狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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5章 洗礼

65話  *プライド

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「まぁいっか。長い付き合いにもなると思うし、俺たちは俺たちで仲良くしようよ。そのほうが君のためにもなるんだしさ。」


男はサバイバルナイフをしまうと、晴柊の横にどかりと座り込んだ。それだけで埃が舞うほど汚れているようなそのベッドはいつも晴柊が眠るベッドと違い清潔さの欠片も無かった。よく見てみれば、窓は木で打ち止めされている。ただ外を繋ぐのは1つの扉だけだった。眠らされ連れてこられたせいで、ここがどこかもわからない。


「まずはせっかくだし色々お喋りしよう。教えてくれよ。君のことや…薊琳太郎のこともさ。付け入る隙を見せないあの人が、気まぐれで人間飼い始めたなんて聞いた時は意外だなぁなんて思ってたけど、どうやら大分ご執心だったみたいだね。お陰様で、こっちの計画も順調ってわけよ。これもプレゼントでしょ?随分大事にされてるんだねえ。」


男は晴柊が首元に付けてるチョーカーに触れた。晴柊は僅かに身を捩らせて抵抗して見せる。しかし、拘束のせいで抵抗の度合いもたかが知れていた。


「汚い手で触るな。」

「見た目に反してお口はまるで可愛げが無いんだな。黙ってれば女みたいな顔してるのに、勿体ない。黒髪で黒い瞳の日本人は向こうでは高く売れる。特に、君みたいな小奇麗な顔した少年は変態どものウケが良い。でも、その生意気な性格はどうにかしないと…あんまりそのお口直らないようなら「標本」趣味の奴の手でホルマリンコースだよ?」


男は常にヘラヘラしているが、その瞳はまるで笑っていないのが、妙に不気味だった。つらつらと並べられる言葉も、まるで真っ当な世界の話ではない。そんなこと現実にあるのかというほど信じがたいものであった。水を被ったことで冷えていたはずの体から、危機感による汗がじんわりと滲んでいる気がした。


「景光さん。…ちょっと。」


後ろで2人のやり取りを見ていた部下と思わしき男の1人が、紫の髪の男を「景光」と呼んだ。その男は何で呼ばれたのかすぐに合点がいったのか「さすがに早いなぁ」と零すと、晴柊の口をもう一度ガムテープで塞いで部下たちを連れて外に出て行った。


身動き一つ取れないし、声も出せないんじゃ晴柊が逃亡を図ることはほぼ不可能だった。助けを呼ぶ手段もない。そして、遊馬のことも心配だった。どうか、無事でいて欲しい――。晴柊はなんとか腕の拘束が外れないか、必死に腕を動かし外そうと試みていた。



「景光」と呼ばれた男が再び晴柊の前に現れるまで、時間はそれほどかからなかった。そして、手には何やら黒いボストンバッグを提げている。その中の物が今から晴柊を苦しめることになるのだろう。ナイフか、拳銃か、拷問器具か、ロープか…晴柊の体に汗が滲んだ。水を被せられたことによる寒さは最早感じなくなっていた。


男がそのバッグを持ってきたと思うと晴柊の目の前に放り投げる。そして、膝をつくようにして吊るされている晴柊の横に再び腰掛けると、徐に先ほど晴柊の首筋に当てたナイフを取り出し見せつけるようにして仕舞ったり開いたりしてみせる。


「俺、考えたんだ。どうするのが一番薊琳太郎に効果覿面かなぁーって。晴柊チャンはさ、あの人に可愛がられてたんでしょ?こっちの方使ってさ。」


男がナイフの柄の方で晴柊の尻の穴を服越しにグリグリと擦り当ててくる。晴柊は思わず身体を揺さぶって抵抗した。


「ただ殺すよりも、大事に大事にしてたもんを最期は手垢まみれにされて死んだって言う方がさ、ダメージ来そうじゃない?あはは!やっぱりそれがいいよね。でも俺、男相手にちんこ突っ込む趣味ないからさぁ。色々面白そうなもの揃えてもらったんだ。これで沢山遊んだ後、そこらへんの部下どもに犯させて、最期は晴柊チャンに好きな死に方選ばせてあげるね。」


男は不敵な笑みを浮かべる。晴柊の息が上がり始める。これから何をされるのか、想像をしたことでさっきまでの虚勢が崩れそうなほど、晴柊は恐怖で縛られていた。男はその表情をみて満足そうにすると、早速準備をし始めた。室内には晴柊と男2人だけのはずなのに、晴柊だけは酷くうるさく感じていた。


「うーん、最初は手始めにこれとか?」


男は比較的大きめのバイブを取り出した。突起物が施され、赤黒い色をした出で立ちはグロテスクな見た目であった。これくらいなら、晴柊は慣れている。しかし、相手が琳太郎ではないということへの恐怖と不安が晴柊を襲っていた。晴柊は琳太郎以外とシたこともなければ、これから他の誰かとすることもないであろうと勝手に思っていた。


気持ちが悪い。触るな。


口が塞がれているせいで口ですら抵抗ができなかった。男が晴柊のズボンと下着を脱がす。腕を後ろ手に拘束され上半身を拘束されている状態では、膝から上の僅かな抵抗などたかが知れていた。琳太郎以外に触れられることへの嫌悪感が積もっていく。


「ローションとかメンドイから、このまんま入れるよー。」


晴柊のナカにバイブが容赦なく埋め込まれていく。解されてもいなければ濡れてもいないモノを突っ込まれたことで、晴柊は痛みに悶えた。


「ん゛、っ、ン˝~~~!!!」


どうすることもできない。身体の不自由さがストレスだった。幸い裂けてはいなかったが、不快感がひしひしと晴柊に絶望感を味合わせていく。男は痛そうに苦悶の表情を浮かべる晴柊を見て、思わず貼ったばかりの勢いよく口のガムテープを剥がした。


晴柊の悶える表情が思った以上に男を刺激したのだった。



「抜け!!気持ち悪い!!」

「気持ち悪いとか言ってるけど、いつもケツでオンナみたいに気持ちよくなってんだろ?俺にもそんなところ見せてよ。拉致られた先で知らない男相手に気持ちよくなってるとこ撮って見せたいんだからさぁ~。苦痛の表情(カオ)撮るのは最期!」


先ほどから男の口から出てくる言葉は全て悪趣味の度合いを超えたものであった。非道徳、残虐、無慈悲。いつも琳太郎たちに囲まれ忘れかけていた、彼らの住む世界を否応が無しに思い出させられる。


「アンタのやり方なんかで気持ちよくなんてなるかよ、ヘタクソ。はは、こんなやり方琳太郎に見せたら悔しがるどころか鼻で笑われるだろうな。」


晴柊は、男の顔に唾を吐きかけた。怖くないわけではない。しかし、遊馬に発砲し琳太郎を怒らせ悲しませようと悪事を働こうとしているこの男が気に食わなかった。琳太郎と初めて会った時も同様、晴柊は肝が据わりすぎている節がある。いつ殺されてもおかしくない絶望的な状況にもかかわらず、晴柊は歯向かい男を挑発する。それが晴柊のプライドであり強さであった。
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