲ってきたな……で、結局どこまでしたいんだ?言ってみろよ」
何を言ってきても、きっと受け入れてしまえるだろう。そう思うのだから、俺もコイツのことが「好き」であるのかもしれなかった。
最後までしてみたい、全部知りたい。と告げられて、必要なものの準備だけは万全だった友人が、ベッドサイドにずらりと物を並べる。あんなに躊躇いを見せておきながら、ここまで用意しているとは。一体どんな気持ちで荷造りをしたのか気になったが、意味もないので聞かないでおいた。
「痛かったり、気持ち悪かったら教えて欲しい。意地悪したいわけじゃないから」
「何もわからないから、任せる」
「俺も、知ってるわけじゃないけど……」
どうにも格好がつかないままだが、そんな所がコイツらしいと思わず顔が緩んでしまった。
丁寧で慎重な下準備だ。もちろん羞恥だったり苦痛もなくはなかったが、こんなにも面倒な手順を踏んでまで俺を抱きたいのかと思うと、悪い気はしなかった。それにしても。
「ぅ、……もう、いいだろ、……お前の、もうそんなになって」
始まった時から既に張り詰めていたものを、ここまで抑えておくことが男としてどれだけ辛いかくらいは分かっていた。
「だめだよ、初めてなんだから」
「俺は別に……」
「けど、そういうとこだよ。俺がお前のこと気になったのって」
「そういう?」
「自分を大事にしないところ。気になって、気付いたら好きになってた」
「……そんなものなのか」
「あ!でも、キツイなら本当に言って。我慢しないで」
「……なるべくは、そうする」
改めて、今から何がどうなるかを考える。いざとなれば口だけでなく手まで出てしまうのではと思う程、穴に宛てがわれたものは規格外に見えた。
「入れるよ」
返事の代わりに小さく頷けば、狭い肉の穴が拓かれていく感覚がすぐに来る。覚悟はしていたとはいえ、あまりの質量に内蔵が押し潰されそうだ。
「ぐっ……ぅ……」
痛みと圧迫感の中、慣らしていた時に知った浮遊感を探る。強く目を瞑り、痛みだけでなく快楽を得られるように必死で感覚に集中する。
荒い呼吸音、俺の名を呼ぶ声。その中に混じった甘さが、少なくとも相手は快感を得ていることを示していた。
「んっ……、ふ、ぅ……」
目を閉じていたせいで、唇を塞がれたことに気づくのが遅れた。ぬるりと入り込んできた舌が、内側を探ってくる。熱い。息も、舌も、触れている肌も。全身からは熱が、押し入ってくる性器からは欲が、俺に向けられている。
恐らく根元まで埋められただろうというところで唇が離され、呼吸が自由になる。深く息を吸おうと思ったが、痛みに遮られうまく行かなかった。
「っはぁ、……い、いたい?」
「あ、ったりまえ、だ……いま、動くなよ」
あんなモノが入るにはやはり狭すぎる。シクシクと痛む入口も、押し上げられる腹の内側も、馴染むまでは時間がかかりそうだ。
「うっ……無茶言うなぁ……」
「無茶は、どっちだ……っ」
明かりを減らした薄暗さでもわかるくらい、目の前の表情には余裕がない。耐えかねて暴走されることのないようにと、俺は腕を伸ばして上半身を捕まえた。近づいた相手の耳元に、噛んで含めるように言い聞かせる。
「いいか、俺が離すまで、このままでいろ」
ここで素直に聞いてもらえなければどうにかなりそうで、必死だった。お互いの荒い呼吸音が室内に響く。空調は動いていても今は真夏だ、近づき過ぎた体温が暑苦しい。体内に打ち込まれたものからも、溜め込まれた熱が内側に伝わってくる。
「あっつ…………」
「俺も……お前のなかって、あつくて、気持ちいいな」
身体の中まで知られてしまった事実は羞恥も屈辱ももたらさず、自覚したのは小さな喜びだった。
俺はろくに愛想も振り撒けない、人に興味を持たない、付き合いも良くない人間で。それでもコイツはしつこく話しかけてきて、俺のことを知りたがった。いつの間にか一緒にいるのが普通になって、ありふれていても大切な時間が積み重なって。長い間空っぽだった心の奥底が、徐々に埋められていったんだ。
「もう、平気だ。……待たせて悪かった」
