上 下
21 / 48
乳児編

転生したら、セクシーパンツを作る事になった

しおりを挟む
 転生してから四年と数ヵ月が過ぎた。

 マルコ・ファイザーは約束通り、カンザス伯爵と王国との間で折衝を続け、一ヶ月程でこの話を決着させた。
 カンザス伯爵はリックの財産を五割受けとると、被害の訴えを取り下げたのだ。
 そして、名目上はマルコが残り五割を手間賃として貰い受けたが、一割を王国の関係者にばらまき、きっちり二割を俺たちに渡した。

 大商人のマルコだから、もっとがめつくされて、一割くらいが手元に来るだろうと思っていたので意外だ。
 パンツ狂いの俺を取引先として認めてくれたのだろうか?
 商人の考えは良くわからん。
 
▽▽▽

 リック・パークが解放される日。

 リックは金貨を詰め込んだ木箱が乗っている台車を引き、その横を俺が歩いている。
 ピーター達の家はもうすぐそこだ。

「しかし、金貨を舟ごと川に沈めるなんて考えたな」
「いや、殿下違いますぜ、あの時は必死だっただけです。カンザス伯爵に取り上げられるくらいなら川底に沈めちまえ、ってなもんですよ」
「なんだよそれ。リックらしいな」
「そうですかね?」

 リックが相変わらず大きい声で笑った。
 すると、その声に気づいたピーター達が家から飛び出してきた。

「父様ぁあああ!」
「お頭ぁあああ!」
「会頭ぉおおお!」

 三人は全速力で駆けてきて、リックの出っ張ったお腹に『ドスン』とぶつかる。
 そして、両手を広げリックの腹に巻き付いた。

 ああ。こんな子供っぽい仕草もするのか。
 ずっと気を張っていたんだな。

「なんだお前たち! 必ず帰ってくるって言っただろう」
「おがぇりなざぁい…」
「なんだ、なんだ。殿下もいるのにメソメソしやがって。まったく…」

 リックは一人一人の頭を力任せにガシガシと撫でる。
 三人はいつまでも嬉し泣きして、リックの服が濡れていた。

▽▽▽

 感動の再会が終わり、俺達はピーターの家に移動した。

「はぁ…しかし、二割か…あんなに稼いだのに…」
「父様、大丈夫です。どんなに失敗しても、次にもっと儲ければ良い。浅漬の商売で、もっともっと儲けてあげますよ!」

 浅漬の製法はファイザー商会に渡したが、庶民街での商売は継続している。
 ファイザー商会が貴族向け、ピーターが庶民向けという感じで住み分けているのだ。
 露店での利益なんてたかが知れているから、マルコが気を利かせて見逃してくれたのだろう。

「しっかし、俺がパンツ売りですか、殿下…」

 チビッ子三人が腹を抱えて『ゲラゲラ』笑っていると、『うるせぇ、ガキども!』とリックが怒りのゲンコツを脳天に落とした。

「いや、マルコ・ファイザーの反応を見た感じだと、意外に良い商売だと思うぞ。この商材に手を出している商会はいないだろ?」
「まあ、衣装関連の商会が片手間にやってる感じですかね。積極的に売ろうなんてのは殿下だけですよ」

 この時代のパンツは、前世のようなセクシー要素など全く無い、ただの短パンだ。
 男女の区別もあまりなく、サイズだけが違う。
 着用している人も少なく、地方に行けばノーパンで過ごす人が多いくらいだ。

「競争相手がいないのは良い事だ。高級品を作って、どんどん売ろう」
「なんだか売れなさそうな…しかし、高級品って、いったいどんな物を作れば良いんですか?」
「レースで作ったパンツだ」
「…」

 全員が絶句した。

「アル…本当の変態だったんだな…」
「いや、ピーター、アルの趣味だからさ…でも、レースみたいな高級品を使うなんて…」
「アルはそんなんじゃない! アルの体から出ていけ、悪魔!」

 チビッ子三人が好き放題言ってくれたが、リックは声を震わせて絶賛した。

「殿下…殿下は天才ですか?」
「何言ってるの父様? おい、アル! お前のせいで父様がおかしくなっちゃたぞ!」
「おかしいのはお前だピーター。この発明の凄さに気づかないのか?」
「え?」
「パンツは夏場に蒸れるだろ? だけどレースならどうだ?」
「蒸れない…売れるよ、父様…」
「しかも、レースは材料が糸だけです。材料費が安いですよ、会頭」
「そういう事だキース! こいつはやりようによっちゃあ良い金になるぞ?」

