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2章 寄り添い
36話 *駄々
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♦
「ん、ぁ˝っ…りん、…ったろ…ぁ…あっ!もう、むりぃっ…!」
晴柊は悲痛とも取れる喘ぎ声を漏らしながら、背後から琳太郎に貫かれていた。かれこれ挿入して1時間が経とうとしている。琳太郎は所謂絶倫というやつで、元々体力が無い晴柊にとっては何時間にも及ぶ行為に付き合うのはいつも大変であった。何より、挿入の前の時点でいつも琳太郎の手や玩具で責められ続け、何度かイッてしまうことがほとんどなのだから、無理もない。
「ったく、しょうがねえな。…これならいいだろ。自分で好きなように動いてみろ。」
琳太郎が根を上げ始めた晴柊のナカから一度自分のモノを抜くと、そのまま次は晴柊を自分の上に乗せた。晴柊の顔も身体も、琳太郎からよく見える。晴柊自身は体力が無くなったのにもかかわらず、晴柊のモノはまだ快感が欲しいと主張するように立ち上がっていた。琳太郎はそれを容赦なく握る。
「ひぃっ!!……はぁ、ぁ……お、れ…できなぃっ……こんなのっ…」
晴柊がまた無理無理と駄々をこね始めた。琳太郎は今度はそれを許さない。
「自分のペースで動けるんだからいいじゃねえか。それともさっきまでみたいに好き勝手され続けられる方がいいか?お前はマゾだからそれも好きだろ。」
「ぅ˝ぁっ、ん……ぁんっ……じゃぁ、動かない、…でよっ…」
琳太郎の手が晴柊の乳首に伸びるとそのまま弾くようにして強く刺激を加える。晴柊の身体が一度跳ねると、琳太郎の言うことも一理あるかもしれない、と働かない頭が処理し始め、恐る恐る腰を少し持ち上げた。琳太郎のモノを固定するようにしてそっと手を添えると、自分の入り口へと当てがった。さっきまで入れ続けられていたおかげですんなりと飲み込んでいく。
晴柊の腰がゆっくりと降りていく。晴柊がまた呼吸を乱し始めた。開きっぱなしの口からは、唾液が零れている。焦れったい程ゆっくり腰を下ろし琳太郎のモノをナカに入れ込んでいく晴柊を、琳太郎はじっと眺めていた。琳太郎の頭には高めの枕が敷かれているせいで、琳太郎は楽に晴柊の痴態を眺めることができていた。
「絶景だな。自分で気持ちイイとこ当てるように腰動かせ。」
「ひゃんっ!!ぁ、あ……ぅっ……み、るなぁっん…!」
琳太郎が晴柊の尻を叩くと、晴柊の尻の筋肉が収縮し琳太郎のナカのものを締め付ける。それは晴柊にとっても、琳太郎にとっても快感となって繋がっていった。見るなと言われても無理な話だな、と琳太郎は晴柊を見つめ続ける。それからぎこちなく晴柊が腰を動かし始めた。最初は前後にグラインドするように動いていたようだが、イイところにあたらないのかもどかしそうに喘ぐばかりであった。
「…は、ぁ……ん、んっ………ぅ……あっ……」
晴柊には自分のイイところに自分から当てに行く余裕と勇気は無かった。熱いと分かっていて火に触れる人はいないのと同じで、晴柊にとっては気持ちよさを自分から享受しに行くことに少し怯んでいた。
見かねた琳太郎は晴柊の腰をがっつりと掴むと、そのまま容赦なく下から突き上げ始めた。
「ぁん゛っ!?ぁあっ、なん、……でぇっ…!あ、あ…ぉ゛っ…!!うごか、ないって……ぁんん゛っ…やく、そ…くっ!!!」
晴柊が堪らず琳太郎の胸元に両手を突き耐えるようにしがみつく。結局好き勝手動き始める琳太郎を睨みつけるが、気持ちよさで潤んだ涙では全く凄みがなかった。
「いつまでもぬるい動きしてるから手伝ってやってんだろ。気持ちよさそうに喘いでるくせに何不満気な態度してるんだ、生意気な奴め。お礼の一つも言えないのか?」
「ぁ、んぅっ……あっ…いわ、な……んっ˝!!!」
「へぇ~。」