拘束していた身体を解放すると、すぐに腰を掴まれた。次に来るであろう衝撃に覚悟を決めていたら、腹のあたりに雫の落ちた感触があった。何なのかと思えば、涙だ。
「えっ……な、どうした」
「ずっと、こうしたかった……けどホントに、最後までできると思ってなくて」
「……お前な……あっ、あ、んんっ……ぅ」
突然動き出されてしまい、そこからは意味のないうめき声しか出せなくなった。律動に合わせてガクガクと身体が揺さぶられる。潤滑剤でたっぷりと濡らされた結合部から卑猥な音が響き、いやらしい行為に耽っている事実が今更ながら突き刺さって目眩がしそうだ。
好きだとか、気持ちいいとか、うわ言のように繰り返しながら快感を追う友人の姿。今までに見たことのない必死さが、いじらしい。
「う……ぁ、っ、いく……っ、!」
奥まで埋められたものの脈動が伝わってくる。膜越しに精液が注がれていく。ゆっくりと陰茎が抜き出されたことが解ると、何か大切なものが欠けてしまったような強い寂しさが胸の中をを締め付けた。
事後の怠さに身を委ねていると、なんとなしに絡めていた指先が離れていく。すぐさま、後ろから身体を引き寄せられた。しっとりと汗ばんだ肌の感触。本来なら不快なものの筈なのに。身体の痛みや体力の消耗を差し引いてもなお、この体温が愛おしい。
「……暑い。そんなにくっついてくるなよ」
「え~……俺はこの方が良いけど……嫌?」
「……好きにしろ」
俺の言葉をどう解釈したのか、湿気った手が腹の上まで這ってくる。下腹をゆっくりと撫でられると、思わず声が出そうになった。冷めはじめていた体の芯が熱さを取り戻す。腹の奥が、不器用で真っ直ぐな熱をまだ求めていた。
「うん?」
「何で、こんなことになってんだ?」
大の男に襲われかけている状態で、我ながら呑気すぎる発言だと思った。その証拠に、緊張をあらわにしていた目の前の表情が緩みを見せる。
「……それ聞きたいの、俺のほうだって。お前、何で抵抗とかしないの?」
質問で返されてしまい、改めて考える。そうだ、別に逃げようと思えば逃げられるんだ。このまま進めば自分の身に何が起こるかも、だいたい予想はつく。その上で俺は何故、抵抗をしないのか。
思考はあっさりと行き詰まる。答えを探すために、この状況に至った経緯を今一度思い返すことにした。
******
長い長い夏休み。時間はたっぷりあったはずなのに、いつの間にか終わりが近付いていることに気がついたある日。俺達は思い出作りでもしてみるかと、大学近くのアパートから県外の海へと車を走らせた。
よくある学生の小旅行。気のおけない友人と共に、海辺でめいっぱいはしゃいだ。疲れたから早めに宿のチェックインをして、折角だからと奮発したおかげで味わえる、露天風呂の癒やしを堪能して。
普段の自炊生活では絶対使わないような食材ばかりで彩られた豪華な食事を腹の中に勢いよく納め、二人揃って部屋に戻るなり畳で横になって、俺はそのまま襲ってきた睡魔に抵抗することなく意識を手放した。
ただ普通に楽しかった。食って、寝て、帰ったら残り少なくなった自由な期間をだらだら消費して終わり、というのを想定していたのだが。
どれくらい眠っていたのだろう、気怠さを押し退けて重たい瞼を上げると、俺の目には余暇を共有する友人の顔が至近距離で映し出された。
「近っ……なんだ?どうした?」
「……もっと近づいていい?」
「ん?……まあ、別にいいけど」
そのまま唇に与られた柔らかい感触が一体何を意味するのか、近づき過ぎた顔しか映っていなかった視界がマトモになった時点で、ようやく理解した。
「……え、俺いま、キスされたのか?」
「あ……うん。ダメだった?」
「……………………駄目……では、多分無い……」
「じゃ、もっとしていいかな」
そう言って、身体に触れられる。温かい。熱を持った手が裾から潜り込んできて、腹を、胸を、這っていく。
「手が熱い」
「そうかな……」
