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オメガバース
運命の番(8)
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晴柊は腕の引かれた方を振り返る。そこには、知らない男がいた。
「あんた、Ωだろ。」
αだ。αの男だ。晴柊はぐっと息を呑んだ。晴柊の抑制剤で完璧には抑えきれていない僅かなフェロモンを嗅ぎ取ったのだろう。
「離せ。」
晴柊は男を睨みつけ、抵抗する。どうしてこうもΩだというだけで標的にされるのか、と晴柊は思った。晴柊は自覚はしていないが、その容姿がまたαを引き付けていた。
「何だよ。わざわざこんなところに来て、αを探しに来てたんだろ?」
Ωというだけでまるで望まれて抱きに来ているとでも言いたげな男。αと言えど晴柊は「琳太郎」を探しているのだ。晴柊は腹を立て男に向かって唾を吐いた。
「αの癖に頭が悪いんだな、お前。バーカ!離せ!」
「あ゛ぁ!?テメェ、クソ許さねえ、こっち来い!!」
男が晴柊よりも強い力で晴柊を引きずるようにして奥へと行こうとする。こんなことをしている場合ではないのに、と、晴柊は身を捩らせ抵抗する。また前みたいな目に合うかもしれない。嫌だ、嫌だ。周りの人に助けを求めないと。そう思ったときだった。
バキッ。
鈍い音が鳴る。晴柊の身体からではなく、男の方から。
晴柊の目に飛び込んできたのは、男を殴り飛ばす琳太郎の姿だった。倒れた体が物に当たったのか、大きな音が鳴り響く。音楽でうまく相殺されたが、近くにいる人たちはなんだなんだと視線をやった。
「おいゴミ、誰のもんに手ェ出してる。」
晴柊の身体から力が抜ける。琳太郎は部下に男を連れて行かせると、晴柊の方を見た。まだ、怒っている。きっとあの事だけではない。あれだけ言ったのにココで何している、と言いたげな表情だった。
「聞いて、琳太郎!俺は――」
晴柊が訳を話そうと声を張り上げる。しかし琳太郎は晴柊の腕を強く掴むと、無理矢理2階フロアへと上がった。晴柊の言葉を聞こうともせず、琳太郎は有無を言わさないオーラで晴柊を引っ張った。そこにあるのはVIPルームで、琳太郎は晴柊をそこに連れ込むとソファに放り投げた。
「お前、何考えてる?レイプされかけたこと忘れたのか!」
琳太郎が怒鳴った。晴柊の身体が強張る。先日連絡を怠り危機管理が無さすぎることを咎められている最中の出来事なだけに、琳太郎は頭に血が上っている様だった。
「ち、ちがっ……聞いて、」
「一度、本当に痛い目を見ないとわからないか?」
琳太郎が晴柊の口元を塞ぐようにして掴み、ソファに体を押し付けた。晴柊は藻掻き、顔を捩らせて手から逃れると、声を張り上げた。
「聞いて、琳太郎!!俺、お前にどうしても会いたくてここに来た。勝手なことしたのは悪かったと思ってる!この間、連絡しないで心配かけたことも、ごめん!」
晴柊が必死になって伝えた。言いたいことがあるのだ、こんなところに足を運ぶほどに。
「俺、琳太郎が好きだ!」
晴柊の言葉を聞いて、琳太郎は思わず固まる。予想だにしていなかったのだろう。晴柊は琳太郎の目をしっかりと見て、こみ上げてきた思いを全て打ち明ける。
「いきなりごめん。自覚した途端どうしても、すぐに伝えたくなった。俺、琳太郎のことが好き。この気持ちは俺がΩでアンタがαだからかもしれない。俺たちが運命の番だからかもしれない。でも、そんなのどうでもいい。琳太郎がαでも運命の番でもヤクザでも、どうでもいいって思うほどに、俺はお前が好きで仕方ない。一緒にいて欲しい、俺、アンタの番に――」
晴柊の口から次々と出てくる言葉に、琳太郎はキャパオーバーを迎え自分の顔に手を当ててまるで落ち着かせるようにふうっと息をついた。
「ちょっと待て……追いつかない、色々と。」
「ご、ごめん……」
心拍の速い琳太郎の鼓動が晴柊の耳に届いてしまいそうだった。晴柊もまた、どくどくと心臓の動きが早まった。
「番になりたいって、わかってるか?俺が死ぬまでお前は一生俺のもんになるってことだぞ。」
「うん、わかってる。アンタにうなじを噛んで、アンタだけを求める身体にしてほしい。俺は、心も身体も全部、アンタの物になりたい。」
琳太郎は晴柊の言葉が夢ではないかと思った。晴柊をそっと抱きしめる。彼の温かい身体が現実だと教えてくれる。
「本当に、俺でいいのか。」
「琳太郎がいいんだ。」
琳太郎は身体を離し、晴柊の瞳を見つめ返す。
「好きだ、晴柊。」
「俺も好き、琳太郎。」
2人の唇が熱く、ゆっくりと重なる。
最初は信じていなかった運命の番。自分は白馬に乗った王子様でもなければ、爽やかな好青年でもない、裏社会を生きる極道の人間。それでも、この人に全てを捧げたいと思う自分がいる。