琳太郎は言うことを聞かない晴柊にまるでお仕置きをするように尻を叩いた。晴柊はスパンキングが好きで、尻を叩かれるといつもいい声で啼くのだった。お仕置きになってるとは言い難いが、「お仕置きされている」という事実も晴柊のマゾヒズムの心を刺激していっていた。琳太郎はそのまま、晴柊のモノをぎゅっと強めに握る。下から突くようにして動かした腰の動きは止めないまま。晴柊が痛みとナカから与え続けられる快感で一段と大きな声を上げる。
少しずつ晴柊に射精感が襲う。
「ぅ、うっ……ひぁっ…て、ぇっ…!!あぁ、ああっ…!!はな…して…ぁんっ…!!!」
晴柊が琳太郎の自分のモノを苦しめている腕を掴む。尻で快感を受諾して前で射精する、という感覚とはまた違う何かが襲ってきそうであった。晴柊の身体から汗が滲み始める。
「さっきからご主人様にお願いしてばっかだな。我儘で礼儀知らずな犬だな。ほら、何か言うことは?」
「あ゛、ぁ˝っ!!!晴柊の、ことぉっ…んぁ…気持ちよくさせてくれてっあ、ありがとぅ、っ、!!ございます˝っ、んっ……だから、だからっ…手、はなし…て˝っ…!!!!!まって、りんたろっ…ひっ、ぃ…ぅん゛っ……はなしでっでばぁ˝ああぁっ!?」
このままではまた経験したことのない扉が開かれるのに気付いた晴柊は、必死に琳太郎を見て懇願した。しかし目先の快感に怯え泣いて縋る晴柊を見て琳太郎は気分を良くし、まるで晴柊の声を聞いていないかのように腰の動きを止めないまま更に晴柊のモノを握る力を強めた。晴柊はなんで離してくれないんだ嘘つきと言い返す余裕はなく、一段と大きな声を出すと、そのまま背をのけ反らすようにして痙攣をしていた。
琳太郎が晴柊のモノを握っていたおかげで、晴柊は射精することなくナカでイッたのだった。晴柊にとって初めてのドライイキだ。晴柊の目の前に火花が飛ぶ。
「っ、っ………!♡♡♡」
まだイッた感覚が抜けきらないのか、晴柊は琳太郎の上で声もでないまま身体をビクビクと震わせていた。
「これじゃあ本当に女みてえじゃねえか。これ、もういらねえな。」
琳太郎がまた晴柊を煽るようなことを言うが、さっきのように反抗的な晴柊の返事が飛んでくることはない。呼吸をすることで精いっぱいというように、晴柊の呼吸音だけが響いていた。琳太郎がまた少し下から突き上げると最早自然現象とでもいうように辛うじて声が漏れ出たことで晴柊の意識はまだ飛んでいない、もう少しいけそうだな、と琳太郎の無慈悲な判断が下される。
そのまま身体を反転させられ、もう限界寸前の晴柊を琳太郎は自分が満足するまで抱き続けた。
♦
晴柊の目が覚める。体がいつも以上に重い。晴柊は自分が余計なことを言って琳太郎を甘やかしたばかりに、いつも以上に激しく抱かれていたことを思い出した。これから無責任なことはあまり言うものではないなと決意するのであった。琳太郎の体力と絶倫具合をなめてはいけない。
「………ぅ、……」
少し身体を動かしただけで呻き声が漏れた。しかし、声という声すら出ない。どうやら寝室には自分一人なようで、時刻は昼過ぎといったところだろう。体は綺麗で、ワイシャツと下着、足枷に首輪という晴柊のいつもの格好が出来上がっていた。すると、寝室にノックの音が響く。
「入るぞー。………おっ。起きてたか。昨日はやけに派手にされたみてえだな。琉生に懐かれて組長がヘソ曲げたんだって?あの組長がなぁ。」
返事ができないままでいる晴柊の元に現れたのは、天童であった。天童はわははと豪快に笑っている。晴柊にとっては笑いごとではない体調であるというのに。
「飯食えそうか?」
「…ぅん…」
晴柊が小さく返事をする。すると天童が布団を剥ぎ晴柊のことを抱き上げた。お姫様抱っこのように抱き上げられ、いつもまるで米俵を担ぐようにして抱き上げられることが多かった晴柊にとって、少し恥ずかしくなるのだった。
