狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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1章 はじまり

23話 *堕ちる

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晴柊の視線の先には、変わらず2人がいた。晴柊は2人の方を向かされた状態で、後ろから琳太郎に犯されていた。


「顔もっと上げろ。」


琳太郎が銃を晴柊のうなじにゴリゴリと当てる。晴柊が苦しそうに顔を挙げた。涙でぐちゃぐちゃになった顔は、羞恥と快感とで紅潮している。口は息をすることで精いっぱいで、だらしなく開けっ放しになってしまう。舌が出て、唾液がぽたぽたと地面に垂れた。晴柊は手を滑らせれば地面に落ちるほど、ベッドの側、2人に一番距離が近くなるような場所で犯されていた。


「ぁ、あんっ…はぁ、ひ、ぅっ…も、ぅっ……ぃ、や゛っ…あ…!」


こんな思いをするなら一思いに殺してくれ、そう晴柊は思った。こんな醜態を晒してまで生きていたくない。琳太郎は晴柊の僅かな感情の変化をも見逃さなかった。


最初は戸惑い
次に恐怖
そして羞恥と楽になりたいという逃避願望


それでいい。もう少し。


晴柊のナカで、期待に熱を帯びた琳太郎のモノが一段と大きくなる。晴柊は目を見開き、四つん這いを支えていた腕を震せはじめる。


琳太郎が晴柊の上半身を起こすようにして、身体を支える。膝立ちのような状態になった晴柊に、頭一つ分抜き出ている琳太郎が、晴柊の首元を飾る首輪をさするようにして撫でた。琳太郎が少しかがみ、晴柊の耳元に唇を寄せた。そして、一突き、晴柊の最奥を貫くようにして動くと、


「ちゃんと見ておけよ。」


そう、小さく呟いた瞬間だった。



パァンーーーー。



乾いた音が倉庫中に広がる。そして、びちゃびちゃと何かが滴る音。琳太郎の言いつけ通り、目を開けしっかり前を見ていた晴柊には、全てスローモーションのように見えていた。時が止まったように一瞬の破裂音から、シンと静まり返る。


晴柊の目には、手を伸ばせば届きそうな距離の先で縛られていたはずの若い組員の男の額が破られ、脳みそが弾け飛んでいる様子が飛び込んでいた。あたりに血の匂いが充満する。晴柊の身体にも返り血がこびりついていた。


琳太郎は、晴柊の顔に飛び散っていたそれをゴシゴシと拭ってやる。ロープに縛られている絶命した男の脚がビクビクと死後痙攣を始めていた。


「ぁ……………あっ…………」


晴柊は固まったまま、涎を零していた口から、ただ小さな呻き声を漏らすだけだった。ただ、目はその男から逸らせないままでいる。少しずつ身体がガクガクと震え始め、晴柊が全身の筋肉を硬直させていることを、琳太郎は自分のモノがナカで苦しいほど締め付けられていることで感じ取る。


もっと目に焼き付けるんだ。お前の目の前で起こった惨状を、記憶にこびりつかせろ。


「ひっ…………な、……でっ…………………ぃやっ…」


晴柊が少しつ取り乱し始めた。琳太郎が身体を抑えつけているため、晴柊はその惨状の傍から離れることができない。呼吸が乱れ始める。晴柊の心音琳太郎の腕に響くほど、心臓が跳ねている。晴柊の視界の端に映った銃は、煙を上げていた。


「なんでだって?…言っただろ、裏切り者にはこうやって命で代償を払わせる世界だと。冗談だと思ってたか?自分が殺されれば済むと思っていたか?そんなわけないだろ。よく見るんだ。誰のせいでこうなったと思う?…晴柊、お前のせいだよな。お前が逃げ出そうなんてしなきゃ、こうはならなかった。お前がこの見張り役をたぶらかして巻き込んだ。ああ、可哀想に。」


晴柊が異常なほど震えはじめる。歯をガタガタとならし、顔を背けようとするが、琳太郎の手が顔を掴みそれを許さない。まだ流れ出ている血液。光を失った目が、晴柊と交差する。さっきまで晴柊を見ていた目とは全く違う、深く沈んだ黒色の目が。脳みそが床に散らばっている。思わず晴柊は嘔吐した。


「ごめんなさい、ごめんなさっ………ぅ、ぉえ゛っ………俺の、せいだ……おれの…ぁあ、あっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめ゛ん゛な゛さ゛い゛!!!!」


最初は、戸惑い
次に、恐怖
そして、羞恥と楽になりたいという逃避願望
極めつけ、とびきりの罪の意識


遅れてやってきた涙が晴柊の頬を濡らす。晴柊は、狂ったように目の前の「人だったもの」に謝り続ける。枯れ始めている声を潰すように、晴柊は声を張り上げた。篠ケ谷はただそれをわかっていたかのように見つめていた。日下部が、そろそろまずいと止めに入ろうとしたが、琳太郎が目だけでそれを制止した。その琳太郎の目は「邪魔をしてみろ、殺すぞ」とでも言うような程、昂ぶりと欲望に満ちた目であった。


「次は、篠ケ谷だ。ほら、同じようにちゃんと見て…」

「や、やめてくれ、やめてくださいっ……!!!!!!」


琳太郎が、銃口を篠ケ谷に向けた。晴柊はすぐに両手でその銃を掴んだ。弾を放った銃はとてつもない熱を帯びており、晴柊の手をジリジリと焼いていく。


しかし、晴柊は最早痛みは感じていないかのようにそれを更に強く握り、銃口を下げようと必死になった。晴柊は琳太郎の方を泣きじゃくりながら、今まで見せなかった反省の色と後悔とを混じらせた表情を見せた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、俺が悪いんだ、俺が、薊の傍から離れようとしたからっ………殺すなら、もう俺だけにしてっ……お願いします、やめて、やめてくれ!!!!!!!」


晴柊が絶叫にも近いような声で琳太郎に懇願する。晴柊の器官からひゅる、ひゅると息が漏れ出る音が聞こえる。


「死んで俺から離れて楽になろうって?……そんなのが許されると思うか?」

「わかった、離れない!!!!もう、一生お前から離れようとしない!!!!俺は、薊のものだから、好きにしていいから、だからっ……!!!」


琳太郎が銃をゆっくりと下ろす。そして泣きじゃくる晴柊の涙を拭って微笑んで見せた。


「そうだよな。お前は、俺のものなんだよな。身体も心も、全部。生きるも死ぬも俺が決める。お前は一生俺だけを見ているんだ。俺がいないと生きていけない。お前にはもう俺しかいないんだから。そうだろ?……俺にすべて委ねれば何も怖いことはない。何も考えなくていい。そうすればお前は一生「幸せ」になれるよ、晴柊。」


琳太郎が晴柊の弱り切った頭に、洗脳するように潜在意識を刷り込んでいく。晴柊は遺体の惨事から目を離し、目の前が琳太郎だけになったことで、その甘い誘惑するような言葉を聞き、呼吸を落ち着かせ始めていた。


晴柊の視線が、今までの琳太郎に向けるものとは何か変わっていく。琳太郎は、晴柊が今自分に堕ちたことを確信した。自分の心臓が熱く胸打っているのがわかる。あとは、これを一生這い上がらせなくすればいいだけだ。


その様子を見ていた琳太郎は、そのまま晴柊の頬に手を添えたまま、噛みつくようにキスをした。晴柊の目から涙が零れる。初めてのキスは、血生臭い匂いが相まって気持ちが悪いはずなのに、どこか心地の良いものだった。
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