 リックはガハハと笑いながら、キースの頭を撫でた。
 そんな中、カイトはずっと一人考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。

「でも、アル。いったい誰が作るんだよ? パンツなんて汚い物、嫌がって誰も編まないぞ」

 そうなんだよね。
 この世界ではまだ、そういう認識なんだよ。

「ロッド王国の人にお願いしようと思っているんだけど、どうかな?」
「スラムの移民か。それなら食うに困ってるから何でもやるだろう。良い考えだな。なあ、殿下…」

 リックが真面目な顔で姿勢を正した。

「殿下は金と味方がいると言っていた。今回の下着もただの遊びって訳じゃないんだろ? いったい何を狙っているんだ?」

 少し迷ったが、リック達には本当の狙いを言おう。
 俺は決意した。

「俺は国を作ろうと思う…」
「ナニ!?」

 リックが辺りをしきりに警戒して、俺に顔を寄せると小声で話した。

「殿下が国王になるって事ですか?」
「いや、うん。そうではなく、新しく国を興すつもりだ」
「…」

 再び全員が唖然となったが、俺がどうやって国を興すかの説明を始めると、食い入るように聞いてくれた。

 計画が予定通り成功する確率は低いだろう。
 無謀な夢につき合わせるのは気が引ける。
 それでもついてきてくれるか、その意思だけは確認したかった。

「どうせ暗殺されるか、飼い殺しになる運命だ。俺が精一杯生きる為にはこうするしかない」
「殿下…途方もない話で、俺にはどう判断したら良いかがわかりませんぜ」
「抜けるなら今だぞ、リック。どうする?」

 ピーター達三人を見ると、覚悟を決めた顔で頷いた。そして、リックはやれやれと頭を掻くと、俺に向かって最敬礼する。

「パーク商会が会頭、リック・パーク。本日より死ぬまでアルバラート殿下に忠を尽くします」

 こうして俺達は本当の仲間になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ローゼンクランツ王国再興記 〜前王朝の最高傑作が僕の内に宿る事を知る者は誰もいない〜

神崎水花
ファンタジー
暗澹たる世に一筋の光明たるが如く現れた1人の青年。 ローゼリア伯フランツの嫡子アレクス。 本を読むのが大好きな優しい男の子でした。 ある不幸な出来事で悲しい結末を迎えますが、女神シュマリナ様の奇跡により彼の中に眠るもう1人のアレク『シア』が目覚めます。 前世も今世も裏切りにより両親を討たれ、自身の命も含め全てを失ってしまう彼達ですが、その辛く悲しい生い立ちが人が生きる世の惨たらしさを、救いの無い世を変えてやるんだと決意し、起たせることに繋がります。   暗澹たる世を打ち払い暗黒の中世に終止符を打ち、人の有り様に変革を遂げさせる『小さくも大きな一歩』を成し遂げた偉大なる王への道を、真っすぐに駆け上る青年と、彼に付き従い時代を綺羅星の如く駆け抜けた英雄達の生き様をご覧ください。 神崎水花です。 デビュー作を手に取って下さりありがとうございます。 ほんの少しでも面白い、続きが読みたい、または挿絵頑張ってるねと思って頂けましたら 作品のお気に入り登録や♥のご評価頂けますと嬉しいです。 皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。どうか応援よろしくお願いいたします。 *本作品に使用されるテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。 *本作品に使用される挿絵ですが、作者が1枚1枚AIを用い生成と繰り返し調整しています。  ただ服装や装備品の再現性が難しく統一できていません。  服装、装備品に関しては参考程度に見てください。よろしくお願いします。

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族令嬢として生活していた私は記憶が覚醒、ここが大好きな乙女ゲームの《聖剣乱舞》世界だと知る。「やったぁー!」夢にまで見た、イケメン騎士だらけの学園パラダイスの世界に歓喜。  でも冷静になって思い出す。「えっ、でも私って、最終的に99%断罪な悪役令嬢なキャラだよね⁉」  よし決めた。私は自分の死亡フラグを全部へし折りながら、学園ではボッチ生活することを。フラグを立てないようにして、遠くからイケメン騎士たちを眺めて生き残るの。  だから皆さん、そんなに私に寄ってこないでください! 《聖剣乱舞×乙女ゲーム》

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

処理中です...