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4章 花ひらく
45話 聞いていません
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今日は琳太郎に前言われたパーティーの日であった。晴柊は結婚式おろかそういった集まりのようなものには勿論参加したこともなく、映画やドラマの世界だと思っていた。でも、本当にそんなものが存在したことへの驚きと、自分が参加できることの喜びにはしゃいでいたのだった。しかし、晴柊は完全なことが抜けている。琳太郎は「ヤクザ」なのだ。パーティーと言えども、ヤクザの琳太郎がお呼ばれされるパーティーなのである。
「……聞いてない。」
「言ってないからな。」
一週間前からは想像もつかないほど、楽しみにしていたパーティー当日だというのに晴柊は頬を膨らませ一人いじける様にムスッとした態度だった。リビングで晴柊は、榊と遊馬に衣装に着替えさせられていた。1人じゃ着れないからと手伝ってくれていたのだが、そんな立派な格好なのかと期待も裏切られたのはすぐだった。
晴柊は、黒地に金色の刺繍がされたチャイナ服を着させられていた。幸いミニ丈のチャイナ服ではなかったがロング丈特有の、尻ギリギリ見えないくらいの深いスリットが両方に入っている。ピッタリと晴柊の身体に沿わせるようなチャイナの材質は、晴柊の細い腰と薄い身体にフィットしていた。華奢な体つきの中でも少しムチっとした張りのイイ晴柊の肉付きの良い尻と太腿も、まるで裸でいる気分にさせるほど身体のラインを露にさせる。
「ハルちゃん、似合ってるよ~?これ、特注で用意したから、サイズもピッタリだし!綺麗だよ~可愛いよ~」
「うん、似合ってる。」
「いつまでも拗ねてんじゃねえよ。」
榊と遊馬が、まるでフォトスタジオでへそを曲げる子供をあやすスタッフのような立ち回りをしていた。その横で篠ケ谷が晴柊に釘を刺す。
「俺もシノちゃんとか琉生くんみたいなカッコいいスーツが良かった……」
「言っただろ、変態野郎主催のパーティーだって。パートナーのドレスコードは「こういう」服なんだよ。安心しろ、会場に行けばお前より際どい格好したやつなんてごまんといる。自分がマシだって思うぞ。」
今日の晴柊と琳太郎の護衛として一緒に着いていくのは、日下部と篠ケ谷と遊馬だった。篠ケ谷と遊馬も、いつも着ているスーツよりも派手で煌びやかなスーツを身にまとっていた。2人の整った顔立ちとスタイルが、そのスーツの魅力を最大限引き出しているように見えて、晴柊は余計に羨ましくなるのだった。琳太郎はまだピンと来ていなさそうな晴柊にパーティーの概要について言うと、寝室に着替えに行ってしまった。
今日のパーティーには琳太郎も何度か出席したことがある。琳太郎にパートナーに悪趣味な格好をさせ連れまわし、それを見せ合うといった趣味はまるでなかったが、その主催者とは腐れ縁でその嫌がる琳太郎を見て楽しむようにわざと大事な商談をこのパーティーで指定してくるのだった。今まではパートナーがいなかったおかげで「いない」と無理やり1人身で参加していたのだが、どこからか晴柊の情報を嗅ぎ付け要求してきたのだった。
「あ~あ~、俺が行きたかったなぁ。」
「ま、俺らは留守番だよ。美味しいものが飲み食いできるってのは本当なんだから、せっかくだし楽しんで来いよ。この格好だって慣れるさ。」
榊が自分も行きたかったというように嘆き、天童が晴柊のフォローに回った。晴柊は天童の言う通り、美味しいものが食べれることに確かになぁと納得しそうになったものの、一度損ねた機嫌は中々直らなさそうであった。
しばらくして、寝室から着付けが終わった琳太郎が日下部と共に出てくる。口を尖らせるようにしていた晴柊の口がまるで王子様をみた子供のように「うわあ~」と感激したように開いていく。
「に、似合ってる!かっこいい!」
晴柊は琳太郎に駆け寄った。琳太郎は珍しくグレーのスーツだった。光沢のある生地で、同じ色でさりげなく花の刺繍が散りばめられている。色のお陰で派手すぎることは無く、さりげなさが琳太郎そのものの存在感を引き立てた。黒のワイシャツに映えるようにボルドーのネクタイがされている。髪の毛はオールバックにセットされ、琳太郎の端正なつくりの顔を惜しみなく披露していた。
晴柊はじーっと琳太郎を見上げる。やはり、この男は何を着ても様になるなぁとまじまじと見るのだった。
「気に入ったか?よし、この格好で一発――」
「組長、そんな時間ありません。もう会場に行きますよ。」
せっかく2人とも綺麗にさせたというのに、それを今にでもまた脱がしてしまおうとする琳太郎を日下部は制止した。琳太郎が舌打ちすると、まだ琳太郎に釘付けになっている晴柊を見下ろし、琳太郎は晴柊に声をかける。
「晴柊、約束覚えてるか?」
「うん!シノちゃんと琉生君から離れない!知らない人に話しかけない!話しかけられても無視する!お酒は飲まない!」
晴柊は、再三確認された今日の約束事をもう一度完璧なまでに復唱してみせた。過保護な琳太郎はやけに心配しているようだった。それも無理はない。今日のパーティーは裏社会御用達なわけで、ヤクザだけではないあらゆる「悪い人」が終結しているのだった。
「よし。イイ子にするんだぞ。」
