魔王(21)と僕(17)の異世界攻略記。

笠置

文字の大きさ
上 下
2 / 2
序章

幼女、それは尊大なる魔王なり

しおりを挟む
 お腹への衝撃で目が覚めるなんて、創作物の中では見た目ロリ(中身は不明)なヒロインに突然乗っかられるというお約束以外で経験することなんて無い、少なくとも幼馴染も居なければ妹も居ない、ましてや親戚の子も預かっていない筧家で、そんな事が起こりえるはずがなかった。
 それにしてもこの衝撃、お腹の中身が滅茶苦茶になるのではと思う程強く、空っぽの胃から、少量の胃液が登ってきてしまった。おかげで胃液の酸味で口の中が大変な事になっている。こんなことならば、こんな経験したくはなかった。

 いや、そもそもこれは、ロリに乗っかられた事による衝撃か。苦しく、ヒリヒリとするお腹に意識を向けてみるが、そこに触れているのはどうにも固い物の様に思えて仕方が無い。
 衝撃で少し目がチカチカとするが、目の前を見れないこともない。違和感の正体を探るべくお腹の辺りに視線を下げてみると、そこには幼女らしき人物は乗って居なかった。
 代わりと言っては何だが、ベッドの横には金髪の美幼女が佇んでおり、こちらを温度のない目で見下ろしている。そしてこの幼女はなんと、俺のお腹に足を乗っけているではないか。
 状況から察するに、この謎の美幼女が俺のお腹に向けて踵を落としたのだと悟る。
 幾ら幼女のものとはいえ、ブーツを履いた足で踵落としを、それも寝ている所に食らえば、それは多少吐いてしまっても不思議ではない。いや、寧ろその程度で済んで良かったというべきか。

「おうコラ何してくれとんねんワレェ」
「……ふむ、なるほど」

 幾ら相手が幼女と言えど、悪いことをした場合はしっかり叱りつけなければならない。そもそもこの餓鬼は、小学校高学年くらいに見える。ということは、それ相応の教育を受けているはずなのだ。
 他人に暴力を振るってはいけない、何度も口酸っぱく言われ、洗脳――もとい教育されているはずなのだから、少々手荒に怒っても構わないだろう。
 というか、何がなるほどなのか。

「人間というのは寝ている所を起こされると、取り敢えず威嚇するものなのだな」

 なんだこの偉そうな幼女は。俺の行動を何故か観察しているではないか。もっとも、なるほどという言葉の意味は理解したが――納得は別として。
 向こうが観察してきたのだから、こちらだってじっくりねっとりと観察したって文句はあるまい、心のなかで危ない言い訳をしつつ、俺のお腹に蹴りを入れてくださった幼女を見る。
 黄金を溶かした様な、輝く美しさを誇る金の髪に、血が濁った様な異様な赤い瞳。年の頃は12歳程と、目鼻立ちが整っていることもあり、人によっては一目見ただけで堕ちても仕方が無い美貌の持ち主だった。
 だが如何せん態度が大きい上に電波を受信しているらしい。俺のこと人間と呼んだぞ、この幼女は。
 それにしても軍服の様な服装にミニスカートとは、これも一種のコスプレだろうか。似合っているのがまた質が悪い。

 温度のない冷めた瞳が気にはなるが、ずっと見つめ続けていても仕方があるまい。
 状況を整理すべく、一先ず女児以外にも視線を向けてみる。女児の肩越しに見える壁が普段見慣れた壁紙で無いことから、ここが俺の部屋ではないという事はわかった。
 しかし、今俺が寝ているベッドは、毎日何時間と逢瀬を重ねた我が愛しのベッドに相違ない。ということは、ベッドごとこの部屋に来たことを意味する。
 状況を整理するとは言ったが、却ってわからなくなってしまった。ということは、やはりこの娘子に質問するしか無いのだろう。
 だが、少なくとも相手に質問をぶつければ、この状況も多少は理解できるだろう、きっと。

「あー、俺は筧亮と言うんだけれど、君のお名前は?」
「カケイリョウ、か。変わった名だな」
「そ、そうか、な?アハハハ」

 この年頃の小娘と会話したことなんて無い、故に手探りでコミュニケーションを取ろうとするも、敢え無く失敗した様だ。
 まともに名前を名乗ることも出来ないのかと思ったが、ここで怒っては質問も出来ないだろう……もう遅いかもしれないが。
 一応言葉を発して聞き取ることが出来る以上、会話は頑張れば成立するはずと思い、極力笑顔を心がけるも、

「ああ、すまない。私の名前だったな……一先ず、ニコラ様と呼んでくれれば良い」
「……わかった、ニコラちゃんだね」
「ニコラ様、だ。そう呼ばなければ、貴様の質問には答えてやらんぞ」
「ハァ、わかったよ。ニコラ様」
「……貴様は様を付けて呼ぶ相手に、タメ口で話すのか?」

 口元が引きつってしまうのは無理からぬ事だった。
 普通の小学生では在り得ないほど、このロリはどうにも態度が大きい。会って直ぐの年上の男に、様付けで呼べだとか敬語を使えなんて、普通堂々と言うだろうか。
 まあ仕方ないと割り切ろう。そうしなければ、向こうは質問に答えないというのだから。

「わかりましたよ、ニコラ様。まず最初の質問ですが、」
「ああ、皆まで言うな。何を聞きたいのかなんてわかっている……私が何者か、だろう?」

 俺の言葉を遮って言われたことは、残念ながら優先度が低いことだった。確かにこのロリが何者かは気になるところだが、それ以上にまずこの状況について知りたい。
 何故俺は見知らぬ部屋で、しかし使い慣れたベッドで寝ているのか。そもそもここは何処なのか。目の前のロリについて質問するとすれば、せいぜい三つ目だ。
 しかしここで否定すると、機嫌を損ねる可能性だってある。十中八九損ねて、何も情報を得られない可能性だってある。

「え、ええ、そうです。ニコラ様は一体何者なのですか?」
「ところで人間、貴様は幼女性愛者か?」
「違います」

 どうしていきなりロリコン扱いされなければならないと言うのか。話が通じないことに、そして突飛もない嫌疑に戰き――もとい引きながら、先程までの茶番が無かった様に話し始めるニコラの声に、黙って耳を傾ける。

「さて、私が何者か、だったな……私は魔王だ」
「……は?魔王?」
「ああ、そうだとも、人間。私はな、魔王だ」

 繰り返しになるが、目の前の幼女は電波を受信しているらしい。こういうのを中二的電波と言えば良いのだろうか。
 こんな小さな年頃で既に、自分が魔王であるとしてロールプレイしている幼女に、若干の哀れみや憐憫の目を向けるが、それも当然のことだと理解して欲しい。
 だから、肩をすくめて「やれやれ」と言う幼女に対し、大人気なく苛立ちを覚えたからといって責めないで欲しい。

 彼女が魔王であるということを、この後身を持って知ることになるのだから、少しでも負担を減らしたいのだ。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

たま(恥晒)
2016.08.18 たま(恥晒)

面白いと思います!
更新が楽しみです

解除
関谷俊博
2016.08.17 関谷俊博

進路に迷っている思考の揺らぎが、とても上手く描写されていて、すごい!
と思いました。
何かとても先が気になる所で、プロローグが終わっている。
続きを楽しみにしています。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。