そのままリビングの椅子に座らされると、目の前にはあったかそうなポトフとパンがあった。ここに来てから朝はもっぱらパン派になっていた。いつもみんなが晴柊に用意してくれるパンはどこかのパン屋さんの物のようで、晴柊の知っている市販のパンとは比べ物にならないほどおいしいのであった。
幸いつらいのは腰と喉くらいで、食欲はあった。晴柊はいつものようにおいしそうにパンを頬張り始める。無茶苦茶に抱いた琳太郎にまるで子供を叱る母親のような気持ちはあったが、不思議と嫌悪感といった類は無かった。天童の目にも、それは見て取れているのか、まるで面白いものをみるように晴柊をにやにやとみてくる。
「晴柊も組長に甘いなぁ。」
「そんなことないよ。俺だって怒るときは怒るもん。」
「例えば?」
「うーん、全然寝ないで仕事しまくってるときとか、昨日みたいに、…………」
「ははっ。そんなことできるのも晴柊くらいだよ。」
言いかけて晴柊は顔を真っ赤にさせて誤魔化すようにまたパンを齧り始めた。初々しい晴柊の様子をみて、2人とも本当に不器用だなと思うのだった。始まりが歪な形であったが故に、妙に拗れているように見て取れた。しかし、こういうことは他人がどうこう口挟む問題ではない、と天童は余計なことは言わないのであった。
朝食兼昼食を取る晴柊の耳に、何か外から音が聞こえる。ここはタワーマンションの上層部分。中々外から物音がするといったことはないため、晴柊は不思議そうに外を見た。
「ああ、そういえばこのマンション外壁工事始まったんだよ。暫くの間、昼間はちょっと煩くなるかもしれないな。」
「へぇ~。こんな高いところの工事なんて、大変だね。」
晴柊がパンを口に詰めながら、大きな窓の外を眺めながら言った。タワーマンションの外壁工事ともなると、かなりの大がかりなものであることは想像がつく。まさかこの工事が思わぬ形で、不確かで曖昧な晴柊と琳太郎の関係に入り込んでいくことは琳太郎を含め誰も予想していないのであった。
「ん、ぁ˝っ…りん、…ったろ…ぁ…あっ!もう、むりぃっ…!」
晴柊は悲痛とも取れる喘ぎ声を漏らしながら、背後から琳太郎に貫かれていた。かれこれ挿入して1時間が経とうとしている。琳太郎は所謂絶倫というやつで、元々体力が無い晴柊にとっては何時間にも及ぶ行為に付き合うのはいつも大変であった。何より、挿入の前の時点でいつも琳太郎の手や玩具で責められ続け、何度かイッてしまうことがほとんどなのだから、無理もない。
「ったく、しょうがねえな。…これならいいだろ。自分で好きなように動いてみろ。」
琳太郎が根を上げ始めた晴柊のナカから一度自分のモノを抜くと、そのまま次は晴柊を自分の上に乗せた。晴柊の顔も身体も、琳太郎からよく見える。晴柊自身は体力が無くなったのにもかかわらず、晴柊のモノはまだ快感が欲しいと主張するように立ち上がっていた。琳太郎はそれを容赦なく握る。
「ひぃっ!!……はぁ、ぁ……お、れ…できなぃっ……こんなのっ…」
晴柊がまた無理無理と駄々をこね始めた。琳太郎は今度はそれを許さない。
「自分のペースで動けるんだからいいじゃねえか。それともさっきまでみたいに好き勝手され続けられる方がいいか?お前はマゾだからそれも好きだろ。」
「ぅ˝ぁっ、ん……ぁんっ……じゃぁ、動かない、…でよっ…」
琳太郎の手が晴柊の乳首に伸びるとそのまま弾くようにして強く刺激を加える。晴柊の身体が一度跳ねると、琳太郎の言うことも一理あるかもしれない、と働かない頭が処理し始め、恐る恐る腰を少し持ち上げた。琳太郎のモノを固定するようにしてそっと手を添えると、自分の入り口へと当てがった。さっきまで入れ続けられていたおかげですんなりと飲み込んでいく。
晴柊の腰がゆっくりと降りていく。晴柊がまた呼吸を乱し始めた。開きっぱなしの口からは、唾液が零れている。焦れったい程ゆっくり腰を下ろし琳太郎のモノをナカに入れ込んでいく晴柊を、琳太郎はじっと眺めていた。琳太郎の頭には高めの枕が敷かれているせいで、琳太郎は楽に晴柊の痴態を眺めることができていた。