それを”運命”と言わずに何と言おうか。
「あんた、Ωだろ。」
αだ。αの男だ。晴柊はぐっと息を呑んだ。晴柊の抑制剤で完璧には抑えきれていない僅かなフェロモンを嗅ぎ取ったのだろう。
「離せ。」
晴柊は男を睨みつけ、抵抗する。どうしてこうもΩだというだけで標的にされるのか、と晴柊は思った。晴柊は自覚はしていないが、その容姿がまたαを引き付けていた。
「何だよ。わざわざこんなところに来て、αを探しに来てたんだろ?」
Ωというだけでまるで望まれて抱きに来ているとでも言いたげな男。αと言えど晴柊は「琳太郎」を探しているのだ。晴柊は腹を立て男に向かって唾を吐いた。
「αの癖に頭が悪いんだな、お前。バーカ!離せ!」
「あ゛ぁ!?テメェ、クソ許さねえ、こっち来い!!」
男が晴柊よりも強い力で晴柊を引きずるようにして奥へと行こうとする。こんなことをしている場合ではないのに、と、晴柊は身を捩らせ抵抗する。また前みたいな目に合うかもしれない。嫌だ、嫌だ。周りの人に助けを求めないと。そう思ったときだった。
バキッ。
鈍い音が鳴る。晴柊の身体からではなく、男の方から。
晴柊の目に飛び込んできたのは、男を殴り飛ばす琳太郎の姿だった。倒れた体が物に当たったのか、大きな音が鳴り響く。音楽でうまく相殺されたが、近くにいる人たちはなんだなんだと視線をやった。
「おいゴミ、誰のもんに手ェ出してる。」
晴柊の身体から力が抜ける。琳太郎は部下に男を連れて行かせると、晴柊の方を見た。まだ、怒っている。きっとあの事だけではない。あれだけ言ったのにココで何している、と言いたげな表情だった。
「聞いて、琳太郎!俺は――」
晴柊が訳を話そうと声を張り上げる。しかし琳太郎は晴柊の腕を強く掴むと、無理矢理2階フロアへと上がった。晴柊の言葉を聞こうともせず、琳太郎は有無を言わさないオーラで晴柊を引っ張った。そこにあるのはVIPルームで、琳太郎は晴柊をそこに連れ込むとソファに放り投げた。
「お前、何考えてる?レイプされかけたこと忘れたのか!」
琳太郎が怒鳴った。晴柊の身体が強張る。先日連絡を怠り危機管理が無さすぎることを咎められている最中の出来事なだけに、琳太郎は頭に血が上っている様だった。
「ち、ちがっ……聞いて、」
「一度、本当に痛い目を見ないとわからないか?」
琳太郎が晴柊の口元を塞ぐようにして掴み、ソファに体を押し付けた。晴柊は藻掻き、顔を捩らせて手から逃れると、声を張り上げた。
「聞いて、琳太郎!!俺、お前にどうしても会いたくてここに来た。勝手なことしたのは悪かったと思ってる!この間、連絡しないで心配かけたことも、ごめん!」
晴柊が必死になって伝えた。言いたいことがあるのだ、こんなところに足を運ぶほどに。
「俺、琳太郎が好きだ!」
晴柊の言葉を聞いて、琳太郎は思わず固まる。予想だにしていなかったのだろう。晴柊は琳太郎の目をしっかりと見て、こみ上げてきた思いを全て打ち明ける。
「いきなりごめん。自覚した途端どうしても、すぐに伝えたくなった。俺、琳太郎のことが好き。この気持ちは俺がΩでアンタがαだからかもしれない。俺たちが運命の番だからかもしれない。でも、そんなのどうでもいい。琳太郎がαでも運命の番でもヤクザでも、どうでもいいって思うほどに、俺はお前が好きで仕方ない。一緒にいて欲しい、俺、アンタの番に――」
晴柊の口から次々と出てくる言葉に、琳太郎はキャパオーバーを迎え自分の顔に手を当ててまるで落ち着かせるようにふうっと息をついた。
「ちょっと待て……追いつかない、色々と。」
「ご、ごめん……」
心拍の速い琳太郎の鼓動が晴柊の耳に届いてしまいそうだった。晴柊もまた、どくどくと心臓の動きが早まった。
「番になりたいって、わかってるか?俺が死ぬまでお前は一生俺のもんになるってことだぞ。」
「うん、わかってる。アンタにうなじを噛んで、アンタだけを求める身体にしてほしい。俺は、心も身体も全部、アンタの物になりたい。」
琳太郎は晴柊の言葉が夢ではないかと思った。晴柊をそっと抱きしめる。彼の温かい身体が現実だと教えてくれる。
「本当に、俺でいいのか。」
「琳太郎がいいんだ。」
琳太郎は身体を離し、晴柊の瞳を見つめ返す。
「好きだ、晴柊。」
「俺も好き、琳太郎。」
2人の唇が熱く、ゆっくりと重なる。
最初は信じていなかった運命の番。自分は白馬に乗った王子様でもなければ、爽やかな好青年でもない、裏社会を生きる極道の人間。それでも、この人に全てを捧げたいと思う自分がいる。
それを”運命”と言わずに何と言おうか。
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