琳太郎が晴柊の額にキスを落とした。そして一行は、天童と榊に見送られながら本日のパーティー会場の某ホテルに向かうのだった。
今日は琳太郎に前言われたパーティーの日であった。晴柊は結婚式おろかそういった集まりのようなものには勿論参加したこともなく、映画やドラマの世界だと思っていた。でも、本当にそんなものが存在したことへの驚きと、自分が参加できることの喜びにはしゃいでいたのだった。しかし、晴柊は完全なことが抜けている。琳太郎は「ヤクザ」なのだ。パーティーと言えども、ヤクザの琳太郎がお呼ばれされるパーティーなのである。
「……聞いてない。」
「言ってないからな。」
一週間前からは想像もつかないほど、楽しみにしていたパーティー当日だというのに晴柊は頬を膨らませ一人いじける様にムスッとした態度だった。リビングで晴柊は、榊と遊馬に衣装に着替えさせられていた。1人じゃ着れないからと手伝ってくれていたのだが、そんな立派な格好なのかと期待も裏切られたのはすぐだった。
晴柊は、黒地に金色の刺繍がされたチャイナ服を着させられていた。幸いミニ丈のチャイナ服ではなかったがロング丈特有の、尻ギリギリ見えないくらいの深いスリットが両方に入っている。ピッタリと晴柊の身体に沿わせるようなチャイナの材質は、晴柊の細い腰と薄い身体にフィットしていた。華奢な体つきの中でも少しムチっとした張りのイイ晴柊の肉付きの良い尻と太腿も、まるで裸でいる気分にさせるほど身体のラインを露にさせる。
「ハルちゃん、似合ってるよ~?これ、特注で用意したから、サイズもピッタリだし!綺麗だよ~可愛いよ~」
「うん、似合ってる。」
「いつまでも拗ねてんじゃねえよ。」
榊と遊馬が、まるでフォトスタジオでへそを曲げる子供をあやすスタッフのような立ち回りをしていた。その横で篠ケ谷が晴柊に釘を刺す。
「俺もシノちゃんとか琉生くんみたいなカッコいいスーツが良かった……」
「言っただろ、変態野郎主催のパーティーだって。パートナーのドレスコードは「こういう」服なんだよ。安心しろ、会場に行けばお前より際どい格好したやつなんてごまんといる。自分がマシだって思うぞ。」
今日の晴柊と琳太郎の護衛として一緒に着いていくのは、日下部と篠ケ谷と遊馬だった。篠ケ谷と遊馬も、いつも着ているスーツよりも派手で煌びやかなスーツを身にまとっていた。2人の整った顔立ちとスタイルが、そのスーツの魅力を最大限引き出しているように見えて、晴柊は余計に羨ましくなるのだった。琳太郎はまだピンと来ていなさそうな晴柊にパーティーの概要について言うと、寝室に着替えに行ってしまった。
今日のパーティーには琳太郎も何度か出席したことがある。琳太郎にパートナーに悪趣味な格好をさせ連れまわし、それを見せ合うといった趣味はまるでなかったが、その主催者とは腐れ縁でその嫌がる琳太郎を見て楽しむようにわざと大事な商談をこのパーティーで指定してくるのだった。今まではパートナーがいなかったおかげで「いない」と無理やり1人身で参加していたのだが、どこからか晴柊の情報を嗅ぎ付け要求してきたのだった。
「あ~あ~、俺が行きたかったなぁ。」
「ま、俺らは留守番だよ。美味しいものが飲み食いできるってのは本当なんだから、せっかくだし楽しんで来いよ。この格好だって慣れるさ。」
榊が自分も行きたかったというように嘆き、天童が晴柊のフォローに回った。晴柊は天童の言う通り、美味しいものが食べれることに確かになぁと納得しそうになったものの、一度損ねた機嫌は中々直らなさそうであった。
しばらくして、寝室から着付けが終わった琳太郎が日下部と共に出てくる。口を尖らせるようにしていた晴柊の口がまるで王子様をみた子供のように「うわあ~」と感激したように開いていく。
「に、似合ってる!かっこいい!」
晴柊は琳太郎に駆け寄った。琳太郎は珍しくグレーのスーツだった。光沢のある生地で、同じ色でさりげなく花の刺繍が散りばめられている。色のお陰で派手すぎることは無く、さりげなさが琳太郎そのものの存在感を引き立てた。黒のワイシャツに映えるようにボルドーのネクタイがされている。髪の毛はオールバックにセットされ、琳太郎の端正なつくりの顔を惜しみなく披露していた。
晴柊はじーっと琳太郎を見上げる。やはり、この男は何を着ても様になるなぁとまじまじと見るのだった。
「気に入ったか?よし、この格好で一発――」
「組長、そんな時間ありません。もう会場に行きますよ。」
せっかく2人とも綺麗にさせたというのに、それを今にでもまた脱がしてしまおうとする琳太郎を日下部は制止した。琳太郎が舌打ちすると、まだ琳太郎に釘付けになっている晴柊を見下ろし、琳太郎は晴柊に声をかける。
「晴柊、約束覚えてるか?」
「うん!シノちゃんと琉生君から離れない!知らない人に話しかけない!話しかけられても無視する!お酒は飲まない!」
晴柊は、再三確認された今日の約束事をもう一度完璧なまでに復唱してみせた。過保護な琳太郎はやけに心配しているようだった。それも無理はない。今日のパーティーは裏社会御用達なわけで、ヤクザだけではないあらゆる「悪い人」が終結しているのだった。
「よし。イイ子にするんだぞ。」
琳太郎が晴柊の額にキスを落とした。そして一行は、天童と榊に見送られながら本日のパーティー会場の某ホテルに向かうのだった。
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