「絶景だな。自分で気持ちイイとこ当てるように腰動かせ。」
「ひゃんっ!!ぁ、あ……ぅっ……み、るなぁっん…!」
琳太郎が晴柊の尻を叩くと、晴柊の尻の筋肉が収縮し琳太郎のナカのものを締め付ける。それは晴柊にとっても、琳太郎にとっても快感となって繋がっていった。見るなと言われても無理な話だな、と琳太郎は晴柊を見つめ続ける。それからぎこちなく晴柊が腰を動かし始めた。最初は前後にグラインドするように動いていたようだが、イイところにあたらないのかもどかしそうに喘ぐばかりであった。
「…は、ぁ……ん、んっ………ぅ……あっ……」
晴柊には自分のイイところに自分から当てに行く余裕と勇気は無かった。熱いと分かっていて火に触れる人はいないのと同じで、晴柊にとっては気持ちよさを自分から享受しに行くことに少し怯んでいた。
見かねた琳太郎は晴柊の腰をがっつりと掴むと、そのまま容赦なく下から突き上げ始めた。
「ぁん゛っ!?ぁあっ、なん、……でぇっ…!あ、あ…ぉ゛っ…!!うごか、ないって……ぁんん゛っ…やく、そ…くっ!!!」
晴柊が堪らず琳太郎の胸元に両手を突き耐えるようにしがみつく。結局好き勝手動き始める琳太郎を睨みつけるが、気持ちよさで潤んだ涙では全く凄みがなかった。
「いつまでもぬるい動きしてるから手伝ってやってんだろ。気持ちよさそうに喘いでるくせに何不満気な態度してるんだ、生意気な奴め。お礼の一つも言えないのか?」
「ぁ、んぅっ……あっ…いわ、な……んっ˝!!!」
「へぇ~。」
琳太郎は言うことを聞かない晴柊にまるでお仕置きをするように尻を叩いた。晴柊はスパンキングが好きで、尻を叩かれるといつもいい声で啼くのだった。お仕置きになってるとは言い難いが、「お仕置きされている」という事実も晴柊のマゾヒズムの心を刺激していっていた。琳太郎はそのまま、晴柊のモノをぎゅっと強めに握る。下から突くようにして動かした腰の動きは止めないまま。晴柊が痛みとナカから与え続けられる快感で一段と大きな声を上げる。
少しずつ晴柊に射精感が襲う。
「ぅ、うっ……ひぁっ…て、ぇっ…!!あぁ、ああっ…!!はな…して…ぁんっ…!!!」
晴柊が琳太郎の自分のモノを苦しめている腕を掴む。尻で快感を受諾して前で射精する、という感覚とはまた違う何かが襲ってきそうであった。晴柊の身体から汗が滲み始める。
「さっきからご主人様にお願いしてばっかだな。我儘で礼儀知らずな犬だな。ほら、何か言うことは?」
「あ゛、ぁ˝っ!!!晴柊の、ことぉっ…んぁ…気持ちよくさせてくれてっあ、ありがとぅ、っ、!!ございます˝っ、んっ……だから、だからっ…手、はなし…て˝っ…!!!!!まって、りんたろっ…ひっ、ぃ…ぅん゛っ……はなしでっでばぁ˝ああぁっ!?」
このままではまた経験したことのない扉が開かれるのに気付いた晴柊は、必死に琳太郎を見て懇願した。しかし目先の快感に怯え泣いて縋る晴柊を見て琳太郎は気分を良くし、まるで晴柊の声を聞いていないかのように腰の動きを止めないまま更に晴柊のモノを握る力を強めた。晴柊はなんで離してくれないんだ嘘つきと言い返す余裕はなく、一段と大きな声を出すと、そのまま背をのけ反らすようにして痙攣をしていた。
琳太郎が晴柊のモノを握っていたおかげで、晴柊は射精することなくナカでイッたのだった。晴柊にとって初めてのドライイキだ。晴柊の目の前に火花が飛ぶ。
「っ、っ………!♡♡♡」
まだイッた感覚が抜けきらないのか、晴柊は琳太郎の上で声もでないまま身体をビクビクと震わせていた。
「これじゃあ本当に女みてえじゃねえか。これ、もういらねえな。」