恐る恐る、というか、遠慮がち、というか。それでも相手は止めることはなく、着ているTシャツが胸元まで捲られる。いま何をされているのかを理解しているはずの自分が、されるがままになっているのが不思議でならなかった。他人の体温がここまで侵食してきても、嫌悪感が全くない。こいつなら俺を悪いようにはしないだろう、という信頼が許容させているのかもしれない。
それにしても、触れられる理由の方は全く持って思い当たらない。この点については質問する他無いなと思った。
「なあ、何でこんなことになってんだ?」
「聞きたいの、俺の方だよ。お前、何で抵抗しないの」
******
――考えて、考えて、結局は単純な答えに辿り着く。
「嫌じゃないから……だなぁ」
「そ……っ、かぁ~」
「そもそもお前は、何でこんなことするんだ」
この質問は痛いところに刺さったらしい。気まずそうに背けられた顔の代わりに、目の前に位置した耳はしっかりと赤く染まっていた。
「す……好きだから、じゃ、駄目かな」
単純な答えだな、と、頭には浮かんだがぶつけることはしなかった。やっとのことで絞り出した言葉なんだろう、肌に触れている手が微かに震えている。今にも泣き出してしまいそうな横顔がいじらしく思え、俺はその頬に手を添えた。
「充分だ。続きはどうする?どうせここまでで止めるつもりはないんだろ」
ふらふらと定まらない視線、何かを言おうとしては噤む唇。正直に言いづらいのはなんとなく察した。
明かりを落としていない室内、視線を移せば相手の下腹が不自然に盛り上がっていることくらいはわかる。そこに押し留められているものが、解放の時を待っていることも。俺が動けばどう反応するかが気になって、膝を曲げて窮屈そうな膨らみを軽く押し込んだ。
「うっ……ぁ、やめ、だめだって」
「何でだ、したいんじゃないのか」
「だって、ホントに……あっ、とりあえずそれやめて」
情けなく上擦った声をもっと楽しんでも良かったが、やめろと言われて止めないほど意地は悪くない。乱れた息を深呼吸で落ち着けたあと、真剣な目つきに変わった友人は改まって口を開いた。
「やっぱり、もっとちゃんと確認とりたい。お前は、その……俺のこと好き?」
「嫌いではないけど、こういうのは想像してなかった」
「それって、……えー……どうすれば……」
「だから、嫌じゃない。俺は構わないから……さすがにそろそろ背中が痛くなってきたが」
「あっ!……ごめん、気づかなくて」
「お前、よくそんなんでいきなり襲ってきたな……で、結局どこまでしたいんだ?言ってみろよ」
何を言ってきても、きっと受け入れてしまえるだろう。そう思うのだから、俺もコイツのことが「好き」であるのかもしれなかった。
最後までしてみたい、全部知りたい。と告げられて、必要なものの準備だけは万全だった友人が、ベッドサイドにずらりと物を並べる。あんなに躊躇いを見せておきながら、ここまで用意しているとは。一体どんな気持ちで荷造りをしたのか気になったが、意味もないので聞かないでおいた。
「痛かったり、気持ち悪かったら教えて欲しい。意地悪したいわけじゃないから」
「何もわからないから、任せる」
「俺も、知ってるわけじゃないけど……」
どうにも格好がつかないままだが、そんな所がコイツらしいと思わず顔が緩んでしまった。
丁寧で慎重な下準備だ。もちろん羞恥だったり苦痛もなくはなかったが、こんなにも面倒な手順を踏んでまで俺を抱きたいのかと思うと、悪い気はしなかった。それにしても。
「ぅ、……もう、いいだろ、……お前の、もうそんなになって」
始まった時から既に張り詰めていたものを、ここまで抑えておくことが男としてどれだけ辛いかくらいは分かっていた。
「だめだよ、初めてなんだから」
「俺は別に……」
「けど、そういうとこだよ。俺がお前のこと気になったのって」
「そういう?」
「自分を大事にしないところ。気になって、気付いたら好きになってた」
「……そんなものなのか」
「あ!でも、キツイなら本当に言って。我慢しないで」
「……なるべくは、そうする」
改めて、今から何がどうなるかを考える。いざとなれば口だけでなく手まで出てしまうのではと思う程、穴に宛てがわれたものは規格外に見えた。
「入れるよ」
