上 下
1 / 1

涙ほど役に立つものはない。

しおりを挟む
 涙ほど役に立つものはない。
 胸を締め付ける悲しみを身体の外へと流してしまえるのだから。

 そう思っていたのに、恋が実らなかった今の悲痛と混乱を、洗い流してはくれなかった。
 いつからあるのか思い出せないほどの恋心。

 遥は、「これからも友達なのは変わらないよ」そう言ってくれた。

 残酷なようにも聞こえるその言葉は、わたしを思い遣って出てきたもの。

 わたしが、ひとりでは何もできない奴だと知っているから。
 告白さえも、想い人から促されないとできない奴だから。

 遥が恋をする相手は男の人で、女のわたしをそういう目で見ることはできない。
 そのことは、知り合った小学生の頃から分かっていた。

 十年近く側にいる間、遥は何度も恋をしている。
 誰からも好かれるのに、実らない恋の方が多かった。

 失恋した彼女を慰めるのがわたしの役目。
 そのはずが、中学の半ばくらいから恋の話をしなくなった。

 わたしの恋心に気付いたからだ。

 なのに、気付かれたとは思いもしないまま、わたしは友達という地位に安住しつづけた。
 その友達が、どれほど胸を痛めているのか知りもしないで。

 遥はいつもわたしを助けてくれた。
 想いを伝えてほしいと促したのも、わたしが前へ進めるよう願ってのこと。

 それは受け容れられないと、はっきりと伝えるのは決して楽なことではない。
 わたしのために苦しむ道を選択してくれたのに、わたしは涙で応えてしまった。

 涙ほど楽なものはない。
 自分の悲しみを一方的にぶつけてしまえるのだから。

 涙ほど卑怯なものはない。
 それを止められない言い訳をしなくていいのだから。

 遥は泣きやまないわたしの頭を撫でつづけてくれた。
 下唇を噛み、目尻を潤ませ、だけれど一滴たりとも頬を滑らすことなく。

 遥はつなぎ止めようとしていた。
 ふたりのこれまでを大切に想ってくれている。わたしには不相応なくらい。

 わたしはなにも失っていないと、ようやく気付けた。
 ふたりの結び付きは、お互いが求めるかぎり在りつづけるのだ。

 ようやく涙が止まったわたしの頬を、遥が両てのひらで拭ってくれた。
 顔中の力がどこかへ行った、いつもの無防備な笑みで。

 涙ほど役に立つものはない。
 胸をちくちくと刺す、恋心の尖りさえ溶かしてくれる。

 溶けてちいさくなった恋心なら、胸の奥にそっと仕舞えそう。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

釣りガールズ

みらいつりびと
恋愛
カスミガウラ釣り百合ストーリー。 川村美沙希はコミュ障の釣りガールで、ボーイッシュな美少女。 琵琶カズミはレズビアンの少女で、美沙希に惹かれて釣りを始める。 カスミガウラ水系を舞台にふたりの物語が動き出す。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる

Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。 金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。 金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。 3人しかいない教室。 百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。 がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。 無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。 百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。 女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

【R18】夜にひとり、オナニーをする

ねんごろ
恋愛
性に目覚めた女の子が、夜にこっそりオナニーするお話。

処理中です...