琳太郎がまた晴柊を煽るようなことを言うが、さっきのように反抗的な晴柊の返事が飛んでくることはない。呼吸をすることで精いっぱいというように、晴柊の呼吸音だけが響いていた。琳太郎がまた少し下から突き上げると最早自然現象とでもいうように辛うじて声が漏れ出たことで晴柊の意識はまだ飛んでいない、もう少しいけそうだな、と琳太郎の無慈悲な判断が下される。
そのまま身体を反転させられ、もう限界寸前の晴柊を琳太郎は自分が満足するまで抱き続けた。
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晴柊の目が覚める。体がいつも以上に重い。晴柊は自分が余計なことを言って琳太郎を甘やかしたばかりに、いつも以上に激しく抱かれていたことを思い出した。これから無責任なことはあまり言うものではないなと決意するのであった。琳太郎の体力と絶倫具合をなめてはいけない。
「………ぅ、……」
少し身体を動かしただけで呻き声が漏れた。しかし、声という声すら出ない。どうやら寝室には自分一人なようで、時刻は昼過ぎといったところだろう。体は綺麗で、ワイシャツと下着、足枷に首輪という晴柊のいつもの格好が出来上がっていた。すると、寝室にノックの音が響く。
「入るぞー。………おっ。起きてたか。昨日はやけに派手にされたみてえだな。琉生に懐かれて組長がヘソ曲げたんだって?あの組長がなぁ。」
返事ができないままでいる晴柊の元に現れたのは、天童であった。天童はわははと豪快に笑っている。晴柊にとっては笑いごとではない体調であるというのに。
「飯食えそうか?」
「…ぅん…」
晴柊が小さく返事をする。すると天童が布団を剥ぎ晴柊のことを抱き上げた。お姫様抱っこのように抱き上げられ、いつもまるで米俵を担ぐようにして抱き上げられることが多かった晴柊にとって、少し恥ずかしくなるのだった。
そのままリビングの椅子に座らされると、目の前にはあったかそうなポトフとパンがあった。ここに来てから朝はもっぱらパン派になっていた。いつもみんなが晴柊に用意してくれるパンはどこかのパン屋さんの物のようで、晴柊の知っている市販のパンとは比べ物にならないほどおいしいのであった。
幸いつらいのは腰と喉くらいで、食欲はあった。晴柊はいつものようにおいしそうにパンを頬張り始める。無茶苦茶に抱いた琳太郎にまるで子供を叱る母親のような気持ちはあったが、不思議と嫌悪感といった類は無かった。天童の目にも、それは見て取れているのか、まるで面白いものをみるように晴柊をにやにやとみてくる。
「晴柊も組長に甘いなぁ。」
「そんなことないよ。俺だって怒るときは怒るもん。」
「例えば?」
「うーん、全然寝ないで仕事しまくってるときとか、昨日みたいに、…………」
「ははっ。そんなことできるのも晴柊くらいだよ。」
言いかけて晴柊は顔を真っ赤にさせて誤魔化すようにまたパンを齧り始めた。初々しい晴柊の様子をみて、2人とも本当に不器用だなと思うのだった。始まりが歪な形であったが故に、妙に拗れているように見て取れた。しかし、こういうことは他人がどうこう口挟む問題ではない、と天童は余計なことは言わないのであった。
朝食兼昼食を取る晴柊の耳に、何か外から音が聞こえる。ここはタワーマンションの上層部分。中々外から物音がするといったことはないため、晴柊は不思議そうに外を見た。
「ああ、そういえばこのマンション外壁工事始まったんだよ。暫くの間、昼間はちょっと煩くなるかもしれないな。」
「へぇ~。こんな高いところの工事なんて、大変だね。」
晴柊がパンを口に詰めながら、大きな窓の外を眺めながら言った。タワーマンションの外壁工事ともなると、かなりの大がかりなものであることは想像がつく。まさかこの工事が思わぬ形で、不確かで曖昧な晴柊と琳太郎の関係に入り込んでいくことは琳太郎を含め誰も予想していないのであった。
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