返事の代わりに小さく頷けば、狭い肉の穴が拓かれていく感覚がすぐに来る。覚悟はしていたとはいえ、あまりの質量に内蔵が押し潰されそうだ。
「ぐっ……ぅ……」
痛みと圧迫感の中、慣らしていた時に知った浮遊感を探る。強く目を瞑り、痛みだけでなく快楽を得られるように必死で感覚に集中する。
荒い呼吸音、俺の名を呼ぶ声。その中に混じった甘さが、少なくとも相手は快感を得ていることを示していた。
「んっ……、ふ、ぅ……」
目を閉じていたせいで、唇を塞がれたことに気づくのが遅れた。ぬるりと入り込んできた舌が、内側を探ってくる。熱い。息も、舌も、触れている肌も。全身からは熱が、押し入ってくる性器からは欲が、俺に向けられている。
恐らく根元まで埋められただろうというところで唇が離され、呼吸が自由になる。深く息を吸おうと思ったが、痛みに遮られうまく行かなかった。
「っはぁ、……い、いたい?」
「あ、ったりまえ、だ……いま、動くなよ」
あんなモノが入るにはやはり狭すぎる。シクシクと痛む入口も、押し上げられる腹の内側も、馴染むまでは時間がかかりそうだ。
「うっ……無茶言うなぁ……」
「無茶は、どっちだ……っ」
明かりを減らした薄暗さでもわかるくらい、目の前の表情には余裕がない。耐えかねて暴走されることのないようにと、俺は腕を伸ばして上半身を捕まえた。近づいた相手の耳元に、噛んで含めるように言い聞かせる。
「いいか、俺が離すまで、このままでいろ」
ここで素直に聞いてもらえなければどうにかなりそうで、必死だった。お互いの荒い呼吸音が室内に響く。空調は動いていても今は真夏だ、近づき過ぎた体温が暑苦しい。体内に打ち込まれたものからも、溜め込まれた熱が内側に伝わってくる。
「あっつ…………」
「俺も……お前のなかって、あつくて、気持ちいいな」
身体の中まで知られてしまった事実は羞恥も屈辱ももたらさず、自覚したのは小さな喜びだった。
俺はろくに愛想も振り撒けない、人に興味を持たない、付き合いも良くない人間で。それでもコイツはしつこく話しかけてきて、俺のことを知りたがった。いつの間にか一緒にいるのが普通になって、ありふれていても大切な時間が積み重なって。長い間空っぽだった心の奥底が、徐々に埋められていったんだ。
「もう、平気だ。……待たせて悪かった」
拘束していた身体を解放すると、すぐに腰を掴まれた。次に来るであろう衝撃に覚悟を決めていたら、腹のあたりに雫の落ちた感触があった。何なのかと思えば、涙だ。
「えっ……な、どうした」
「ずっと、こうしたかった……けどホントに、最後までできると思ってなくて」
「……お前な……あっ、あ、んんっ……ぅ」
突然動き出されてしまい、そこからは意味のないうめき声しか出せなくなった。律動に合わせてガクガクと身体が揺さぶられる。潤滑剤でたっぷりと濡らされた結合部から卑猥な音が響き、いやらしい行為に耽っている事実が今更ながら突き刺さって目眩がしそうだ。
好きだとか、気持ちいいとか、うわ言のように繰り返しながら快感を追う友人の姿。今までに見たことのない必死さが、いじらしい。
「う……ぁ、っ、いく……っ、!」
奥まで埋められたものの脈動が伝わってくる。膜越しに精液が注がれていく。ゆっくりと陰茎が抜き出されたことが解ると、何か大切なものが欠けてしまったような強い寂しさが胸の中をを締め付けた。
事後の怠さに身を委ねていると、なんとなしに絡めていた指先が離れていく。すぐさま、後ろから身体を引き寄せられた。しっとりと汗ばんだ肌の感触。本来なら不快なものの筈なのに。身体の痛みや体力の消耗を差し引いてもなお、この体温が愛おしい。
「……暑い。そんなにくっついてくるなよ」
「え~……俺はこの方が良いけど……嫌?」
「……好きにしろ」
俺の言葉をどう解釈したのか、湿気った手が腹の上まで這ってくる。下腹をゆっくりと撫でられると、思わず声が出そうになった。冷めはじめていた体の芯が熱さを取り戻す。腹の奥が、不器用で真っ直ぐな熱をまだ求めていた。
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