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第30話 義妹の帰還を楽しむ

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 「レン様、朝です。起きてくださいませ。」

 「ん~」

 私はリジの声に目覚め重い体を起こす。

 「早く準備してしまわないとリリアーナ様がいらっしゃいますよ。」

 「っ、そーだった!」

 私は布団から飛び起きて寝間着を脱ぎ、丁寧に畳まれている制服に急いで袖を通し始める。

 「レン様。淑女として端ないと存じます。
 …こうなる事を想定して少し早めにお声がけしましたので落ち着いてくださいませ。」

 「さっすがリジ!ありがと~」

 私は体の力を抜き落ち着いて着替えを進める。
 でも、何だかさっきの寝坊した日の朝みたいで懐かしかったな。前の世界でもよくあった。…お母さんとお父さん元気にしてるかな?
 自然な流れで櫛に手を伸ばしたところにリジがその櫛を手に取る。

 「お座り下さいレン様。髪をお梳かしします。
 私はレン様付きの侍女ですので。」

 「じゃあお願いしようかな。」

 リジに話しかけられ先程まで考えていた事を忘れ私は椅子に座る。

 「っ…どうされたのですか?レン様…
 涙が…」

 「え?あ、どうして…だろうね?さっきまで何か考えてた様な気がするんだけど忘れちゃった。」

 「そうですか。突然この世界に呼び出されたのですから、ご不安に思われることがあれば私達にいつでも申して下さいませ。」

 私の反応をどのように受け取ったのかは知らないがリジの事を不安にさせてしまっただろうか。本当にさっき考えてた事は忘れちゃったんだけどね?
 でも、気遣いは受け取っておこう。

 「ありがとうリジ。
 でも、大丈夫だよ。本当に何を考えてたのか忘れちゃったんだから。
 でも、何か困ったことがあったらリジに相談するよ。」

 「…承知いたしました。
 では、髪を梳かし終わりましたからホールへ向かいましょうか。
 そう言えば、レン様の魔法適性の事をリズに伝えたほうがよろしいですよね?実際冒険者ギルドで鑑定の場にいましたから。」

 「うん。リズに伝えてもらえると助かるかな。
 じゃあ行こうか。」



 私達がホールに着いた頃には城の使用人の殆どが集まっておりリリアーナを出迎える準備をしていた。彼らは私に気づくと動きを止め跪く。私がいきなりの事に固まっているとその代表と思われるおじいちゃんが口を開く。

 「おはようございますレン様。
 私はこのエルメイア城で執事長の任を任されております"オルタヘル・シュタウフェン"と申します。」

 えっと…こんなときはどうすればいいんだろう?私がちらりと後ろに立っているリジを見ると周りに聞こえないくらいの小さな声で教えてくれる。

 「挨拶のお返事をしてから仕事に戻るように伝えるのです。」

 私はリジに向かって軽くうなずき跪く使用人たちに向き直る。できるだけ貴族っぽく…貴族っぽいって何だ?偉そうな感じ?まあなんでもいいやとにかく丁寧に話そう。

 「おはようございます。それから、オルタヘルさんこれからよろしくお願いしますね。皆さん私のことは気にせずにお仕事に戻って下さい。」

 私ができるだけ笑顔で話しかけるとオルタヘルは軽くうなずき立ち上がる。

 「ご配慮感謝いたします。
 では、各自仕事に戻って下さい。」

 オルタヘルの合図により使用人たちはザッと各々の仕事を再開する。私とリジは皆の邪魔にならないように部屋の壁際に待機していると、使用人たちの場の準備も終わりすぐにエルメイア王族の人たちが到着した。先程私が受けたのと変わらない挨拶を交わし、仕事が終わった使用人たちが下がって行く。多分他にも仕事があるのだろう。
 そしてその場に残っているのは私、エルメイア王族、その側近や護衛、帰って来るリリアーナの側近、執事長のオルタヘルと大所帯である。だが、今いるホールは広いので狭さは感じない。
 私達は前に王族、後ろに使用人というように身分順に並び、私はアルフレッドの一歩後ろに下がった所で待機する。

 妹か~どんな子かな。やっぱりアルフレッドに似て美形何だよなぁ~早く会いたいよ。ふふん
 私がまだ見ぬ妹に思いを馳せているとアルフレッドが振り返ると、私に向かって微笑む。

 「おはようレン。何だか楽しそうだね。」

 「おはようございますアルフレッド様。私、昔から妹が居たらいいな~と思っていたんですよ。私姉妹いなかったので。
 私ってそんなに顔に出てますかね?」

 私、そんなに顔に表情が出ないほうだと思うんだけどな。
 私が疑問を口に出すとアルフレッドは少し笑い答える。

 「確かに平民と比べたら出ていないほうかもね。でも、貴族社会では感情を抑えて生活をするのが基本で皆幼い頃から練習をしているからレンはわかりやすい方かな。来年までに少しずつ練習するといいよ。」

 少し微笑んでただけなのに普段外にいるときはあまり感情を出さないように生活してるのにそれ以上を求められるのは無理だよ。だって声に出さなくても多少は顔に出ちゃうしそれを1年で出来るようにだなんて。

 「また変わったね今は少し不満気味の顔だ。」

 むぅ…勝手に私の表情の実況しないでよ。
 私がアルフレッドの言った不満顔のまま少し睨む。

 「ふふっ…そんなに睨まないでよ。
 そうだね、リリアーナはとても素直でいい子だからレンもなかよくなれるとおもうし、仲良くしてほしいな。それに義妹として会えることが楽しみということは私との結婚も少しは前向きに考えてくれているということだろう?」

 「え…あっハハハ…」

 そう言えばそうだった…私、アルフレッドと結婚するから義妹ができるんだ…
 でも、そんな言い方しなくてもいいじゃん。むー

 私達の会話が一区切りしたところでちょうど一人の騎士が連絡のためにホールへ入って来た。

 「皆様、リリアーナ様がご到着されました。」

 アルフレッドは私と一度目を合わせると大丈夫だよと言うように少し微笑み前を向く。私もそれに合わせて前を向いた。

 扉の前に待機していた2人の騎士たちが私達の準備が整ったことを確認すると共に扉に手を当てる。そして、『扉、開放します』と言う掛け声とともに扉を開く。魔力の力で開いているのだろう。掛け声と同時に騎士の手元から光の線が走りそれが上まで達したらギギギという音とともに室内に外の光が差し込んでくる。そこには数人分の人影が伸びており、その人に囲まれた真ん中に小さな影が1つあった。
 騎士は彼女らが扉をくぐった事を確認し再び扉を占める。
 そして、完全に扉が閉まったことを確認すると挨拶が始まった。

 「皆様、只今戻りました。
 このようにお迎えいただき、とても嬉しく存じますわ。」
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