幸薄な私達の幸せな在処

こん

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それから2年、彼は現れなくなった。
私も薬草摘みに行く回数を増やすものの、一向に会えなかった。

2年の間に、今会えない事を悩むのも出来なくなってくるぐらい生活が酷くなった。
原因は勇者。

王は、魔王が現れる1年前に勇者の発見に成功した。
魔王は、私の住んでいるこの街の近くにある山を超えた所に現れるそうで、それに伴って勇者もこの街に来た。
最初は住民の誰もが歓迎し、沸いていた。
そんな空気も束の間、街に変な粉が出周り始めた。それは長期の快感の代わりに人を狂わせ、死に至らしめる事の出来るものだった。

一番初めに疑われたのが薬屋の我が家。
直そうにも、そんな薬を作っていないので治し方も分からない。
常連さんにも嫌われて、街総出で虐められた。

そうして両親は死んだ。私を置いて二人だけで心中したそうだ。

残されたのは、ボロボロの店と家。お金もない。
どうしようもない。

「死んだ方がマシなのかなぁ…」

家のドアが開く音がした。
咄嗟に身を隠す。

「ここかぁ、元薬屋の店って」

ガラの悪そうな男の声が聞こえる。

「ここの店主も可哀想だよなぁ、濡れ衣着せられて」

心の中がざわつく。

「なぁ、勇者さんよぉ」

ストンと何かが落ちるような感覚だった。
もう、本当にどうしようも無くなっていなのだ。初めから。そう、勇者が来たあの日から。

「俺には関係無い」
「ふーん、でもよぉ、ここ何も金目の物ねえわ。あ、そういえば薬屋に年頃の一人娘がいたはず」

心臓が跳ねる。

「流石に一家で死んでいるだろう」
「そうだよな、子を置いて死ねねぇか。こんな街なら尚更」

涙が頬を伝う感触がした。心は悲しくない、なのに涙が出る。
これがどうしてか、分かるけれど分かりたく無かった。
どうしようも無いような彼らに理解させられた。その事がどうしようもなくやるせない。


ここにはどのみちいる事は出来ない。
私はここから離れる決心をした。

魔法を使って限界距離まで飛んだ。そこからはひたすら走った。
私が走ると発生する風が涙を乾かしてくれた。
少しだけ冷たく感じる夜の空気が私を包んでくれた。

気づくと、そこは崖だった。いつ来たのか、どうやって来たのか何て分からない。
唯一つ分かる事は、その崖が私に一番の安らぎを提供してくれる事だった。
暗い崖の先は、私を誘っていた。怖く見えるはずの暗闇が温かく見えた。

1歩、また1歩と踏み出し………

「待って!!」

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