ティヤムの肖像

伊藤納豆

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1章

7話*

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情事を見られた。鍵もかけず、特段見られても困らないと心の底で思っていたが故の油断。そのはずなのに、まさかのシンエイの反応にしっかり戸締りを確認しておけばよかったと、
イーヴェルは初めて己の不用心を後悔した。

先ほどまで知らない男が乗っていたまだ生暖かさが残るシーツの上に、シンエイがのし上がってくる。


「イーヴェルさんはただストレスのはけ口を探してるんでしょう。その相手って俺でも良いってことですよね。」

「はぁ……?あ、おい!」


イーヴェルから煙管を取り上げ、サイドチェストの傍らに置き、動揺するイーヴェルの両肩を掴んでベッドに押し倒した。
身勝手なシンエイの行動に、そして見下ろされる視線に、イーヴェルは無性に腹が立った。


「離せ、退けろ。」


シンエイの肩をぐっと力を込めて押した。


「どうして?あんな名前も知らないような男は良くて、どうして俺はダメなんですか?」


シンエイは珍しく苛立っているように見えた。いつも冷静で、何を考えているかわからなくて、取り乱すことなんてしないはずの彼が今、俺の上で感情をむき出しにしている。


立場も名誉も金も容姿も、さっきの男よりは自信がある。俺が求めなくたって、男や女はホイホイと寄ってきた。
それなのに、この人は違う。


いつしか、シンエイの頭には「彼の絵の才能を守るため」といった建前など吹き飛んでいた。


イーヴェルの髪を、身体を、その瞳を、すべて自分の”モノ”にーーー


この気持ちは初めてだった。シンエイはこのまどろっこしい気持ちを、「画商の執念」と自分のなかで落とし込んだ。


「俺は顔見知りとそういうことする主義じゃねーんだよ。」

「行きずりの相手とやるなんて不効率だ。次また、シたくなったときはどうするんです?0から探しに行くわけでしょう?
俺にしたら、貴方が望んだときに、貴方が望むやり方で、叶えてあげられます。合理的じゃないですか。」


中々折れないシンエイの頑固さを、イーヴェルは身をもって知っていた。はぁ、と小さくため息をつくと、彼の肩を押しやっていた手をぱたりと離し、全身を脱力させる。


「チッ、何ムキになってんだよ、めんどくせーな。……おら、そんだけいうなら早く済ませろ。しょーもねーセックスしたら、一生会ってなんてやんねーからな。」


先ほどまで牙むき出しで抵抗していたイーヴェルが、シンエイの下で大人しくなった。シンエイの喉が鳴る。
己の仕事である。そう言い聞かせながら、自分のなかの説明不可能な感情に蓋を閉じながら、イーヴェルの頬にゆっくりと触れた。


陶器のような透き通った肌は想像とは裏腹に、人間のぬくもりを感じた。



「はは、さっきまでヤりまくってたから、ナカぐっずぐずですね。汚いなぁ……1回洗った方が良かったかな。」

「う、うるせーな……お前が勝手に入ってくるからっ……」

「はは、それどっちの話ですか?玄関の話?それともーーー」

「おい、立派なのはお喋りだけかぁ?無駄口叩いてる暇あんなら、黙って腰動かせカス―――ぁん゙っ、!?ひっ……ぅ、ぁっ……!」


綺麗な顔には似つかわしくない荒い言葉。そうだった、この人はこんな見てくれではあるがしっかりと男なのである。
男性器をずっぽりとおいしそうに加えているが、男。
シンエイはその状況を理解すると、まるで自分のなかでの性癖が捻じ曲がっていく快感に襲われた。


男でも女でも構わず抱けるが、それは自分がその「人間」に興味がないからだった。
でも、今は、この美しく生意気な男を滅茶苦茶にしてやりたい、と加虐心に火がついていた。


「はいはい、わかりましたよ。ちゃんと動きますね。…イーヴェルさんはどうされるのが好きですか?浅いところをこうやって擦られるのがいいのか…」


シンエイの肉棒がイーヴェルの膨らんだ前立腺を前後にゆすった。


「あ、っ、ん゙、んっ……!」


イーヴェルの顔が歪む。こんなところをいつも犬みたいなアイツに見られたくない、と、頭にあった枕を引き抜き、自分の顔に押さえつける。
各段に気持ちが良い。さっきの男よりも、今までの男たちよりも。
場慣れなのか、それとも、金持ちはコッチの才能まで備わって生まれてくるのだろうか。おまけに下のデカさもまぁご立派なもんで。


イーヴェルは皮肉じみた思考を浮かばせながらも、そんな金持ち相手によがってしまう自分に一番腹が立っていた。
演技で適当に喘いでいればいいかとすら思っていたのに。


「なんで顔隠しちゃうんですか?勿体ない………あ、奥をこうやってガンガンされる方が好きでしたかね。」


シンエイはそう言うと、イーヴェルの華奢で少し骨ばった腰回りを両手でガシッと掴むと、徐にイーヴェルの奥深くに己のモノをいれこんだ。
今まではまだ3分の2程度しか入れ込んでいなかったのだと、イーヴェルはそこで気が付いた。

奥深く、決して入れ込んではいけないその領域に、太く熱い凶器がイーヴェルのナカを犯していく。


「ぁん゙っっっ!?!?、い、っ…ぁ、あ゙、とめ゙、あぁっん、……!!」

「あはは、すっげー声。ねえ、もっと聞かせてくださいよ。」


シンエイがイーヴェルの枕を奪い取り放り投げる。そこには、さっきまでの済ました表情のイーヴェルはいなかった。
涙をハラハラと流し、口の端から零れた涎で己の頬を汚している。開かされているすらっとした女性のような脚は、気持ちよさからなのか、ピクピクと痙攣していた。


ああ、壊してしまいたい。自分にしか見せないでほしい。その表情も、その声も。


シンエイは、ナカに入れ込んだまま、身体をイーヴェルに密着させるようにして押し込んだ。より一層、奥が掻き分けられる。
焼ききれそうな快感で頭が働かない。


見るな、見るな、見てほしい。おかしくなる。


「イーヴェルさん、こっち見て。」


ぱち、ぱちと、目の前に閃光が走る。その奥に、揺れるシンエイの顔。雪がかかったように、湿ったまつ毛が際立ってよく見えた。
それを理解したあとすぐ、激しい動きとは似ても似つかない、優しく触れるようなキスが降る。
イーヴェルは抵抗せず不思議とそれを受け入れていた。
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