狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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1章 はじまり

3話 *初夜

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着いた先はいわゆる都内某所のタワーマンションというやつで、みるからにセキュリティも万全のようなつくりであった。ここもきっと、数多く所有する部屋のうちの1つなのだろうと、晴柊は推測する。晴柊の前に組長さんが、更に前にはさきほど左に座っていた人が、後ろには運転席の人が着いていた。晴柊を挟めるような構図が、まるで「逃げるなよ。」という無言の圧力に感じ取れた。ドアも窓もエントランス部分も、造りがホテルの様だなぁと思わずキョロキョロしてしまう。晴柊は、ホテルに泊まったことは一度もないのだが、きっとこういうところなんだろうと容易に想像がついた。


エレベーターに乗り込み、着いた先はかなりの上層階だった。階数は男の大きな背中が目の前にあって、みることは不可能だったが、エレベーターの稼働時間が、晴柊の知っている長さではなかったのだ。


通された部屋は、見たことがないほど広かった。リビングと思われるところは一面窓で、都内を一望することができた。その景色に、半ば強制的に攫われてきたというのに、見とれてしまう。生活感が感じられるような物はみられないが、革張りのソファやピカピカのガラステーブル、スクリーンかと思うほど大きなテレビらが放つ高級感が、部屋の雰囲気を司っていた。


男がドカッとソファに腰を下ろすと、その後ろに先の2人が立った。


「名乗るのが遅れたが、俺は明楼会8代目組長・薊琳太郎(あざみりんたろう)だ。

「薊…。」


正直組の名前を言われたところで、晴柊にはピンとは来ていなかった。呼び捨てにしたことに腹を立てたのか、中世的な美人の方の男がまた突っかかってくる勢いで晴柊に吠えようとしていたところを、隣の男が制止する。


「それで、こっちのゴツイ男が側近の日下部。こっちの女みたいな見た目してる男が篠ケ谷だ。大体この二人がお前の世話役につくことが多くなると思う。何かあったらこいつ等に言え。他に、何か質問は?」


琳太郎が立っている晴柊を見上げ問うた。どうもこの空気感には慣れない。琳太郎が放つ、恐怖とも取れる、威圧的な緊張感だ。


「犬になれって言ったけど……俺がやるのは、アンタの身の回りの世話係か?」

「世話係に世話係はつけないだろう、察しが悪いな。所詮、まだケツの青い餓鬼か。」

ぐうの音も出ない。が、いつも一言が多いヤツだ、と心の中で悪態をつく。となると、何のためにという疑問が浮かぶ。まだ腑に落ちていないような様子の晴柊をみた琳太郎は、「来い、早速教えてやる。」と言うと、立ち上がり晴柊の細く貧弱な腕を掴んだ。晴柊は急な行動に驚き、思わず抵抗しようとするが、力で適うはずもなかった。半ば強引に、リビングに直結した奥の大きな扉の前に連れてかれた。


「日下部は事務所に戻れ。篠ケ谷は外の見張りだ。」


二人はすぐに指示通りに行動した。琳太郎は指示を出し終えるなり、その扉を開き晴柊を連れ中に入っていった。どうやらそこは寝室で、真っ白いシーツに包まれたキングサイズのベットが構えられていた。晴柊はそのまま乱暴にベットの上に放り投げられるようにして置かれる。今から何をされるのか、いや、これから自分がどうなっていくのか、少しずつ理解をし始めたときには、嫌な汗がじんわりと晴柊から滲み出ていた。



寝室にも、大きな窓があった。外は日が沈み始めている。朝に連れ出されて、気付けば夜になろうとしていたことに、晴柊は自分のなかで今日一日が怒涛に進んでいたことに気付いた。体験したことのないふかふかのベットに、ここで眠るのはさぞ気持ちがいいんだろうなと想像した晴柊だったが、今からここで眠れるわけではないことは、薄々気付いていた。しかし、「自分は男だぞ、まさか」という僅かな期待もまだあった。


「脱げ。」


「…………嫌だ。」


どうやら、男だなんだというのは関係ないらしい。ヤクザというのはみんなこうなのか?普通こういう役割って綺麗なお姉さんとかが…と頭の中で働かない思考を必死に働かせていると、痺れを切らした琳太郎が晴柊にのしかかった。


「な、何するんだよ…!やめろって!俺、男だぞ!」

「そうだな。でも、俺がお前を女の身体にしてやる。そのうち、お前は娼婦のように俺のコレが欲しくてたまらなくなって、「ハメてください」って懇願するようになるぞ。楽しみだな。」


不敵な笑みを浮かべた琳太郎は、俺の手を自分の股間に当てがった。晴柊カッと顔を赤らめ、手をすぐに払う。何を言っているんだこの男は。女性ともセックスをしたことがない晴柊にとって、男同士のセックスなど考えたこともなければ、想像もつかないことだった。
 

俺が、こいつを求めるなんてあるはずがない。あってはいけない。


服を脱がそうとしてくる琳太郎に反抗するように体を動かすが、そんな抵抗も琳太郎相手では、まるで子犬がじゃれているかの如くであった。あっという間に身ぐるみを剥がされ、晴柊を纏うものは下着一枚になった。琳太郎は晴柊の身体をじっとみつめた。義父からの暴力によってつけられたのであろう打撲痕が数か所見られる。ところどころ根性焼のような跡もあった。白い肌が余計にそれらの傷跡を主張している。


「ツラだけみてれば本当は女なんじゃねえかと思ったが、ついてるもんはついてるんだな。」


お粗末だけど、とまた余計な一言を加え馬鹿にしたように笑う琳太郎は、晴柊の陰茎を下着越しに触れた。他人に触れられたのは初めてで、思わず顔を真っ赤にするのと同時に、羞恥のあまり、足で琳太郎の腹部を蹴り上げた。


「ど、どけよ!変態!」


琳太郎は、この期に及んでまだこの態度か、と言わんばかりに晴柊に冷たい視線を向けた。晴柊の蹴りもノーダメージであったが、往生際が悪い晴柊に琳太郎は少しの苛立ちを覚える。


「おい、まだ自分の立場がわかっていないのか。俺はお前のご主人様で、お前は犬だ。お前に拒否する権利はないし、ましてや主人に手を挙げる馬鹿がどこにいる?」


まただ。少しでも琳太郎の威圧感が増そうものなら、晴柊の身体は硬直する。今までの大人のそれとは次元が違うのだった。琳太郎は自らの高級感漂うネクタイを外すと、それをあっという間に晴柊の両腕を纏めるようにして縛り上げた。一瞬の出来事であったのに、少し手を動かそうとしてもびくともしない固さであった。


「と、取って…!」

「足はまあ勘弁してやる。多少の抵抗があったほうが興奮するからな。」


つくづく変態だ、この男は。キッと琳太郎を睨みつけると、彼は晴柊の足を広げ、股の間に入り込む。こうなってしまえば、もう抵抗も虚しく空ぶるだけだった。
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